新たな能力
孤児院に行くと年下の弟や妹達が駆け寄ってきた。
「アルお兄ちゃん、どうしたの?」
「もしかしてアル兄ちゃん、逃げてきたのか?」
「違うよ。新しい兄妹を連れてきたのさ。」
「な~んだ。またアル兄ちゃんと一緒に遊べると思ったのにな~。チェッ」
子ども達の声が聞こえたようでシスターのマリーと司祭様が出てきた。
「アル!どうしたんだ?もしかして街が嫌で逃げてきたのか?」
「司祭様まで何を言ってるんですか!違いますよ!この子達をお願いしに来たんです。」
「この子達は?」
まずはティオを紹介して、その後ペーターとミニーについて説明した。
「司祭様。ペーターとミニーをお願いできませんか?」
するとマリーが僕を抱きしめてきた。胸で窒息しそうだったが、懐かしい温もりと匂いがした。
「優しい子ね。アルは本当に変わらないのね。安心したわ。」
ペーターもミニーも孤児院で世話してくれることになった。それから僕が孤児院を出てからこの数か月間の話をした。司祭様もマリーも目を大きく見開いて驚いていた。特に鷹の爪と一緒にオーク討伐した話はなかなか信じてもらえなかった。
「まさかあのアルがな~。」
「大丈夫なの?危なくないの?アルは魔力がないんだから無理しティオだめよ!自分にできることだけでいいんだからね。」
「はい。ありがとうございます。マリー母さん。」
「まあ、甘えん坊ね。」
僕と司祭様やマリーとのやり取りを見ていたティオは何か納得した顔をしていた。
「ティオさん。この子をお願いしますね。この子は優しすぎるところがあるから心配で。」
「そうですね。アルは少し優しすぎます。ですが、その優しさは誰にも真似できませんから。」
「あなたにならお任せできそうね。」
マリーが僕を見て言った。
「アル!ティオさんに迷惑をかけティオだめよ!それにティオさんだっていつまでもあなたに構っていられないんだからね。」
「はい。わかっています。」
マリーに言われて気付いた。ティオだっていつかは結婚するんだ。いつまでも僕に構っていられるわけじゃない。早く1人前にならないと。マリーの言葉でティオも少し動揺したようだ。
「マリーさん。もしかして私のことをかなり年上に考えてます?確かに私は老けて見えるかもしれませんが、まだ18歳ですよ。結婚は当分先ですから。」
「えっ?!え——————!!!」
僕も司祭様もマリーも全員が驚いた。その様子を見てティオはかなり気まずそうにしている。
「そんなに驚かないでください。一体私を何歳だと思っていたんですか!」
「ごめんなさい。ティオさんってすごく落ち着いているから、もう少し上からって思っていたのよ。許してちょうだい。」
「私もだ。25歳ぐらいに思っていたよ。」
司祭様がポロリと本音を言ってしまった。
「司祭様!失礼じゃありませんか!どう見たって25歳はあり得ませんよ。私は22歳ぐらいだと思っていました。」
「もういいです。私は18歳ですから!」
僕もティオの年齢を初めて知った。僕と6歳しか違わないんだ。だとするといつ冒険者になったんだろう。ティオはすでに数少ないAランクなのだ。でも、聞かないでおこう。話したくないこともあるだろうから。その日は孤児院に泊めてもらって、翌日早朝にナポリに帰ることにした。
「アル!お前がどうしてそんなに素直なのか不思議だったが、司祭様やマリーさんを見て少しわかった気がするな。」
「急にどうしたんですか?」
「いやな、お前を見てて純粋過ぎて危なっかしく思えていたんだ。」
「そんなことないですよ。僕だって腹黒いとこはありますから。」
「アルにか?」
「そうですよ。昨日だってマリーさんに抱きしめられたとき久しぶりの感触に感動したんですから。」
急にティオの顔が赤くなった。そして慌てて自分の胸を隠した。
「アル!やっぱりお前も男なんだな。」
「冗談ですよ。ハッハッハッハッ」
僕がマリーにそんな感情を持つはずがない。だってマリーは僕の大切なお母さんなんだから。
「見えてきたぞ!ナポリの街が!」
それから数か月が過ぎた。ほとんど毎日ティオの訓練を受けたり、ギルドで依頼を受けたりしていた。自分では普通に生活しているつもりなのだが、善行ポイントもどんどん加算されて、気が付けば僕の戦闘力は300になっていた。剣術120、魔力170だ。しかも他の人には見られない『スキル』という項目まで追加されていた。
“スキルの地図ってなんだろうな~。”
“使ってみればわかるんじゃない?”
“そうだよね。”
頭の中で『地図発動』と考えると、辺り一帯の地図が表示された。地図の中にはたくさんの青い点がある。時々赤い点も見られた。
“この青い点と赤い点って何かな~?”
そんなことを考えているとティオが話しかけてきた。
「どうしたんだ?アル。何か心配事でもあるのか?」
「いいえ。別にそういう訳じゃないんです。それより今日はどうするんですか?」
「ミランのダンジョンにでも行ってみるか?」
「今からですか?」
「ああ、そうさ。」
恐らくティオさんは僕を強くしようと思ってダンジョンって言ったんだと思う。でも、僕の攻撃力はダンジョンで訓練するよりも善行の方が成長が早い。どうしようかと考えた。
”何を迷っているのよ。いくら攻撃力が上がったって実践を経験してなかったら使えないでしょ!“
”そうだよね。ありがとう。シロ。“
「わかりました。ダンジョンに行きましょう。」
前回のようにミランの街で三角を買い込んでダンジョンに潜ることにした。今回の目標は10階層だ。
「ティオさん。この天井、なんか低くなってませんか?」
「違うさ。お前の身長が伸びたんだ。」
そういえば僕は13歳になっていた。成長期なのだ。以前はティオよりも小さかった身長も今ではティオと変わらない。なんか大人になったようで嬉しかった。
「何をニヤニヤしてるんだ。気を引き締めろよ。」
「はい。」