37.相棒として
野を越えて山を越えて。
フェンリルを共にした旅は三日三晩ほど続いた。
同じ目的があって旅路が一緒になってるわけではなくて。
「我が行こうと思っている方に貴様らが行くだけだ」
ってことらしい。
美人と一緒に旅とか、正直デレデレしっぱなしだった。
せっかくだからと、空いた時間でフェンリルに魔法の修行をつけてもらった。
今まで漠然と魔法を使ってたけど、輪郭をハッキリすることで、より魔法の何たるかを知れた気がする。
【狼魔法】に関しては変わらず、一発撃ったら指一本動かせなくなったけどね。
あと戦闘の訓練もしたよ。
「はあっ!!」
「甘い」
こっちは全力なのに、吐息だけで転ばされるし、ベロで刀を止められるし、なんだったら刀を抜かせてすらもらえないしで、相手にはまるでならかったんだけどね。
人間の姿でも関係なく強すぎ。
「動きは悪くないが物足りんな。要所要所が雑で技の繋ぎ目が甘い」
「くっそぉ……もっかい!」
ユニークスキルでも相手にならないっていうのは、やっぱり私自身が弱いってことか。
そこそこ自信あったんだけどなぁ。
アシストに頼らない自力が必要……毎日素振りでもしようかな。
フェンリルの修行はとにかく厳しかった。
崖から突き落とされたりとか、素手で魔物を百体狩ってこいとか、滝を斬れとか。
私をおもちゃにして遊んでるんじゃないだろうな……ってフツーに疑った。
それでも日を追うごとにちょっとはマシになった。って思いたい。
心身がボロボロになりながら、実力差に徹底的に打ちひしがれた七日目の夜。
「そういえば聞いていなかったな。貴様らはどこを目指している?」
「どこって決まってはないよ。行き当たりばったり。でもこのまま進むと、フォーグルの街に着くかな」
『おぬしに折られた刀を打ち直さねばな』
「あとそろそろベッドで寝たいしお風呂入りたい」
「そうか」
「フェンリル、今さらなんだけどさ」
なんだ、とフェンリルは焼き魚にかじりついた。
「フェンリルの名前って何?」
「名前など無い。名は人が付けた記号。天狼の呼び名も所詮は字。我はそこに在って唯一のフェンリル」
いやカッコいいけども。
「やっぱり名前あった方が呼びやすいよ」
「名前など煩わしいだけだと思うが。ふむ、そうまで言うなら貴様が付けよ。許す。我に相応しき名前を一考するがよい」
「私が決めていいの?! マジ光栄すぎる! えー何にしよー?」
『白石鹿毛はどうじゃ? かつてわしが愛馬と定めた名高き駿馬で』
「他のにしろ」
「センスが戦国時代で止まってんだよ」
『いいじゃろうが戦国の産まれなのじゃから!!』
っぱ名前ってのは中二っぽいのが一番カッコいいんだから。
白だからハクとかブランとか、狼だからロウ?
なんかイマイチ。
「んーそしたら……天狼……シリウス、とか? ありきたりすぎ?」
「シリウス?」
「空に浮かぶ星の中で、一番輝いてる星のことをそう言うんだよ」
「シリウスか……ふむ、悪くない。この時より我はシリウスを名乗ろう。蝶羽、貴様に我が名を最初に呼ぶ栄誉を与える」
「え、なんか緊張……。シ、シリウス……?」
「ああ」
「ギュンッッッ!!!」
顔が良いぃ……!!
額縁に入れて飾らせてくれぇ……!!
