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エピローグ後編〜結婚式〜

縁海「え、えっと……控室ってここであってるよね?」

しちみ「ええ、ネームプレートにも小粋さんの名前がちゃんと記されてますから」

美狐「本当にもうお邪魔しちゃってもいいのかしら?こういう時間って旦那さんと過ごしたりとか……!」

成十「ふふっ、美狐お姉ちゃんってば心配性だね。小粋さんがおいでって言ってたんだから大丈夫だよ」

やま「そうそう、気にせず入っちゃえばいいよ。お邪魔しま〜す」

あきら「先を越されてしまったな、先陣を切るとはなかなかやるね」

試写会を終えた少し先、飛行機雲がより鮮明に残る様な良く晴れた休日にプロジェクトメンバー達は再び顔を合わせることとなった。白が映えるその会場は、星を彷彿とさせるキラキラとした装飾や、リボンを用いてまとめられた花々で彩られている。

それもそのはず、今日この日こそ小粋と夜月の結婚披露宴なのだから。

控室の扉を開ければ、あらかた準備の整った花嫁とその友人が出迎えてくれた。

小粋「よく来てくれたね君たち!一気に活気が出て嬉しい限りだ」

縁海「わぁ……!小粋さん、凄く綺麗……!」

美狐「本当ね、プリンセスラインのドレスが華やかで素敵…!」

小粋「腕のいいデザイナー達に仕立てて貰ったからね、そう言って貰えると鼻が高いのだよ」

贅沢にレースやチュールが用いられ、花やパール、小さな星が飾り付けられたウエディングドレスに目をやった小粋はどこか得意げな笑みをたたえていた。

夜詩「小粋が可愛いのは良いとして、ご両親じゃなくていの一番に俺たちを呼ぶんだから本当に変わってるよ。今日の主役は」

成十「あれっもしかして親族のみんなを呼ぶ結婚式はやってないの?」

小粋「そういうお堅いやつなんかプランを外注しておけば何時でも出来るじゃないか。君たちに着彩して貰う式にするなら時期としては今くらいしかないからね」

あきら「試写会の時にも少し話をしたけど、皆それぞれの道を進んでいるし全員で集まる機会を作るのはなかなか難しいよね」

縁海「結婚式って形で……す、少しでもお世話になった2人に恩返しが出来るの、嬉しいな……!」

あに丸『これ以上ないくらい貴重な経験を沢山させて貰えた1年だったからね!』

やま「ちょくちょく変な事させられたけど、まぁ楽しかったなあ」

しちみ「君たちと出会う事も出来たし良い縁に恵まれた、と間違いなく言えるかな……と思います」

やま「あはは、嬉しいこと言ってくれるね」

縁海「わ、私もしちみちゃんと出会えて良かったと思ってるよ……!」

挿絵(By みてみん)

