秋前期〜ハロウィン番組〜
灼熱のようだった日差しも和らぎ、時折涼やかな風に思わず身震いする。紅葉も紅く染まり、町中を彩る、そんな季節。撮影に励んでいた役者たちは会社の会議室へと集められていた。
夏目「ハロウィン企画のバラエティ番組への出演…ですか?」
鱫史「そう。以前関わった番組のプロデューサーがぜひ、と声をかけてくれてね。番宣を兼ねて参加することになったんだ」
おかゆ「えー、なになにィ?"芸能バトルロイヤル〜テッペンを決めろ〜"…へ〜、これどんな番組なんだろ?」
美弧「この番組、面白いわよね!色んなドラマや映画のキャスト陣が番宣権をかけて色んな勝負をするのよね」
宗光「ああ、それぞれの得意分野に合わせて代表が出てバトルするんだよな!俺も見てると手に汗握るっつーか…!とにかく面白いよな!」
心理「確かこれに優勝したドラマや映画はヒット間違いなしって言われてるんよね。番組効果で注目されるんやろうね」
どくだみ「昔から評判の番組ですよね。よくこんな人気番組へのコネがありましたね…」
鱫史「俺と夜詩の作った会社で、その会社の一大企画とあれば誰もが興味を持つだろうからね!このぐらいの企画は取り付けるさ」
夜詩「そういうこと。とにかく今回はこれに参加するための作戦会議をする予定だよ」
成十「作戦会議…?」
夜詩「参加するからには敗北は許されない。種目ごとに適切な人員を配置して入念に作戦を立て、確実に番宣をもぎ取るよ」
鱫史「流石夜詩、その意気だね!ちなみにドレスコードはハロウィンの仮装だ。衣装のクオリティも注目度が高いことが予想される。種目のチームごとに衣装の案も考えてくれたまえ!」
今回の種目ごとにグループが組まれ、ああでもない、こうでもないと作戦が組まれていく。目指すは優勝、バラエティ番組への出演に向け、役者陣は気合いを入れるのだった。
*****
司会「さあ、はじまりました!芸能バトルロイヤル〜テッペンを決めろ〜!今回はハロウィンスペシャル!お招きした皆さんも素敵な衣装を着てくださってますね!」
キャストA「今回の注目株は初参戦黎明プロダクションでしょうか!皆さんお似合いの仮装をしてうますね!」
キャストB「いや〜、女性陣が少ないとお聞きしていましたがそれでも見劣りしない華やかさですね!勅使河さんや観月さんはもちろん、鍵綿さんも可愛らしい!」
心理「ふふ、褒めてもらえて光栄やねぇ」
美弧「うぅん…えへへ…」
おかゆ「えッ、ウチ?」
キャストB「ええ!皆さん後でメール交換しません?」
キャストC「すみませんこの人こー言うやつなんですよぉ!美人さんに弱すぎるっての!」
キャストB「あはは!いやいや冗談じゃないですよ?別嬪さんは口説いてナンボでしょう〜。ね、勅使河さん、観月さん、鍵綿さん!」
駿平「あー、すみません〜。キャストはお触り厳禁だと思ってたんすけど違いました?」
礼之「はは。別嬪さんでいえば俺も結構自信あるんですけど、どうでしょう?カメラさん、ここ撮れ高ありますよ」
宗光「ああそうだ!この俺の方が別嬪さん?だ!存分に映していいぞっ!特別に許可してやる!」
キャストB「ええっ?」
キャストA「はは、恒例の口説き芸もこうなったら役に立たないなあ!」
どくだみ「映りたがりが多くてすみません。まあ、一旦手は離してもらっていいですか?うちの社長もイライラしてますし」
夜詩「はは。何の話かな?でもまあ、是非ともついでに紹介させて貰いたいかな。鍵綿くんだけじゃなく、他に女装の映える男性陣もいることだしね」
