1.異世界転生
「死んだ……」
森の中、目を覚ました私が一番最初に呟いた言葉がそれだ。
ここは天国?それとも夢?じゃないなら……もしかして異世界、とか?
「異世界転生ってガチ……?」
アニメみたいなんて感動は無かった。
五体は満足で痛みは無く苦しくもない。
なのに私は涙が止まらなかった。
「ううっ、うぅ、ふぬぅぅ……」
家族、友だちとの別れはもちろんあった。
けどそれより……
「イディオン……私のイディオンんん!」
やっと、やっとゲームが出来ると思ったのに。
よりによってリリース直後に死んじゃうとか。
不幸すぎて萎える。
「はぁ……」
いつまでも泣いてても仕方ない。
こんな森の中で一人とか、また死んじゃいましたテヘッ☆なんて笑い話にもならないし。
とにかくどこか人のいるところに。
「あれ? この服……」
死ぬ前に着てたパジャマじゃない。
これってたしか……
「イディオンの初期衣装?!」
いや、でも……たしかに……間違いない。
チュートリアルでアバターが着てるやつ……ってことは……
「ここって、まさか……イディオンの世界?!」
い、いやまだ確証は……
ここがイディオンの世界なら、森には魔物が……
「ガルルル……!」
「で、出たぁ!」
リトルウルフ!
イディオンに出てくる序盤モンスター!
しかも群れ!
「すっっっごい本物だぁ!」
ゲームの世界に転生マ?って思ってたけど、これはガチっぽい!
しかもなんか頭の中に情報が浮かぶ!
これって【鑑定】?ゲームの仕様っぽい!
「グルルル……!」
「毛並みも牙もリアルなの感動……って、あ、あれ?」
イディオンは街で装備を手に入れてからチュートリアルがあったはず……
つまりこれはチュートリアルじゃなくて、シンプルに装備無しで魔物にエンカウントしてるってことに……
「ガルルァ!!」
「ゔぁぁぁぁ!!」
怖い怖い怖い怖い!
本物の魔物ってこんな怖いの?!
迫力すっご!
てか私足はっや今なら世界陸上出られる!
息も切れないし体力エグい!
火事場の馬鹿力的なやつかも!
「何か、何か武器! ああせっかく転生したのにすぐ死ぬの嫌すぎぃ!」
いや、もしかしたら死に戻りとかワンチャン……無いか!
「誰か助けてぇーーーー!!」
あっ、ヤバ……足、転ん、死――――――――
『情けない』
何、今の声……
へ?あれ?足、踏ん張ってる……手には、その辺に落ちてた木の棒……いつ拾って……
『振り向きざまに腕を振れ』
身体が勝手に動いた気がした。
手に持った木の棒は、すり抜けるようにリトルウルフの頭と胴体を両断した。
「へ?え、ええ?」
今の私がやったの?
ゲームなら倒したら消えるはずの魔物もそのままだし……血グロっ。
「いったい何が……」
『呆けるなたわけ』
「うわっ?! だ、誰?!」
『次が来るぞ』
リトルウルフは仲間の死体を飛び越えて襲ってきた。
『振り下ろせ』
言われるままに木の棒を振り下ろす。
骨が砕ける嫌な感触がした。
『次じゃ。しゃがめ』
しゃがんだ瞬間にリトルウルフが頭の上を飛び越えた。
『もう一度跳んでくるぞ。その前に前脚を払え』
「っ!」
『突け』
脚を払って体勢を崩したところへ木の棒を突き出す。
喉の奥から背中にかけて貫かれ、リトルウルフは絶命した。
何とかなった……けど……
「何だったの今の……ていうか、誰? どこにいるの?」
『話は後じゃ。血の匂いを嗅ぎつけて他の魔物が寄ってくる。その前にそこを離れよ』
ええ、めっちゃ偉そう……
でもなんか……めちゃくちゃ可愛い声してるな……