夏後期〜キャンプ〜
みなみ『きたなぁ、山!…ところでなんで山なんだろ?』
こはく『それはもちろんっ、めいっぱい遊びたいからー!!…でしょ?』
冬弥『うおーっ!バーベキュー!いっぱい食うぞー!!』
葛『えェ、コレやりたいこと叫んじゃう感じっ?面白そー!じゃあウチはやりたいことぜーんぶやって思い出作るぞ〜!!』
悠希『オレは来週からの補習を気合で頑張るぜ!!』
ここな『それは本当に頑張った方がええなぁ』
<メンバーたちの笑い声>
鼎『ははっ、すっかり盛り上がってますね。…きっとこれが、青春なんだ』
山いっぱいに響き渡るやまびこの声。それに呼応するような蝉時雨が青春の始まりを告げていた____
鱫史「カット!…うんうん、いいね。まさしく青春の一幕と言える爽やかなワンシーンになったよ」
鱫史が満足気に頷くと、演技に徹していたメンバーたちに弛緩した空気が流れる。夏も本格的な暑さをみせはじめ、人々も海や山へとアウトドアを楽しむ季節。役者たちは仕事の一環として同じく山へと繰り出していたのであった。
成十「それならよかったよ!…それにしても暑いな…山って比較的涼しいって話じゃなかったかな…」
心理「高いとこは空気薄い分涼しいはずやしなあ。まちごおてはないはずやけど」
どくだみ「そうはいっても今日も例の如くアラートのなる暑さですからね」
あきら「熱中症に気をつけよう。水分補給を欠かさずに。しっかり飲んでね」
はいお水、と手際よくメンバーたちの手元にミネラルウォーターが配られていく。
美弧「あっ、ありがとう…!ふふ、でもお姉さんとしてはみんなとキャンプに来れて嬉しいわ!仲良しの人達とキャンプだなんて大人になるとなかなか機会がないもの!」
駿平「俺もまあ楽しいことは好きなんで悪くはないんですけど…ここに酒があればなあ…」
夏目「あれ、駿平くんからお酒の匂いがしませんね。珍しい」
夜詩「今、仕事中だから。お酒飲んで来てたら速攻役を降りてもらってたからね」
成十「あはは…なるほどね〜…」
駿平「まあ、そういう感じっす。俺も仕事はちゃんとしたいし今日は禁酒頑張ります〜」
夜詩「ん。それならよし。…撮影に支障ないようにこっちでもなるべくはサポートするから。期待してるよ」
鱫史「撮影さえ終わってしまえばあとは自由時間だしね!キャンプファイアーでもしながらみんなで飲む、というのはいいと思わないかい?」
夜詩「それならまあ。翌日に支障のない範囲でね」
おかゆ「やったー!ウチもお酒飲みたいッ!」
美弧「美味しいお酒、お姉さんも持ってきたのよ!みんなで飲みましょ!」
宗光「む!みんなで酒盛りか…」
駿平「あー、鷹司くんは未成年だもんね。オススメの酒ならあんだけどノンアルは詳しくないからな〜…」
おかゆ「じゃあじゃあ、宗光クンはウチセレクトのスペシャルりんごジュース飲も!どう?」
宗光「ふ、フン!そこまで言うなら飲んでやらなくもない!」
あきら「私もお酒は飲めないから、ぜひおかゆ君セレクトのスペシャルりんごジュース、ご賞味させていただきたいな」
おかゆ「もちいいよん!いっぱい用意したからさっ!」
夏目「俺も実はちょっとツマミを作れそうな食材も持ってきたんですよね。バーベキューのあまりと一緒に調理出来たらなあ…なんて」
礼之「みんな飲む気満々で持ち寄ってたんですね…」
成十「よしぽんも飲むかい?みんなで乾杯したらきっと楽しいよ!」
礼之「俺はやめとこっかな…。酒弱いからすぐ酔いつぶれても格好悪いしね」
心理「ふふ、ほんまに酒弱いんやねぇ。外で寝ると風邪引くし、そん時はジュース片手に星を見に行くとかどうや?」
礼之「うん、それいいね」
成十「星かあ。僕も一緒に行っていいかな?山で見る満点の星空なんて、ロマンチックだろうなあ…」
夜詩「ハイハイ。楽しみは撮影終わったあとで。バーベキューとキャンプの準備も撮影しつつ実際にするから各員台本に従って持ち場についてね」