キャストC「えっ、女装ですか?」
鱫史「ああ、南やはやて、そして夜詩も!劇中では女子生徒役を務めているんだ!」
司会「なるほど、女優ではなく俳優を起用するとは斬新な取り組みですね!」
あきら「女性役とはなにか。私なりに真剣に考えて撮影を行っているつもり。是非楽しみにしていてほしい」
成十「はいっ!改めて役として向き合うとなかなか難しくて…僕の全力で異性を演じたいと思います!」
キャストA「へえ〜。今回は女装とかではないけど、だからこそ女装にも興味が引かれるね!」
キャストB「確かによく見ると南さんも別嬪さんで…」
キャストC「さっき止められたばかりだろ!」
キャストB「あいてっ」
司会「というわけで黎明プロダクションの皆さんの活躍をお楽しみに!続いては…」
番組の収録が続く中、一旦勝負の前に休憩が入る。控え室として用意された大部屋に全員が集まり最終打ち合わせをしている。
おかゆ「ビックリしたァ〜!あそこで話題を振られるなんて思ってなかったし!」
美弧「ふふ…ネタなのは分かっていても褒められるのは正直ちょっと嬉しいかも…」
夜詩「あのキャストは前からそう言うキャラで売ってるし予想はしてたけどね。3人とも大丈夫だった?」
心理「うちは大丈夫やよ。礼乃くんたちが助けてくれたしなあ」
美弧「お姉さんもよ!ふふふ…みんなカメラの前で堂々としていて格好良かったわ!宗光くんが自分で別嬪さんと言うのは少し面白かったし…」
宗光「!?なんか使い方間違ってたか!?」
おかゆ「んーん、心強かったよ!ありがとね!」
礼之「1部のみをピックアップした取り上げ方って好きじゃないんですよね。そもそも誰の許可を得てうちの看板女優たちに触ってるんだか…」
あきら「気持ちはわからなくもない。かもしれない。まあ、女性陣に華があるのは理解出来るけど。私も見習いたいね」
成十「華…かあ…」
礼之「成十、どうした?」
成十「ううん…僕も頑張らなくちゃな、と思って!僕も女子生徒役務めるのにココロちゃんとか美弧お姉ちゃんどころかおかゆんより女子力足りてないってことだし!」
おかゆ「ウチ女子力なんてないからね!?ウチは正真正銘オトコノコだから!」
礼之「別に成十は成十でいいと思うけどね。心理ちゃんたちはそもそも正真正銘の女子なわけだし役とは違うでしょ」
成十「…うん……」
あきら「プロ意識の高さはいいこと。また女子勉強会、開催しよう」
夜詩「…そうだね。ともあれ、もうすぐ1つ目の種目の収録だ。準備はいい?」
心理「最初はうちらやね。クイズのために勉強してきたんよ。バッチリ頑張ってくるなぁ」
駿平「1発目、頑張れ〜。ココロちゃん、クイズとか結構得意そうだよねぇ…。楽しみにしてるわ」
心理「ありがとぉな〜。クイズとかあんまりやったことないんやけど、早押しならは慧くん、回答なら礼之くんもおるし、頼らせてもらうわぁ」
あきら「うん。早押しなら任せて欲しい」
礼之「早押ししたところで回答できなければ意味ないっすけどね…」
あきら「大丈夫。勉強してきた。虫とか」
どくだみ「虫、ですか。随分ピンポイントですね…」
あきら「そう?ハリガネムシの生体とか習得したんだけど、要らなかった?」
夜詩「なんでそうマニアックなんだよ…むしろ出たら奇跡じゃないかな?」
あきら「山で見て、気になったから。そっか…山で見たものにヤマをかける作戦、失敗か。残念」
夜詩「……人員配置失敗したかな…」
成十「ま、まあまあ、まだ決まったわけじゃないし!それにしても3人の衣装はお医者さんと、ナースと、患者さん?みんな似合ってるね!」