夜詩「縁といえば、そこの作家3人ともが良縁に恵まれたって聞いたけど合ってる?」

しちみ「そうですね、守りたいものが一つ増えました」

縁海「え、えっと……!えへへ、はい」

やま「縁海とはもう一緒に住んでたりもするんだ。お互い料理はそこまで得意じゃないから、ちょっと大変なこともあるんだけどね」

しちみ「美味しい食事をとりたくなったらいつでも家に来てくれて構いませんから」

美狐「という事は旅館で話してた想い人って彼だったのね!きゃ〜!おめでとう!」

成十「縁海ちゃんが幸せそうで僕も嬉しいなあ。ふふ、よかった!」

やま「え〜、なあに?俺の話してたんだ」

縁海「内容は恥ずかしいから、その、秘密にさせてね?」

やま「……俺に隠し事するの?」

縁海「そ、それは……」

あに丸『他のみんなに惚気てたのを本人に言うって、かなり恥ずかしいことなんだよ……!』

あきら「根掘り葉掘り聞くことがカップル円満の近道というわけではないと私は思うよ。まずは交換日記をしてみるとか」

夜詩「ええ?今どきの中学生でもそんな清いお付き合いしないんじゃない?」

しちみ「……ヒメジくん、エミちゃんを泣かせるような事だけは無いように」

あきら「すごいね、強いエネルギーを感じる」

やま「心配しなくても大切な人を傷つけたりしないよ。縁海と一緒に成長してくつもりだし」

縁海「しちみちゃんが心配しなくてもいいくらい立派になってみせるよ。二人で」

小粋「あははっその心意気やよし!縁海たちならきっと大丈夫さ」

しちみ「そうは言っても、可愛い妹はどうしても気にかけてしまうものなんですよ」

美孤「可愛い子こそ笑顔でいて欲しいものね。私も成十くんが悲しい思いをしていないかな、とか元気でいてくれてるかなって気になっちゃうし」

成十「美孤お姉ちゃんのおかげで毎日が輝いてるよ。僕はこのあったかい気持ちちゃんと返せてる?」

美孤「ええ、私にはもったいないくらい!」

やま「陽だまりみたいだなあ、いい家族になりそう」

成十「なりそう、じゃなくてなるよ!それは二人もきっとそうだろう?」

成十の問いかけを受けてやまと縁海は思わず目くばせをした。一度家族の在り方についてぶつかり合った二人、しかし今は違う。いつかお嫁さんとしてやまの傍へ、そう真剣に訴える縁海とそれが分からないながらも受け入れたやま。一拍置いて互いに微笑むと、ぎゅっと手を握ってから再び成十へ向き直った。

縁海「うん、やまくんと幸せな家族のかたちを探してみるよ」

和気あいあいと会話を弾ませていると、ふいに少しだけ重い扉の開く音がした。音の主は部屋にいる人間を一瞥すると、高い位置で括ったポニーテールを揺らす。

夜月「うわ。なんで姫山くんがここにいるわけ?」

やま「げえっ、輝さんこそなんでいるのさ。そっちも準備の時間でしょ」

夜月「僕は小粋くんに大事な許可を取りに来ただけ。このジャケット着なくていいかって」

窮屈なものが嫌いな夜月らしく、リボンを結んだ白薔薇がアクセントになっているジャケットは既に腕にかけられた状態だ。

夜詩「輝くんは相変わらずだな……大事な式くらいはジャケットくらいちゃんと着たらどう?」

夜月「えー、着ても着なくてもいいでしょ。服装一つで僕の価値が変化するわけでもないし」

小粋「うーん……まあいいか、せめて肩にかける努力くらいはしたまえよ」

あきら「いいんだ。フリースタイルというやつかな」

しちみ「スコブルさんはカガヤクさんに甘すぎるのでは」

縁海「ふふ、信頼関係がある2人だからこそなのかも」

程なくしてメイクスタッフが仕上げの作業をしに来たのを合図に、新郎新婦を控室に残し参列者は会場の方へと戻るのであった。

艶やかなシルクを纏ったテーブルの傍には既に大抵の見知った顔が揃っており、小さく手を振るものや立ち上がって駆け寄ってくるものの姿がある。

鱫史「どこに行ってたんだ夜詩!俺を置いていくなんて酷いじゃないか」

夜詩「はあ?小粋の所行くって言っただろ」

おかゆ「2人共相変わらずだね〜。まあ仲が良いのは良いコトだけどっ!」

要「まさしく水魚之交、といった所でしょうか」

宗光「……な、なんだそれ?夜詩さんは魚なのか?」

黎「水と魚みたいに切り離すことが出来ない親しい関係って意味ね」

しちみ「ミドウくん、……今日は遅れずに来れたんですか。偉いですね」

要「思い返せば引っ越しの日なんて一番最後にいらしてましたからね」

ケン「俺がちゃんと黎くんの事起こしましたから!一緒に住んでますしこれくらい朝飯前ってやつです!」

黎「いつも助かってるよ、ありがとねケン」

ケン「あははっいいんですよ、俺は好きな人の為ならなんだってしたいので」

口元をゆるめ、ほんの少しだけ熱を含んだ視線を黎におくるケンの表情は、普段目にするあどけない笑顔からはあまり想像のつかないものだった。普段ポップソングしか流さないコンポからモダン・ジャズを聞いたような。そんな不思議なメロディを日々身近で感じている黎は同じような目線を返すのであった。