夜詩の鶴の一声に従って各々のシーンに向けて仕事モードへと切り替えていく。台本を読み返す者、鏡でヘアセットを確認する者、深呼吸して気持ちを整える者……。流石役者と言うべきか、先程までの自由さはどこへやら、すっかり真面目に表情を引き結んでいる。
鱫史「じゃあ早速、台本の18ページ、テント準備組のシーンを収録するよ。よーい…アクション!」
カチンコの音を合図に、収録が始まった。
*****
葛『よい…しょぉ!はァ〜、テントってやっぱ重たいね〜!』
悠希『葛、そっち重いだろ?俺やるからペグ持ってきてくれよ』
葛『あっ…うん!りょーかい!これコンコンすればいいんだっけ!』
ここな『準備頑張ってるなあ〜みんな頑張ってな〜』
凪葵『じゃあ俺もここで応援係ってことで…』
深雪『ねえ…2人もテント準備係、だったよね?一緒にやろうよ』
凪葵『ああ…勿論手伝うつもりだよ。でも適材適所ってあるから、邪魔になるよりは見てた方がいいかなって』
ここな『みんな頼りになるわぁ。あ、それより深雪ちゃん。あっちに可愛いお花が咲いてたんよ。見てきてもいい?』
深雪『え?でも…』
華織『別にいいんじゃねぇの。大体クラスの奴らでキャンプって言ったってお前らみたいにノリ気なヤツらばかりじゃないんだよ』
深雪『華織くん…』
華織『俺は気分じゃなくなればいつでも降りる。…その方がお互い気が楽だろ』
葛『ねーねーみてよっ!…えーっとぉ?アハハ…イマちょっと気まずい感じだった?』
凪葵『んー、まあ別に大したことないよ。そうは言ってもさ、ちゃんと来てるじゃん。みんな。それで十分でしょ』
ここな『うちらはうちらでちゃーんと楽しみにきとるけん、気にしなくていいんやない?』
深雪『そう、なのかな。でもわたし、やっぱりみんなで一緒に楽しみたいし…』
悠希『よし、分かった!じゃあ釣りしようぜ!釣り!』
葛『えッ…釣り?』
深雪『でも、テント途中だよ…?』
悠希『いいだろ、そんなの後でやれば!俺さ、川に魚いるかもって思って網をもってきたんだよな!』
凪葵『用意周到だな…正確には魚釣りではなさそうだけど』
悠希『細かいことは気にすんなってこと!ほら、やろう!』
深雪『あっ…悠希くん…!』
<悠希の押しに負けるように葛、凪葵、深雪は網をもち、魚を取り始める>
<やがて魚が取れて…>
鱫史「カット!数十分かかってるけど流石に1匹も取れてないのはどういうことだ?」
宗光「俺としたことが一生の不覚…!こんなに難しいとは思ってなかったんだよ…」
おかゆ「アハ〜ほんとだよね!魚とりって多分みんな初体験っしょ?初心者には難易度高くない?」
夜詩「魚がそもそもあんまりいないんだから仕方ないだろ」
心理「えらい難しいんやねえ、魚とり。魚は思うようには動いてくれないってことやね。礼之くんも集中してやってたからちょい悔しいんとちゃう?」
おかゆ「ね〜、めっちゃ真剣に川とにらめっこしてたもん!役者魂見習お!」
礼之「まあね…役者としてもそうだけどゲーマー魂が騒いだっていうか。残念だな」
宗光「魚って結構素早いんだな…素早い…素早…ハッ!あきらを呼んだらいいんじゃないか!?」
夜詩「あっちは蔵識くん主導でバーベキューの仕込み中。それにいくらなんでも魚は取れないんじゃない?」
宗光「そうっすか…」
鱫史「全く仕方ないなあ…そんなこともあろうかと…」
ドン、とバケツを置く。中には涼しげに泳ぐ魚が数匹。
鱫史「スペシャルサンクス蔵識。老舗旅館の筋から取り寄せて貰ったよ!」
心理「老舗旅館の肩書き、えらい便利に使いこなしはるなぁ…」
夜詩「はは、メタな話はタブーだよ、勅使河さん」
心理「あら、ごめんやす。ついうっかりしてしもて」
礼之「とりあえず撮影に支障のない範囲の準備はあるってことですね…」