心理「ふふ。白衣の天使、って感じで可愛いやろ?可愛い衣装にしてもらえてうちも大満足やわ。注射器とか小道具まで用意して貰えたしなあ」
あきら「中に入っているのは赤ではないんだ。血液じゃないってこと?」
心理「ふふ、これはゲルでな、クマシーブリリアントブルーを使って染色したんよ。まさかほんとの血液使う訳にはいかないしなあ」
おかゆ「名称までちゃんと覚えてるのすごくない?」
心理「名前がなんや可愛らしくて気に入ったんよ。くまさんみたいやろ?そういえばおかゆくんにもちょっと雰囲気似とるなぁ」
おかゆ「えッ、それって褒められてる?」
あきら「そっか。いいね。本当の血液が必要になったら言って。患者役として、ドナーとなる所存」
どくだみ「はは、ツッコミどころが多すぎて星ノ宮さんが逆に悟りを開いちゃってますね」
心理「でもまさか偶然礼之くんとペアみたいになるなんて思ってなかったから嬉しいわ」
礼之「ああ、とりあえずやりたい仮装をあげたら同時にこれだったからね。まあ、心理ちゃんらしくて納得って感じだけどね」
心理「ふふ、うちもや。直前までしっかり鏡で確認してだけあって、流石バッチリ決まってるなあ」
礼之「なんせ全国放送のバラエティだからね。これで寝癖なんてついてたら格好もつかないし」
成十「あはは、よしぽんの場合それはそれで可愛い!ってファンがついちゃいそうだけどね〜!」
礼之「それはなるべく遠慮したいかな…俺のこと好きな子にはかっこいいとこを見てて欲しいしね」
どくだみ「まあ…それはわかりますね。とはいえ常に気を張るのもなかなか疲れますけど」
会話を交わしていると、スタッフの1人が控え室をノックし、時間が来たことを伝える。1種目目は早押しクイズ。役者たちの期待を背負い、礼之、心理、あきらが出発するのだった。
*****
司会「第1戦目、クイズタイム!今回はハロウィンにちなんだ雑学のクイズ出題します!ハロウィンのことをどれだけ知っているかが試されます!」
あきら「素振りは十分。頑張っていこう、ココロさん、水トさん」
心理「せやなぁ。準備はしたことだし、やれるだけやってみよ」
礼之「ん。星ノ宮さんじゃないけど、出るからには負けたくないしね」
気合いは十分。3人が回答ボタンと向き合う中、早速第1問が出され________
司会「第1問。ハロウィ____」
ピコン!!
心理「……嘘やろ?」
問題が発表されようとした瞬間、すかさず回答ボタンがなる。まだ問題の全容が分からない中…解答権を得たのは、あきらだった。
司会「速い!あまりに速すぎる回答!はやてさん、答えをどうぞ!」
あきら「…………、ジャック・オ・ランタン?」
司会「残念!不正解〜!」
礼之「…まあ、そうなるよね」
心理「…そうやなぁ」
やや呆れたように2人が顔を見合わせる。あきらはといえば、2人に無言で親指を立てグッドマーク。何もグッドではないが、早押しは任せろとでも言いたげである。
礼之「仕方ない。チームの誰かが回答すればいいんだし俺たちが回答しよう」
心理「そうやな。慧くん、問題が聞こえる位のタイミングで早押ししてくれる?」
あきら「承知した。任せて欲しい」
司会「第2問!ハロウィンの起源は___」
ピコン!
礼之「紀元前の古代ケルトで行われた宗教行事"サウィン祭り"。収穫を祝う祭りだけどケルトがキリスト教化しても祭りの習慣は残ったと言われてるね」
司会「第3問!ハロウィンは元々どんな日だと___」
ピコン!
