異世界へ行くヒーロー
初めての作品になります。更新は遅めですが、よろしくお願い申し上げます。
プロローグ
神宮寺豪は、その日もバイクを走らせていた。エンジン音が山道に反響し、彼の体を振動が貫くたびに、過去の記憶が浮かんでは消える。
数年前、彼は一介の冒険家だった。だが、運命は彼を暗黒の深淵へと引きずり込んだ。謎の悪の組織「クロノス」に拉致され、人間兵器として改造されたのだ。身体に注入されたナノマシンは、驚異的な力を与える一方、彼の肉体を徐々に蝕んでいた。だが豪は奇跡的に洗脳される前に脱出し、長い年月をかけて組織を壊滅させた。
戦いが終わった後も、彼の心には深い傷が残った。人々を守るために尽くしたものの、自分が「人」と呼べる存在であるのかすらわからなくなっていた。そして今、世界の復興を手伝いながらも、自宅のある静かな山間の町へ戻る途中だった。
バイクの先に夕焼けが広がる。燃えるような橙と金色の光が空を覆い、彼の疲れた心を優しく包み込んだ。
「こんな風景も、戦いが終わったからこそ見られるんだな……」
ヘルメット越しに、豪はポツリと呟いた。だがその瞬間、突如として周囲を眩い光が覆う。
視界が真っ白になる中、豪は急ブレーキをかけるが、地面の感覚すら失われていた。手足に伝わる振動も消え、気づけば彼は見知らぬ場所に立っていた。そこは白く何もない異様な静けさに包まれた空間であった。
「ようこそ、英雄豪殿。」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこには白いローブをまとった男が立っていた。神々しい雰囲気をまとい、銀色の髪が風になびく。表情は穏やかだが、その瞳には底知れない力が宿っている。
「私は君が先程までいた所とは違う異世界の神だ。君に頼みがあってここへ招いた。」
豪は反射的に身構えた。彼の体内のナノマシンが危険を察知し、筋肉が緊張を帯びる。しかし、神の目には敵意が感じられなかった。
「この世界は、魔王の侵略によって滅びの危機に瀕している。だが、この危機を救うためには、君の力が必要だ。」
豪は驚いた。何も説明されないまま異世界に引きずり込まれ、しかも救世主として戦えと言うのか?だが、神の言葉には嘘がないように感じられた。
「なぜ、俺なんだ?」豪は問いかけた。
「君には並外れた力がある。それに君の心は、どんなに傷ついても正義を忘れていない。そんな君だからこそ、この世界を救える。」
豪の胸の奥に、過去の戦いの記憶が蘇る。数え切れないほどの命が失われた。その一方で、守ることができた命もあった。それは彼が戦い続ける理由だった。
「……分かった。俺にできることを教えてくれ。」
神は微笑み、手を掲げた。その瞬間、豪の体が金色の光に包まれる。力が全身に満ちていく感覚とともに、新たな武具が形成されていった。それは彼のナノマシンと異世界の魔力が融合した、強大な力を持つ装甲だった。
「君の使命は、この世界を魔王の支配から解放すること。そして、この世界に平和を取り戻した暁には、必ず君を元の世界に戻すと約束しよう。」
豪は静かにうなずき、拳を握りしめた。その目は、かつて悪と戦い続けた頃のように、再び強い光を宿していた。
こうして、神宮寺豪の新たな戦いが始まる。ナノマシンの力を駆使しながら、異世界を救う英雄として、彼は再び闘いの日々を迎えるのであった。