40.臨時のスーパーメイド
「本日よりお世話になります。天上天下に並ぶ者無し、スーパー臨時メイドの蝶羽です。よろしくお願いします」
いやーやっぱ私メイド服似合うわ。
似合わない服が存在するなら教えてほしい。
髪もツインテールにしてやったぜ。
「変な子が来ましたね……。まあいいです。よろしくお願いしますね。くれぐれも粗相の無いように」
「うぃっす。埃一つから奥様に懸想する間男まで、全て余さず消し飛ばしてみせます」
「やる気だけはあるようですね……。では、屋敷の掃除から」
「仰せのままに」
窓拭きに庭掃除。
クロスは皺一つ無い真っ白なものに交換。
花は大旦那様の――――たぶん――――好みのものを飾ってと。
「如何でしょうメイド長」
「え、ああ、よくやりまし、た……ね……?」
「お褒めの言葉あざす」
「そ、掃除はもう結構。次は大旦那様にお出しする料理を」
「うぃっす」
野菜の皮剥き、下拵え。
スープのアク取り、お肉の火入れ。
パンも焼いてっと。
「料理長、これちょっと味薄い。こっちの味付けの方が大旦那様好きそうくない? 知らんけど」
「そうですね。たしかに」
「デザート作るからこっち側使っていい?」
「はい、好きなようにお使いください」
「何故この新人は料理長を顎で使っているのですか」
『そういう奴なのじゃ』
んーデリシャス。
「蝶羽さんすごいのね! メイド長ったら目を丸くしてたわ!」
「ほんと、私たちもう大助かりよ」
「臨時なんて残念だわ。このままメイドになっちゃえばいいのに」
「いやぁ、ウェッヘッヘ」
メイドのお姉さんたちに囲まれるのいいなぁ。
これが無料ってマ?
ちやほやされてお菓子あーんしてもらってるのに?
「おれここに住みてぇ」
『永住しておれ』
「あなたたち、何をお喋りしているんですか? そろそろ大旦那様が到着されますよ!」
「は、はーい!」
そうこうしてる内に、大旦那様の馬車が到着。
私たちは総出でお出迎えすることとなった。
「いらっしゃいませ、大旦那様」
大旦那様っていうからどんなおじいちゃんが来るのかと思ったら、イカちぃ〜。
顔傷だらけで、服の上からでも筋肉の厚みがわかる。
「お久しぶりです父上」
「うむ、出迎えご苦労レスター。イルテインも元気そうで何よりだ」
「お気遣いありがたく思います、お義父様」
あの二人が領主様とその奥様か。
領主様の方は線が細くて、大旦那様と似ても似つかない。
「急な訪問ですまない。じつはお前に少し話があってな」
「父上、立ち話もなんです。どうぞ中へ」
「うむ」
立ち居振る舞いが堂に入ってるっていうのかな。
すごい迫力。
『あれは強いな。武士の面をしておる』
武士て。
たしかに剣士っぽいけどさ。
大剣担いでるし。
「…………」
……?
なんだろ、視線を感じる。
誰かが見てる?
可愛すぎるって罪だな。
大旦那様を迎えたら仕事は終了。
あとは皆さんにお任せ〜。
メイド服も着れたし満足です。
「記念にもらって帰ろうかなメイド服」
『窃盗』
「許可取るわ」
「あ、こんなとこにいた。蝶羽さん、休憩の時間だよ。一緒におやつにしよ」
「はーい」
お誘いとあらば。
もう少しメイド服に袖通してよーっと。
「蝶羽さんってヒノカミノ国の人なの? こっちでは見かけない綺麗な黒髪をしてるけど」
「まあ、そんな感じです」
「どんな洗髪料を使ってるの? 艶があって羨ましい」
「フツーの市販品ですね。面倒なときは水だけの時もありますけど」
他愛ないガールズトークに花を咲かせていると、ふと話題が大旦那様についてになった。
「大旦那様、いったいどんな用事で来られたのかしら」
「それはやっぱり国王陛下についてよ。ほら、この間崩御されたって」
「へぇ、国王陛下が」
それはご冥福を。
「貴族もあちこちでザワついているらしいわよ。次の国王が誰になるかで」
「誰にって、それは第二王子のセイブル様でしょ?」
「第二王子? 第一王子じゃなくて?」
「蝶羽さん知らないの? 第一王子のジークハルト様は、数年前に王都から姿を消して以来行方不明じゃない」
ほぉん。
すみませんまったく存じ上げてないです。
「あの噂は本当なのかしら。ジークハルト殿下が王妃殿下を殺害したって話」
「王妃様に毒を盛ったって」
「それで逃げて行方を晦ましたってことね」
女の子は噂話が好きですね。
けど、毒殺とは穏やかじゃない。
ルーガスト王国が平和だったのは、イディオンだけの話か。
「真偽はともかく、それと大旦那様と何の関係が?」
「大旦那様はジークハルト殿下の派閥だもの。セイブル様が王位を継がれることに、懸念を抱いてらっしゃるのではないかしら」
「派閥ですか」
