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エピローグ前編〜公開記念試写会〜

???「ここが劇場か…」

???「お兄さんってあの、映画に出ている人ですよね?ファンです、握手してください!」

???「えっ!?まだ公開されてな…って蔵識さん、アンタ何やってんですか?」

夏目「はは、なんだか黄昏ていたようなので、からかってみたくなりました。考え事ですか?」

駿平「ええ…まあ。ここに来るまで色々あったな、と。友達が増えたり、禁酒勧められたり…」

夏目「人肉を食べさせられたり?」

駿平「そう、知らないうちに人肉を…ってこんなとこで何言ってんすか!あれマジでトラウマ級なんですからね、そもそもこんなところじゃ誰聞いてるかわかんないし…!」

夏目「ふふ、すみません。駿平くんにはつい冗談を言ってみたくなってしまってダメですね」

駿平「反省してください、全く…」

夏目「また美味しい普通のご飯作るのでここはひとつ、機嫌を直して貰えません?」

駿平「…まあいいですけど。やけに楽しそうですね」

夏目「言ったでしょ?俺、料理食べてもらうの好きなんですよ。その中でも食材にこだわりがあったわけですけど…。今は、貴方が食べてくれるだけで幸せ噛み締めてるので。惚れた弱みですね」

駿平「まあ、いいんじゃないですか。俺もアンタの料理は嫌いじゃないし…美味い飯を2人で食べる時間は、幸せだな、と思うんで…」

2人が目を合わせ、はにかむように笑い合う。まだ2人しかいない映画館で寄り添うように座っていれば、後ろから声がかかった。

心理「あ、先客がいたんやね。2人とも早いなあ。何しとったん?」

夏目「上演される劇場の下見を。お客さんが入る前に少し見たくなって…」

心理「考えることは一緒やね。うちらも下見に来たんよ。なあカイくん」

灰夢「うん。ここに俺が映ることはないけど…それでも、通りすがりの名無しさんだった俺が、初めてエンドロールに名前を連ねる。そういう意味で俺にとって意味のある大切な作品だからね」

心理「ふふ、おかえり、カイくん。ずっと待っとったよ」

1年間の中で芽生えた各々の思いの丈を伝え合ったバレンタインデーから数ヶ月。濃厚な1年を過ごしたメンバーたちは契約通りにマンションは引き払い、各々の日常へと戻っていった。

役者やクリエーターとして別の案件に励み始めた者、別の道へと挑戦し始めた者、それぞれいる中、その日は全員が集まることとなった。

記念すべき映画の公開初日、公開記念試写会である。

役者だけでなく主だったクリエーターたちまでが同居し、登場人物たちのように青春を過ごした生の体験を生かした映画の企画は話題を呼び、注目度が高まっているらしい。

チケットは完売。満席御礼。映画の上映時間を今か今かと待っている観客たち。そんな観客たち以上に、胸を弾ませるのが、他でもない制作陣たちだ。

まだ集合時間になってはいないが、ちらほらと観客のいない劇場に顔を出している。

緑海「わぁ…大きい劇場…!」

あに丸『こんなに大きな場所でボク達が関わった映画が公開されるなんてすごいや!エミも喜んでいるね!』

やま「まあ、ここは大きいだけあって試写会ではよく使われるからね〜」

深依「流石大作家先生、って感じだね。こういう劇場での試写会にも参加し慣れてそう」

緑海「やまくん凄いなあ…私はやっぱりまだ緊張しちゃう。もっと仕事をこなすようになったら慣れるのかな……?」

やま「人によるんじゃない?俺の場合最初からほとんど緊張しなかったし。ほら、深依さんもあんまり緊張してなさそうじゃん」

深依「まあ、挨拶して映画見て、関係者パーティに出席するだけだし。緊張するタイミングはないかな」

緑海「そ…そっかあ…みぃくんも凄いね……!」

あに丸『エミの場合挨拶もパーティも緊張するからね、ドキドキがいっぱいだよ!』

やま「大丈夫だよ、緑海。俺がついているし」

緑海「それは…どういう意味で、だろう?」

やま「んー…。大事な家族として?」

緑海「そっか…。私、頑張る。やまくんの彼女として隣に立ちたいから…!」

クリエーターたちが会話を交わしていれば、パンパン、と乾いた手の音で意識を引き戻される。音の主は今回の主催陣の一角を担う夜詩だ。夜詩はちらほら集まっていた人たちをぐるりと見回し、声をかける。

