世界の現状を聞くヒーロー
神宮寺豪と4人の高校生が召喚された異世界の大広間は、白い大理石の柱が立ち並ぶ荘厳な空間だった。重々しい空気が漂う中、聖女と名乗る金髪の少女リリアンは神妙な面持ちで彼らを見渡し、深く頭を下げた。
「皆さま、異世界へようこそ。そして、突然この場へお呼び立てしてしまい、心よりお詫び申し上げます。私はリリアン。この地で聖女と呼ばれております。どうか、私の話を聞いてください。」
柔らかな声ではあったが、その奥には緊迫感が滲んでいる。
高校生の一人、短髪の男子が眉をひそめ、声を荒げた。
「いや、待ってくれよ。突然こんなところに連れてきて、何だよ『話を聞け』って。俺たちは普通に生きてたんだぞ!」
「そうよ!」隣にいたロングヘアの女子も険しい表情で続ける。
「何の説明もなく、こんな危険そうな場所に連れてきて、私たちにどうしろって言うの?私たち、帰れるんでしょうね?」
その言葉に、リリアンの瞳がわずかに揺れる。それでも彼女は毅然とした態度を崩さず、深く息を吸い込んでから語り始めた。
「おっしゃる通り、突然の召喚に驚き、憤りを覚えられるのも当然です……ですが、この世界の現状をどうかお聞きいただきたいのです。」
聖女の表情が引き締まり、彼女の言葉に重みが加わった。
「この世界は、かつて人類と魔族との激しい戦争を経験しました。その戦いは、先代の勇者とその仲間たちが命を賭して魔族を討ち滅ぼし、平和を取り戻すことで終結しました。しかし――」
リリアンは言葉を詰まらせ、一呼吸おいて続けた。
「ここ数年で、滅びたはずの魔族が復活し、かつてないほどの力を持つようになったのです。彼らは魔物たちを従え、次々と人間の領地を侵略しています。そして――その中には魔王と呼ばれる存在がいます。彼の力は計り知れず、勇者の血を受け継ぐ戦士たちですら敵わなかった……」
その説明を聞き、場の空気が一段と重くなる。
ロングヘアの女子は息を飲み、短髪の男子は険しい顔でリリアンを睨みつけた。
「それで?その危険な世界に俺たちを連れてきたのは、助けろってことか?そんなの勝手すぎるだろ!」
「そうよ!私たちが戦ったら、死ぬかもしれないじゃない!」
怒りの声が大きくなり、リリアンの表情が曇る。彼女の隣にいたローブ姿の男性たちも困惑したように顔を見合わせる。
その時だった。美少年の高校生が静かに手を挙げ、一歩前に出た。彼は落ち着いた口調で周囲を制した。
「みんな、まず落ち着きましょう。今ここで彼女を非難しても状況は変わりません。それより、困っている人がいるのであれば、僕たちにできることを考えませんか?」
その一言に、場が一瞬静まり返る。豪もその少年の落ち着いた態度に目を細めた。
(……冷静なやつだな。あの年齢でこの対応は大したもんだ。)
だが豪は、少年の発言がやたらと聖女を擁護しているように感じ、少し引っかかる思いを抱いていた。しかし、その場の空気が落ち着きを取り戻したこともあり、彼は黙って少年に同意する。
リリアンは安堵の表情を浮かべ、再び一同に向き直った。
「ありがとうございます。私たちも、皆さまに無理強いをするつもりはありません。ただ助けて欲しいのです。もちろんこちらで必要な力を授けるための支援を惜しみません。訓練や装備、魔法の知識もすべて提供いたします。魔王討伐後は元の世界に戻す事も保証いたします。」
その言葉に、短髪の男子もロングヘアの女子も戸惑いながらも口を閉じた。美少年は穏やかな微笑みを浮かべ、頷いていた。
豪はリリアンをじっと見つめる。
(この聖女、本当に全てを話しているのか?それとも何か隠しているのか……)
彼の中で疑念は拭えなかったが、今はそれを口にする時ではないと考えた。
「まあ、どっちにしろ、状況が分かるまでは動けない。だが、あんたの話が本当なら……手伝わないわけにもいかないだろうな。」
豪のその一言に、リリアンは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。どうか、この世界を救う手助けをお願いいたします。」
こうして、豪たちは自分たちの立場を理解し始め、異世界での新たな運命を受け入れる第一歩を踏み出した。