心理「まあ、それなら話は早いんとちゃう?とった演技すればいいんやしね」
鱫史「そういうことだ。だからこれを覗き込んで…」
夜詩「いや、待って。取るから。絶対」
おかゆ「ウチもなんか悔しい!からもうちょっとだけチャレンジしたいかも!」
宗光「俺もだ!さっきは少し手間取ったが…次こそ格好よく取れるはずだ!」
心理「…みんなさすがやなぁ。うちも自分たちでとった魚見てみとぉなったわ」
礼之「…だな。もう少しやってみるかな。さっきので少しコツ掴んでるかもだし」
鱫史「流石夜詩。そういうなら仕方ない!もう一度チャンスを与えよう!」
再度カチンコが鳴る。気持ちを切り替えたようで各々真剣に魚とりを開始し、時が経って10数分…今度こそ無事に、バケツには魚が収まっていた。
『取れた!』
たった1匹の魚ではあったものの、その魚を見つめる達成感は演技ではとても補えない、生の経験ならではの表情をみせている。これでこそ撮影の醍醐味だ、と人知れず鱫史も満足気に頷くのだった。
*****
時は変わってキャンプ場。既にバーベキューの準備がされた会場には美味しそうな料理の数々が並べられており、網に乗った新鮮な野菜や肉がいい匂いを放っている。
鱫史「次のシーンは24ページ、バーベキューに入らず木陰にいる束峰のシーンだね!シーンに関係の無いみんなは先に食べていても構わないよ!」
美弧「うーん、本当に美味しいわね!お野菜も新鮮で美味しくて…」
心理「そうやな。野外で食べるご飯はまた普段と違う気がして美味しいなぁ」
おかゆ「はふはふ…あちちっ!んーっ、おいしーね!」
どくだみ「ふっ、おかゆさんって本当に美味しそうに食べますね…。でも急がなくても大丈夫じゃないですか。火傷にはお気を付けて」
おかゆ「もち!どくだみサンは次撮影だっけ?ちょっとキープしとこっか?」
どくだみ「いいんですか?それならお言葉に甘えて。おかげで安心して撮影に挑めそうです」
宗光「よし、俺も食べるぞ…ん?夜詩さんも肉食わないんすか?」
夜詩「あーうん。今減量期でさ。スタイル維持も役者の基本だからね」
宗光「減量期…流石っすね、俺そんなの考えたこと無かった…」
美弧「むぐっ…今なんだか流れ弾に当たった気がするわ…胸が痛い…」
成十「スタイル維持かぁ…僕も今食べてるの終わったら残り野菜にしておこうかな…」
夜詩「はは、そこまで真剣に考える必要は無い。何より食べ盛りが沢山いるみたいだから譲ってあげようかなって。ほらね」
視線の先には美味しそうにバーベキューを食べるメンバーたち。まだ撮影中ではあるものの、気にせずどんちゃん騒ぎが始まっている。
夜詩「君たちは気にせず食べなよ。オススメはナスとピーマン…」
宗光「!?」
夜詩「…は冗談として。トウモロコシかな。美味しいよ」
宗光「ありがと…ん、ほんとに美味いすね…!」
駿平「は〜、肉うんめぇすねー!一発OKしないと俺らで全部食べちゃいますよ、なーんて…」
夏目「はは、駿平くん、いい食いっぷりですね。十分な量用意したので大丈夫だと思いますが、気合い入れていきましょう」
どくだみ「そうですね。せっかくのバーベキューを食べ損ねたくはないですから」
あきら「うん。最速を狙おう」
やる気は上々。早速少し離れた場所へ移動し、カチンコが切られた。
*****
華織『チッ…めんどくせぇ…』
鼎『華織くん、ここにいたんですね。探しましたよ』
華織『あぁ!?』
鼎『お隣、失礼しても?』
華織『………勝手にしろ』
<華織の隣に腰掛けるが、鼎が言葉を発することはない。2人が沈黙する中、さわさわと穏やかな木々のざわめきが聞こえる。>
華織『…なんで俺を構うんだよ』
鼎『なんで、か。…なんでだろう。俺も分かんないな』
華織『は?なんだよそれ…』
鼎『何となく興味が出たから。それだけじゃダメか?』
華織『…』
鼎『それに俺も少し輪からは外れた存在ですから。そういった意味では一緒でしょう?』
