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やっぱりティオは強い

 アリスの母親の様子を見に行った後、僕とティオは城門の外に出て西の湖に向かった。その途中で冒険者達とすれ違った。



「ティオ、アル!西の湖か?」


「はい。」


「今日は大量だぞ!俺達も5匹は討伐したからな。ハッハッハッハッ」



 どう見ても手ぶらだ。討伐したジャイアントフラッグはどこだろう。そんなことを考えているとティオが教えてくれた。



「あいつらが討伐した魔物を持っていないのが不思議だったんだろ?」


「どうしてわかったんですか?」


「顔に書いてあるからな。」


「えっ?!」


「冗談だ。あいつらはこれと同じ魔法袋をもっているんだ。この中に入れてるのさ。」


「魔法袋ですか?」


「ああ、そうだ。結構高いんだぞ!これなんか金貨2枚もしたんだからな。」


「金貨2枚?!ってことは金貨1枚で銀貨100枚だから銀貨200枚ですか?」


「ああ、そうだ。」



 恐らく僕には一生手に入らないだろう。少し悲しくなった。



「着いたぞ。」



 西の湖は全周2㎞ほどの大きさだ。僕らの反対側は湿地帯になっている。どうやらジャイアントフラッグはその湿地帯にいるらしい。 



「アル、湿地帯は足をとられやすいから気をつけろよ。」


「はい。」



 いつになくティオの顔が真剣だ。湿地帯が近づいてくるにつれてティオの周囲にゆらゆらとしたものが見え始めた。



「気をつけろ!奴らの気配がある!」


「うあい。」



 緊張しているせいか、思わず変な声が出てしまった。ティオがクスクス笑いながら湿地帯の中に入っていく。僕も後を追いかけようとしたが、思わず泥に足をとられて転んでしまった。



「あっ、剣が!」



 転んだ拍子に剣を泥の中に落としてしまったようだ。目の前ではティオがジャイアントフラッグを剣で攻撃していた。次の瞬間、僕の身体に暖かくヌメヌメとしたものが絡みついてきた。



「あっ、何?!」


「アル!ジャイアントフラッグだ!今行く!」



 ジャイアントフラッグの長い舌が僕を持ち上げ、口の中に入れようとした。このままではまずい。僕は咄嗟にジャイアントフラッグの口を手で押さえて食べられるのを防いだ。だが、舌がどんどん僕を口の中に引きずり込もうとしている。



“身体強化よ。”



 僕は手に意識を集中させて力いっぱい両手を開いた。



グギョー バリッ グティオ



 ジャイアントフラッグの口が裂け、身体が2つに分かれた。



「フ~、助かった~。」


「アル!お前、凄い力だな。そんなに力があったなんて思わなかったぞ!」



 確かにそうだ。今までの僕なら今頃ジャイアントフラッグに食べられていただろう。あの声のおかげだ。



「火事場のくそ力ってやつです。」


「それにしても凄いな。」



 僕は泥の中に手を入れて剣を探した。だが、どこにもない。すると泥で真っ黒になったシロが剣を咥えていた。



「ありがとう。シロ。お前、真っ黒だな。これからはクロって呼ぼうかな。」



ウ~ ウ~



 僕の言葉が分かるのか、シロが怒っているようだった。



「冗談だよ。」



 その後、湿地帯から出てティオの戦いを見た。ティオの剣から鋭い風が出ているようだ。剣が触れる前にジャイアントフラッグの身体が2つに分かれている。



「このぐらいにしておくか。」


「お疲れ様でした。ティオさん。」


「どうだ?少しは勉強になったか?」


「はい。やっぱりティオさんは凄いです。身体からゆらゆらとしたものが出ているし、剣の周りにも風のようなものがありました。僕もあんな風に戦いたいです。」



“やはりこのアルという少年は普通ではないな。私の闘気が見えるなんてな。面白い少年だ。”



 討伐したジャイアントフラッグは5体。それをすべてティオの魔法袋に仕舞って帰ることにした。



“善行ポイント50”



 僕とシロは湖の反対側で体を洗うことにした。上半身裸になって水浴びをしていると、ティオが信じられないものを見たかのような目で僕を見た。あの時のリーデンのようだ。



「どうしたんですか?ティオさん。」


「いやなんでもない。」



“まさか?!どうして?!”



「アル。お前、確かテンポスの孤児院で育ったって言っていたな。」


「はい。どうしてですか?」


「いや。何でもない。」



 その後、僕達はギルドに戻った。ジャイアントフラッグはC級の魔物だけあって1匹銀貨20枚だった。僕は1匹分の報酬を受け取った。



「凄いわ~。アル君。ジャイアントフラッグを討伐するなんて。冒険者カードを貸して。」



 僕が冒険者カードを渡すと、キャサリーが別のカードをくれた。



「アル君。おめでとう。今日からあなたはFランクよ。」


「僕、昇級したんですか?」


「そうよ。良かったわね。」


「ありがとうございます。」


「よかったな。アル。今日は女将さんに報告してご馳走にしてもらおうか。」


「はい!」



 宿屋に戻って報告すると、女将のリリーさんが自分のことのように喜んでくれた。隣にいたリンもニコニコしている。



「アル君も少しは強くなったんだね。」


「これっ!リン!失礼だろ!」


「いいんですよ。女将さん。本当のことですから。」



 その日はシチューにボアの骨付き肉、それにサラダにパンといつになく豪華だった。お腹いっぱい食べた僕は部屋に戻った。そしてしばらく休んだ後、昨夜のように窓から抜け出して住宅街の家に魔法をかけて回った。10軒ほど魔法をかけたらやはり魔力切れを起こした。



“昨日は5軒が限界だったけど、今日は10軒回れたな~。もしかして魔力が増えてるのかな~。”



 部屋に戻ってベッドで寝ころんでいると再びあの声が聞こえた。



“善行ポイント600 規定に達しましたので魔法知識を獲得しました。”



 再び体に激痛が走る。そして、気が付けば朝になっていた。それから10日ほど同じような生活を送っていたのだが、その間あの声が聞こえることはなかった。


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