やま「へえ〜意外だなあ。ケンくんってお世話される側なのかと思ってたよ」

成十「夜詩さん達のお部屋でかなりくつろいでたしね、ポテチバリィってあけて!」

宗光「温泉でも随分とはしゃいでたな。フン、この俺は寛大な心で許してやったがな!」

心理「好きな人の前では見せる一面ってやつやろか。ええなぁそういうん、うちも礼之くんのいろんな顔見てみたいわぁ」

礼之「心理ちゃんにはそれなりに見せてる方だと思うけどね。それ以上をお望みなら死ぬまでに引き出してみせてよ」

心理「ふふ、それはうちに対する挑戦やな?そないな風に言われたら燃えてしまうやない。覚悟しててな?」

成十「よしぽん達は大人の恋って感じだねえ」

礼之「これが大人な恋愛かと言われたら俺も返答には困るけど」

宗光「俺もいつかあれくらい余裕をもっておかゆに……」

おかゆ「むねみつクンはむねみつクンでしょ、ウチは今のままが好きだもん。それよりウチ以外見てる方が嫌!」

心理「ふふ、そう言われとるで?よかったなぁ」

宗光「あ、あんまりからかうな!!!」

鱫史「付き合いが長い奴らの披露宴に来たと思ったら、四方八方イチャイチャしていて胸やけしそうだな。……よし!俺たちも対抗してくっつこう夜詩!!」

夜詩「はいはい離れて暑苦しい。そういうのは家帰ってからにしろ」

ケン「家に帰って二人ならいいってことですか!?これがツンデレ……」

美孤「このいじらしい夜詩くんの対応が可愛らしいのよね」

しちみ「ふふ……微笑ましいですね」

黎「ああ、そういえばそろそろ新郎新婦入場の時間か。座っといた方がいいんだっけ、こういう時」

夜詩「もうそんな時間か、アナウンスしてこないと」

すっと透き通った耳なじみの良い声で夜詩は着席を促し、黒服のスタッフと頷きあってから主役の入場を告げる。照明が絞られ薄暗くなった部屋にスポットライトを点灯させる音が響けば、二人は満月のような丸い光に照らされる。

小粋は各席に手を振りながら、夜月は時折辺りを一瞥しながら高砂まで歩みをすすめた。一般的には腕を組んだり、手を繋いだりしてゆっくり歩くだろう場面をそれぞれ好きにしているのが、なんとも世とズレた価値観を持つ二人らしい。

その後は鱫史による開宴の言葉から始まり、プログラムはつつがなく進行していった。司会者の自己紹介が「じゃあ夜詩の経歴をイチからおさらいしよう、まず……」だったり、新郎新婦の紹介が新しく作った映画の宣伝にすり替わっていたりはしたが。

……つつがなくというのは嘘だったかもしれない。参列者はすっかり慣れてしまったその様子に時折楽し気な声を上げるのであった。

***

旧知の仲である三人が好き勝手しているのに少し眉を顰めながら夜詩が乾杯の音頭を取ったのが半刻ほど前。コース料理も残すところはデザートのみとなったところで、高砂には大きなウエディングケーキが運ばれてきていた。

