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第2話 これが私達の生きる道

「どっかにいい男、落ちてないかしら」


 クロスでグラスを拭く単純作業をしていた私は、無意識にそう漏らしていた。

「あら、マリンちゃん。彼氏とケンカでもしたの?」

 近くでカットフルーツの仕込みをしていたマコさんが、私の独り言に反応して近づいてきた。

 濃い青ヒゲと真っ赤なルージュをひいた厚い唇。マコさんはいわゆるゴリゴリ系のオカマだ。そして、私の働くショーパブ「ワイルドカード」のママでもある。

 この業界は狭いから、隠したってどうせバレる。それにこの手の話題はみんなの大好物だから、知れ渡るのも速い。私はマコさんへ掻い摘んで成り行きを説明した。


「バイだって知らなかったんだ」

「知ってたら、もっと警戒してましたよ」

「でも女が相手じゃ、諦めるしかないわね」

 わかってる。

 オカマが本物の女に勝てっこないわ。そもそも土俵が違うじゃない。勝負になってないのよ。

 私は拭き終えたグラスを置いて、新しいグラスを手に取った。


 今更ながら自己紹介すると、私の名前はマリン。もちろん本名じゃないわよ、源氏名。

 え、本名? ホントに知りたいの? 別に興味ないでしょ? そっとしておくのが紳士ってものよ。

 私はマコさんとは違うタイプで、キレイ系のオネエだ。そこいらの女性と比べても、引けを取らない程度のルックスには仕上がっているつもり。もともとの華奢な身体と168センチしかない上背のおかげで、少し背の高い女性って感じ。

 街を歩けばマヌケなスカウトが声を掛けてくる。そんな時はわざと地声で返事をしてあげるから、スカウトはギョッとして逃げていくけど。


 自分がゲイだって気づいたのはわりと早かったわ。

 中学の時には同じクラスの仲のいい男子に恋をしていたし。彼は野球部のエースだった。さすがに告白はしなかったけど、バレンタインには手作りチョコを机に忍ばせた。チョコを見つけた彼は大喜び。私を含め男子みんなに自慢して、どの女子がくれたのかはしゃいで予想をしているのを見て、少しだけ胸が痛くなったわ。まさか目の前の男がくれたなんて知ったら、卒倒しちゃいそうで。


 都内の大学に入学するタイミングで上京、そのまま東京で就職。働き始めて自由に使えるお金が増えた頃からゲイバーに出入りするようになって、そこで初めて恋人ができたり、なんだかんだあって、三年後に会社を辞めてこっちの世界に飛び込んだ。

「ワイルドカード」は二件目のお店。ママのマコさんがいい人で、客層も悪くないから気に入っている。


「そんなことなら噛み切っちゃえば良かったわね」

「いやだ、ママ。怖いこと言わないでよ」

「だってそうしてとけば、女に走られることはなかったでしょ」

「それじゃ、私も満足できなくなっちゃうわ」

 あ。私はネコ、つまりリードしてもらう側なの。だから、ね、わかるでしょ。アレが無いと私も困るわけ。って、何言わせてんのよ!

「でもちょっと今思ったんだけど、あそこの血って、栄養ありそうじゃない?」

何ちゅうこと言い出すんだ、この人は。血を飲むの? ちょっと想像しちゃったじゃない。おえ。気持ち悪ぅうう。

「スッポンの生き血みたいな感じよ。形も似てるし」

 マコさん、どうしても続けたいのね、この話題。

「スッポンの生き血、飲んだことあるんですか」

「一度だけね。ワインで割ったんだけど、それでも生臭かったわ」

「じゃぁ、イヤですよ。それに、口、血だらけになるじゃないですか。ゾンビか吸血鬼ですよ」

「いいじゃない。私達、バケモノ扱い慣れてんだから。って、誰がバケモノよ!? 失礼しちゃうわね!」


 わかってる。こうやって冗談にしてくれてるのが、私達流の慰め方。

 「すぐに男できるわよ」なんて、当てもないこと言われても気持ちは晴れない。それよりこうして笑い飛ばいてくれた方がよっぽど気持ちは楽になる。

 そう。落ち込んでる場合じゃないのよ。

 昨日は抜け殻のような状態で、パックも何もしないで寝てしまった。オカマが一晩美容を怠ったら、取り戻すのに三日は必要なんだから。

 とりあえず、今夜は二回パックをする。お土産でもらった韓国の高級パックがあったわ。何かのご褒美に使う予定だったけど、今日使ってやるわ。そして明日はネイルサロンに行って、その後、ジムで汗と一緒に嫌なモノを全てデトックスしてやる。

 そう決意して、マリンは拭き終えたグラスを照明にかざした。


~第3話へつづく~

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