36.お姉さん萌え
「ふぅ、朝起きた瞬間に裸のバチイケお姉さんに抱かれてる私。もう勝ち組でいいか?」
『乳に顔をうずめたままほざくな』
人生最高の寝覚めすぎる。
とはいえ日が昇って全裸は絵的にアレなので、シャツだけは羽織ってもらうことにしたよ。
私ってば常識人。
……は?えっちすぎてキレそう。
『情緒が家出しとる』
朝ご飯は川で魚を獲って、ストックしてたサンドイッチを食べた。
「うむ、うまい。パンは百年ぶりほどか。昔より白く柔らかくなった」
「はぁ、美人ってサンドイッチ食べてるだけでも絵になる♡ あ、てことは私も常にこんな色気を振り撒いてるってことか。気を付けよ」
『黙れ』
当たり強すぎだろ。
「さて、では我の加護について説明してやろう」
「お願いしますフェンリル先生!」
「先生か。ふむ、悪くない。まず、我の加護には基礎能力上昇の他、四つの恩恵がある。一つが、大概の獣は平伏し服従するというもの。試しに指笛を吹いてみよ。口笛でも構わぬ。来いと念じながら音を鳴らせ」
ピィーと口笛を鳴らすと、嘘みたいに静かだった辺りにすぐに動物たちが集まった。
「獣を呼び、ときに遠ざける。簡単な命令もこなせるようになる。これは魔物にも有効だ」
「めっちゃ便利」
「二つめが、眷属の召喚」
「眷属召喚……契約した従魔を呼び出せるってやつだっけ?」
「そうだ。髪や血、自らの肉体と魔力を触媒に、それに見合った狼を眷属として召喚出来る」
狼の召喚……ってことは。
「フェンリルをいつでも呼び出せるって、コト?!」
「我を喚ぼうとすれば片腕が消し飛ぶぞ」
「あ、うぃっす」
「次。三つめがこれだ」
フェンリルは私から少し距離を取って、腕を素早く振った。
すると突風が地面を抉って私へと襲いかかってきた。
「わあっ?!」
けど、突風は私の前で何事も無かったように消えた。
「あ、あれ?」
「障壁の展開だ。害意ある物理攻撃、魔法攻撃を自動で防ぐことが出来る」
『これは凄まじいな』
凄まじいっていうか壊れ性能なんだが?
「障壁は本人の技量に比例する。今の貴様でもそこそこの攻撃は防げるだろうが、障壁に頼り慢心はするな」
「うん、わかった」
「そして最後が……いや、ここでは少し心もとない。移動するぞ」
ってことで。
谷を抜けて、しばらく歩いたところの湖にやってきた。
「ここでいい。先の続きだ。【天狼の加護】の最後の恩恵、それが【狼魔法】という我固有のオリジナルスキルだ。人間の括りではユニークスキルと言ったか」
「【狼魔法】?」
聞いたことない魔法だ。
「【狼魔法】とは風と氷、そして月の三つの属性を併せ持っている魔法のことだ」
「月ってことは、バフ系?」
そもそも月の属性が、回復に長けた光とデバフに富んだ闇の複合属性。
これ実質四つの属性の魔法ってこと?