おかゆ「ウエディングケーキッて実際に見たのは初めてだけど、結構迫力あるねっ!」

駿平「すごいな…、あんな量食べたら胸やけどころの騒ぎじゃ済まなさそう」

夏目「バケツプリンに似たロマン感じますよね、ウエディングケーキって」

駿平「いや別に…フードファイターじゃあるまいし……」

夏恋「お腹いっぱい甘いもの食べるの憧れちゃうよね!絶対顔パンパンになっちゃうから、女の子としてはやりにくいんだけど……」

Null「ふふ、顔がむくんじゃっても夏恋は可愛いよ」

夏恋「う~……灰夢にはいつでも一番可愛い私を見ててほしいの!」

心理「ふふ、いじらしいなぁ。女神さまはいつだって輝いてるで、なぁカイくん」

Null「うん。灰夢もそう思います」

どくだみ「はは、砂糖の暴力って感じですね」

要「そうだ。役者のみなさんがバケツプリン作って食べてみた、って動画出したら話題になりそうじゃないですか?」

深依「あー分かる。……でもそういう系の動画を作るなら、炎上しないように細心の注意を払わないとだよね。姉の事務所でもよく燃えてる人いるし」

おかゆ「それッてウチにも心当たりある人かなァ……」

しちみ「丁度主題歌やエンディングソングを担当してくれた方々が所属する所の……」

夏目「不安ならライブ配信にしてきちんと食べきったことを証明する、とかどうでしょう?」

礼之「なんでケーキを前にしてプリンの話が繰り広げられてるんだよ」

どくだみ「……ああ、そういえばNullさんって俳優業も兼任するんでしたよね。これからどっちで呼んだらいいですか?」

Null「あっえっと……俳優は灰夢、作家はNullって名義分けるけど好きな風にしてくれたらいいなって思うよ」

礼之「まさかあの喧しい箱の下にこんなのが隠れてたなんて想像もしてなかったけど」

Null「いやぁ、はは……」

前方では小粋がケーキナイフを持ってなにやら深刻そうに考え込んでいるおり、その横で小粋を見やった夜月がため息をつく姿が確認できた。この先で起こりうる展開を何となく察したのだろう。

妥々星「あれ、どうしたんだろう。まだケーキ入刀しないのかなあ」

しちみ「とても今からおめでたいことをする顔には見えないですね……」

要「なんとなく僕たちも予想がついてしまう所ですが」

小粋はたまたま高砂付近の席についていたケンの元へと笑顔で近づくと、パッと人懐っこい笑みを浮かべたケンの手にケーキナイフを握らせた。

料理に舌鼓をうっていただけなのに思わぬアイテムを手に入れてしまったケンは、少しだけ驚いた顔をする。

ケン「ん?小粋ちゃん、なんでこれを俺にくれるんですか?持って待ってろってことですか?」

黎「あー、僕なんとなくこの後何言われるか分かっちゃったかも」

小粋「いいや違うのだよ。ケンと黎、君たちが今からのケーキ入刀をやりたまえ!!」

夜月「はあ……まあそうなるよね」

夜詩「小粋は正気?一生にそうないイベントでしょこれ」

鱫史「そうだぞ頗流!それなら俺と夜詩に渡すべきだろ!!」

どくだみ「絶対に突っ込むべきはそこじゃないですよ」

小粋「もちろん私たちがやってもいいのだが、参加者がケーキを切った方が面白いだろう?構わないよね、夜月君」

夜月「構うって言ってもどうせ聞かないでしょ。君は」

ケン「こんな重要な役目を任されたらキッチリやらないとですよね、黎くん!二人で一緒にケーキ切っちゃいましょう!真っ二つにすればいいですか!?」

黎「ははっ!本当に受けちゃうんだ、これだからケンは一緒にいて飽きないよね。いいよ、やろっか。真っ二つにはしない程度に」

ケンと黎は渡されたナイフを互いに握り、刃先を生クリームからスポンジへ真っ直ぐに滑らせる。夜月は困惑しながらもその様子を見守っていた。

挿絵(By みてみん)

黎「ケーキって大きくてもこんなに簡単に切れちゃうものなんだ」

ケン「今日は予行演習させて貰えてよかったですね。俺たちも遅かれ早かれいつか結婚式をあげたいですし……あ!その時はケーキを切ったらベリーソースが出てくる仕様にしません?」