華織『…変なやつ…』
ケイ『見つけた。探したよ』
鼎『あ、既視感。さっきと全く同じ流れですね』
ケイ『そう?2人がここにいるのに気づいて、勿体ないと思って。連れ出しに来た』
華織『あぁん!?お前の勝手な価値観で何が勿体ないか決めつけんじゃねぇよ!!』
ケイ『別に決めつけているつもりは無い。勘違いさせたなら、ごめん。ただ、君たちが輪に入ったら、もっと楽しいと思ったんだ』
華織『………』
鼎『…なるほど』
ケイ『突然輪に入るのも難しいかもしれない。だから、…まずは少しだけ、私を君たちの中に入れてくれたらいいな、…そう思うよ』
<2人の心を指さして、微笑むケイ。2人はその言葉に心を動かされたように見上げる>
ケイ『だから…』
ケイが言葉を続けようとした瞬間、どちらからともなくググゥーーーーーーー!!!と大きく情けない音が響く。一瞬の静寂。
しかしそれをものともしない役者魂か。あきらことケイは笑って首を傾げた。
ケイ『バーベキュー、食べに行こう。ご飯が私たちを呼んでるよ』
鱫史「カット!!!!」
夏目「ふっ、あはははは…!あの状況で演技続行ってすごい舞台度胸ですね…!」
どくだみ「しかし最後のセリフ違いましたよね?これでアリなんでしょうか?」
鱫史「ははは!少し台本とは異なるがそれはそれでよしだな。流れは特に変わらないし、何より面白いからね!」
あきら「良かった。これでご飯にありつけるね」
どくだみ「最後のセリフ、最早ケイのセリフというよりはやてさんの言葉では…」
夏目「まあまあ兎鮫さんの許可が出たんですから。いいんじゃないですか?」
鱫史「うんうん。次こそバーベキューのシーンだ。美味しく頂こうじゃないか!」
親指を立てて満足そうな表情を浮かべるあきら。確かに撮影現場まで焼けた肉類の匂いが漂っており、それが食欲を刺激する。4人は頷き合うと、バーベキュー会場へと移動するのだった。
*****
心理「次は肝試しの撮影やね。順繰りに山の中を歩くって話しやけど…暗い山ん中で歩くのはそれだけでちょっと怖いかもなあ。道にも迷いそうやし」
礼之「まあ、複数人で歩くから大丈夫じゃない?いざとなればスタッフも周りにいるだろうし」
成十「よ、よしぽんって頼もしいよね…!僕はちょっと…怖いかも…」
駿平「おおお俺は全然平気っす!酒さえあれば…」
鱫史「うーん、なかなか不安を感じる顔ぶれだねえ!なにより、」
美弧「だだだ大丈夫よぉ!お姉さんがついてるんだから任せなさいっ…!……ひうッ!?!?!?」
鱫史「完全に怯えきってるね…大丈夫?」
美弧「みんなのお姉さんとして私が引っ張っていかなきゃだもの…っ!大丈夫、大丈夫よ…」
成十「役者としてかっこいい所の見せ所、だよね…美弧お姉ちゃんを見習って僕も頑張るよ…っ」
おかゆ「みんな、ファイトっ!まあうちもフツーに怖いんだけどっ…!」
どくだみ「あの、俺たちの番までまだありますし、動きをおさらいしておきませんか?ある程度流れを理解しておけば少しは恐怖心が薄れるかもしれませんし」
あきら「それ、名案。恐怖もみんなで分け合えば怖くないよね。おかゆ君さえよければ。どう?」
おかゆ「いいのッ?流れちょっと忘れてそうなとこもあるしめちゃめちゃ助かるかも!」
鱫史「うんうん。いい映画にするために切磋琢磨することは大切だ。それでは朝霧、那多、天野のシーンから撮るよ。よーい…アクション!」
カチンコの音を合図に美弧、成十、駿平が役へと気持ちを切り替え、暗い夜道へと躍り出る。明かりは最低限の照明と、心細い懐中電灯の明かりのみ。静かな空間に、草木を踏む音だけが響く。
みなみ『それにしても、本当に真っ暗だよね…うちら以外も先に行ってるはずだよね…?』
こはく『う…うん。くじで決まったとおり、私たちは最後の出発のはずだもの』
冬弥『っ…な、なあ、今なんか聞こえなかったか!?子供の声みたいなさ…』
