謎の老紳士
ナポルの街をリンと一緒に楽しんでいると、人相の悪い男達に絡まれた。ティオに助けられた後、再び街を散策することにした。僕とリンが手をつないで前を歩き、その後ろからティオが付いてきた。どうやら護衛のつもりなのだろう。リンはなぜかご機嫌ななめだ。
「アル君!お腹空いちゃった。どこかでご飯食べようよ。」
するとティオが言ってきた。
「食事をするならあの店がうまいぞ!」
ティオの指さした先には、食堂というよりも少し高級そうなレストランがあった。今日の僕は少しだけ金を持っている。ティオには散々お世話になっているのに何もお礼をしていない。
「あの店に行こうか。リンティオん。」
「いいの?なんか高そうだけど。」
「いいんだ。ティオさんにもお礼をしたいしね。」
店の人に承諾を得てシロも一緒に店に入れてもらった。メニューを見るとやはりそれなりの金額だった。最低でも銀貨2枚からだ。
「ティオさん。リンティオん。遠慮なく頼んで。」
「ありがとう。アル君。」
3人揃ってボアシチューのセットを頼んだ。1人前が銀貨3枚だ。
「ティオさん。さっきから奥を気にしてるけど何かあるんですか?」
「いいや。別に何でもない。」
どうやら奥の席は予約席になっているようだ。恐らく貴族様が使用する部屋なのだろう。話をしながら料理が運ばれてくるのを待っていると、店の前に薄汚れた服を着た男の子と女の子がやってきた。窓側の席に座った僕達から丸見え状態だ。恐らく兄妹なのだろう。いきなり彼らが地面に座って通りを歩く人達に頭を下げ始めた。窓の外でわからないが、何かを言ってるようだ。
「物乞いだな。」
ティオの言葉に驚いた。どうみても10歳にも満たない子ども達だ。そんな小さな子ども達が物乞いをしてるなんて、孤児院で育った僕には想像もつかなかった。僕にはどうにも我慢できなかった。気付いたら席を立って子ども達の前に立っていた。
「君達、お腹が空いてるんだろ?僕と一緒においで。一緒に食べようよ。」
兄妹は急に声をかけられて戸惑っているようだ。
「安心して。僕もテンポスの孤児院で育ったんだ。僕もいろんな人達に助けられて何とか今があるんだよ。困ったときはお互い様なんだから遠慮しないで。」
兄妹は立ち上がって店に入ろうとした。すると店の使用人が止めた。
「お客様、困ります。この店は品のあるお店なんです。そのような者達を中に入れるわけにはいきません。」
なんか無性に腹が立ってきた。この使用人は服装や金持ちかどうかで人を判断しているようだ。いくら料理が美味しくても、僕にはどうしても許せなかった。
「彼らは僕の友人です。この店は友人とともに食事するのを断るんですか!こんなに美味しい料理を作る人が、身分や金持ちかどうかで客を選り好みするんですか!」
使用人が僕の言葉に圧倒されたようだ。店の中の客も呆然としている。
「お兄ティオん。ありがとう。僕達は大丈夫だから。」
兄妹が店の外に出ようとした。すると、店の奥から老人が現れた。
「わしも彼に賛成じゃな。確かに店の格式は大事じゃが、目の前に腹を空かせている子ども達がいるんじゃ。何とかしてやりたいと思うのが人の道じゃと思うんじゃがな。」
「ご隠居様。申し訳ございません。私の思慮が足りませんでした。」
使用人が子ども達に頭を下げ、僕達のテーブルに一緒に座った。僕は老人にお礼を言いに行った。
「ありがとうございます。どなたかは知りませんが、おかげであの子達も食事ができます。ありがとうございました。」
「君の名前は何というんじゃ。」
「はい。僕はアルフレッドといいます。」
「そうか。アルフレッド君か。優しい子じゃな。」
老人がティオの方を見た気がした。
その後、兄妹は僕達と同じメニューを注文した。兄の名前はペーター、9歳だ。妹の名前はミニー、7歳だ。話を聞くと、元々冒険者だった父親が行方不明になり、3日前に母親が病気で亡くなったそうだ。この2日間、何も食べずに水だけで凌いでいた様だ。
「アル、ちょっといいか。」
「はい。」
僕はティオに呼ばれて席を立った。
「あの子達をどうするつもりだ。」
「僕の暮らしていたテンポスの孤児院に連れて行こうと思います。あそこなら彼らの面倒も見てくれるでしょうから。」
「そうだな。それがいいな。なら今日は私達の部屋に泊めて、明日にでもテンポスに向かおうか。」
「はい。」
宿屋に帰る途中、リンの様子が暗かった。
「ごめんね。リンティオん。せっかく二人で出かけたのに。」
「うんうん。大丈夫。アル君が優しい人だってわかったんだもん。」
「今度またどこかに出かけようか。」
リンの顔に笑顔が戻った。
「本当?約束だよ。」
「うん。」
僕達の様子をティオが微笑ましいものを見る目で見ていた。
“善行ポイント300 規定に達しましたので戦闘力が向上しました。”
宿屋に戻った後でリリー達に説明したところ、無料で僕とティオの部屋に泊めてもらえることになった。そして翌朝、僕とティオはペーターとミニーを連れてテンポスの街に向かった。
「隣街なのに結構遠いな~。」
「僕もこんなに遠いと思いませんでした。」
ペーター達を見ると結構疲れている。シロが励ますかのようにミーの隣にぴったりくっついていた。ちょうどその時、後ろから馬車がやってきた。
「すみません。ちょっといいですか?」
「なんだい?」
「あの~、お金を払いますのでこの子達をのせてもらえませんか?」
「ああ、いいよ。どこまで行くんだい?」
「テンポスです。」
「丁度良かった。俺もテンポスに農産物を仕入れに行くんだ。全員乗りな!」
「ありがとうございます。」
僕達は荷台に乗せてもらった。結構揺れてお尻が痛いけど歩くよりはましだ。半日以上たった頃、テンポスの街が見えてきた。ナポルに向かう時は野宿するほど時間がかかったが、馬車がこんなにも早いとは思ってもみなかった。
「ありがとうございます。お礼です。」
僕はお金を馬車の男性に渡して孤児院に向かうことにした。久しぶりに見る街並みだ。物凄く懐かしい。ペーターとミニーはなんかそわそわしている。
「大丈夫だよ。司祭様もマリーさんも優しいから。」
「うん。」
“やっぱりアルは不思議な子だ。どうすればこんな純粋な子に育つのか知りたいもんだ。”
街の中を少し歩くと古い教会と孤児院の建物が見えてきた。
「あそこだよ。」