黎「海外アーティストのMVに出てきたようなやつってこと?若干グロテスクだけど、まあケンらしい提案か」

宗光「血を流すケーキなんて前代未聞だぞ!?作家先生は考えることも奇抜なんだな……」

夜月「二人が楽しそうで何よりだけど……小粋くんとの結婚式は一筋縄じゃいかないね」

ケン「そんなこと言って~、なんだかんだ夜月くんも小粋ちゃんのそういう所が気に入ってるんじゃないですかあ?」

夜月「否定はしないよ。変わったアイデアを実行するからこそ彼女らしい。……それに今日という一般的には素晴らしい日に、一波乱起こさない小粋くんも小粋くんらしくないと思うし」

鱫史「そもそもお前はカップルらしいイベントも好まなさそうだしいいだろ」

夜月「……ノーコメント」

こうしてウエディングケーキはこの状況をも楽しむ二人の男の手によって無事に切り分けられたのであった。これがプロジェクトで作品を作って以来初めての共同作業だったのだが、これで良かったのだろうか。

駿平「まさかこんなに早く元ルームメイトの披露宴が見られるだなんて思ってもみなかったな」

黎「ケーキ切っただけで披露宴なんて言わないでよ。これ切り分けたやつね」

夏目「俺たちもやります?共同作業。はいどうぞ」

駿平「ケーキくらい一人で食えますから……!!」

ケン「あ!いいですねそれ、黎くんあーん!」

黎「……ん、美味しい」

駿平「こっちは恥ずかしげもなく……」

ガヤガヤとした喧騒をするりと抜けて、闇のような黒髪は夜明けの雲に似た髪色の男性の元へ気まぐれに立ち寄る。

要「そういえば、ケーキ入刀には幸せな二人に悪魔が近づかないようにという魔よけの意味合いもあるそうですよ。あなたがやらせて貰った方がよかったかもしれませんね?」

Null「……そんな意味を知っちゃったら、なおさら断るしかないよ、俺。だって、俺の近くにずっといる悪魔の事を無下にするなんてできないから……」

要「そうですか。……どこまでもお人好しで優しい人」

夏恋「二人でこそこそ何喋ってたの~?ちょっと妬けちゃうな、って言ってみたりして……!」

要「ふふふ、月島さんを不安にさせてはいけませんね。僕はグラスが空いてしまったのでお酒を取りに行ってきます」

Null「……うん、行ってらっしゃい」

琥珀の瞳はすぐ雲間に隠れ、軽く手を振りながら背を向けた。二人の間の静寂を知る者も、黒い手袋に隠された要の左手の薬指が偽物である事を知る者も、ここにはいない。

美孤「あっ要くん!お姉さんが新しいシャンパン注いじゃうわよ~!」

あきら「私特製の健康に良いドリンクも置かせてもらっているんだ。よかったらご賞味あれ」

妥々星「凄く独特な色をしてるけど大丈夫なのかなこれ……中身はなあに?」

おかゆ「健康に近づけるなら試してみるのもアリかも……!?」

夏恋「……灰夢?何かあった?」

Null「あっううん、何もないよ。ちょっとお酒が回ってきちゃったのかも」

夏恋「そっか、ならもう後はお水かソフトドリンクしか飲んじゃダメだよ!もうすぐ外に移動になるんだから」

グラスを傾け、華やかなメロディを奏でるようにかつての仲間と語り合う。程よくアルコールが回ってきた頃合いで一同は屋外へと移動して行く。

***

気持ちのいいくらい青い空からサンサンと日光が降り注ぐ下、タイミングよく鳴った鐘の音が本日の一大イベントの始まりを告げる。

どくだみ「ふー……流石に真夏にスーツを着て外に出るとこたえますね」

黎「スーツは脱いでおこうかな。本当はスカーフも外したいくらいだけど」

