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3.りんご

 三時間かけて森を抜けたときには、さすがにヘトヘトになってた。

 足痛い、お腹すいた。


『おお道が見えたぞ。あれを辿れば街に着くであろう。はよう行け』

「くっそただ口出ししてるだけのくせに……」

『途中魔物の気配を教えてやったであろうが』


 それは助かったけども。


『しかし、道中おぬしの記憶を覗いて思ったが、おぬし女子(おなご)としてどうなんじゃ? 十代半ばというと、おぬしの時代では貴重な時間なのであろう? それをゲームゲームゲームゲームと嘆かわしい。乳だけはいいものを持ってるんじゃから、自分からこうガバっといけガバっと』

「うっさい黙ってろセクハラ侍!」


 疲れてるんだから余計な体力使わせんな。

 あと乳だけとか言うな。

 顔も性格も神がこの世に与え給うた奇跡だろ。

 街歩いてたら読モのスカウトされるくらいにはいい感じに美少女の類だぞ私。


『自己愛の化身か』


 心読むな。

 ゲームばっかりしてたけど、おしゃれに無頓着だったわけじゃないっての。


『家ではダボダボのスウェット女がよく言う』

「黙れ。てか勝手に記憶覗くとかやめてくんない? プライバシーとか知らない感じ?」

『案ずるな。わしが知りたいのはゲームについての情報だけじゃ。他の知識という知識は何から何までわかるが、ゲームに関してはやり込んだ者の知識が一番信用出来る』


 ワザ◯プとかあるしね。


『うむ。して、たわけ』

「名前呼べ」

『……あ、あ』


 なんで呼びづらそうにしてんの。

 

『ごほん。おぬしなど小娘で十分じゃ。してイディオンのチュートリアルとやらは、街から始まるのじゃったな?』

「そうそう。街で最初の武器選んで、装備もらって、動きの確認して〜って」

『ここが本当にイディオンの世界ならば、おぬしもそうなるはずじゃった、と』


 そうだと思うんだよね。

 まあ、転生してること自体が不思議だし、チュートリアルどおりじゃなくても変では無いんだけど。


『それはあくまで前作の話じゃろ?』

「……あ」


 そうだ、私がプレイしようとしてたのは最新作。

 なら、私が知らないことがあっても……


「その考えは無かった」


 チュートリアルの仕様どころかシステムが違う可能性もあるのか。

 ゲームだと魔物を倒せば素材とゴールドが手に入ったけど、それも無かったってことはやっぱり……

 でも、スキル制なのは一緒みたいだし……

 

「街に着いたら何かわかるかな」

『この調子ではあと何日かかることやら』

「うるっさいなぁ……ん? あれは……」


 向こうから何か……

 あれって、馬車?


『天の助けじゃな』

「織田信長って信心深くないので有名だったんじゃ……まあいいや。すみませーん」


 お、停まってくれた。


「どうかしましたか?」

「道に迷ってしまって。すみませんが街まで乗せていってもらえませんか?」

「ええ、構いませんよ。荷台へどうぞ」

「ありがとうございます!」


 いい人だ。

 お言葉に甘えて幌付きの荷台へ。

 ん?先客だ。


「失礼します」


 フードを被ってるけど女の子かな。

 細身の片手剣を持ってる。

 どうやら剣士らしいけど、挨拶は無視された。


『可愛げのない小娘じゃ。おぬしと一緒で』

「うるさい」

「何か言いましたか?」

「あ、いえ! なんでもないです!」

「そうですか? では出発します」


 カラカラ回る車輪の音と共に。

 私たちは馬車に揺られながら街へと向かった。




「はぁ、本当に助かりました。森では迷うし魔物に追いかけられるし」

「ハハハ、災難でしたね。それよりどうして森に?」

「旅の途中なんですけど、いろいろあって」

『なんじゃ旅って』


 そういう設定のが怪しまれないでしょ。


「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね。私はリューズ。商人です」

蝶羽(あげは)です」

「変わった名前ですね。それにその黒くて美しい髪、もしかしてヒノカミノ国の産まれですか?」


 ヒノカミノ国……聞いたことない国だ。

 

「まあ、そんなところです」

「やっぱり。ルーガストではあまり見かけないので」

「ルーガスト?! ここってルーガスト王国なんですか?!」

「は、はい。そうですけど……」


 イディオンはキャラクリ時に所属する国を設定出来て、それによってゲーム開始時のスタート地点が決まる。

 ルーガスト王国はその国の一つだ。

 

『なんでそんなものを設定する必要があるのじゃ』


 所属する国で発生するイベントとかアイテムの入手率とかいろいろ変わるの。

 イディオンは自由度が高すぎるから、キャラクリだけで何ヶ月もかかる人もいるくらい。


『なるほどのう』


 何にしても今いる場所を知れたのは大きい。

 

「あの、今向かってる街の名前は?」

「ファスティスです……」

「ファスティス?!」


 プレイヤーが一番最初に集まるチュートリアルの街。

 てことは、さっきの森は迷いの森だったってことか。

 初心者講座によく使われるエリア。


『僥倖じゃな』


 ちょっと誤差はあるみたいだけど、地理は案外イディオンに酷似してるのかも。

 それがわかったらこの先やるべきことが見えてきた。


『やるべきこと?』

「あの、どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもないです、アハハ」


 ルーガスト王国は、イディオンでも私が拠点にしてた国。

 おいしいご飯屋さんから国の内政事情までだいたいのことはわかってる。

 

『ふむ、であるならば、まずはおぬしの知識とこの世界の実状のすり合わせが必須じゃな。ひとまず地図と情報が欲しい』


 地図と情報……

 それも必要だけどさ。


『どうした?』


 お腹すいたぁ……


『武士は食わねど高楊枝じゃろ』


 武士じゃない……

 ヤバお腹鳴りそ……

 グゥゥ……鳴ったわ恥ず……

 お腹を押さえて項垂れてたら、ふと視界にりんごが飛び込んできた。


「へ?」


 向かいに座ってた女の子がりんごを差し出している。


「くれるの?」


 反応無し。

 顔も見えないし……でも、りんごの誘惑抗い難し。


「ありがとう! いただきます! はむっ、はむはむ……ん、ん〜!♡」


 おいっしすぎ……

 涙出そうまである……いやもう出てる……

 

「はふ……おいしかったぁ……。どうもありがとう」


 ええ、無視……?

 そっぽ向かれたマ?

 りんごくれたんだから悪い人ではないと思うんだけど。

 うーん、よくわからん。

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