心理「そうやなぁ…死後の世界の扉が開く日、やろか。色んな人外が集まってくる日なんてなんやロマンあるよなぁ。…どう?合っとる?」
司会「第4問!」
礼之「アップルボビング」
司会「第5問!」
心理「ソウリング。…あ、合ってた?嬉しいわぁ」
司会「す、凄いですね!黎明プロダクションチーム、見事な快進撃!」
キャストC「正答率もすごいけどはやてさんの早押しもすごくない?問題の内容がギリギリ分かる場所で押してるの」
あきら「今後特技を聞かれたら早押しクイズと答えてもいいかもしれない」
キャストB「わはは!特技欄早押しクイズな俳優、面白すぎるだろ!」
第1種目、早押しクイズは奇跡のコンビネーションで快進撃を披露し、1戦目にして黎明プロダクションチームの優勢へと傾くのだった。
*****
駿平「お疲れ〜。ココロちゃん、やっぱ博識だったね、流石」
美弧「ほんとね!お姉さんビックリしちゃったわ!2人の知識も慧くんの早押しも!」
心理「たまたま勉強したところが出ただけやけど照れるなあ…ありがとな〜」
あきら「おかげで新規開拓できた。感謝」
礼之「答えたのは俺と心理ちゃんですけどね…まあでも、絶妙に分かるタイミングの早押しは助かったな」
鱫史「諸君おつかれだったね!こうなると俺も格好悪いところは見せられないね、再度気合いを入れ直して励むとしよう!」
どくだみ「次は兎鮫さんと成十さん、観月さんですか。格付け対決、頑張ってくださいね」
宗光「ああ!俺が出たら華麗にいいものを見極めていた自信があるが、…まあ、お前らにも期待してるぜ」
美弧「ええ!皆が頑張ってるんだもの、お姉さん頑張っちゃうわよ!」
成十「うんうん。僕は正直自信はないけど…でも、全力はつくすよ!いいとこ、見てほしいし!」
鱫史「ああ、くれぐれも足を引っ張らないでくれ…いたっ!」
夜詩「ははっ、鱫史は女子に対しての発言をもう少し覚えた方がいいんじゃないかなあ?」
鱫史「ぐ…夜詩が言うなら…仕方ない、気をつけるよ」
夏目「お三方は王道って感じの衣装なんですね」
美弧「ええ!魔女っ子美弧お姉さん!みんなのお願い叶えちゃうぞっ♪…なんて…」
おかゆ「アハハ、みこねぇ顔真っ赤!カワイー!」
美弧「もうっ!からかわないでちょうだいっ!25歳がやっていい事じゃなかったわ…」
宗光「そうか?似合っていれば年齢は関係ないだろ?」
美弧「えへ…そうかしら…なんか照れちゃうわね…ありがとう、宗光くん」
成十「僕はヴァンパイアにしてみたんだ!どう?似合うかな?」
礼之「うん、似合う似合う。でも成十の場合人畜無害そうに見えるからな…」
成十「ええっ?そんなことないもん!食べちゃうぞー!がおー!」
夏目「はは、惜しい。人を食べるのはどちらかというと狼男っぽいですかね。ヴァンパイアは人の血を吸うものですから」
あきら「成十くん、みんなを襲うのはいけないよ。私が人身御供となろう。味も美味しいと思う。多分」
成十「ええ!?し、しないよ…!」
駿平「よかったです…人食べるヴァンパイアがいたらどうしようかと…」
成十「しないしない!駿平くんは安心していいからっ!僕は怖くないよ!」
鱫史「夜詩!俺のフランケンシュタイン、どう?似合う?」
夜詩「まあ、似合ってるんじゃない?頑張れ、黎明プロダクションの勝利のためにな」
鱫史「ああ!夜詩、俺が頑張るところ、」
夜詩「見てればいーんだろ。…お前が言うことなんて大体想像つくよ」
スタッフ「黎明さん、スタンバイお願いしまーす」
鱫史「今行きます!…はは、そうかもな。…夜詩のために、頑張ってくるよ。だから…絶対目を離さないでね」
