31.自分の身は大事にしてくれ
『全治一ヶ月じゃと』
病院で目を覚ました私に、信長がそう言った。
『全身打撲、裂傷、歯と肋骨も数本折れ、折れた骨が内臓を傷付けていたそうじゃ』
「マジでか」
そんな大怪我もあら不思議。
【第六天魔王】の力であっという間に全回復。
さすが。しゅごい。かっこよ。よっ天下一。
『そんなもので煽てられるか!!』
「ひいい!」
『いつもいつも無茶ばかりしおって!! おぬしというやつは危機管理能力がまるで足りておらぬ!! 今度わしが一から兵法というものを叩き込んでやる!! そもそも兵法とはじゃなぁ!!』
「わかったわかった!! わかったってばぁ!!」
ゴメンって。
「具合はどうだ?」
「神父くん。もうすっかり元気。私丈夫だから。ふんす」
「よかった」
お見舞いに来た神父くんの安心した顔よ。
心配かけちゃったなぁ。
「子どもたちから花を預かってきた」
「おーキレイ。ありがとう」
「みんなで摘んできた。本当はみんなついてくると言ったんだが、迷惑になるからな」
「ニッシッシ、退院したら会いに行くね」
私が寝てる間に、なんかいろいろ進展があったことを聞かされた。
子どもたちを襲った粗チン兄弟は衛兵たちにしょっぴかれたらしい。
そこかしこで悪さを働いてたようで、余罪の追及も込みでそのまま牢獄にぶち込まれることになりそう。
そんで騒ぎがあったことが街の領主に伝わって、教会の補修や孤児への生活手当の見直しが検討されることになったんだって。
あと人員の増加も。
やっぱり神父くん一人だと心もとないもんね。
「あ、そうそう。子どもたちにおもちゃ作ったじゃん? あれ作り方教えるから、教会で作って売って運営資金の足しにしなよ」
「いいのか? 特許を取れば継続的に利益が出るぞ」
「マ?! あぁ、そーれーは盲点……ん゛ぁ〜いやいい!! 子どもたちが幸せになるなら!!」
うあぁ、やっぱり半分くらいは……
くぅ、カッコつけるのつらぁ……
「あ、でもあれだけは欲しかったな。早風のナイフ……あれはちょっとレアな武器なんだよね」
「ああ、これか」
「それぇ! なんで?! なんで神父くんが持ってるの?!」
「拾ってそのままにしていたのを忘れていた。欲しいならやる」
「マ?! うっはぁ〜やったぁ〜♡」
『火事場泥棒じゃろそれ』
違います〜落ちてたゴミを拾って持ってただけです〜。
信長もコレクション増えて嬉しいっしょ?
『それはまあ、のう』
「〜♡」
「お前は、本当に不思議な奴だな」
神父くんは私の頬に振れて、覗き込むように目を見つめた。
「どーしたの?」
「お前はいつか去ってしまうんだな」
「まーね。旅人だから」
「ふと、それを寂しいと思ってしまった。お前に会えて、おれは人生の幸運の大半を使った。この先これ以上の感動を味わうことはそう無いだろうから」
「えー……神父くんきゃわだね。そういうこと言うんだ」
「女々しい男は嫌いか?」
「んぁ? 全然? てか神父くんっぽくてよき」
なんか嬉しいな。
私との出会いを喜んで、別れを惜しんでくれるの。
「私も神父くんに会えてよかった。もちろん子どもたちにも。みんなのこと忘れないよ」
「蝶羽……」
「まあ湿っぽく言ったけど、すぐに旅立つわけじゃないから何日かは街にいるしフツーに教会遊びに行くけどね!」
魔物狩って売らないとマジでお金無いし。
子どもたちにも会いたいし。
「それはそれとしてご飯食べに行かない? 入院食って量少ないからすぐお腹減っちゃって。こっそり抜け出そーぜ。バレると婦長さんにカチキレられるから」
「……ハハハ、ああ。付き合うよ」
「よしっ決まり。やっぱりお肉かな〜肉にく〜フッフー。着替えてくるから待ってて」
あーお腹すいた。
――――――――
「……はあ」
神父は頭を押さえ、赤らんだ顔を俯かせた。
「危うく手を出しかけた……」
『良かったのう留まって。そうでなければ手打ちにしておったわ』
「……? 今誰か……気のせいか」
この助平め。
わしの目が黒い内は、蝶羽には手を出させぬからな。
覚えておけ、このたわけが。
――――――――
三日経過、私無事に全快。
「っぱ健康しか勝たん」
『あまり心配をかけてくれるな』
「ゴメンて」
私の相棒優しすぎ。
退院したよーって教会のみんなに報告に行ったら。
「お姉ちゃーん!!!」
「ぐふぅ!!」
子どもたちの熱烈なタックルであばらが折れかけた。
