魔法で病気治療
初めてのゴブリン討伐を終えた僕はティオと一緒にギルドに戻った。
「アル君、どうだった?」
「キャサリー、驚くなよ。アルが今日一日でゴブリンを20体も討伐したんだ。」
「え————!!!本当に?!」
僕はどれだけ弱く見えているんだろう。すると僕に因縁をつけてきた冒険者達も騒ぎ始めた。
「アル!頑張ったじゃねぇか!これでお前も一人前の冒険者だな!」
「そうだ!そうだ!お前も今日から仲間だ!アル!」
「おい!今日はアルの初討伐のお祝いだ!飲もうぜ!」
「おお!」
最初は怖い人達だと思っていたけど、こうしてみるとみんないい人達だ。僕も果実水を片手にみんなと一緒に騒いだ。
「それにしてもよ~。よく2日でゴブリンを討伐できるようになったな~。」
「ケベット!何言ってるんだ!Aランク冒険者のティオが先生なんだぜ!このぐらい当たり前じゃねぇか!」
「そうだよな~。この街でAランクは『鷹の爪』の奴らとティオだけだもんな。」
「ところで『鷹の爪』はどうしたんだ?最近姿が見えねぇぞ。」
「あいつらはテンポスさ。」
「なるほどな~。またあの孤児院に行っているのか。」
「ああ、そうさ。孤児院の近くで魔物でも狩ってるんだろ。」
「そうだな。あいつら、孤児院の子ども達が魔物の犠牲にならないようにっていつも言ってるもんな~。」
僕の知らないところでジンさん達が僕達のことを守ってくれていたことを知った。物凄く嬉しかった。そしてカッコよく思えた。恩を売ることもなく、威張ることもなく、陰ながらに人の役に立つ彼らは僕にとっての英雄だ。
「どうした?アル。」
「僕、ジンさんやジョニーさん、メアリーさんにサリナさん。みんなのことを知ってるんです。彼らが僕の知らないところで孤児院のみんなを守ってくれてたなんて。」
「そうか。アルはテンポスの孤児院の出身だもんな~。」
周りにいた冒険者達が驚いた様子だ。
「そうか~。アル、お前あの孤児院の出身だったのか~。」
「アル!飲め!今日は俺がご馳走してやる!いくらでも飲め!」
「何言ってるんだ!ゴング!アルはまだ子どもだぞ!酒が飲めるわけねぇだろ!」
「そりゃそうだ!」
ハッハッハッハッハッ
ギルドからの帰り道でティオが話しかけてきた。
「アル!お前、私に何か隠していることがないか?」
「どうしてですか?」
「ゴブリンと戦っているときに違和感を感じたんだ。急に動きがよくなったからな。」
ティオに正直に言おうかどうか悩んだ。でも、僕に起きている不思議な現象がなんなのか自分でもわからない。余計なことを言ってティオを心配させたくない。
「孤児院にいる時にジンさん達に稽古をつけてもらったことがあるんです。その時の感覚を思い出したのかもしれません。」
「そうか。ならいいがな。」
宿に戻った僕は、ギルドからもらった銀貨20枚で借りていたお金をティオに返し、5日分の宿代を払った。
そして部屋に戻った僕は夜が更けるのを待ってベッドに寝転んでいた。
「シロ。行くよ。」
ワン!
僕は女将さん達に気が付かれないように窓から外に出てアリスの家に向かった。アリスの家の前までくると、手に意識を集中させて魔法を放った。
「病気がよくなりますように。」
その近くの家も1軒ずつ回って魔法をかけた。5軒ほど魔法を使ったら頭がクラクラし始めた。
“これが魔力切れか~。結構辛いんだな~。今日はこれで終了かな。”
ふらふらしながら宿屋に戻りベッドに寝転んだ。
“善行ポイント300 規定に達しましたので異常耐性を獲得しました。”
翌日、僕は再び修行をするためティオとギルドに来ていた。
「ティオさん。今日もゴブリンの盗伐ですか?」
「もうゴブリンなら余裕だろう。アルにはもう少し強い魔物がいいだろうな。」
なんか僕も少しだけ自信がついてきた。
「なら、今日はどうするんですか?」
「西の湖に行くとするかな。」
すると受付のキャサリーが驚いたようだ。
「ティオさん!西の湖ってもしかしてジャイアントフロッグですか?」
「ああそうだ。」
「C級の魔物ですよ。アル君にはまだ早いんじゃないですか?」
ゴブリンを倒したとはいえ、僕はまだGランクだ。さすがにC級の魔物には通用しないだろう。
「大丈夫だ。いざとなったら私がついているしな。」
「わかりました。」
僕がティオとギルドを出ようとするとアリスがやってきた。
「どうしたの?アリス。」
一生懸命走ってきたんだろう。アリスが肩で息をしながらしゃべり始めた。
ハーハーハー
「アル、ハーハー、アルお兄ちゃんのお陰でお母さんの病気が治ったの。だからアルお兄ちゃんに教えに来たの。ハーハー」
するとティオがアリスに聞いた。
「どういうことだ?アリス。お前の母親は伝染病じゃないのか?」
「うん。そうだけど、でも治ったの。アルお兄ちゃんにもらったヒール草が効いたんだよ。」
「ティオさん。訓練に行く前にアリスのお母さんの様子を見に行きませんか?」
「そうだな。」
僕はこの目で確かめたかった。昨日の夜、僕が魔法を使った人達がどんな様子なのかを。
アリスの家に行くと母親が洗濯物を干していた。顔色もよく、すっかり元気になったようだ。
「アル君。ありがとうね。お陰で病気がよくなったみたいなのよ。」
「いいえ。僕はアリスにヒール草をあげただけですから。」
「でも不思議なのよね~。この辺りの家で私と同じ病気だった人達が治ったのよ。あの人達もヒール草を使ったのかしらね~。」
「ヒール草は薬屋でも売ってますから、きっとそうですよ。」
「でも、以前お医者様がくれた薬を飲んでもよくならなかったのよ。なのにヒール草で治るなんて不思議だわ。」
ティオが顎に手を当てて何かを考えているようだった。
「他に何か心当たりはないのか?ヒール草が原因とは思えないんだがな。」
「他には何もありませんね。」
「そうか。」
ティオは納得していない様子だ。シロが耳を下げてティオの近くにいた。
「ティオさん。そろそろ行かないと。」
「そうだな。遅くなってしまうな。」