夜詩「………っ」
心理「あれ?もしかして夜詩さん、照れてはるん?」
どくだみ「…本当ですね。珍しい。耳が赤くなってますし」
宗光「…!よかったな!鱫史!」
駿平「まあ、肝心の兎鮫さんは収録行っちゃって見てないですけどね」
心理「ねえ今どんな気持ちなん?夜詩さん的に何が刺さったんや?」
夜詩「うっさい!こっち見んな…あとアイツには絶対言うな。社長命令、破ったらクビだから」
駿平「職権乱用じゃないすか!?」
夜詩「こほん!とにかく次の収録始まったみたいだしモニター見るよ!」
生暖かい空気を誤魔化すようにモニターに視線を向けると、ちょうど3人が並んで映っている。役者たちは仲間を応援するため、見守り始めるのだった。
*****
司会「格付けチェック第2問!次は絵画の格付けになります!ハロウィンにちなんでカボチャを使用した絵画を格付けしていただきます!片方はゴッホの作品、もう片方は無名の一般人の描いた作品です!」
キャストC「モナリザとか有名な作品じゃないんですね!?これは難しそうだな…」
成十「2つの水差しと2つのかぼちゃのある静物…」
鱫史「ん?南、何か言った?」
成十「あ、うん。もしかしたら僕、その作品知ってるかも…と思って。任せてもらってもいいかな?」
美弧「すごい…!そういえば成十くんって美術館とかにいくって言ってたものね!」
鱫史「構わないよ。元より君の観る力をあてにして格付けに選抜したわけだしね」
成十「…!そっか…じゃあ…これはA!Aがゴッホの作品だよ!」
司会「答えはA!正解です!」
成十「……!やった!」
鱫史「うんうん、よかったね!さて、3問目は音楽か。俺が答えようかな!」
成十、鱫史の得意分野が出題されたこともあり、次々と正解を導き出していく。そんな中、第4問で美弧がはっと顔を上げた。
司会「4問目はお酒!ハロウィンが収穫祭であることから日本酒をご用意しました!」
美弧「お酒!お酒ならお姉さんに任せて!」
鱫史「ああうんそれはいいんだけど…」
美弧「早速飲んで見極めてみせるわ!ゴクッ…ゴクッ…」
成十「あっ…そんなに一気に飲んだら…」
美弧「うう…どうしてなのよぉ…!」
鱫史「言わんこっちゃない…完全に酔ってるな…」
美弧「うっうっ……私だって…ちゃんと活躍できるんだから…おかわり!」
成十「み、美弧おねーちゃん、これ格付けチェックだから…!おかわりないから…!」
鱫史「軽い放送事故だぞコレ…まあ面白いからいいけどさあ。なあ観月、美味いのはどっち?」
美弧「Bよ!私の頼もしいところみて惚れ直したかしら!」
鱫史「いや別に…俺には夜詩がいるしな」
美弧「どうしてよぉ〜!!!」
成十「む、鱫史さんっ…!そんなハッキリ…」
鱫史「とにかく格付けを終わらせて切り上げよう、流石にこの状態を放置はできないからな」
成十「そうだね…!」
美弧が酔いつぶれる中、2人は格付けをこなしていく。そこそこの正答率となったが、初回の優勢もあり、なんとか順位を保つことができたのだった。
*****
美弧「大変…申し訳ありませんでしたっ」
駿平「まあ酒が入ると変わっちゃうの分かりますし〜。そんなこともあるんじゃないすか?」
夏目「正直羨ましかったですけどね、最高級の国産日本酒。美味しかったですか?」
美弧「それはもう!美味しかったわ!!!」
夏目「あー、いいですねぇ、ご飯と合いそう。駿平くんも飲みたかったんじゃないですか?」
駿平「あーいや、俺は味とかそんなにこだわりないってか…まあ美味しいにこしたことはないすけど…」