夜詩「そろそろ準備をはじめるよ。今日は君たちの晴れ舞台なんだ、気合いを入れてドレスアップしてよね」

鶴の一声を受け、皆顔を見合せて頷くと舞台袖へと入っていく。上映時間まで、もう少しだ。

*****

礼之「浅海凪葵は完全な善人というわけではありません。面倒事を避け、誰にでもそこそこに見えるよう器用に振舞ってきた彼がこの一年を通してどのように変わっていくのかを、どうぞお楽しみください。映像を通して皆さんの目にどう映るのか、終わったらぜひ、『# 青染ま』で呟いてくださいね。」

宗光「いいタイミングで宣伝を挟んだな!俺が褒めてやろう!」

礼之「ふふ、緊張して忘れないように、昨日の夜に何度も練習したので。ちゃんと忘れずにできてよかったです」

心理「…ああ、そうやったなぁ?うちも緊張して噛んでしまわへんか心配で夜も眠れへんかったわぁ」

ケン「あ!俺もです!いてもたってもいられなくて、夜に暫くピアノを弾いてました」

黎「君の場合はインスピレーションって感じがするけどね。本当は早く寝ておこうと思ったけど、僕もつい聞き耽っちゃった」

ケン「はい!お陰で1曲出来上がったので、後で皆さんにも聞いてもらいますね!」

しちみ「深夜のピアノですか…贅沢な夜更かしですね…」

宗光「そんなオシャレな趣味があったのか!?でも寝れなかったのは良くない、のか…」

やま「その割に全員寝不足には見えないけどね…?むしろツヤツヤしてそう」

灰夢「しー…!思っててもそれは言わない約束だから…!」

礼之「はは。はやてさんはどうですか?」

あきら「____今までの役者人生、女子生徒役を演じることはなく、新鮮な経験だった。それでも私なりに、役者の皆と切磋琢磨し全力で演じきれたと思う。どうか皆さんも、25歳成人男性渾身の女子生徒役を楽しんで欲しい」

おかゆ「ちょ〜っと待って、その表現ちょっと語弊あるんじゃない!?わざわざ年齢言う感じとか…!」

あきら「そう?私のアピールポイントだと思ったのだけど」

成十「うーん…どうかなあ…?まあ全力で女子生徒役を演じたのは確かだけどね!」

要「成人男性の女生徒役、確かに新鮮な配役ですよね。女形といえば歌舞伎ではよく知られていますが、当時は女歌舞伎が禁止されて女優を舞台で使えなくなったのが始まりなんですよ。ちなみに歌舞伎界では71歳現役で女形をしている方もいらっしゃるので25歳であれば全く問題ないと思いますよ」

成十「71歳…!?すごいね…そう考えると僕たちはまだまだこれからだね…!」

要「ええ。71歳でも100歳でも女役を務めることは出来ると思いますよ」

あきら「それは励みになるね。100歳でも舞台に立てる健康的なおじいさんになることを私の目標にしようかな」

夜詩「いやまあ…歌舞伎と映画は別物だと思うけどね。まあでも、そこまで生涯現役で役者出来れば嬉しいよね」

鱫史「勿論夜詩には生涯現役でいて欲しいね!俺のためにも!」

夜詩「はは…、監督、俺はいいので皆さんに挨拶してください」

開場して十数分。軽快に交わされるトークにすっかり場も温まり、観客たちは時折笑い声を上げながら、トークに見入っている。

各々が挨拶をしながら映画の見どころや舞台の裏話、思い出などを語る中、駿平へとマイクが渡る。駿平は観客への感謝を述べると、思い出を語り始める。

駿平「____思えば、この映画を撮る以前は本当に自分に自信がなくて、反省点が多かったです。でも、今回の撮影の中で色んな人に支えてもらって、考え方が変わってきて、…今の自分は嫌いじゃないな、…と感じたりします。そんな気持ちの変化を、映画の中でも感じていただけたら嬉しいです」