みなみ『や、やめてよ〜!うち本当そういうの怖いんだから…っ』
こはく『ここって確か、噂があったよね、オバケが出るって…これも…』
みなみ『もしかしてうちらっ、ほんとにオバケに食べられちゃうの!?』
冬弥『っ…いやいやいや!そんなわけないだろ!ここは男天野冬弥!漢としてお前らを…守るぜ』
こはく『冬弥くん…』
みなみ『えへへ…頼もしいね…!』
冬弥『ん!そういうわけだからオレの後ろについてろよな、行くぜ…』
<その時、ガサガサガサッと激しい音を立て、大きく草木がざわめく。>
鼎『あ、ここにいたんだ…探したよ、みんな______』
3人「きゃああああああああああああああああああ!?!?!?!?(ぎゃああああああああああああああ!?!?!?!?)」
鱫史「…カット〜、流石に驚きすぎでしょ」
美弧「む、むりむりむり…!!!今の絶対お化けだったもん!ねえ駿平くん…!」
駿平「今お化けがすげぇ声で笑ってたよ…!!絶対そう!そう!」
成十「本当にびっくりした…まだ心臓ドキドキしてる…」
あきら「どうどう、落ち着いて。はい、水飲んで、深呼吸」
駿平「すぅ〜〜〜〜〜…はぁ〜〜〜〜っ」
美弧「………や、やだ〜…すっかり取り乱しちゃったわね恥ずかしい…っ」
成十「うん…僕も2人につられて我を忘れてたかも…恥ずかしい…」
心理「ほんまに苦手なんやね、おばけ。3人にとっては厳しい試練になりそうやね…」
夏目「あの…これ、台本ちょっと修正したりできないんですか?得手不得手とかもあるでしょうし、苦手なことをさせるのも酷かなぁと…」
夜詩「まあ…少しくらいなら脚本に相談して変えることは出来ると思うけど…」
どくだみ「なら、少し変更してもいいのでは?事情が事情ですし」
おかゆ「だね〜。ウチらももっかい台本覚えるとかさァ、出来ることは協力するし!」
礼之「そうだな。俺も皆さんに合わせるんで。台本修正、掛け合ってみます?」
駿平「はは…こんなに心配されるとか、あまりにカッコ悪すぎたっすね…ヒーロー失格だな…」
宗光「そんなことないと思うぞ!ヒーローは何度負けても立ち上がる!そうだろ?」
駿平「…確かにそうだな。レッドとして視聴者の前では最高にカッコイーとこ見せなきゃだよな。…ありがと、鷹司くん。俺の勇姿、見守っててくれる?」
宗光「おう!この俺が見ていてやるんだ、自信を持つといいぞ!」
駿平「あの、観月さん、南さん。怖いのは怖いんすけど…俺、もっかいやりたくて。一緒にやって貰えますか…!?」
美弧「……ええ!お姉さんとして、頼られたからには当然果たしてみせるわ!」
成十「僕も頑張ってみるよ!鱫史さん、もうワンテイクお願いします!」
鱫史「うんうん。諦めずに立ち向かう姿勢、俺は嫌いじゃないな。それならいこう、よーい…アクション!」
カチンコの音が鳴る。皆が固唾を飲んで見守る中、2度目の撮影では、恐怖も乗り越え、無事に完遂を果たしたのであった。
*****
鱫史「えー、本日の分の撮影の終了を祝し…乾杯!!」
全員「カンパーイ!!」
すっかり暗くなった山で、ぱちぱちと音を立て灯りを灯す赤い炎。キャンプファイアーの周りで酒宴が開かれていた。からん、と各々の持ったグラスが音を立てる。
駿平「カァ〜!!!アルコールが染み渡りますわぁ〜!」
夏目「駿平くん、お疲れ様でした。何とか終わってよかったですね」
駿平「マジよかったっすよぉ〜!どうなる事かと思いましたし!一瞬心ぉれかけましたもん〜」
美弧「ほんとよね…まさか肝試しの撮影がこんなに本格的だったなんて…!終わった今となってはいい思い出話になりそうだけどね!…うーん、お酒が美味しい〜…!」
夏目「皆さんの頑張りの結晶ですね。まだまだ撮影途中ですけど、映画の完成が楽しみになってました」
駿平「へへ…そうすね。あ、鷹司くん、ありがとね〜、ぉかげでヒーロー思い出した感じ!」
