ダンジョンからの帰還
ダンジョンに潜って2階層に降りたところで二人組の女性冒険者達がホブゴブリンに襲われていた。ギリギリだったがなんとか彼女達を助けることに成功した。
「アル!お前には剣術の才能があるのかもしれないな。」
「どうしたんですか?突然。」
「ああ、お前の指導を始めてまだ数か月しか経ってないだろう。なのに一人でホブゴブリンを4体も倒せたんだ。才能がなきゃできないさ。」
別に僕に剣術の才能があるわけじゃない。本当のことをティオには言おうかと思ったが、この力がなんなのか自分にもわからないのだ。僕には本当の言ことを言う勇気がなかった。
隣ではシロが耳を下げて僕に寄り添っている。
「僕の力だけじゃないですから、シロも協力してくれているんで何とかなったんだと思います。」
「そうか。まあ、謙虚な方がいいだろうな。自信過剰になると痛い目に合うからな。」
三角を食べてしばらく休んだ後、再び僕達はダンジョン内を歩き始めた。仮眠は取ったが、やはり眠い。外は今何時ぐらいなんだろうか。そんなことを考えていると目の前にホブゴブリンが現れた。5体ほどいる。
「アル!私が見ているから倒してみろ!」
「はい!」
さっきは魔法で時間を止めたため何とかなったが、今回はそれができない。僕が魔法を使うところをティオにみられてしまうからだ。ホブゴブリンが棍棒を手に僕に向かってくる。
“どうしよう。”
“大丈夫よ。剣術のレベルも上がっているから。”
僕は先頭のホブゴブリンに斬りつけた。今までなら剣が肉に邪魔されて抜けなくなったはずだが、綺麗に斬ることができた。
スパッ
ドタッ
“本当だ!綺麗に斬れた!”
“自信を持って!”
“うん。”
それでもまとめて4体を相手にするのはかなり厳しい。そこで足に身体強化をかけてホブゴブリンを引きつけながら走った。するとホブゴブリンが1列になるように追いかけてくる。
“これならいける!”
僕はいきなり振り返って、ホブゴブリンに向かって走った。僕の急な方向転換に焦ったのか、その場でホブゴブリンが止まった。僕はホブゴブリンの間を通り抜けながら剣で斬っていった。
スパッ シュッ スパッ
ドタッ バタッ
ハーハーハーハー
パチパチパチパチ
「凄いじゃないか!アル!」
「そうですか~。」
「ああ、頭を使った戦いだったな。確かにまとめて4体を相手にするより効率がいい倒し方だ。見直したぞ。」
ティオに褒められてなんか嬉しかった。そして、ホブゴブリンを討伐した僕達はさらに下層に向かった。
「この階層にはコボルトがいる。あいつらは動きが俊敏だから注意しろ。」
注意しながら歩いていると何やら生き物の焼ける匂いがしてきた。思わず僕は布で鼻を覆った。
「ティオさん。なんか臭くありませんか?」
「ああ、これは人間が焼ける匂いだ。」
「えっ?!」
「急ぐぞ!」
匂いのする方向に向かうと、火を囲むようにコボルト達がいた。中には骨のついた肉をむしゃむしゃと食べているものもいる。
「あれって?」
「ああ、そうだ。冒険者だ。」
「もしかしてコボルト達が冒険者を食べたんですか?」
ティオの目が怒りで満ちていた。
「アル!お前はここで見ていろ!あいつらは私が倒す。」
僕はこの時あらためて実感した。人と魔物は殺すか殺されるかだ。食うか食われるかだ。負けたものが食われる。それは当然のことかもしれない。
ティオがコボルトに向かっていく。最初こそその動きが見えたが、途中から彼女の動きが見えなくなった。恐らく自身に風魔法を付与したのだろう。7体ほどいたコボルト達があっという間に全滅した。
「アル!散らばっている服や剣を拾ってくれるか。」
「はい。」
僕の集めた冒険者の服や剣をティオが魔法袋に仕舞った。そして僕達は冒険者の骨を埋葬してその場を離れた。
“善行ポイント30”
その後もコボルトと出会ったが、ティオが言うほどコボルトの動きは早く感じなかった。もしかしたら魔力量が増えたことが関係しているのかもしれない。
「本当に強くなった。アル。」
「ありがとうございます。」
4階層と5階層はトカゲやヘビ、それに昆虫系の魔物が中心だった。それも難なくクリアして一旦ダンジョンの外に出ることにした。ダンジョン内では以前も休んだ安全地帯が各階層にあり、そこに地上に戻るための魔方陣があった。
「予定の5階層までクリアだ。戻るぞ!」
「はい!」
このダンジョンで気が付いたことがある。普通は魔物を討伐すれば剣術や戦闘力などが上昇するのだろうが、僕には関係ない様だ。僕の場合、声が聞こえた時だけ能力が上昇する。つまり、善行を施さない限り能力は上昇しないということだ。
ダンジョンを出た僕達は、宿に戻る前に冒険者ギルドに行って魔石を引き取ってもらった。そこで冒険者の遺留品も渡した。キャサリーが悲しそうにしていたが仕方がない。魔石のお金と冒険者の遺留品とで金貨2枚を受け取った。それを僕とティオで半分ずつだ。僕は手を震わせながら生まれて初めての金貨を手にした。
「ただいま。リリーさん。」
「あら?!アル君、ティオさん。帰ってきたんだね。」
リリーさんの声が聞こえたのか、厨房からリンが凄い勢いでやってきた。
「アル君!お帰りなさい!ティオさんもお帰りなさい。」
「ただいま。リルちゃん。」
「なんか私はついでのようだな。リル。」
ティオに言われてリルの顔が真っ赤だ。
「そんなことないよ。」
「アル。明日は休息日だ。たまにはリルと街でも歩いてきたらどうだ。」
「いいんですか?」
「たまには休め。」
「はい。」
リルも嬉しそうだ。シロも尻尾を激しく左右に振っている。その日の夜はダンジョンでの出来事をリリーさん達に話しながら夕食を食べた。そして翌朝、食堂に行くとすでにリンが出かける準備をして待っていた。
「アル君!早く食べちゃって!すぐに出かけるんだから!」
「ちょっと待ってて!」
急いで朝食を食べた後、僕達はナポルの街に出かけた。