曰く、元々王位を継ぐはずだったのは第一王子のジークハルトだったらしい。
それがある日、王妃様が毒殺され、その犯人とされたのが当人。
ジークハルトは行方不明で、第二王子のセイブルが今玉座に座ろうとしてる、と。
『状況証拠だけで釣りが出そうじゃな』
セイブルは、メイドさんたちの耳にも届くほどの狭量らしい。
学は無く浅慮で短絡的。
誇れるような武才も無く、身分を嵩に威張り散らす、典型的な小心者。
しかしだからこそ扱いやすいのだろう。
貴き血を何より重視し、差別を当たり前に振り撒く貴族たちには、体のいい神輿のようだ。
「なんていうか、めんどくさい話ですね」
「他人事じゃないわよ。もしセイブル様が国王になれば、近隣諸国に戦争を仕掛けるなんてことも有り得るんだから」
「そうなったらどうしよう」
「本当に困ったもんですね。すぐに戦争したがる人って」
チラッ。
『わしのことを言っているつもりではなかろうな』
喧嘩っ早い自覚はしてんじゃねーか。
「そうならないよう祈るしかありませんね」
「そうよね。はあ、そろそろ戻りましょうか」
「あんまり長居してるとまたメイド長に叱られちゃうものね」
じゃ、私はこの辺で。
「蝶羽さん、ちょっとよろしいですか?」
「メイド長? なんでしょう?」
「西の砦の倉庫から中庭に、訓練用の鎧を運んでおいてほしいの。大旦那様が身体を動かしたいと仰られた時用に」
もう帰ろうと思ってたんだけど。
まあいっか。
「了解です」
「お願いね」
働いた分だけお給料は上がりますからね。
たんまり稼がせてもらいますよ、ウェッヘッヘ。
『下卑た笑いよ』
でも可愛いだろ?
西の砦西の砦……ここか。
倉庫から訓練用の鎧……あったあった。
なんかやけに厳重に保管されてるな。
「っておっも!!」
これメイド一人に運ばせるマ?
私じゃなかったら泣いてるぞ。
私だから余裕だけど。
鎧を中庭に置いて、と。
「これでよし。それにしても随分年季が入ってるね」
『見たところ普通の鉄ではないな』
「何かの魔物から作ったのかも。それより、ニシシ」
『刀を取り出してどうした?』
「これ打ち込み用でしょ? 周りに誰もいないし、ちょっとくらい身体動かしてもバレないかなって」
鎧の前で構える。
居合。刀を振り抜くと、刃はスルッと鎧を通り抜けた。
「ありゃ?」
鎧はちゃんと斬れてるのに。
「手応えが無い……?」
『シリウスとの修行の成果じゃな。動きが矯正された分、力が上手く刀に乗っておる』
「マ? 知らない内に強くなってたか。ありがとうシリウス」
『おぬしの物覚えの良さもあるがな』
「ウェッヘッヘ、それほどでも」
ていうかヤバ。
鎧斬っちゃったよ。
「新しい鎧取ってこないと」
「そこのメイド」
「わひゃい?!」
うっわ変な声出た。はっず。
「何をしている?」
「え、あ、大旦那様?!」
「答えよ。何をしている?」
「い、いやぁ」
訓練用の鎧ぶっ壊しちゃいましたとか言ったら怒られるか?
「な、なんか鎧を用意したら古かったっぽくてぇ……」
大旦那様は無言で鎧に近付いた。
「ほ、ほんと困っちゃいますよ、ねー。あ、新しいの用意しますねーアハハー……」
「お前が斬ったのか」
「そそそ、そんなわけないじゃないデスカー。ヤダナー……」
あ、刀。
収納っ!
「も、元から斬れてた、とか」
「アダマンタイトゴーレムから作った私の鎧がか」
「んグフ?!」
アダマンタイトゴーレム?!
ゴリゴリに硬いレイドボス級の魔物じゃねーか!
しかも大旦那様のって……そんなもんあんなとこに置いとくな!
その鎧ってことは、少なく見積もっても百万ゴールドは……
『素直に謝れば罪は軽くなろうに』
たしかに……
どっかの国の大統領も桜の木を切ったのを正直に謝ったら許してもらえたって話もあるくらいだし。
ここは……いっちょ土下座で……
「に、偽物……だったんじゃあ、ないーですか、ねぇ?」
ひぃん私のプライドが頭を下げるのを邪魔するぅ!!
「ふむ。メイド、名は?」
「蝶羽です……」
「蝶羽、こっちへ来い」
「うぃっす……」
百万ゴールド弁償かぁ……
つらぁ……
「って、あの、大旦那様?」
なんで剣構えてんのこのおじいちゃん。
「構えろ」
「なんで?」
「その気が無いなら、こちらから行くぞ」
「だからなんで?!」
ガギン!
「っぶねーな……ガチで斬りにきたんだけど?!」
どーゆー神経してんの?!
我メイドぞ?!
『メイドではない』
ここまで読んでくださりありがとうございます!
三連休最終日、当方の作品で盛り上がってください。
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