41.派閥
「何? 何の騒ぎ?」
「大旦那様が新人のメイドと剣を合わせてるのよ」
中庭には使用人と兵士たちが数多く詰め寄り、その中心で繰り広げられる立ち合いを眺めていた。
見てる方は楽でいいね。
こっちは理由もわからず大旦那様に斬りかかられてるってのに。
「あの、大旦那様? お戯れがすぎますよ?」
「ふっ!!」
「聞けよジジイ!!」
大剣を小枝みたいに振り回して、どんな筋力してんだ。
いや、これまさか……
信長、鑑定。
『アレクセイ=フォーグル。スキル【剛力】、【剛体】』
やっぱりか。
筋力増加に身体硬度上昇のスキル。
ゴリゴリのフィジカル特化おじいちゃんじゃねーか。
『スキルを抜きにしてもなかなかやる。猛烈な剣は謙信を思い出すわ』
言ってる場合か。
「どうした。受けるだけでは勝てぬぞ」
「いやぁ、大旦那様に怪我させちゃ悪いかなって」
「ほう」
なんか今の煽りっぽくなったな。
「ならば、これならどうだ!!」
「あの構え……」
「ロードブレイク!!」
「チッ……!!」
ガルーシャ流の大剣術。
渾身の力で相手の武器、防御ごと破壊する技だ。
受け止めればまた刀が折れる。
そしたら信長がうるさいし……しゃーない。
受け流してカウンターを……
「逃げるなよ!!」
「あァ?!」
『挑発に乗るなたわけ』
「誰が逃げるかナメんなクソジジイ!!」
纏魔で黒いオーラを刀に纏わせる。
しゃがんだ状態から斜め上に剣を振り上げる、ルーガスト流剣術。
「ライジングスラッシュ!!」
刀が弾き飛ばした大剣は、数メートル離れた地面に突き刺さり、勝負の終わりを告げるために、私は切っ先を大旦那様の喉元に添えた。
「はい、私の勝ちぃ」
……あれ、これマズい?
みんな見てる前で、貴族の首に刀とか。
下手したら不敬……
「ふっ、ワッハッハッハ!!」
あれこれ考える私を他所に、大旦那様は笑い声を響かせた。
「見事だ。剣を弾かれたのは産まれて初めてだな。蝶羽と言ったな。師は誰か」
「師? 狼にちょっとだけ」
「狼?」
「あーいや、ほとんど我流っていうか、相棒に支えられてるっていうか」
説明濁しちゃったな。
シリウスと信長のことを話しても、まともに信じてもらえないだろうし。
「おもしろい。レスター! レスターはいるか!」
「は、はい父上! ここに!」
「領主様まで見てたのか……」
「レスターよ、今の立ち合いを見ておったな! 先の件、適任が見つかった! 私はこの娘、蝶羽を推薦するぞ!」
「か、彼女をですか?」
「うむ!」
……えーと、何の話?
『また厄介事か』
なんか、そんな気配だよね。
私は大旦那様に連れられ、執務室へと通された。
部屋の中には私と大旦那様、それと領主夫妻が同席している。
「あの、これは?」
「蝶羽よ、改めて名乗ろう。私はアレクセイ=フォーグル。先代のフォーグル領領主だ」
「現領主、レスター=フォーグルです」
「妻のイルテインと申します」
「あ、斎藤蝶羽です」
勧められてソファーに座ったけど、何これ?
『……?』
どした?
『何か視線を感じてな』
信長も?
やっぱ誰かに見られてる感じするよね?
『この男が城に来たときからずっとな。気配はあるのに姿は見えず、視線だけが突き刺さる。妙な気分じゃ』
ほんとにね。
「えっと……」
「先ほどの立ち合いは見事であった。その若さで大したものだ」
「まさか父上が負けるとは」
「負けてはおらぬ! 私は本気ではなかったからな! あれはそう、ただの手合わせだ!」
「父上も大人げがありませんね」
「何を!」
「そーゆーのいいんで。話って何なんですか?」
大旦那様……もといアレクセイは咳払いを一つした。
「その前に蝶羽よ、嘘偽り無く答えよ。お前の剣はルーガスト流だな」
「まあ」
「単刀直入に聞くが、王家に名を連ねる者、もしくは王家と何らかの関わりがあるのではあるまいな?」
「いや、そういうのは全然」
ルーガスト流を使ってたからか。
この世界だとどうだか知らないけど、イディオンではみんな使えたから。
「ふむ、ひとまず信じよう。蝶羽、お前の剣の腕を見込んで頼みがある」
「まさか誰かを斬ってくれとか言うんじゃ」
「場合によってはな」
「面倒事なら断ります。私、ただの旅人なんで」
「じつは、お前に護衛を頼みたいのだ」
「護衛? 誰を?」
まさかこの人?
あれだけ強いのに?
ドラゴンにでも狙われてんの?
「今から話すことは他言無用だ。けして口外しないと誓え」
物々しい雰囲気に、私は無言で頷いた。
「お前は今のルーガスト王国の情勢をどの程度知っている?」
「噂話くらいは」
二人の王子様と、それに属する派閥的な。
「では、第一王女リーゼベルク殿下については?」
「第一王女? すみません、まったく」
「先王陛下の二番目の御子に当たられる方だ」
ん?二番目?
