戦争の危機
僕とティオはロベルト伯爵達と話をした後、宿屋に戻った。その途中、ティオにはくれぐれも公爵令嬢であることを秘密にするように言われた。
「どうだった?アル君。」
「特に何もなかったよ。」
「何にもないわけないでしょ!正直に言ってよ!」
リンがあまりにも真剣に聞いてきたので、少しだけ正直に言った。
「あのご隠居様っていたでしょ?」
「レストランであった人?」
「そうさ。あの方は伯爵様のお父様だったんだよ。それで一緒に王都に行かないかって言われたんだ。」
「え—————!!!」
「そんなに驚かないでよ。」
「だってびっくりするじゃない!当然行かないよね?」
「行かないって答えたよ。」
リンがめティオくティオ喜んでいる。恐らくリンは僕のことが好きなんだろう。いくら鈍感な僕でもわかる。でも、僕にとってリンは妹のような感覚しかない。
それから数か月ほど経った。僕の剣の実力があがったせいか、もしくは魔法が使えることが分かったからか、ティオの修行はほとんどなくなった。その代わり、森に魔物討伐に行ったり、街の清掃活動を行ったり、工事現場で働いたりして過ごしていた。
“『剣術250 魔力500 戦闘力700 スキル地図・俊敏・剛力・隠密・転移』
久しぶりに自分の能力値を見た。凄いことになっている。魔力も戦闘力もあのティオに勝っている。
“僕、一体どこまで強くなるんだろう?こんなに強くなっても仕方ないんだけど。”
“何言ってるのよ!アル!あなたは自分の知ってる範囲でしか考えてないけど、世界中にはもっと強い存在がいくらでもいるのよ。もっと強くならなければいざっていう時に人を助けられないでしょ!”
“シロが言うんだから確かだと思うけど、今の僕にはピンと来ないよ。”
”そのうちわかるからいいわ。“
工事現場の手伝いが終わってギルドに行くとティオがいた。何か表情が暗い。
「なんかあったんですか?ティオさん。」
「ああ、今連絡があったんだが、どうやらこの国で戦争が始まるようだ。」
「戦争ですか?」
「ああ、そうさ。この国には王族派と貴族派がいるんだ。専制的で独裁的な政治を行うユリウス国王一派とそれに反対しているヘラルド公爵一派だ。」
「もしかしてヘラルド公爵ってティオさんの実家ですか?」
「ああ、ヘラルド公爵は私の父だ。曲がったことが大嫌いでな。かなりの頑固者だ。」
「大変じゃないですか!」
「そうだな。」
「何とか戦争を止められないんですか?」
「できないことはない。方法は一つだけある。だが、その方法をとると不幸になるものが現れるんだ。私にはどうしてもそれが許せないんだ。」
「何言ってるんですか!一人が不幸になることで大勢の命が救われるならその道を選ぶべきです!」
「そうか、そうだな。アルの言う通りだ。わかった。ロベルト伯爵のところに行くぞ!アル!お前も一緒だ!」
「はい!」
領主の屋敷に行くと鎧を着た兵士達が大勢集まっていた。
「おい!待て!どこに行くつもりだ!」
兵士達に呼び止められた。僕がどうしようかと迷っていると、ティオがペンダントを取り出した。何か鳥のような模様が描かれている。
「その紋章はヘルナンデス公爵家の紋章!」
兵士達が道を開けてくれたので、僕達はすんなりと玄関まで行くことができた。因みに僕はティオのかばん持ちのような状態だ。玄関に行くと執事のヨハンが伯爵達のいる部屋まで案内してくれた。
「よく来てくれましたな。ディオール様。」
「状況は?」
「どうやら王族派が王都コペルンに兵を集めているようです。公爵様達は一旦王都を出て、自分の領地ガリレイに退いたようです。」
「そうか。時間がないな。こちらも急いで父上に合流しよう。」
「はい。明日、ここを出立するつもりです。」
「私も同行しよう。」
「それは心強いです。武闘大会で優勝したディオール様がいれば千人力です。」
やっぱりティオは凄いんだ。僕も以前聞いたことがある。この国で最強の剣士達が集う武闘大会があるって。そんな大会で優勝なんてさすがだ。
その日、僕達は宿屋で王都に行くことを話した。予想していた通りリンが大泣きしてしまった。
「アル君の嘘つき!王都にはいかないって言ったじゃない!」
「すぐに帰ってくるよ!」
「嘘ばっかり!きっともう帰ってなんか来ないわ!」
「リン。あまりアル君を困らせティオだめよ。ごめんね。アル君。」
「いいんですよ。リンちゃんは僕のことを心配してくれているんですから。」
これから戦に行くんだ。リンが言う通り生きて戻ってこれるかどうかわからない。めったなことは言えないんだ。
“アル~。あのリンって子、本気であなたのことが好きみたいよ。”
”わかってるさ。でも僕にはどうにもできないよ。“
“そうね。”
シロもそれ以上何も言わなかった。仮に僕がここに残ったとしても、僕がリンと結婚することはない。僕はリンを妹のようには思っているが、それ以上かと言われればそうでないからだ。
翌朝、僕とティオは宿を後にした。リンも目を真っ赤にしながら別れの挨拶をしてくれた。
「リンのことは気にするな。いつかは彼女もわかるさ。」
「ティオさんには好きな人はいないんですか?」
「いるさ。だが、今はそんなことは考えていられないだろ。」
ティオにも好きな人がいるんだ。誰なんだろう?僕の知っている限りティオが男性と会っているところは見たことがない。なんか気になる。
「お待ちしてましたよ。ディオール様。」
僕達が到着するとすぐに伯爵軍は公爵領ガリレイに向かった。伯爵軍の中にアンドレとリーデンの姿はなかった。当然だが、お留守番なのだろう。公爵領までの道のりは遠く、丸2日かかった。その間に他の貴族達も合流して、気が付けば3万人の兵士達が集まっていた。
「凄い数だね。」
「まだまだだ。王族軍は同じ3万人程度だが、向こうには騎士団100名が付いているんだ。彼らは戦闘のプロ集団だ。普通の兵士では太刀打ちできないさ。」
ティオに言われて気が付いた。騎士団にはマイケルがいる。もしかしたらマイケルもこの戦いに参加するんだろうか。
「ねえ。ティオさん。以前アンドレ様が戦をしない方法があるって言っていたよね?どうしても殺し合いをしなくティオだめなのかな~。同じ人間同士なんだよ。どっちの兵士にも家族がいるでしょ!大勢の人達が悲しむよ!」
「大丈夫だ。そうならないように、いざという時は私が国王の首をとるから。アルは心配するな。」
なんか気持ちが釈然としない。このもやもやは何なのだろう。やっと僕らも公爵領に到着し、ティオは父親である公爵のところに行った。僕は一人で街をぶらぶらとしていた。やはり、戦争が近いせいか街の住人達は家に閉じこもっていて兵士の姿ばかりが目立っている。
「よお、兄ティオん、何歳だ?」
いきなり兵士の男性に声をかけられた。
「13歳ですけど。」
「もしかして、その年でこの戦に参加するつもりなのか?やめとけやめとけ!殺したり殺されたりなんてまっぴらごめんだ。俺は仕方なく参加させられたが、戦が始まったらすぐに逃げるつもりさ。」
「僕はどうにかして戦いになるのをやめさせたいんですけど。」
「お前アホか?そんなことできるわけないだろう!」
男は呆れたように立ち去って行った。