宗光「フ…フン!鷹司家跡取りとして当然のことをしたまでだ!…ごくごく。」
おかゆ「むねみつクン、ど?そのりんごジュース美味しいっしょ!」
宗光「ああ…しっとりと濃厚で…アレだ。果汁100%の味がするな…!」
あきら「うん。美味しいね、コレ。流石おかゆ君印」
おかゆ「別に印はついてないけどねっ!でもなんかはやてクン、楽しそうだね〜?」
あきら「人の楽しそうな姿見るの好きだから。こういう酒盛りはいいね」
心理「ふふ、それはちょっとわかるわぁ。みんな試練を乗り越えて、一皮向けた達成感?ありそうやし。いい空気感やなぁって思うんよ」
どくだみ「…これ…オーパスワンじゃないですか?こんな高級品誰が…」
美弧「えへへ、それはお姉さんが持ってきたとっておき!お値段は…ちょっと言えないけど、みんなに飲んで欲しいなあと思って!」
どくだみ「それはまた奮発しましたね…でも、うん、流石の味わい。値段だけの価値はありますね…」
美弧「ふふ、喜んでもらえてよかった!…あっ、このお酒も美味しい…!日本酒の渋さと辛さを極めてるわね…!」
駿平「ぁわかります〜?こっちもいいすよ〜、蔵識さんのツマミとよく合うんで」
夏目「お、じゃあ俺もそれ飲もうかな。いただきますね」
礼之「……一皮むけた達成感?というよりも単純に酒豪なだけな気もするな…」
心理「…そうやなあ」
成十「まあでもっ、楽しそうなのはいいことだよね!僕らも楽しもう!」
礼之「だな。心理ちゃん、成十、なんか飲みたいのある?グラス貰ってくるよ」
心理「ほんま?嬉しいわぁ。うちは甘い紅茶が飲みたい気分やな」
成十「僕も手伝うよ!」
役者たちがワイワイと話しているのを横目に、鱫史と夜詩は隣に座ってじっと炎を眺めている。
夜詩「なんかさあ…毎回飲む流れになってない?」
鱫史「はは、飲んで騒ぐのが好きなメンバーたちが多いからね!夜詩も嫌いじゃないだろ?」
夜詩「別に。俺はあくまで仕事と計画の一環だから参加してるだけ。こんな騒がしい集まりに興味なんかないから」
鱫史「そうだったね。仕事熱心で努力家な夜詩にとっては、こんな集まりない方がむしろ都合がいいくらいだったかな?」
夜詩「別にそこまで言ってないだろ!…人間関係が親密になれば、その分いい作品もとれるし、俺の計画も順調に進む。……だからこれは、このままでいい」
鱫史「そっか。…それなら夜詩のお気に召すままに」
夜詩「あーもう!とにかく映画!鱫史、カメラ出して。さっきの撮影の出来を確認するから」
鱫史「はいはい。これでいい?」
夜詩「ん。つっても画面小さいな…おい、鱫史。もっとこっち寄れ」
カメラには先程収録したばかりの肝試しのシーンが流されている。それを確認しようとした夜詩が、鱫史を引き寄せた。あ、と言葉を発する前に、鱫史の肩に、暖かな重みがかかる。
夜詩「…ん、今のセリフ、もっと迫力があった方がと思ったけど映像に残すとあえてためるのも印象に残るね。…なるほど。そういう魅せ方もアリか…」
鱫史「……ょ、うた、」
夜詩「ん、なに?…あ、今のちょっと戻して。もう1回みたい」
鱫史「…わかった」
心理「…なんやええ雰囲気やなあ」
どくだみ「兎鮫さんの動揺した姿、初めて見ましたね…」
礼之「まあ、肝心の星ノ宮さんは全然見てないけど。…ほんと、よくやるよな…」
宗光「こういうのって…アレだよな…」
あきら「もどかしい距離感。合ってる?」
心理「そうやなあ。まあ、そういうのを見守るのが楽しいわけやけど」
どくだみ「まあ、確かに。興味は湧きますね」
成十「いつか鱫史さんの想いが伝わるといいね…!」
2人を微笑ましく見守る役者たちの視線に、映像に夢中な夜詩も、突然の接触に戸惑う鱫史も気づくことはない。映画の撮影は、時々のトラブルを乗り越えながらも、順調に進んでいる。
役者たちの夏は、まだまだ続きそうだ。