33.狼
とある小さな宿場町でのこと。
『ふふ、むふふ』
「気持ち悪い声出さないでくれる?」
『いやぁ、よもやこんな片田舎の寂れた町で、こんな業物に出会うとは夢にも思わなんだからな』
ベッドには二振りの刀が置かれていた。
片方は黒曜っていう黒光りした石の刀。
もう片方も同じく石の刀で、こっちは白が鮮やかな白瑪瑙って刀。
どっちも模造刀で切れ味は無くて、観賞用に作られた工芸品だ。
一応装備品扱いではあるけどね。
『黒と白の対比がじつに美しい。石に興味を惹かれるなど滅多に無いぞ』
「めっちゃ高かったんだから存分に愛でてよね」
『わかっておるわかっておる。いやしかし良い』
「信長が浮かれるのもわかるよ。こういう石刀は、イディオンでもコレクターがいるくらい人気だったから」
『なんと。他にもこのような刀が存在するのか。それは是非とも蒐集せねばな』
「たまに市場に流れるんだよ。誰が作ってるのかもわからない謎の刀って。まさかこんなところで、それも二本も見つかるなんて」
本当に武器の価値は無くて、見る人が見たらただのガラクタではある。
だから店の片隅で埃をかぶってるなんてことはザラだ。
『無銘の刀か。何とも趣深い話ではないか。是非その名工に会ってみたいものじゃ』
「ニシシ、またやりたいこと増えたね。っと、もうこんな時間。そろそろお昼ご飯行こー」
宿の一階は食堂だ。
名物はフレイムバードのソテー。
弾力のあるお肉にパリッと香ばしい皮。
それに辛味が利いた肉汁が口の中に溢れて。
「んふふ、んまぁ〜♡」
『おぬしは本当にうまそうに物を食う女子じゃ』
付け合わせのスープも鶏の出汁が出ててサイコー。
『苦手なものは無いのか?』
苦手……ミルフィーユ、とか?
食べててポロポロ崩れるから。
あとは……ホビロンもたぶん無理。
食べたことないから味わかんないけど、見た目がなんかグロくて。
案外苦手な味は無いかも。
ていうか、好き嫌いするとお母さんがマジで怒って怖かった。
『母親というのはそういうものじゃ』
信長のお母さんも怖かった?
『どうだったか。わしらの時代は、謀略巡り家族で殺し合うことも稀ではなかったからな。織田家はほとんどが人を蹴落とすことを躊躇わぬ野心家であったし。しかしまあ、よく覚えておらぬということは、特に良い思い出も無かったのであろうな』
なんかあっけらかんとしてる。
信長の時代だとそういうもん?
私は……
「ちょっと寂しくなるけど」
『蝶羽……』
「ゴメン。何でもない。すみませーんチキンソテーおかわりくださーい! あとスープとパンも! 久しぶりのちゃんとしたご飯なんだからいっぱい食べよーっと!」
焼いたジビエと木の実ばっかりじゃ、文化的な生活とは言えないからね。
そんな風におかわりが来るのを待ってたとき。
ふと、近くの席のおじさんたちの話し声が聞こえてきた。
「おい、何でも山向こうの谷でホワイトウルフが出たらしいぞ」
「ホワイトウルフが? 本当か?」
「今日町に来た商人が言ってたんだよ」
「そりゃお前見間違いか、物を買わせるのに商人が作り話でもしたんだろ。もし本当なら今頃大騒ぎだ」
ホワイトウルフ……
『強い魔物か?』
うん、本物ならかなり。
狼系の魔物は体毛の色で強さを判別出来る。
グレイウルフみたいなのが最下位。
群れで行動する以外の強みは無くて、油断しなければ一人でも簡単に相手出来る程度。
だけどホワイトウルフは、一匹でも小さな町くらいなら簡単に壊滅させられるだけの力がある。
もし話が本当なら、その商人さんは生きてないはずだけど。
ちょっと気になるな。
『食事が終わったらその谷とやらに行ってみるか』
そだね。
「はいよチキンソテーお待ち」
「うっはー♡」
あと三回おかわりするから待ってて。
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