19.戦わなきゃいけないのは
考えなしに飛び出したはいいけど、ハイオークか。
『ただの豚じゃろ。さっさとやってしまえ』
んー。
『なんじゃ、強敵なのか?』
強いのは、まあ。
この辺に出る他の魔物の平均よりは。
どうしよっかなぁ。
「……逃げて」
「んぁ?」
「逃げて蝶羽……あなたを巻き込みたくないわ」
いやこの状況で何言ってんだこのお嬢さん。
「私の自業自得でこうなってるのに、ただでさえあなたに迷惑かけて……これ以上……」
「迷惑なんて思ってないよ。たしかにムチャ振りだったけど、それなりに楽しかったし。命の恩人のためだもん。あのくらいなんてこと無いよ」
「命の恩人……? そんなこと……」
「そんなことじゃない。生きなきゃやりたいことなんて出来やしないんだから」
「やりたい、こと?」
「とりあえず今は、アイリスを無事にお父さんとお母さんのとこに連れて帰ってあげたいかな」
アイリスに向かって微笑むと、ハイオークは空気を読まずに棍棒を振りかぶった。
「危ない!!」
危ないってさ、信長。
『誰に物を言っておる』
信長の言葉にニヤリと口角を上げる。
私は手のひらで棍棒を受け止めた。
「しゃしゃんなよ。今大事な話してんだから」
緋色の軌跡が描かれると、ハイオークの首が飛んで、巨体が倒れて地面を揺らした。
「…………!!」
『拍子抜けじゃな。戦いづらそうにしておったわりには』
いや、見た目が生理的にキツくて。
『たわけ』
大事なことだろ。
「蝶羽、あなた……」
「アイリスのお父さんにも言ったんだけどさ、アイリスたちはもっと話すべきだと思うよ」
「え?」
「結婚したくない、貴族なんて嫌。アイリスがどんな思いでそれを口にしてるのか、わかった風なことは言えない。説教くさいのも苦手だしね。だから、ちょっとだけ。戦わなきゃいけないのは貴き血なんかより、目を背けて逃げてばかりの自分自身なんじゃねーの?」
って、蝶羽さんは思いました。
「どう受け止めるかはアイリス次第だよ。これからどうするのか、どうしたいのか。自分の心に聞いてみたら?」
駆け出す。斬る。
ハイオークは一撃が重いけど動きはノロい。
それに脂肪が分厚いからよく燃える。
【炎熱操作】の炎で燃えた身体からは、焼けた肉の匂いがした。
オーク肉っておいしいんだよね。
なんて考えているうちに、ハイオークの群れは全滅した。
収納収納〜。
素材解体してもらって、今度焼肉しよ。
『下手物食いめ』
うまいんだって。
さ、何はともあれ帰んべ。
「アイリス」
なんだまだヘコんでんの?
……そういえば。
「聞きたいことあったんだけど、いい?」
「なに?」
「私一応、婚約者として認められるようにって、アイリスのお父さんのムチャ振りには応えたわけじゃん? あれで百パー認められるってわけでもないにせよ、少しはアイリスの顔も立ったと思うんだけど。なんで私のこと避けたの?」
すぐ城の中に引っ込んじゃって。
「さすがにちょっと寂しい思いしたんですけどー?」
「避けたわけじゃ……」
「じゃあなんでですかー? んー? ほらほら納得のいく説明してみろよー。うーい」
『破落戸』
「……………………の」
「なんて?」
「だから……………………ったの」
「んん?? 声ちっちゃすぎて聞こえないんだけど」
「っ、うるさいうるさいうるさい!!」
「ぅええなんで?!!」
バチギレされたんだけど?!
解せなすぎるだろ!
「んん……まあいっか。ほら帰ろーぜ。今度はこの手、スルーさせないから」
アイリスは顔を真っ赤にして、私の手を取った。
――――――――
此奴は、何じゃろうな。
「だから……蝶羽がカッコ良すぎて、恥ずかしくなっちゃったの」
「んん??」
人の好意に鈍感というか。
肝心なところで抜けているというか。
朴念仁め。
何というか此奴、婚期は逃しそうじゃな。