じんわりとかいた汗を手で仰いで暑さを少しでも逃がそうとする男性陣の横で、熱のこもった瞳で何か深依は独り言を漏らしている。

深依「ブーケトス、いいシチュエーションで参考になるな……」

夏恋「参考?何かお洋服を作るときに使うの?」

深依「えっああいや、こっちの話!!」

宗光「まあ確かに、好きな人がああやってブーケを抱えて微笑んでいるのを想像するとなんかこう、いいよな!」

心理「幸せの絶頂やもんねぇ、うちもこういう式あげてみたいもんやわぁ」

深依「ブーケを投げる、好きな人……ウッ、ば、バウムクーヘン……」

妥々星「顔色が悪いよ深依サン……!」

宗光「な、何か俺は悪いこと言ったか……!?」

どくだみ「そうかもしれませんね」

宗光「えっ!?」

おかゆ「もう、宗光クンのことあんまりいじめないであげてよどくだみサン~?」

どくだみ「はは、すみません。鷹司さんの反応が初心でつい。」

心理「あの子は恐らく自分の中で葛藤してるものがあるだけやろうし、そやろ?」

縁海「う、うん……!」

あに丸『みぃくんはたまに自分の世界に閉じこもっちゃうことがあるから!』

Null「(誰を思ってるか分からないけど、言わんとしてることは分かるよ深依クン……)」

ぎゅっと宗光の腕にしがみついたおかゆから視線を外したどくだみは、その先にドレスを持ち上げて数段の階段をあがる小粋の姿を見た。

どくだみ「あんまり見ないデザインでいいですよね、今日のドレス。特注したんでしょうか」

しちみ「ああ、それはこの二人が……」

ずいっとしちみは衣装作家である二人の背中を押して前に出す。

妥々星「小粋さんと夜月さんからの依頼を受けてさ、二人で頑張ったんだあ」

深依「納期が本当に短かったから焦ったよ。夜月さんのタキシードがまだマシに思えたくらい」

妥々星「作業工程としてはどちらも重いんだけどね」

夏恋「所々私も演出のお手伝いしたけど、衣装ってそれの比じゃないくらい大変だったよね。本当にお疲れ様……!」

妥々星「ドレスの製作が立て込んでたからしちみサンには会社の方色々仕事やって貰っちゃったけど、今回は自分にとっていい経験になったよ」

しちみ「ウエディングドレス専門の職人になっても良かったかもね、君は」

妥々星「んー……ゼロからヒャクまで一人で担当する機会は人生で一度でいいかな」

夏恋「私のウエディングドレスも深依さんにデザイン手伝ってほしいな、いつか!」

深依「お安い御用、任せてよ」

小粋「おーい君たち!そろそろブーケを投げるから欲しい子は私の傍へ来ることだよ!」

Null「せっかくだし夏恋も行っておいでよ、小粋サンから受け取れたら縁起がよさそう」

夏恋「じゃあ頑張ってキャッチしてこよっかな!待っててね灰夢」

鱫史「どいたどいた、小粋のブーケを受け取って夜詩と結婚するのはこの俺だ!」

あきら「こうして左右に移動し続けていれば一人で三人分くらいのチャンスがあるはず」

駿平「うーん、凄い気迫……」

しちみ「ほら、タタセくんも」

妥々星「えっボクぅ……?こういうのってしちみサンがやった方が映えるしいいよ」

夜月「そこにいる、あー、どくだみくんはやらなくていいの?君みたいに恋人がいない人の方が、幸せを受け取るって意味で適してるんじゃない」

どくだみ「…はは、大丈夫ですよ。そう早急に幸せになることは望んでいませんから」

夜月「そう。それならいいけど」

小粋「__じゃあいくよ、それっ!」

小粋が投げたブーケは高く宙を舞い、前方で待機していたメンバーの頭上をゆうに通り越す。そして物理学にのっとって放物線を描き決めた着地点にいたのは、妥々星であった。

挿絵(By みてみん)

