14.捜査
他の衛兵の手で、気絶したリアヌは運ばれていった。
やり過ぎたかな。
『あれで良い。存在を痛感させる上で、恐怖は最も手っ取り早く効果的じゃ。あれだけやれば、おぬし相手に馬鹿をやろうという衛兵もおらぬじゃろう』
衛兵は各地に点在しているけれど、それだけに横の繋がりが非常に広い。
私の噂はすぐに広がるだろう。
イディオンではマナー違反のプレイヤーを取り締まるために、運営がNPCを配置してたっけ。
そういえばあのときは、衛兵狩りなんてのが流行ったな。
『優しいだけで物事が上手く運ぶ謂れはない。時に厳しく怖ろしくなければ、いずれ割を食うのは己自身じゃ』
そういうもんなのかな。
『傍若無人たれ。掴みどころなき浮雲であれ。それがしたたかな生き方というもの。尤も今回に関してはおぬしの間が悪かっただけじゃが』
うっさい。
「この度は、誠に申し訳ございませんでした。彼女もけして悪気があったわけではなく。今は近隣で犯罪が多発しているのもあり」
「そういうのもういいんで」
「し、失礼いたしました……」
「で? 放免だけして終わりじゃないですよね? 事情くらい説明してもらいますよ」
「それが今はまだ調査中で。唯一犯人を目撃したメルロの証言だけでは」
「襲われたナディアさんて方は?」
「頭の傷が深いようで、未だ目を覚まさず」
わかってるのは犯人が男ってことだけか。
「ナディアさんはなんで襲われたんですか? 普段から恨みを買うことでもしてたとか?」
「とんでもありません。彼女は街の顔役のようなもので、人当たりと面倒見がいいので有名な肝っ玉母さんでしたから。現在我々は、店の売上金等を狙った行きずりの強盗として捜査を進めています」
逃亡を防ぐために、現在街は出入りを封鎖されてるらしい。
「改めて、今回のことは深く謝罪いたします。我々は誠心誠意、事件の解決に努めます」
「どのみち街からは出られないんですよね? 私も協力させてもらいますから」
「いや、しかし」
「犯人の野郎。人に罪をなすりつけたこと、徹底的に後悔させてやる」
私の怒りを感じ取ったらしい。
ジルニコラは額の汗をハンカチで拭った。
『息巻いて兵舎を出たのはいいが、当てがあるわけでもあるまいに。どうするつもりじゃ?』
「怪しい奴を片っ端からボコボコにする」
『生肉食らう類の蛮族かおぬしは』
「お前も比叡山焼き討ちとかしてただろ」
さて、見境なくボコすのは冗談としても、だ。
「なんか無いの? 怪しい奴一発でわかるようなスキル」
『あればとうに使っておる』
「とりあえずもう一回現場に行ってみるか」
『おお、捜査の基本は足。現場百遍というやつじゃな』
「かぶれんな現代に」
ということで現場の鍛冶屋に来た。
「これといって手掛かり無し」
『衛兵がひと通り調べておるじゃろ』
「だよね。……ん? なんだこれ、水?」
『小水か?』
「疑うにしてもまず雨漏りとかだろ」
雨は降ってないし、水をこぼしたわけでもなさそうなのに。
『気になるのか?』
「うん、なんか」
『しかし、他に犯人に繋がりそうなものは見当たらぬな。無駄足を踏んだか』
「手掛かりが少なすぎる。そうだ、襲われたメルロって子に話を聞きに行ってみよう」
次に向かったのは病院。
病室にはまだ眠っているナヴィアさんと、横に寄り添っている子どもがいた。
「こんにちは。あなたがメルロちゃん?」
「お姉ちゃん、誰?」
「私は蝶羽。えっと、お店のお客さん……じゃなくて、悪い人を捕まえにきた正義のヒーロー」
「正義のヒーロー?」
『なんじゃその設定』
その方が子どもウケいいかと思ったんだよ。
「メルロちゃんとお母さんを襲った悪い人は、私が必ずボコボコ……捕まえるからね」
「本当? 本当に?」
「うん。だから、メルロちゃんが覚えてることを教えてくれないかな? 何でもいいの」
「うん……。あのね」
メルロは店で起きたことを話し始めた。
昨日のこと。
メルロがにうたた寝をしていると、
「な、なにするんだい! やめ、あああ!」
店の方からナヴィアの悲鳴が聞こえたという。
おそるおそる覗くと、髭を生やした大男がナヴィアの頭をハンマーで殴ったあとだった。
「お母さん!」
男はナヴィアを突き飛ばして逃走。
そのときメルロは気絶してしまったらしい。
話を聞いた限りはよくありそうな強盗だ。
『有益な情報は無さそうじゃな』
「ん……他に何か気付いたことは無い?」
「他に?」
「何でもいいの。口が臭そうだったとか、付き合った彼女全員に浮気されてそうとか」
『それで知り得る情報なら要らぬ』
するとメルロは、あることを言った。
「なんか、濡れた音した」
「濡れた音?」
「ピチャッ、パチャッ、って。あの人の足が濡れてたの」
『現場にあった水と関係がありそうじゃな。蝶羽?』
「濡れてた……水の音……」
水……
そうか、あのスキルなら。
『何かわかったか?』
「たぶん。確証は無いけど」
「?」
きょとんとするメルロの頭に手を置いて私は微笑んだ。
「お母さんが目を覚ましたら言っておいてくれる? とびきり美人のお姉ちゃんが、お仕事を頼みたいって言ってた、って」
『悍ましいほどの自己愛』
っし、行くか。
犯人の野郎をボコしに。
『どこへじゃ?』
街が封鎖されてるなら、時間を潰せる場所なんて限られる。
イディオンプレイヤーナメんなよ。




