38.蜂蜜
新章、剣爛劫火編です。
どうかお付き合いいただけますようにm(_ _)m
私は美少女である。
名前は斎藤蝶羽。
特技はそこそこ器用なこと。
やったことないことは出来ないけど、教えてもらうなりしたことはだいたい出来る。
そんな私は今、
「よっこいしょ」
養蜂家の仕事を手伝っている。
例によって旅の途中で立ち寄った村で、路銀稼ぎのアルバイトだ。
「この巣箱向こうに持ってっちゃいますね」
「助かるわ蝶羽ちゃん」
「任せてくださいってばよ」
彼女は養蜂家のジェーンさん。
数年前旦那さんと二人で始めた養蜂業だけど、先日旦那さんの浮気が発覚し、一人で切り盛りしなきゃいけなくなったらしい。
旦那さんは慰謝料を支払った後、不運にも股間を蜂に刺されてしまったんだとか。
まあそれはさておき、私の役目は新しい巣箱の設置と、蜂蜜の回収、それと害虫駆除。
なんて簡単なお仕事なんでしょう。
ただし蜂一匹が人間の拳くらいあるものとする。
「これ障壁無かったら大惨事だろ」
『今現在もそれなりの地獄絵図ではあるがな』
この蜂はハードビーっていう畜産向けの魔物で、飼い主には一切攻撃をしないけど、それ以外には容赦無く襲いかかる凶暴な習性がある。
常に数千匹で行動するが、行動範囲が極端に狭いため、下手にその範囲に足を踏み入れない限り被害は無い。
またハードビーは花の蜜を吸う際に特殊な唾液と酵素を混ぜ、通常よりも蜜の味を熟成させることでも知られている。
そうして出来た蜂蜜ハードハニーは、市場に出回れば大手レストランや一流シェフが求める高級商品なのだ。
「ジェーンさん、お仕事頑張るから給料はサービスしてくださいね」
「もちろんよ。仕事が終わったらハニートーストでお茶しましょう」
「やったハニトー超好き。頑張っちゃうぞ〜」
ハニトーハニトー♡
さて、そんなハードビーにはとある天敵がいる。
『む、蝶羽。来たぞ』
「待ってました」
ハードロックホーネット。
ハードビーを巣ごと食い散らかす、全長一メートルを超えるスズメバチの魔物だ。
岩も噛み砕く顎に、強烈な毒を有した針。
どれを取っても驚異だけど。
「せやっ!!」
抜刀一閃。
頭を落とされて、ハードロックホーネットは静かに絶命した。
「ふぃー。いっちょあがりー」
『他愛ないのう』
「けどこれで目的のものが作れるよ」
『おお!』
ハードロックホーネットの毒腺は、武器に塗布することで毒の属性を得る。
市販品の鉄刀・黒鉄と毒腺、それに毒蛇の牙なんかを一緒に加工すると、毒刀・十六夜が出来上がる。
「毒の武器は、魔物を傷付けずに倒すときにめちゃくちゃ使うんだよね」
ハードロックホーネットは、ハードビーが蜂蜜を作る時期にしか現れない。
いつかは欲しいと思ってたら、ちょうどよく養蜂のアルバイトがあったから受けたんだけど、まさにジャストタイミング。
「バイトの目的がこっちだって知ったら、ジェーンさん怒るかな」
『働き手と雇い手の意図が食い違うことなどよくある。雇い手の希望が叶っているなら問題はあるまいよ』
それもそっか。
とにかくこれで依頼は完了っと。
「お疲れ様蝶羽ちゃん。これ、お給料ね。それとハードハニーと、蜂蜜石鹸も持っていって」
「ありがとうございます!」
お給料もおいしいけどハニトーうま〜♡
バターと蜂蜜がジュワッてするの好きだ♡
「今日は本当にありがとう。すじがいいし、このまま養蜂家になったらいいのに」
「エッヘッヘ」
「旅人なのよね? もったいないわ。蝶羽ちゃんなら世界一の養蜂家になれるのに」
いやぁ、それほどでも。
「そういえば、フォーグルを目指してるのよね? ついでと言ってはなんだけど、追加でお願いを聞いてもらえないかしら」
「お願い?」
「フォーグルにいる妹に、ハードハニーを届けてもらいたいの」
「いいですよ。そんなことなら」
「ありがとう。妹のケイミーはフォーグルの領主様のお城で働いてるの。私からだって言えばすぐにわかるわ」
「はーい」
領主様ね。
アイリスの時もそうだったけど、なんだか貴族に縁がある人生だ。




