9.魔王の権能
身体から黒いオーラが立ち昇る。
身体軽い……痛みも引いてきた。
さっきまでの息苦しさが嘘みたい。
1フレーム挙動を疑ってた追憶の武将の動きが、太刀筋が止まって見える。
『行け、蝶羽!』
使おうと思って使わなきゃスキルの真価は発揮出来ない。
ましてやスキルの本当の意味も理解してなかったんだから。
「【第六天魔王】!!」
魔王の眼は見るものの本質を見抜き、魔王の刀は遮る全てのものを拒絶する。
火花が散るくらい斬り結んで、大太刀を躱して刀を振り上げると、あれだけ苦労したのが嘘みたいに、追憶の武将の左腕が宙を舞った。
痛みがあるのか無いのか、反応が無いからわからないけどさ、びっくりはしてんじゃないの?
さっきまでとは違うだろ。
「ぜぇりゃあ!」
回し蹴りを一発、
追憶の武将が吹き飛び鎧が砕けた。
「斬られた恨みだ!! 次は頭から真っ二つにしてやるよ!!」
息巻いて切っ先を向けると、追憶の武将は目と鎧の隙間から赤い炎を噴き出した。
篝火が激しく燃え上がって、炎が大太刀に集中する。
燃える大太刀を薙ぐと、追憶の武将の周囲に四体の追憶の炎武者が出現した。
『分が悪いと踏んで仲間を呼んだか』
「いいじゃん。こっちだって二人なんだから。最強二人に、雑兵が何人増えても関係ないでしょ」
『ふっ、言いおるわ。蹴散らすぞ』
「余裕!!」
一体、二体、黒いオーラを纏わせた刀は炎も斬り裂いた。
「せやあっ!」
三体斬ったところで、四体目が光を強めて至近距離で爆発した。
消し飛ぶか、全身大火傷で致命傷は免れない。
なんて思ったんじゃないだろうな。
『ぬるいわ』
甘いよ。
『この程度のぬるい炎ならば!!』
「私たちは転生なんてしなかった!!」
炎を突っ切って追憶の武将の間合いに入る。
向こうは大太刀を斬り上げようとしてたけど、遅ぇよ落ち武者。
「私たちの前に!!」
『立ち阻かるでないわたわけ者!!』
頭から股下まで真っ直ぐに刀を振り下ろす。
追憶の武将の全身が炎に包まれ、やがて動きを止めた。
「はっ、ざまーみろ……」
黒いオーラが消えて身体が前のめりになる。
もー無理……動けない……
『蝶羽!』
「大丈夫……ちょっと疲れただけ……」
緊張の糸が切れた。
もう指一本動かない。
「ニシシ、すごいじゃん。魔王の力」
『お、おお! そうじゃろうとも! これぞわしの本領発揮よ!』
「この力があったら、何でも出来そう」
『何だって出来る! 何だってやろう! だから……死ぬなよ、蝶羽』
うん、死なない。
守ってくれるでしょ?
ね、信長。
『蝶羽、蝶羽!!』
心配する声を遠くに聞きながら、私の意識は途切れた。
――――――――
『このような細い身体で……』
よくぞ戦った。
よくぞ奮った。
おぬしが誇らしい。
死ぬな。
死ぬでない。
そんなこと絶対に許さぬ。
許さぬぞ。
「おぬしは……わしが守る」