夏目「そうなんですね!じゃあ酒よりは美味しいツマミの方が興味あるとか?」
駿平「あー…まあ…酒は度数高ければって感じですけどツマミは美味しいのがいいですね、確かに」
どくだみ「次はお菓子づくりバトル、俺たちの番ですね」
駿平「はい…え、蔵識さんとどくだみさんはともかく…、ほんとに俺で大丈夫です?全然経験ないんすけど…」
あきら「大丈夫。為せば成ると思う。多分」
夏目「そうですよ。俺もサポートしますし。それに俺だけじゃなくどくだみさんという頼れる経験者もいるんですから!」
どくだみ「まあ…俺の場合、ちょっとした趣味の一環ですけどね。集中してやるのに丁度いいので」
夏目「なるほど…頼りにしてます」
美弧「3人は警察と囚人なのよね。デザインもお揃いで素敵ね!」
駿平「ええ、まあ。おふたりと並ぶとちょい緊張しますけどね…震えが止まらんって言うか…俺、浮いてないかな…」
成十「そんなことないと思う!すごく似合ってるよ!」
駿平「そうっすか?なら…よかったです」
おかゆ「ケーサツってことはなつめサン捕まっちゃったってコト!?」
夏目「はは。2人に捕まるなら吝かでもないかな、なーんて…」
駿平「怖いこと言わないでくださいよぉ!はぁ、緊張してきた…目がぐるぐるする…」
夜詩「天使くん、落ち着いて。これも1つの舞台だと思えばいいよ。はい、深呼吸」
駿平「すぅ…はぁ…すみません、あんましこのまんまの俺で出ることないんで、緊張しちゃいやして…」
どくだみ「まあ、さっき蔵識さんも言ってましたけど俺達もサポートするので、頼ってください」
駿平「は…はい…」
スタッフに呼ばれ、3人は会場へと去っていく。緊張は相変わらず抜けない様子の駿平であったが、2人は料理経験者。様子を固唾を飲んで見守るのだった。
*****
司会「お次は料理対決〜!今回はハロウィンにちなんでお菓子作りがテーマとなっています!」
キャストB「女性陣が多い中、黎明プロダクションチームからは男性が3人選抜されてるね!女性陣は料理苦手とか?」
夏目「いやいや。俺、料理結構得意なんですよ。この人もこう見えてお菓子作りが趣味なので、順当な選抜ですね!」
どくだみ「はは、実は。見えないですかね?」
キャストB「あー、そうなんですね!俺としてはまあ、可愛い女の子の手料理期待してたんで残念ですけど、クオリティは期待できそうかな?」
キャストC「本当お前はブレないよな〜、採点は平等に頼むよ?」
駿平「いくらなんでもあの言い方って…」
どくだみ「…はは……」
夏目「完全に軽んじられてますね、俺たち。美味いお菓子作って見返しましょう」
駿平「…そうすね。やりましょう」
キャストたちの笑い声を聞きながらも決意を固める3人。手際良く、ハロウィンらしいケーキを手分けしてつくりはじめる。最初は面白がった様子だったキャストたちも次第にその技術に興味を惹かれているようだった。
どくだみ「土台、焼き上がりました。あとはトッピングを飾るだけですね」
夏目「ええ。いい感じに出来てきましたね。…うん、味も悪くなさそうだ。駿平くん、クリームの方はどうですか?」
駿平「あっ、結構イイ感じっす!クリームになってきました!」
どくだみ「じゃあ次の作業に移りましょう、駿平くん、持ってきてください」
駿平「はい…!…ん?わっ!うわああああ!」
ドンガラガッシャーン!!!大きな音と共に、激しく転倒する駿平。頭にはボウルが乗っかっており、甘いクリームは完全に頭の装飾と化していた。
司会「ここで天使さん、転倒!調子よく進んでいただけにこれは痛い!」
