第4話 ピンク参上!
ビー! ビー! ビー!
バックの中で電子音が鳴っている。
ちょっと待ってよ、こんな時に……。
一瞬、無視しようか迷ったが、うるさいので取り出した。
電子音の正体は、イヤリング型の通信機。ジムで外して、そのまま存在を忘れていた。
『やっと出た。今まで何してたの?』
音を止めると、男の声が飛び込んできた。ブルーの声だ。
「ジム行ってただけよ」
『何度も呼び出したんだけど』
ちょっと怒っているのが、通信機越しに伝わってくる。
「そうだったの? ごめん、気づかなかったわ」
なんで謝らなきゃならないの。こっちにだって都合があるのよ。
『まあ、いいや。怪人出てんだ、早く来てよ。平安時代』
平安時代?
「お待たせ」
タイムリープすると、レッド、ブルーの二人がショッカー約三十人と対峙していた。その奥に一人だけ明らかに違う風体のヤツがいる。あれが今回の怪人ね。
怪人の横で平安貴族らしきメンズが羽交い絞めにされている。
全然イケメンじゃない。早くも帰りたくなった。とっとと終わらせて帰ろう。
マリンは急いでピンクに変身した。
遅れてきた手前、バツが悪そうに加わるピンクだったが、
「待ってたよ~」
レッドの軽い口調に少し救われた。
二人とも憔悴しているのが見てわかる。
聞けば、元々ショッカーが百人近くいて、それを倒すのに体力を使ってしまったそうだ。となれば、ここから先は私が頑張らないといけない雰囲気に少しおよび腰になる。
せっかくのネイルが割れたどうするのよ? 誰がお金を出してくれるの? 誰も出すわけないわ。できるだけキックで倒そう。さっきのジムの続きだと思えばいいわ。ていうか、こんなことやってるほど暇人じゃないのよ、私。早く帰ってパックしないといけないんだから!
色々考えていたら、気がつくとショッカー三十人を倒しきっていた。
――と、ちょっとたんま。
あまりにも急展開過ぎたので簡単に説明すると、我らが主人公マリンは怪人から人々を守る正義の味方〝colors〟 の一員。
どういう経緯で正義の味方をやる羽目になったのかを語り出すと、それだけで一万文字行っちゃいそうなので今回は割愛。とりあえず色んな時代に出現する怪人を倒しに行く正義の味方なのだ。
と、読者から文句出そうなほど簡単な説明はこのくらいにして、話を物語へ戻そう。
「今日はやけに強いな、ピンク」
ブルーが褒めてくるが、ちっとも嬉しくない。
「その勢いで、ボスまでやっつけちゃってよ~」
レッドも担ぎ上げてくる。
――ボス。
つまり、あの怪人のことなんだけど。
マリンは怪人に視線を向けた。
右手は巨大なペンチ、左手はスパナ、頭は金槌の形をしたそいつは、不敵な笑みを浮かべている。大人しく日曜大工でもしてればいいのに。
ていうか、あんな強そうなヤツ、一人で倒せるわけないじゃない。性別は男でも、見た目も心も乙女なのよ、私。
「ムリに決まってんでしょ!」
「いや、今日のピンクならイケるかもしれない」
「オレも期待しちゃう。あっという間に三十人倒しちゃったし」
「ターミネーターみたいだった」
「そんなイカツクないわよ、失礼ね」
「じゃぁ、クローズ。小栗旬みたいでカッコよかった」
「せめて女性にしてくれない」
「じゃぁ、十八号」
「ドラゴンボールの? セルに食べられちゃうじゃない」
「ブルー。わかってないな、乙女心」
「じゃ、何だったらいいんだよ」
ブルーがイラついた口調でレッドを見る。
「オスカルみたいだったよ、ピンク」
――オスカル。
いいこと言うじゃない、レッド。ベルばら出してくるなんて満点よ。
「オスカルが革命軍をやっつけたみたいに、ピンクやっちゃってよ」
ちょっと減点。正確にはオスカルが革命軍で、戦った相手は国王軍。それに、やっつけてないけどね。バスティーユが陥落する前に銃弾に倒れちゃうのよ。でも、民衆のために最後まで戦ったオスカルのように私もやってやろうかしら……。
って、踊らされてる場合じゃなかったわ!
「いいから一緒にやるわよ、アンタ達!」
マリンは、レッドとブルーの腕をそれぞれ捻り上げた。
二人が観念して、戦闘態勢に戻る。
マリンは左手を自分の胸に当て、右手を前にかざした。
二人も同じポーズを取り、それぞれ右手をマリンの手に重ねると、波動砲が浮びあがった。いわゆる必殺技だ。波動砲はどんどん大きくなる。
……っけぇぇえええー!!!
一直線に伸びた波動砲を受け、怪人が宙に吹っ飛ぶ。
今だ――。
このタイミングが一番難しい。地面に落ちる前にもう一発。
三人は空中の無防備な怪人に向かってもう一度波動砲をぶっ放した。
二発目をモロに受けた怪人は、波動砲と共に宇宙の彼方に消えて行った。
~第5話につづく~