――――――――
「すぅ、すぅ……」
散々はしゃいで我先に寝てしまうとは。
まだまだ子どもよ此奴は。
そよぐ風に草木が踊る中、ザッと地面を踏む音がした。
『風は留まらぬ、か?』
フェンリル……否、シリウスは白銀の髪をたなびかせた。
『挨拶の一つでも残してやれば良かろうに』
「惜しむ別れでもあるまい」
『おぬしのような長命にはわからぬやも知れぬが、人とは一期一会を大切にするものじゃ。良縁、因縁、合縁奇縁、形に差異あれど縁は縁。そうして人は繋がりを得る』
「奇特なものだ」
『おぬしも大概じゃろ。どこの馬の骨とも知らぬ女子を、大層気に入った様子ではないか』
わしの権能に触れたか、もしくは蝶羽という人間の本質に触れたか。
それは定かではないが。
『長く生きておると、気まぐれにもなるか』
「フフ、そうだな」
『シリウスよ』
「なんだ?」
『礼を言う。蝶羽に稽古をつけてくれたこと。わしではその身に直接教えてやることが出来ぬからな』
足さばき一つ、刀の切っ先、視線の運び、どれも言葉だけでは伝えられぬもの。
如何に此奴が天賦の才を持っていようと、わしではその才を磨ききれぬ。
何度むず痒く口惜しい思いをしたことか。
「我は最低限の矯正をしただけに過ぎぬ。これは元から玉。研磨したのは貴様だ」
『否。それでもおぬしを師と仰げたことは、蝶羽の財となろう。わしは神仏を信じぬが、それの言葉を借りるならば、おぬしとの出逢いは思し召しなのじゃろう。今一度礼を言おう』
「フフッ、最初に言っただろう。貴様らを気に入ったと。それ以上の理由は無く必要も無い。吹きゆく風に感謝などせぬように、貴様らは我の寵愛を甘んじて受けていればそれでいい」
『まこと、何とも言い難い性格をしておるものよ』
シリウスは機嫌良さそうに笑い、それから人の姿から本来の狼の姿へと戻った。
雄々しくも優雅に月の光を抱いて。
『また会うこともあるじゃろう。息災でな。などと、おぬしには余計な世話か』
「貴様も存分に愉快であったぞ。異世界の魔王。次見えるときは万全であることを祈ろう。我との約束を違えることなく、せいぜい生きよ。この広い世界で」
『言われるまでもない。わしらは最強の相棒じゃぞ』
シリウスは微かに口角を上げると、遠吠えを一つ。
空を昇り月夜を駆けていった。
光の残滓が幻想的に降り注ぐ様を、わしはずっと眺めていた。
喧しかったのが翌朝だ。
「なんで起こしてくれなかったの?! シリウスとバイバイしたかった! マジ意味わかんない!」
此奴にはシリウスの気位がわからぬのか。
黙って去るのが粋でいなせというものよ。
「もーシリウスのバカ! 信長はもっとバーカ!」
『黙れ稀代の阿呆!』
「あぁ……もっと堪能したかったのに……。モフモフもパフパフも……」
『煩悩の化身め』
ひとしきり落ち込んだら切り替えの早いこと。
蝶羽は太陽に向かって手を伸ばした。
「いつかまた絶対会う! その時はめいっぱいモフモフしてパフパフする! 絶対やる!」
『やりたいことなら仕方ないのう』
旅すがらシリウスを追いかけるのも悪くない。
不意に出会い豆鉄砲を食らったような奴の顔を想像すると、何とも愉快な気持ちになる。
『よい経験に恵まれた』
「うんっ。シリウスのこともそうだけど、ちょっとだけ旅の目的地も見えたしね」
『死霊王ノーライフキング。二つ名持ちか』
「そう。ノーライフキングはルーガスト王国の北、迷宮墓地での目撃情報が一番多いの。そこに行けば何か手がかりが見つかるかも」
『なるほどのう』
「楽しみだね。信長」
『ああ、楽しみじゃな』
わしよりもわしの実体化を心待ちにするか。
まったく、愛い奴め。
……いや待て。
『それよりおぬし、随分とシリウスに入れ込んでいるようだったが?』
「ほぇ? うん、それが?」
『ちょっと背と乳がでかいだけじゃろ! それを何じゃだらしなく鼻の下を伸ばしおって!』
「時々出てくるその意味わかんないやつ何?! いーじゃんべつにデレデレしたって! 仕方ないってあれは!」
『いいやいかん!! おぬしには一度節操というものを叩き込んでやる!!』
「だからなんで?!!」
いかんったらいかん。
わしは蝶羽の相棒じゃからな。
相棒が節操無しではわしの沽券に関わるというものよ。うむ。
『仕方のないやつじゃ、おぬしは』
「マジで意味わかんない!!」
これからもわしが見守ってやらねば。
そう、相棒として。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
夏の盛り、夏より熱い当方の作品で盛り上がってください。
応援のリアクション、ブックマーク、感想、☆☆☆☆☆評価などいただけましたら幸いですm(_ _)m