キャストA「なんもないところでつまづいていましたね…ドジっ子属性ですかね」
どくだみ「大丈夫ですか?」
駿平「はい…すみません、せっかく作ったクリーム、台無しにしちゃいやした…」
夏目「駿平くんに怪我がなければそれだけでよかったですよ。気を取り直してあるものでつくりましょう?」
ハプニングに見舞われながらも3人は気を取り直し、なんとか作り上げる。クリームがなくても機転をきかせたスイーツは評判もよく、そこそこの結果に落ち着いたのだった。
*****
駿平「皆さんすんません…俺、戦犯やっちゃって…」
美弧「そんなことないわ!それを言ったらお姉さんもだし…駿平くんは十分頑張ってたと思うの!」
成十「うんうんっ。それよりあのキャストさんたちだよ…!」
心理「そうやなぁ。なんや感じ悪かったわ…」
夜詩「そういう芸風で売ってるにせよ…流石に目に余るね。うちの役者達を落として撮れ高を撮るのは看過できないし」
どくだみ「はは、ネタというにはちょっと…ですよね」
宗光「だよな…!夏目の料理はいつも絶品なのに、それも知らないであんな言い方ないよな!」
おかゆ「ね〜!アレ面白いと思うのがちょっとウチにはわかんない感覚かも」
夜詩「……ふぅ、宗光くん、鍵綿くん」
宗光「夜詩さん?」
夜詩「特訓の成果を見せる時がきたみたいだね」
宗光「…そうっすね!」
おかゆ「えへへ、練習の成果がトンじゃったらどうしよ〜、とか言ってる場合じゃなさそうだね!」
鱫史「うんうん。逆境に立ち向かう夜詩はやっぱり1番輝いてるね!」
宗光「へへ。俺も鷹司として…!最高の舞を披露してみせます!」
心理「最終戦はダンス対決やったけど…3人の服装は和服なんやねぇ」
おかゆ「そう!せっかく家元の大先生がいるんだし、教えてもらえば最強じゃん!?って日本舞踊にチャレンジすることにしたんだよねー!…だよね?」
宗光「ああそうだ!あの鷹司家の俺が監修した日本舞踊だ、とくと期待して見るといいぞ!」
おかゆ「そーゆーコト!ちょびっと苦労したけど〜、むねみつクンに何回も教えて貰ってバッチリ覚えたかんね!」
宗光「ああ、おかゆはなかなか筋があったしな!俺の家でも十分やっていけそうなぐらいに上達したぞ!」
おかゆ「エッ…えへへ…なんかそれはちょっと照れんね…」
宗光「あっ…そういう意味じゃないぞ!いや、そういう意味ってなんだ?とにかく日本舞踊を習得したってことだ!」
おかゆ「わっ、分かってるよ!?えへ…でも練習したかいがあったなァ…」
どくだみ「そうだったんですね…未知の世界に挑戦するってなかなか苦労しますから、おかゆさん、頑張りましたね」
おかゆ「まあね!そんなわけで期待して見ててよね!」
どくだみ「はい。楽しみにしてます。とても」
夜詩「俺も当然、やると決めたことはやるからね。抜け目はないよ」
鱫史「うんうん。毎日深夜まで練習してたもんな!流石夜詩だ!」
宗光「そうだったのか!?言ってくれれば俺も一緒に練習したのに…」
美弧「ふふ、宗光くんは早寝早起きって感じだもの、仕方ないわよ!」
夜詩「あーもうっ!鱫史はなんで知ってんの!?そういうのは言わないでくれるかな!?」
鱫史「悪かったよ、夜詩!とにかく今こそ練習の成果を発揮する時だ!夜詩、…と鍵綿、…と鷹司。全力を尽くして欲しい!」
宗光「おう!」
*****
司会「最終戦はダンス対決!ハロウィンらしいポップなダンスを披露していただいています!お次は黎明プロダクションチームの出番ですが…今までのチームと違った雰囲気の服装ですね!」
キャストA「九尾の狐に、天狗に、猫又…。ハロウィンらしいとは少し違うけど、なんか、神々しいな…」
