ティオに魔法がばれた!
再びミランのダンジョンにやってきた。9階層までクリアした僕達はいよいよ10階層のボス部屋までたどり着いた。ティオが言うにはゴブリンキングがいる部屋のようだが、巨大な扉を開けるといきなり9階層と同じ砂漠に出た。
「おかしいな。ここはゴブリンキングのはずだが。」
ティオが首をかしげていると砂の中から大きな口を開けた巨大なミミズのような魔物達がウジャウジャと姿を見せた。
「まずいな~!あれはサンドスネイクだ!1体でもB級の魔物なのにそれがあんなにたくさん。どういうことだ?」
こんなに焦ったティオを見るのは初めてだ。
「ボス部屋はすべて討伐しないと出れないぞ!アル!覚悟はいいか!」
「はい!」
サンドスネイク達が僕達を攻撃してきた。ティオは最初から全力のようだ。魔法を屈指しながらサンドスネイクと対峙している。僕は防戦一方だ。サンドスネイクの力で大きく後ろに弾き飛ばされた。
グハッ
「アル!大丈夫か!」
「はい!」
僕に気をとられていたせいか、ティオが後ろから現れたサンドスネイクの鋭い歯で背中に深手を負ってしまった。
グサッ ガハッ
バッタン
「ティオさん!ティオさん!」
僕は急いでティオのところに向かった。ティオの意識がない。そんなことにはお構いなく、サンドスネイク達は容赦なく僕達を攻撃してきた。僕はティオを背負って巣なの中を逃げ回った。それをシロが援護してくれている。
“善行ポイント1000 規定に達しましたので訓練地を加算します。”
頭の中にいつもの声が聞こえた。同時に身体の底から力が沸き上がってくる。
“アル!限界よ!魔法を使って!”
僕は頭の中でサンドスネイクが焼け死ぬことを必死に想像した。すると手がやたらと熱くなってくる。その手をサンドスネイクにかざすと、目に前にいたサンドスネイク達が青白い炎に包まれた。どうやら魔法でサンドスネイク達を倒せたようだ。
「ティオさん。ティオさん。」
“このままだとまずいわよ。血が出過ぎてる。あなたの魔法で何とかするしかないわ。”
僕はシロに言われるままティオの怪我が治ることを想像して手をかざした。すると手が光始め、ティオの身体を温かい光が包み込んだ。光がおさまるとティオが目を覚ました。
「アル。私は一体どうしたんだ?サンドスネイクは?!」
ティオが起き上がろうとするのを僕は止めた。
「大丈夫ですよ。サンドスネイクはシロが追い払ってくれました。」
「まさかそんなはずはあるまい!ボス階層は追い払うなんてできないはずだ。ボスを殺さない限り永遠戦いが続くはずだ。」
ティオが何かに気が付いたようだ。
「アル、お前が倒したんだな?私の傷もお前が治したんだろ?」
もう嘘はつけない。正直に言うしかない。
「そうです。僕が倒しました。」
「やはりそうか。うすうすは感じていたが、お前、魔法が使えるようになったんだろ?」
「はい。黙っていてすみません。」
「いいさ。魔力のない人間がいきなり魔法を使えるようになるなんて、神様か悪魔の力でない限り不可能だからな。いつからだ?」
「結構前からです。」
「じゃあ、ずっと魔法を使わずに剣だけで戦っていたのか?お前、凄い奴だな。」
もっと不審がられるかと思ったが、ティオがこんなに簡単に受け入れてくれたことが嬉しかった。
「ちょっと休んだら帰りましょう。」
「そうだな。」
僕の腕から離れてティオが起き上がった。
「それにしても凄いな~。どんな魔法を使ったんだ?」
「なんか必死だったんでよく覚えていないんですけど、燃やしたと思います。」
「燃やした?つまり火魔法を使ったってことだよな?」
ティオがさっきよりも焦った表情になった。
「そうですけど、何か変ですか?」
「私の傷は火魔法では治せないはずだ。」
「はい。手から光が出て傷を癒しましたけど。」
「信じられん。以前も話したが、本来魔法は一人1属性だ。火魔法と光魔法が使えるなんてありえないはずだ!」
僕は手から水を出した。そして風を起こし、地面を隆起させた。
「どういうことだ?アル!お前は全属性を使えるってことなのか?」
「『魔法は想像の具現化』ですから。」
ティオが驚きすぎて呆然としていた。
帰る途中で自分の能力を確認してみた。
『剣術200 魔力500 戦闘力650 スキル地図・俊敏・剛力』
「えっ?!え—————!!!」
自分の能力値がとんでもないことになっていた。スキルまで増えている。
“今までの訓練の成果が加算されたのよ。不思議でも何でもないわ。”
“でもこの数字はあり得ないよ。”
「どうしたんだ?何かいたのか?」
「いいえ、何でもないです。」
ダンジョンから出た僕達は再びナポルの街に戻った。ギルドによってダンジョンで手に入れた魔石を買い取ってもらったが、金貨4枚になった。前回の2倍だ。僕とティオで金貨2枚ずつ受け取って宿に戻ると、そこに貴族の執事らしき男性がいた。ティオに何か用事があるのかもしれない。
「お帰りなさい。ティオさん。アル君。しばらく帰ってこなかったけどどこに行っていたの?」
「ダンジョンです。」
「そう。ダンジョンに行っていたのね。でも今度からは留守にするときはちゃんと言って出かけてね。食事の事があるからね。」
「すみません。女将さん。」
「アルのせいじゃないんだ。急に私がダンジョンに誘ったんだ。すまない。リリーさん。」
「いいのよ。次から言ってくれれば。」
するとリンが大声で怒り始めた。
「アル君!どうして私に黙って出かけるのよ!心配したんだから!どこかに行っティオったんじゃないかって!」
「ごめん。リンティオん。次からちゃんと言って行くよ。」
すると僕達の様子を見ていた執事風の男性が声をかけてきた。
「君がアル君ですか?」
「そうですけど。どちら様ですか?」
「ああ、申し遅れました。私はロベルト伯爵の執事をしているヨゼフというものです。伯爵様が是非あなたにお目にかかりたいということでしたので、お迎えに上がりました。」
「りょ、領主様が?!どうして僕に?」
「お会いになればわかりますよ。」