初依頼
孤児院を出た僕はナポルの街に来た。早速冒険者ギルドに行ったが、魔力のない僕は当然Gランクだ。魔力がないことでみんなに驚かれたが、自分にできる仕事を探そうと掲示板に向かった。その途中で椅子に座っていた男性が僕に足をかけてきた。
ドテッ
「痛てて。」
「おい、小僧!悪いことは言わねぇ!違う仕事を探した方がいいぞ!」
バッコン ドカッ
音のする方を振り向くとティオが冒険者の頭を思いっきり叩いたようだ。
「痛ぇじゃねぇか!何するんだ!」
「さっきも言っただろ!この子にちょっかい出したら私が許さん。いいな!」
「別にいじめてたわけじゃねぇさ。こいつが魔物に殺されないように忠告してやっただけだ。」
「余計なお世話でしょ!アル!掲示板に行くわよ!」
「は、はい!ちょっと待ってください。」
僕はティオに頭を叩かれた男性のところに行った。
「ごめんなさい。僕のせいで頭叩かれて。親切で言ってくれたのに。本当にごめんなさい。」
男性は不思議なものを見る目で僕を見た後、照れくさそうに言った。
「いいさ!それより転ばして悪かったな。」
その場にいた人達もティオもなぜか不思議そうに僕を見ていた。
「ティオさん。Gランクの依頼はどの辺りですか?」
「ああ、あの一番右の方だ。」
掲示板に行くと、Gと書かれた紙は『家の掃除』『ペットの世話』『引っ越しの手伝い』『工事現場の力仕事』『薬草採取』とあった。僕は迷わず『家の掃除』を剥がした。
「キャサリーさん。これをお願いできますか?」
「わかったわ。地図を渡すわね。」
「はい。」
なんかキャサリーさんも僕を見てニコニコしていた。
「ティオさん。ありがとうございました。」
「わかったわ。しっかりやるのよ。くれぐれも無理はしないようにね。」
「はい。」
なんかティオはシスターのマリーみたいだ。
地図に書かれた場所に向かうと結構庭が広い家があった。
「ここかな~?」
門をくぐって玄関まで行って声をかけた。
「すみませ~ん。冒険者ギルドの依頼できました~。」
ギ~
家の中から小奇麗な服装の初老の女性が出てきた。
「よく来てくれたわね。私一人で困っていたのよ。中に入ってちょうだい。」
「はい。」
家の中に入ると、きれいに掃除はされていたが大きな棚が崩れかかっていたり、重そうな置物が部屋の中途半端な位置にあった。
「この棚を直しますね。工具はありますか?」
工具を出してもらって棚の修復から始めた。次は置物の移動だ。それ以外にも、お風呂のカビ取りや庭の雑草取りもした。あまりに暑かったので、汗がたらたらと流れてきた。汚れるのが嫌だったので服を脱いだ。すると、お婆さんが驚いた様子で僕を見つめていた。
「終わりました!」
「ありがとう~。綺麗になったわ~。あなたは手を抜かないのね。」
「だって仕事ですから。」
「偉いわね~。ところでちょっと聞いていいかしら?」
「はい。」
「私はリーデンっていうの。あなたのお名前は?」
「僕はアルフレッドって言います。みんなはアルって呼んでますけど。」
僕が名のった瞬間、リーデンの目から涙が流れた。
「どうしたんですか?どこか具合が悪いんですか?」
「いいえ。違うのよ。私にも孫がいてね。あなたと同じ名前だったからつい思い出したのよ。」
「そうだったんですか~。アルフレッド君は幸せですね。自分のために涙を流してくれるお婆さんがいるなんて。」
「どういうことなの?」
「僕は孤児なんです。だから両親が誰なのかも知らないんです。でも、司祭様とシスターのマリーさん、それに孤児院のみんなが僕にとっては大切な家族ですけどね。」
「そうなのね。アル君は偉いわね。」
「ありがとうございます。」
「またお願いしていいかしら?」
「はい。ギルドに依頼を出していただければ、僕が来させていただきます。」
するとお婆さんが戸棚から何かを持ってきた。
「これをお土産に持っていきなさい。」
「なんですか?これ?」
「この指輪はきっとあなたの役に立つわ。」
指輪は金色に輝いていた。恐らく金なのだろう。
「こんな高価なものをいただけません。」
「いいのよ。私が持っていても役に立たないんだから。もらってちょうだい。」
あまりにも強くすすめてきたので断るのも失礼かと思い、ありがたく受け取った。
「では、いただいておきます。ありがとうございます。」
その帰り道、また頭の中に声が聞こえた。
“善行ポイント50。規定に到達しましたので封印を解除します。”
体が物凄く痛い。思わず道の端に避けてうずくまってしまった。
“魔力が解放されました。”
「えっ?!どういうこと?」
どういうことなのか全く理解できない。
“一体何が起こっているんだ?!”