妥々星「わわっ、えっ、これボクが受け取っちゃった……!」

腕に収まったブーケに戸惑いを隠せない様子の妥々星に、色んな方向から拍手のシャワーが浴びせられた。

深依「こんなに奇麗に落ちてくるんだもん、きっと運命なのかも」

小粋「おめでとう妥々星!君の未来が幸多からんことを!!」

しちみ「ふふ、よかったね。君にはちゃんと幸せを引き寄せる力があるみたい」

妥々星「こうやって注目されるのはやっぱり気恥ずかしいけど、うん……自分が貰ったものは大事にしておこうかな」

そっとブーケを腕の中に抱く妥々星に、しちみは目を細めて微笑んでいた。自分が何かを受けとることに違和感を覚える、そんな彼の元に偶然か必然か幸が舞い込むその瞬間を見届けられたのが何より嬉しかったのだ。

一仕事終えた小粋の元へは、ブーケトスに参加していなかった夜詩がやってきていた。

小粋「夜詩にブーケを渡すという約束は違えてしまったな。今度個人的に花束をプレゼントしてもいいかね?」

夜詩「別にそこまでしなくたっていいよ。その、割と今幸せだと思うし」

夜月「すっかり絆されたね、君。見てもつついても飽きないよ」

夜詩「面白がってるだろ、失礼な奴……。というか、この前試写会で言いかけてたのなんだったんだよ」

夜月「何か言ったっけ?覚えてないや。……まあいいんじゃない。きっとこのままの方がさ」

ジトっとした顔を向けられても気にも留めない素振りの夜月は、次のイベントの準備があると小粋を連れて立ち去ってしまった。アメコミよろしく肩を落とす夜詩の背後から大きな影が突撃してくるまであと___

***

残すスケジュールもあと一つ、小粋と夜月の手で参加者には小さなバルーンが配られていた。

礼之「ちゃんとヘリウムが入ってるんだ、気を抜いたらすぐ飛ばしちゃいそうだな」

美孤「私の風船はハート型なのね!とっても可愛いわ!」

どくだみ「注意して紐を掴んでいないと……山田さん、風船自体を両手で挟むのはやめましょうね」

ケン「飛ばさないようにしようーって思ってたんですけど、マズイですかね?」

どくだみ「飛ばす前に割りそうで心配、……ああ」

ぎゅむぎゅむと風船を揉んでいたせいか、広い庭に破裂音が響く。「夜月くんごめんなさい~!」と走り去るケンの背中を母音にこっそり溜息をのせて見送った。

深依「バルーンリリースといえば、二人の幸せが天まで届くようにって願うのが定例みたいだけど」

礼之「今回ばかりはちょっと違うんだっけ、それぞれの願い事を込めて飛ばせっていわれたけど」

成十「そうそう、『私たちにとっては可愛いメンバーの幸せが自分にとっての幸福なのだよ!』って!」

要「小粋さんの真似ですか?ふふっ、特徴を捉えていていいですね」

やま「輝さんが俺たちの幸せを願ってるとはあんまり思えないけどな」

縁海「そうかな?プロジェクト中も相談乗ってくれてたしなあ……」

黎「はは、君が何か怒らせるようなことでもしたんじゃない?」

やま「え〜、俺何もしてないのになあ」

夏恋「お願いごとかあ……」

風船をぼんやりと眺めながら何を天まで届けたいのか、夏恋は思いを巡らせる。ニュアンスを変えるとしてもその願い中心に据えたいのは。

Null「あっ……わ、ごめん、真剣な表情をしてる夏恋可愛いなって思って見てて」

夏恋「うん、決めた!」

Null「? 何か悩んでたの?」

花火が夜空に大輪を咲かすようなその笑顔に首を傾げつつ、Nullもとい灰夢はつられて口角を緩める。横目でその光景を追っていた要もふっと小さく息を漏らし、そして空を見上げた。

