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リンとデート

 すでにこの街に来てから数か月は経っているのに知らない場所が沢山あった。考えてみれば冒険者ギルドと宿屋の往復だったのだから当たり前かもしれない。



「あの大きなお屋敷って領主様が住んでるの?」


「そうよ。流石は伯爵様よね。伯爵様って言えば上級貴族様なのよ。その上には公爵様、侯爵様、辺境伯様ぐらいしかいないんだから。」


「へ~。」



 貴族のことなんて考えたこともなかった。



「あっちの大きな鐘がついているのはナポル大聖堂よ。この街の街のシンボルなんだから。」


「大聖堂ってことは僕が育った孤児院の司祭様も来るのかな~。」


「そうね。たまには来るんじゃない。あの大聖堂がこの辺りのフェリエント教の総本山なんだから。」


「じゃあ、フィリス様を祭ってるんだね。」


「そうよ。立派な石像だってあるんだから。行ってみる?」


「うん。」



 大聖堂の入口まで来ると大勢の人がいた。中には司祭様と同じような服を着た人達もいた。僕とリンが中に入ろうとすると守衛らしき人に止められた。



「君達!ここは神聖な場所だ。犬は連れて行けないよ。」



 僕の足元でシロが耳を下げている。すると不思議なことに鐘の音が辺り一帯に響き渡った。



ガ———ン ガ———ン ガ———ン



“アル!フィリス様が喜んでいらっしゃるわ。ここでお祈りしましょ。”


“わかったよ。”



 僕はその場で片膝をついて両手を合わせて拝み始めた。隣にいたリンも慌てて僕の真似をした。すると今度は甘く香しい匂いが漂ってきた。



“アル。善行を積みなさい。頑張るのよ。”


「えっ?!」



 立ち上がって辺りを見たが誰もいない。隣でシロが尻尾を大きく振っていた。



「アル君。広場に行こうよ。屋台が沢山出てるから。」



 リンが僕の手を引っ張っていく。何か同世代の女の子と手をつなぐなんて初めてだ。少し照れ臭くなった。広場に到着するとリンが言った通り屋台がいっぱい出ていた。それに人も多い。



「アル君、あそこの肉串が美味しいのよ。行きましょ。」


「うん。」



 僕は夜偵に行って肉串を3本買い、1本をリンにもう1本をシロにあげた。



「美味しいね~。リンちゃんの言う通りだよ。」


「そうでしょ!あそこの飴も美味しいのよ。中に果物が入ってるの。後で食べましょ。」


「うん。」



 飴を売っている屋台に行くと大小さまざまで、いろんな色の飴が売られていた。赤くて小さい物、赤くて丸い物、黄色くて細長い物、緑で楕円形の物、どれも美味しそうだ。僕は赤くて小さい物と赤くて丸い物、黄色くて細長い物を買った。



「リンちゃんはどれがいい?」


「私はこの赤くて丸いものがいいわ。」


「はい。じゃこれね。」


「ありがとう。」


「シロはどっちがいい?」



 シロの目の前に2つの飴を見せると、いきなり赤くて小さい飴にかぶりついた。



「この黄色い飴もおいしいよ。」


「本当?私、それは食べたことがないよ。どんな味なの?」


「酸味が効いてるけど後からゆっくり甘さが口の中に広がっていく感じ。」



 リンが欲しそうにじっと僕の飴を見ている。



「ちょっと舐めてみる?」


「いいの?」


「別にいいよ。」



 リンが僕の飴を手に取ってペロリと舐めた。



「本当!美味しいわ~!なら、私のも舐めていいよ。」



 リンが僕の前に自分の飴を突き出した。それをぺろりと舐めた。やたら甘い。だけど口の中に残らないすっきりとした甘さだ。



「そっちも美味しいね。」



 恐らく傍から見たら子ども達がいちゃいちゃしているように見えたことだろう。



「ヨ~!兄ちゃん!見せつけてくれるじゃねぇか!」



 目の前に態度の悪そうな男達が3人いた。



「アル君、向こうに行こ!」



 僕達がその場を離れようとすると男が僕の腕をつかんだ。



「ちょっと待てよ。お前、見たことあるな~。」


「兄貴!こいつギルドにいたやつですぜ!」


「ああ、思い出したぞ!お前、ティオがいるからっていい気になってたやつじゃねぇか。」


「別に僕はいい気になってなんかいません。」


「うるせぇんだよ!」



バコッ ボコッ

ドーン


ウ~ ワン ワン ワン


  

 僕は顔と腹を殴られ、地面に倒れ込んだ。辺りに人だかりができ始めた。



「あんた達やめなさいよ!」


「うるせぇ!お前も殴ってやろうか!」


ワン!ワン!ワン!



 リンに殴り掛かろうとした男にシロが噛みついた。



ガブッ



「痛ぇじゃねぇか!このクソ犬が!」



バコン

キャイーン



 目の前でシロが蹴り飛ばされた。僕は咄嗟にシロに覆いかぶさった。



バコッ ボコッ



 そこにティオがやってきた。

 


「やめろ!お前ら!」


「またお前か!邪魔するな!」



 男達が剣を抜いてティオに斬りかかった。



シュッ スパッ 

ドサッ

ヒ~



 男達のズボンのベルトが斬られズボンが脱げたようだ。男達はズボンを抑えながら慌てて逃げて行った。恐らくティオの動きを見切れた人間は誰もいないだろう。



「大丈夫か?アル。」


「はい。ありがとうございます。」


「一体どうしたんだ?」



 するとリンが事のいきさつを説明し始めた。説明を聞いたティオが怒って僕に言った。



「アル!お前は優しすぎだ!あんな連中ぐらいならお前でもなんとかなるだろう!どうしてやり返さないんだ!何かあってからじゃ遅いんだぞ!」


「はい。」



 ティオの物凄く叱られた。確かにあの程度の連中なら今の僕でもなんとかなるかもしれない。でも、人を殴ったり怪我させたりしたくなかったのだ。



『善行ポイント50』


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