初めてのダンジョン
ミランについた後、僕達は食料品を購入するために市場に行った。そこに不思議な食べ物があった。
「ティオさん。これって何ですか?」
「これか?これは『三角』だ。」
確かに形は三角だが、不思議なのは見たことのない食材だったからだ。それに妙に懐かしさを感じる。
「なんだ、アル。食べてみたいのか?」
「はい。」
三角を2つ購入してひとつずつ食べた。
「美味しいです。ティオさん。」
「どうしたんだ?アル。なんで泣いてるんだ?」
ティオに言われて気が付いた。僕は泣いている。理由は分からない。でも、どうしても涙が出てきてしまうのだ。
「そんなに好きならこれを買っていこうか?」
「はい。」
この三角はライと呼ばれる穀物でできているらしい。三角の中には様々な具材が入っていて1つ1つの味が違うのだ。
それから僕達はダンジョンの中に入っていった。
「この階はゴブリンが中心だ。だが、気を抜くなよ。」
「はい。」
ダンジョンの中は洞穴のようになっていたが、何故か真っ暗ではなく薄暗い状態だった。
「ティオさん。どうして明るいんですか?」
「壁を見てみろ。ヒカリ苔だ。」
壁のあちこちに光る苔があるのだ。そのため、日光の届かない洞窟の中でも薄明るくなっているのだ。洞窟内には様々な通路があり、魔物が隠れるには都合のよい作りになっている。
「ゴブリンがそっちの陰に隠れているぞ!」
ティオが言った通り、通路からゴブリンが棍棒をもって襲ってきた。5体だ。
ギャギャギャ
僕は腰の剣を抜いて、自身に身体強化をかけた。
ズバッ バキッ ズバッ
バタ ドタン
「もうゴブリンは大丈夫そうだな。」
「そんなことないですよ。必死なんですから。」
「アルは真面目だな。」
ティオがクスクスと笑っていた。別に僕は本当のことを言っただけなのに。目の前に倒れていたゴブリンが液体化し、地面の中に溶けていった。ゴブリンのいた場所には光る水晶のような物が落ちている。
「ゴブリン達はどうなったんですか?」
「そうか。アルはダンジョンが初めてだからな。ダンジョン内の魔物達は死ぬとダンジョンに吸収されるんだ。その後に魔石が落ちているのさ。」
「魔物だけですよね?まさか人間も魔物と同じように吸収されティオうなんてないですよね?」
「そうだな。人間が吸収されたなんて聞いたことないな。」
魔石を拾って先を進んだ。1階にいるのはゴブリンだけかと思ったが、時々虫の魔物も出た。ティオは虫の魔物が苦手なようで、虫の魔物が現れると僕の後ろに下がった。
「ティオさんにも苦手なものがいるんですね。」
「私だって苦手なものがいるに決まってるだろ!別に怖いわけじゃないが、気持ち悪いだけだ。」
どれくらい時間がたっただろうか、やっと下に降りる階段があった。下に降りるといきなり悲鳴が聞こえた。
キャー 助けてー!
僕とティオは急いで声の場所に向かった。すると、2人組の女性冒険者達が10体ほどの身体の大きなゴブリンに囲まれていた。
「アル!あれはゴブリンの上位種のホブゴブリンだ!気を付けろ!」
「はい!」
魔眼でホブゴブリンを見ると『戦闘力100』と表示された。僕の戦闘力とほぼ同じだ。ただ、相手は多数だ。
「ティオさん。僕が行きます。ティオさんは彼女達を守ってあげてください。」
「大丈夫か?危なくなったら逃げろよ!」
「はい!」
シロも僕の隣で尻尾を立てている。どうやら僕の援護をしようとしているのだろう。僕は身体強化をかけて、大声を出しながらホブゴブリンに向かって行った。
「お前達の相手は僕だ!こっちにこい!」
ホブゴブリン達が棍棒をもって一斉に僕に向かってきた。
バキッ ボコッ ズバッ
僕は棍棒で叩かれながらも目の前のホブゴブリンの腹に剣を突き刺した。
グギャ―
仲間がやられたのを見てホブゴブリン達が怒ったようだ。一斉に僕に殴りかかってきた。
“魔法よ!魔法を使うのよ!”
僕は咄嗟にオークとの戦いのときに使った魔法を想像した。
『時間よ!とまれ!』
すると、目の前のすべての時間が停止した。僕は急いでホブゴブリンに剣を突き刺して回った。前回は5秒だけだったが、今回は10秒ほど時間が止まったようだ。3匹ほどホブゴブリンを無力化したところで魔法が解けた。残りは6体だ。
ハーハ―ハーハー
魔法を使ったせいか、かなりきつい。剣を持つ手に力が入らない。魔力切れしたのかもしれない。女性冒険者を非難させていたティオが戻ってきた。
「アル!大丈夫か?」
「はい!でもそろそろ限界です!」
「わかった!後は任せろ!」
ティオが剣を抜いてホブゴブリンに向かっていった。
シュッ スパッ
ドタ バタン
あっという間に6体のホブゴブリンを倒してしまった。やっぱりティオは強い。ティオが僕のところにやってきた。
「アル!お前、ホブゴブリンを4体も倒したのか?」
「はい。何とかギリギリでしたけど。」
「そうか。頑張ったな。この近くの安全地帯で少し休むぞ。」
「はい。」
『善行ポイント200 規定に達しましたので戦闘力が向上しました。』
魔眼で確認すると、僕の戦闘力が120になっていた。その後、助けた女性冒険者達は深々と頭を下げてその場から立ち去った。ダンジョンを出て行ったのだろう。