そんなのイディオンでも聞いたことない。
「試しに撃ってみるといい」
「試しにって……まあ、そう言うなら」
手を前に翳して魔力を高める。
『蝶羽!!』
「ほぇ?」
信長の声がした時にはもう遅かった。
白い光が迸った瞬間、私の身体は倒れて視界が空で埋まった。
鼓膜が破れそうになるほどの爆発が湖を半分吹き飛ばして、巻き上がった水が豪雨みたいに私を叩く。
びしょ濡れになった私はというと。
「う、動けない……」
魔法一発撃っただけなのに、指一本動かせない。
疲労感っていうか、虚脱感がエグい。
「失敗だな。魔法に身体が耐えきれておらぬばかりか、ただ魔力を空撃ちしただけとは」
「あ、あれが空撃ち?」
『焙烙火矢数百を投げてもああはならぬ。なんてものを蝶羽に渡したのじゃおぬし』
「存外脆弱であっただけのこと。鍛錬すればそのうち使いこなせるようにもなろう」
ゴメン脆弱で。
てか、こんな爆撃みたいな魔法使うときなんかあるか。
結局数時間は身体が動かせなくて、ちょっとした休憩みたいになった。
その間、フェンリルとはいろんなことを話した。
魔法、スキルについての基礎。
フェンリルが見てきた国の栄枯盛衰。
過ぎ去っていった人の歴史。
「フェンリルは物知りなんだね」
「当たり前だ。私ほどの叡智の持ち主はそういないぞ」
『ならばぜひ、その叡智とやらでわしの身体を実体化する方法を教えてもらいたいものじゃ』
フェンリルはふむ、と唸った。
「考えはある」
『なに?!』
「マ? それってどんなの?」
「適当な依り代を用意し、それに信長の魂を定着させればいい」
『おお!』
「もしくはその辺の人間、もしくはその死体に憑依し乗り移ってしまえばいい」
『おお!!』
「おお!!じゃねーよ」
倫理と絶縁してんのか。
「依り代はまだしも、後半はフツーにNG」
『ただの冗句だ気にするな。しかし光明が見えた。わしがこの地に降り立つ日も近いのう』
「尤もどちらも信長の霊魂を具現化する必要があるわけだが」
『霊魂の具現化とな? それはどうすればいい?』
「我はそういうことは専門外だ。どうしても知りたければ専門家に聞くしかない」
『専門家?』
「いずれ相見えることもあるだろう。貴様らがその星の下に生まれているのなら」
フェンリルは曖昧な言葉を使って濁したけど、イディオンプレイヤーだった私には一つの見当がついていた。
全ての死霊を統べ、自らもまた不死に至った闇の魔法使い。
死霊王ノーライフキング。
イディオンで唯一、複数の討伐報告が上がっていた二つ名持ちだ。
あれはたしか、ルーガスト王国を拠点にしてたはず。
ってことは……あそこか。
「追うつもりなら相応の覚悟はすることだ。あれは我と違い、面白半分で世界を混乱に陥れる。そうして滅んだ国も少なくはない。第一、今何処に居るのやも知れぬ」
「フェンリルは人間の敵じゃないんだ?」
こんだけ話して今さらだけど。
「貴様はたかる虫を敵だと思うか。鬱陶しいと払うことはすれど、敵意を持って相手はするまい」
「なるほど」
スケールが違うってことね。
「そもそも二つ名持ちの相手は二つ名持ちにしか出来ぬ。それを承知で挑む物好きはいない」
『ふむ。そうであろうな。今この瞬間にも、おぬしならばわしらを数度と殺せるじゃろう。しかしフェンリルよ、十把一絡げにわしらを括るな。おぬしが見初め加護を与えたこの女子の刃は、いずれおぬしらの首にも届くであろう』
「ほう?」
なーに言ってんだこの信長。
その言い方だと私がいつかフェンリルを倒すみたいに聞こえちゃうだろ。
さすがのフェンリルも怒るかと思ったけどそんなことはなくて、むしろ楽しそうに笑った。
「ならば、我はそれを楽しみに待とう。いつか貴様が強くなった時、我に挑んでくるがよい」
「え、ええ……」
ちゃんと戦闘狂じゃん。
長生きしてると、戦うのも楽しくなっちゃうのかな。
「約束だぞ、蝶羽」
「ひゃいっ?!」
って、フェンリルは動けない私の頬にキスをした。
頬ってか限りなく唇に近いとこに。
「ひ、ひえぇ……」
「フフッ」
い、イケメソ〜……
私って歳上のお姉さん萌えだったんだ……
当方は断然お姉さん萌えです。
えっちですからね。
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