キャストB「お、鍵綿さんの登場だね!いや〜、やっぱりその衣装、似合ってるね!可愛いダンスを見せてもらえるのかな!」
おかゆ「残念だけどさァ、今日の主役は…」
宗光「俺だ!!」
夜詩「さあ、全国初公開、鷹司の日本舞踊をとくと見よ…!」
音楽が流れ始める。伝統的な曲を一般向けにアレンジされたそれは、どこか神々しくも感じる幻想的な雰囲気を醸し出している。首の動きから指の先端まで神経の行き届いたその動きに誰もが目を奪われた。
おかゆ「…うん、大丈夫。ウチ、ちゃんと踊れてる…」
夜詩「うんうん。練習の成果は確実に身についているよ」
永遠にも続くように思えた曲は終盤を迎える。ふわり、紙吹雪が舞い、3人の視線が正面に向かう。
宗光「父さん、母さん、見てたか?これが俺の、鷹司宗光の日本舞踊だ!」
曲が終わり、完全な静寂を迎える。どこからかぱちぱち、と拍手が鳴ると、それを合図にわああっと歓声と拍手が響き渡った。結果はもちろん、言うまでもない_____
*****
夜詩「ハロウィンっぽくないから減点って!納得いかねぇ〜!!!」
鱫史「はっはっは、ご立腹だね夜詩!」
夜詩「そういうルールがあるなら先に言えよ!は?ズルだろズル!!」
どくだみ「はは。星ノ宮さん、本当に納得いってないようですね。完全に素が出てしまってますけどいいんですかね?」
おかゆ「まァ、ウチもちょっと納得いかないし!ほしのみやさんの気持ちも分かるってゆーか!頑張ったのになあ…」
心理「うちも好きやったよ、3人のダンス。キラキラしとって神々しかったわ」
駿平「はい…。なんか、すごい光が差したように見えました。すごかったっす」
礼之「ま、減点さえなければ間違いなく優勝でしたから、悔しくなるのも分かります。ギリギリ優勝チームに届かず、でしたし」
あきら「ほんの数点差だったらしいね。いい所までいった分、惜しい」
鱫史「まあでも、例のキャストも謝りに来てくれたんだし、万事解決じゃないか!」
夏目「ええ。彼なりに思うところがあったみたいですね。色々ありましたけど、番組出演自体いい機会でしたし、楽しかったですね」
成十「うん…!優勝には届かなかったけど、きっとこの番組を見て映画が気になった人もいると思うし!」
宗光「確かにそうだな…優勝はできなくてもやったことは変わらないよな!フフン、この俺の踊りに全人類が感動したに違いないな!」
美弧「うんうん!宗光くんの日本舞踊、とっても素敵だったもの!きっと人の心に響いているはずよ!」
駿平「ふふ…、俺もそう思います。足引っ張っちゃった俺が言うのもなんだけど…お疲れ!俺、感動したってか…とにかくすごいなって思った!」
あきら「天使さん、さっきからそればかりだね。気持ちは分かるけど」
駿平「う、うまく言い表せないんすよ!仕方ないっしょ!」
宗光「はは!俺が光り輝いていて凄かったってことだろ!勿論伝わってるぞ!」
おかゆ「ぃよ〜し!収録も無事終わったことだし、打ち上げだ〜!いっぱい飲むぞォ〜!」
美弧「あ、いいわね!今日は恥ずかしいとこ見せちゃったし特別にお姉さんの奢りってことでいいわよ!」
駿平「あ、それなら俺も払います!俺も足引っ張っちゃったし…」
礼之「はは、すっかりお決まりの流れになってきてるね」
心理「そうやなあ。まあ試練の後の打ち上げがみんな楽しみなのはわかるしな。うちはこの雰囲気、結構好きやな」
撮影も無事終わり、役者たちは恒例の流れにワイワイと飲み屋へと流れていく。1年の撮影も折り返し。秋の涼風にも負けない、楽しい毎日はまだまだ続きそうだ。