20.今はまだ
馬で駆ける夜っていうのは風情がある。
後ろには女の子。
背中に当たる膨らみの妙もまた一興、みたいな?
『戦国の世なら打ち首じゃな』
よかった戦国の世じゃなくて。
「ねえ、蝶羽」
「んー?」
「蝶羽は、なんで旅をしてるの?」
「やりたいことをやるため」
「やりたいことって?」
「いっぱいあるよー。空飛んだり、お菓子の家に住んだり、あとお金持ちにもなりたいし」
「夢ばっかり追うの、つらくないの?」
「全ッ然! 人生夢ばっかりの方が楽しいだろ!」
それに私には、一緒に夢を追ってくれる相棒もいることだし。
ねー相棒。
『ふん』
ニシシ、照れてやんの。
「まあ旅も始めたばっかりだし、楽しいことばっかりってわけでもないかもしれないけどさ。明日死んでも後悔しないように、今を好きに生きようって決めたから」
「それで、婚約者のフリもしてくれたの?」
「ウェッヘッヘ、そういうことだな。美少女に婚約者のフリ頼まれるなんてなかなか無い経験で楽しかったよ。ま、アイリスめちゃ可愛いし、フリじゃなくてガチだったら、今頃マジで惚れちゃってたかもしんないけど。なーんてね、ニッシッシ」
「……今から本気でプロポーズしたら受けてくれるの?」
「うわっ、ペッペッ! 口に虫入った! んぁ、なんか言った?」
「言ってない!」
「ぐあああアバラ折れるぅ! 腕ッ、腕締まっ、ぬあああ!」
『おぬしが悪い』
なんでぇ?!
「アイリス!!」
夜明け頃。
城に戻ると、玄関先に両親が立っていた。
「お父様、お母様」
勢いよく詰め寄るガルシアに、頬を叩かれると身構えたアイリスだけど、それも杞憂。
ガルシアは力強くアイリスを抱き締めた。
「お前という奴は、いつもいつも、心配ばかりかけて……!!」
「ゴメンなさい……ゴメンなさい、お父様……」
二人の頬に伝う涙。
なんだかこっちもウルッときちゃう。
私にはもう、あんな風に抱き合う機会が無いんだって思うと尚更。
「蝶羽さん、ありがとうございます。アイリスを無事に送り届けてくれて」
「いえいえ。このくらいどうってことないですよ」
「私からも礼を言う。娘の恩人に、無礼な態度をとったことをどうか赦してほしい」
「恩人はこっちの方です。私のことはいいので、これからじっくり話し合ってくださいね。そのために連れて帰ってきたんですから。アイリスも、言いたいことはちゃんと言わないとダメだよ」
「うん。ありがとう蝶羽」
「少ないが謝礼だ。どうか取っておいてくれ」
ゴールド……受け取っちゃうと、これ目的でやったみたいにならないかな。
『下賜は断る方が無礼じゃ。向こうの面子を立ててやれ』
って言ってもなぁ。
あ、そうだ。
「お礼は結構なので、その代わりこのハイオークを買い取ってください。それで今回の件はチャラってことで」
「あ、ああ……。しかし……」
「これだけお肉があったら、食べきるまでには時間がかかりそうですね。テーブルを囲んで、お酒でも飲みながら、なんて話が進んでいいんじゃないですか?」
「……ハハハ、君には負けるな」
ガルシアは胸に手を当て礼をした。
「君に感謝を」
続いてシエラとアイリスが。
あーこそばい。
感謝されるのってムズムズする。
「じゃ、私は行きますね」
「もう? 今帰ってきたんだし、少しくらい休んでいけばいいのに」
「お城のフカフカベッドは魅力的だけど、親子水入らずの時間を邪魔したくないもん」
「……また会える?」
「わかんない」
人の出逢いって一期一会なので。
あと旅人だし。
無責任に約束は出来ないよね。
「だけどまあ、会いたいって思っちゃうよね。友だちには」
「友、だち……?」
「あれ、違った? 一緒に夜を過ごすとかだいぶ仲良しなつもりだったけど。うわ、思い込み恥ず」
「う、ううん! 友だちがいい! 蝶羽がそう言ってくれるなら!」
この世界で初めての友だち。
あ、友だちいっぱい作るもやりたいことに追加しよっかな。
「行くね」
「うん……」
おっ、太陽昇った。
カッコつけて言ったけど、やっぱ眠い〜。
目ェしょぼしょぼする。
『まったくおぬしという奴は』
フカフカベッドに後ろ髪を引かれつつも、今日はどこに行こうかなって迷ったり。
次の旅に歩を進めたところで、
「蝶羽!」
後ろから呼び止められてアイリスに抱きつかれた。
「ありがとう蝶羽。絶対、また会いましょう」
おお、また甘美な膨らみの感触。
女の子のいい匂いヤベー……って、おっさんか私は。
こんなとき、どんな言葉を贈ったらいいのかわかんないけど……
「祈っとこうかな。また会うときは、もっとステキな女の子になってますようにって。次は、私の方から婚約者になってってお願いしちゃうくらい」
「へっ、ええ?」
うん、なんかいい感じのこと言えたんじゃない?
アイリスも感動で震えてるし。
ほっぺにチュー……は、恥ずかしいから頭ポンポンくらいにしとこ。
「またねアイリス」
投げキッスまでは、さすがにカッコつけすぎでしょ?
『おぬし、天然で女誑しなんじゃな』
何のこと言ってんだ。
いいから行こう。
どこかには私たちがやりたいことが待ってるだろうから。
「お父様、私」
「もういいんだ。私は私の思う幸せが、お前の幸せだと決めつけていた。もう何も言わん。アイリス、お前はお前が思う幸せを掴んだらいい。ただ一つ、私たちに心配をかけなければ」
「私、いつか旅に出るわ。貴族の役目を務めて、剣も鍛えて、一人前になったら。いいえ、なる。なりたいの」
あの人の横に立てるような自分に。
それがいつのことになるかはわからない。
ただ願わくば、忘れないで、と。
「蝶羽……」
アイリスは密かに、抱いた恋心に蓋をした。
今はまだ。
いつの日か。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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もし蝶羽と信長に、こういうことをやってほしい、というリクエストがありましたら、書ける範囲で実現したいと思いますので、感想の方で仰ってください!
ダラダラと不定期の更新になるかとは思いますが、どうかお付き合いくださいますように。
当方が書く他の百合作品も、好評連載中でございます。
よろしければ、そちらもぜひm(_ _)m