新郎新婦による合図を受けて、全員が一斉に風船を空へとおくる。爽やかな夏風に少しだけ揺られながら、沢山の願いを込めた風船は高く高く、真っ白にのびる入道雲の方へと登っていく。

挿絵(By みてみん)

Null「あっという間に遠くに行っちゃった。ねえ、夏恋は何をお願いしたの?」

夏恋「灰夢がずっと、ず~っと私だけを見ていてくれますようにって。死がふたりを引き離したとしても、灰夢にとっての全部が私で構成されて、よそ見する余裕なんて出来ませんようにって」

Null「そっか。……そんなこと願ってもらえたら、ますます夏恋のことしか見えなくなっちゃうね」

夏恋「ふふっ灰夢は?私にも聞いたんだし、聞いちゃっていいよね?」

Null「俺は……、俺を見守ってくれるみんなが幸せでいてくれますように。かな」

夏恋「みんな、かぁ……ちょっと妬けちゃうけど、でもとっても優しいお願いだね。ふかふかのお布団みたいであったかそう」

要「……ふふ、」

夏目「どうしました?」

要「いえ、なにも」

駿平「こうもずっと上を見上げてると首が……あいたた…」

すっかり青の画用紙に絵具を点おきしたように、風船は元の形を観測することができなくなっていた。

鱫史「……さて、良い時間だ。そろそろお開きにするかな」

おかゆ「エ~っ!?もうそんな時間?楽しい時間は一瞬だねえ」

黎「まだ飲み足りないし、二次会にしゃれ込むっていうのはどう?突然の予約はどこもとってくれなさそうだけど、その辺は元主催の人たちがなんとかしてくれるでしょ」

あきら「いいね、やるなら私も参加させてもらおうかな。楽しそうな人たちを見るのが好きだからね。どくだみさんもいく?」

どくだみ「まあ、いいですけど…って承諾とる前に手を引っ張らないでくださいよ」

しちみ「早押しクイズみたいな先手の取り方でしたね……」

やま「作家のみんなで飲み会ってほとんどやったことないし、俺も賛成~!」

心理「縁海ちゃんは……ジュースにしとこか」

縁海「えっ……!?」

あに丸『エミはちゃんと成人してお酒が飲める年齢だよ!?』

宗光「俺はまだそんなに酒を飲んだことないからな……」

妥々星「大丈夫だよ、もし居酒屋になったとしても量に気を付ければいし」

深依「それならカラオケに行くっていう手もあるしね」

礼之「あーカラオケ……悪くないんじゃない?壁が大きい鏡になってる所もあるし写真撮りやすそう」

ケン「タンバリンなら任せてくださいよ~!」

夜詩「君のタンバリンはご遠慮したいところだけどね、歌が聞こえなくなりそうだし……」

参列者たちの姿が良く見える後方で、小粋と夜月は顔を見合わせた。

小粋「ふふ、みんなが楽しんでくれたようで何より。……これからも変わらずよろしく頼むね、旦那君」

夜月「旦那って肩書、イマイチしっくりこないね。……まあ、こちらこそよろしく。……奥さん?」

こうして長くもあり短くもあった作家と役者の物語はシーンカットのカチンコが打ちならされた。

これにて僕と危険人物のCP戦争16期は閉幕。

しかし、この節目は物語が終了を示唆するわけではない。なぜならこれからはそれぞれが自らの手で人生という名の映画を撮影していくことになるのだから。

それが喜劇となったのか悲劇となったのか、エンドロールまで撮り終えたらまたグラスを片手に映写機の前で語らおうじゃあないか。

さあ始めようか、続きの物語を。



<作家Side勝利報酬>

https://x.com/bokucp/status/1896536489775047062?s=46


<作家Sideエンドカード>

https://x.com/bokucp/status/1896537764893786623?s=46


<役者Sideエンドカード>

https://x.com/bokucp_2/status/1896537756043760107?s=46


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