「知ってのとおり今この国は、二つの勢力に分かたれている。一つが第一王子ジークハルト殿下を王に掲げる者たち。もう一つが第二王子セイブル殿下こそ王に相応しいと考える者たちだ」
「ちょっといいですか? 二番目ってことは、王位継承権の第二位ってことですよね? 第一位の第一王子が行方不明だからってのはわかりますけど、それだとなんで第二王子が王位に就くって話になってるんですか?」
順当にいけば、その第一王女様が王位に就くのが妥当なんじゃないの?
『おぬしは政治というものがわかっておらぬな』
なんだと?
「それはひとえに、リーゼベルク殿下が女性であるからだ。ルーガスト王国の歴史上、女王が即位したことは一度も無い」
「古くさい考え。あ……」
「私も同じ考えだ。第二王子派の貴族連中は、伝統の維持とは名ばかりの保守と停滞に甘んじる者ばかり。挙げ句には貴き血を嵩に、市民から血税を毟り甘い汁を啜っている。まったく反吐が出る話だ」
「それはそう」
「そんな連中が、傀儡として扱いやすいセイブル殿下を持ち上げているわけだが、殿下の即位には三つの障害がある」
『第一王子と第一王女、そして第一王子の派閥である貴族連中の存在じゃな』
「第一王子と第一王女、そして第一王子派閥の貴族の存在……」
「ほう」
アレクセイは感心したように息を漏らしたけど、信長の言葉を復唱しただけだから心が痛い。
すみませんよくわかってないです。
「第一王子は行方不明と噂が立っているが、実際は我々限られた貴族が隠匿し、その所在を把握している」
「庇ってるってことは、王妃様の毒殺は第一王子の仕業じゃないってことですね」
「あの事件は未だ未解決だが、ジークハルト殿下がそのようなことをする方ではないことは我々がよく知っている」
けど、第一王子が犯人と断定出来るだけの証拠が揃ってしまった。
第一王子を陥れるために、予め仕組まれてた可能性は十二分にあると、アレクセイは膝の上で拳を強く握った。
『冤罪が明るみにならぬ限り、第一王子は姿を現せぬということになるな』
「それじゃ、第一王女は?」
「ジークハルト殿下の罪を晴らし王位を即位していただけるならばそれが一番良い。しかし、仮にジークハルト殿下の冤罪を晴らせなかった場合、我々第一王子派は、リーゼベルク殿下を王に据えようと考えている」
第二王子派が提唱する、しゃらくさい伝統ってやつを押し切って、か。
音に聞こえた第二王子が即位するよりは、その方がずっと良さそう。
「この件はすでにジークハルト殿下も了承済みだ。しかし、どこからかその動きを第二王子派に悟られてしまった」
『ふむ、するとどうなるかは火を見るより明らかじゃな』
「第一王女が、第二王子派の勢力に命を狙われる可能性があるってことか」
あーそれで護衛。
「話はわかりましたけど、それならわざわざ外部の人間に頼む必要無くないですか? 怪しい人間を引き込むより、信頼出来る身仲間内で固めた方が、王女様も安心すると思うんですけど」
『馬鹿者め。それが出来るならとうにそうしておるじゃろうに』
あ?
『どこに間者が紛れておるとも限らぬ。仲間内とて完全に安心は出来ぬということじゃ』
そういうこと?
ややこしいったらない。
「信頼出来る人間は多い方がいい。強いなら尚更。お前はリーゼベルク殿下と歳も近いことだしな。それでどうだ蝶羽よ。この話、引き受けてはもらえないだろうか」
「んー……」
『おぬしのことじゃ。二つ返事で了承するものとばかり思っておったが』
どう考えても荷が重いだろ。
国の内政に関わるとか。
だいたい、私たちは旅人だよ?
一つのことに縛られるのはどうなの?
『それで一人の命が救えるならば是非もあるまいよ』
そう言われると……
「まあ、人助けってことなら」
「おお、感謝するぞ。私の権限次第だが、謝礼として金でも宝石でも望むものを与えよう」
報酬の件は改めて話すとして。
王女様か……
「王女様ってどんな人なんですか?」
「それはもう美しい方だぞ。お前よりもな」
「私と同じくらいキレイ可愛い人は存在しても私よりキレイで可愛い人が存在するわけねーだろ」
あ、つい本音が……
「ぃだっ?!」
はぁ?!
誰か今頭殴った?!
『気が揺らいだ。蝶羽、後ろじゃ』
「この!!」
何か掴んだ……腕?
見えないけど誰かいる。
「第二王子派のスパイか? おとなしくしろ、オラァ!!」
「きゃっ?!」
ん?
今の声……ていうかこの手の柔らかい感触……
柔らかい……やわ、らかい……か?
「エッチ!!」
「へぶッ?!」
ほっぺ痛ぁ……
「何するんですか、この変態!!」
何も無かったところから姿が……女の子?
「で、殿下?! 何故ここに?! 城で待っているはずでは!!」
「殿下って、まさか……」
「ああそうだ。この方が王位継承権第二位、ルーガスト王国第一王女、リーゼベルク=ルーガスト様だ」
はぁ、この女の子が。
たしかに可愛い。
ただ……
「おっぱいちっちゃ」
「〜っ、無礼者!!」
「ひぃん!!」
また叩かれたぁ……
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