心配してくれてたんだね、ありがとう。
でも……全員に乗っかられるとさすがに蝶羽さんもしんどいよ。
「蝶羽姉ちゃん、もう大丈夫なの?」
「大丈夫だよキノン。お姉ちゃん無敵で不死身だから。ニシシ」
「よかっ、よがっだぁ……!! ゔあああん!!」
キノンは人一倍私のことを心配してくれてたらしい。
優しい子だね、まったく。
「泣かない泣かない。ほら、おいで」
私は泣きじゃくるキノンを抱きしめて頭を撫でた。
心配かけてゴメンね、って。
領主と派遣された役員が教会にやって来て、神父くんと今後についての話し合いを重ねた。
細かい内容はよくわからなかったけど、何にせよ子どもたちの生活が不自由することは無いっぽいので良しとする。
話し合いは何日かに渡って続いて、私はというとその間、魔物を狩ってお金を稼いだり、子どもたちといっぱい遊んだりした。
そうそう、街の鍛冶屋さんに頼んで、甲虫刀に早風のナイフを素材として打ち直してもらって、薄羽蜉蝣を作ってもらったことも忘れちゃいけない。
『虫の羽のような玉虫色の刃紋。透けるような刃の薄み。はぁ、これはたまらん』
信長は大層ご満悦の様子。
薄羽蜉蝣はそのまま【加速】のスキルを内包してるし、これから重宝しそうだ。
それともう一つ収穫があった。
あのチンピラが持ってた風のリングの力を吸収して、なんとエクストラスキル【風魔法】を覚えたのだ。
「【風魔法】って汎用性高くて超便利なんだよね」
どうやら【第六天魔王】は、スキルを持ってる相手の他にも、装備を斬ることでそのスキルを吸収出来るらしい。
「チンピラが最初っからこれ使ってたらガチでヤバかったかも」
『へらへらするな』
「うぃっす」
気を引き締めたいと思います。
『ときに蝶羽、【炎熱操作】もようは魔法の一種なのじゃろう? 【炎魔法】の何が違う?』
「あー、魔法系は自分の魔力を消費してそれを打ち出す感じ。で、操作系は魔法と同じことが出来るけど、相手が出した炎とか、焚き火とかコンロの火とか、予め着火してる炎も操れるの」
『なるほど、魔法の上位互換といったところか。わしの力も含め、より一層鍛錬に励み精進せよ』
「あーい」
そんなこんなで日々が過ぎ、じゃあ明日にでもまた旅に出るか、と意気込んだ夜のこと。
コンコン、泊まってる宿にお客さんが来た。
「はいはーい。どちら様……なんだ神父くんか」
「おれで悪かったな」
「んにゃ。で、どうしたの? はっ、まさか……夜這い……」
「違う!」
神父くんは紙袋を私に差し出した。
「夕食でもどうかと差し入れに来た」
「えーマジで? ありがとう。うっはコロッケだ! コロッケ大好き!」
「うちの芋を使った。キノンの手作りだ」
「嬉しすぎる。いっぱいあるから神父くんも一緒に食べようよ。入って入って」
『いや帰れ。女子の部屋に入るな』
なんで敵意剥き出しなのこいつ。
「……男を部屋に招くのはよくないだろ」
『常識はあるようで感心した』
「廊下で立ち食いする方がよくないと思う。神父くん、私と一緒にご飯嫌なの?」
「そういうわけじゃ……ただ、危機感を持てと言っているんだ」
意味わからん。
コロッケに何の危機感を持てと。
「むぅ……難しい性格してるね」
「難しいことを言っている覚えは無いんだが。……自分の身は大事にしてくれ」
「してるが?」
『してないじゃろ』
してるし。
「ま、その辺は大丈夫」
私には、私を守ってくれる人がいるから。
ね、相棒。
『ふん』
「……そうか。ならいい。おやすみ蝶羽」
「あれ、いいの? コロッケ」
「ああ」
「そう? おやすみ。また明日ね」
わざわざあんなこと言いに来るなんて。
「神父くんって、よっぽど心配性なんだなぁ。私そんな頼りなく見える? てかだらしなく見えてるのかな?」
『鈍感ではある』
「わかんないけど今めちゃくちゃバカにしただろ」
なんなのマジで。
もーいいや。
冷めないうちにコロッケ食ーべよっと。
『あの男、本当に差し入れに来ただけか?』
「ほぇ?」
『口いっぱいにコロッケを頬張りおって。子鼠かおぬしは』
子鼠みたいに愛くるしいってことでおけ?
――――――――
「……渡しそびれたな」
ジールは観劇のチケットを握りしめ、くしゃくしゃのそれをポケットに入れた。
ここまで読んでいただいた皆様に感謝を。
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