30.あの時の痛みは
ああ、口惜しい。
おぬしなら、わしの力ならば。
「おらぁ!!」
「っ!!」
こんな連中如き、一捻りにしてやるものを。
「こんなもんでへばってんじゃねぇぞ!!」
倒れた蝶羽の腹を蹴り、髪を掴んで無理やり起こす。
男は飽きもせず何度も蝶羽を殴った。
少しでも抵抗しようとすれば、短刀を握った男が子どもらを殺すと脅す。
「おらっ、おらっ!! 女が調子に乗ってんじゃねぇよ!!」
口惜しい。
なんて口惜しい。
本気を出せば。
否、真に口惜しいのはわしの力を信じぬ蝶羽。
そして、蝶羽に不信感を抱かせてしまったわしの不甲斐無さ。
蝶羽が、わしがもっと強ければ、子どもらに怪我一つも負わせぬのに。
「ハッハッハ!! 見ろよ兄貴、情けねぇったらないぜこの女!! だせぇなぁ!! おれらに歯向かわなきゃよぉ、痛い思いせずに済んだってのに!! ったくバカな奴だ!!」
何故蝶羽がこうも傷付けられておる。
何故こんなにも嘲られなければならぬ。
「おい女、泣きながら謝ってみろよ!! 服脱いで土下座して靴舐めたら、少しは」
「うっせーよ包茎くせぇ口で喋んな。お兄ちゃんがいないと調子にも乗れねぇ粗チン野郎が。帰ってお兄ちゃんのケツ穴で慰めてもらってろバーカ……ぁぐっ!!」
蝶羽の腹に深い蹴りが刺さる。
今のであばらが……下郎め……!!
「変態親父に売ってやろうと思ったがやめた。てめぇは両手両足へし折って豚のエサだ」
『蝶羽、頼む刀を抜いてくれ!! 子どもらのことを案じるおぬしの気持ちはわかる!! じゃが、わしはおぬしが傷つくところも見たくはない!! 蝶羽!!』
――――――――
信長声でっか。
もっと強かったら、もっと速かったら。
たらればなんか、いくらでも湧いてくる。
難しいね……やりたいことやるって。
「いった……」
「はっ、そりゃ痛てぇだろ。そのザマでまだ立ってられるのは褒めてやるよ」
「ちげぇよバカ」
身体の痛みなんかどうでもいい。
子どもたちが泣いてる方がずっと痛いつってんの。
「そろそろ死ね女」
ナイフを抜いて突き出してくる。
刺されたらさすがに死ぬか……
「あぁ?!」
「……お前なんかに、殺されてやらねーよ」
私は宝物庫から取り出した甲虫刀で、ナイフの刃を受け止めた。
「スキル?! てめぇ、ガキがどうなってもいいのか!!」
「兄貴やっちまえ!!」
子どもたちにナイフを振り下ろす。
その刹那。
突風が一陣、ナイフを持った男が吹き飛んだ。
「がはっ?!」
「兄貴?!」
地面を転がった男は、折られた鼻を押さえながら上半身を起こした。
「てめぇ……!!」
「ただのおつかいに、どんだけ時間かかってんだっつーの……」
「すまない」
ニシシ、謝ってばっかなんだから。
「子どもたちを守ってくれてありがとう」
そう言って、神父くんは静かな怒りに燃えながら剣を抜いた。
「以前からこの辺りをうろついていたゴロツキだな。おれの留守なら子どもたちを拐えると踏んだようだが、考えが甘かったな。お前たちはただ、おれの逆鱗に触れただけだ」
「くそっ、ただの神父が……ボロ小屋に引きこもってりゃいいものを!! 切り刻んでやるよ!! 【加速】!!」
男の姿が消えて砂埃が舞う。
そのスピードで撹乱していたぶるつもりだったんだろうけど、相手が悪い。
「【纏魔】」
剣に魔力を纏わせ構える。
居合のフォームから繰り出される、斬り上げからの斬り下ろしの高速の二連撃。
ルーガスト流の牙。
「ラディカルファング」
一度目の剣でナイフを弾き飛ばし、二度目の剣で敵を斬り裂く。
「ぐ、が……!!」
ルーガスト流……カウンターを基本とした受け身の剣の前に、男は倒れ沈黙した。
「あ、兄貴!! ちくしょう!! クソ神父が!!」
「待てよ。お前の相手は私だろ」
散々痛めつけてやがって。
「覚悟しろよ」
「何が覚悟だ!! おれに手も足も出なかったくせによぉ!!」
こいつは何見てたんだか。
手も足も出なかった?
出さなかっただけだろ。
子どもたちが危険じゃないなら、私を遮るものなんて塵一つ無い。
『めでたく、哀れな奴め』
殺しはしない。
けど、子どもたちを怖がらせた罪は償ってもらう。
「死なない程度にぶっ殺してやるよ」
「うるッせぇんだよぉ!!」
緑の石の腕輪が光った途端、風が渦巻いて暴れ出した。
「風のリング……」
【風魔法】が付与された腕輪。
そんな……そんな……そんなたかが初期装備で、どうにか出来るわけないだろ。
「【第六天魔王】」
黒いオーラを立ち上らせ、腕輪だけを斬る。
風が止んで男は呆けた顔をした。
「はっ? なっ、あ……!」
『貴様如き虫けらはわしらの現には要らぬ』
「幻のまま消えとけ」
この世界に技の流派が存在するなら。
スキルは必要無い。
私の身体が覚えてるままに剣を振れば、それがそのまま技になる。
「ルーガスト流、ラディカルファング」
本来は両刃の剣で斬り返す技。
だけど信長の力があれば、刀でも手首の返し方で再現出来る。
身体に大きく二本の傷を受け、男は背中から地面に倒れた。
「はっ、ざまーみろ粗チン野郎……。つっ……」
『蝶羽、大丈夫か?』
「大丈夫でしょ……自然治癒力上昇とポーションで何とか……おっと」
結構ボコられたしなぁ。
そりゃフラつくか。
「……?」
あれ、倒れてない?
「神父くん……」
受け止めてくれたん?
優しいー。
「こんなに傷だらけになって……おれが、ついていれば……」
……ああ、そういうことか。
今わかった。
私が傷付いたのは、自分でそれを選んだからだ。
ゴブチと同じで、自分で戦うことを選んだからだ。
誰のせいでもなくて、誰かがそれに責任を感じることもない。
「そっか……」
「蝶羽、しっかりしろ蝶羽! 蝶羽!!」
私は、微かに笑いながら気を失った。
身体中は痛いけど、あの時の痛みはほんの少しだけ晴れた気がした。
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