夏目「駿平くんは元から素敵な人だったと思いますけどね。そんな彼に惹かれて俺はマネージャー業に転向したわけだし」

駿平「ちょっ…蔵識さん…。それって今公開していい事じゃないんでは…?」

宗光「なっちゃ…夏目もそう思うか?俺もだ!!駿平は元から先輩役者だったんだし、もっと誇ればいいのにな!」

要「おや、そうだったのですか?」

駿平「いやいや…役者っていっても無名だし…」

宗光「無名じゃないだろ!俺はライダーで知ってたぞ!」

夏目「俺もこの間過去作を見ましたが、本当にバッチリ決まってましたよね。格好良かったですよ」

宗光「夏目も見たのか!?俺ももう一度見たかったぞ!誘ってくれればよかったのになー!」

駿平「や、待って、なんで映画の挨拶で他作品の話してんの…!いくらなんでも自由すぎでしょ…!」

宗光「はっ、確かにそうだな!じゃあアレだ、映画に関わりある話をすればいいんだよな…」

夏目「そうだね…それなら夏のキャンプのシーンを撮影した時の話でも。駿平くん、お化けが本当に苦手で、撮影どころじゃないぐらい怖がってたんですけどね」

駿平「ちょっと…その話はオフレコにしてくださいよ恥ずかしいから…!」

宗光「どうしてだ?ヒーローとして格好いいとこを見せてやるって撮影に挑む駿平、よかったのにな…!」

駿平「わ、わ、わー…!ストップストップ、マジでやめて…!」

挿絵(By みてみん)

どくだみ「はは…、これだけ大勢の前で暴露されるのは流石に不憫ですね」

黎「はは、完全無欠のヒーローよりも少しくらい弱みがあるくらいの方が親しみやすくていいんじゃない?」

駿平「御堂までノってくるのはナシでしょ……」

黎「そう?元同居人が楽しそうな姿は僕にとっても悪くないし、いいことだと思ってるけどね」

駿平「それはまあ…そうだけど…んん、なんかむず痒いな…」

小粋「明日にはネットニュースに取り上げられそうなのだよ。見出しはそうだね、『赤裸々暴露!ヒーローの意外な舞台裏の顔とは!?』とかどうだね?」

美弧「ふふ…、駿平くんには悪いけど、なんだか微笑ましい記事になりそうね」

小粋「はは!話題になりそうで何よりだね!そういえばあの時の様子は収録してあるかな?」

鱫史「ああ、まだデータは残っているはずだけど?」

小粋「もし好評ならNGシーン集として出そうじゃないか!他にも楽しい舞台裏があったはずだからね」

美弧「えっと…、ちょっと待ってちょうだい、あの映像は駿平くんだけじゃなく私たちにも流れ弾が当たってるわ…!」

あきら「NGシーン集か。私のお腹の音も公開されるということかな。それは少し恥ずかしいね」

どくだみ「それ少しなんですね…そこまで来ると尊敬します」

深依「芸能人って大変だな…身を削らなきゃいけないというか。恥も晒さなきゃなの、俺は務められないな」

小粋「え?勿論舞台裏として私たちの動画も出すよ。地味ハロウィンとかね!」

深依「え?あれ、門外不出の約束で着たはずなんだけど。約束と違うんだけど?」

灰夢「それ流れ弾すぎない?クリエーターの私生活まで出るのは聞いてないよ…」

夜月「何言ってるの、出さないからね。どうせならもっと分かりやすい冗談にしてよ。実は寝顔を盗撮してるとか」

深依「それはそれで分かりにくいって!」

作家たちの抗議に会場からまた笑い声が上がる。朗らかな雰囲気のまま上映前の挨拶は終了し、ブーっと上映開始のサイレンが鳴る。

先程までのトークで引き込まれていた観客たちは皆一様に、期待に満ちた表情でスクリーンを眺めはじめた。

*****

カラカラと射影機がまわり、スクリーンに大きく映し出される。舞台をはけて関係者席へと移動したメンバーたちはその映像に見入る。

パソコンなどを通して映像の確認はあらかじめ済ませてはいたものの、大きな音声、大きな画面になると見え方が異なる。映画館で見ることの醍醐味なのだろうその変化に、誰かが息を飲む音が聞こえた。

ケン「黎くん黎くん!今の音どうでした?セリフの盛り上がりにかけて音楽も盛り上がる構成に仕上げたんですよ!すごいでしょう!」

黎「…うん。確かに悪くないね。感覚派だと思っていたけど、君にも計算ができたんだね」

ケン「あ、今のはちょっと悪口ですね!俺にも分かりますよ!」

黎「悪口じゃないよ。君の新しい魅力を知れたな、と。そう思っただけ」

ケン「え!本当ですか!惚れ直しました?」

黎「まあね」

ケン「やったー!!帰ったらもっと褒めてください!」

黎「君は欲しがりだね。…まあいいよ。帰ったら楽しみにしていてよ」

どくだみ「はは、芸術家先生は映画のマナーを知らないんですかね、全部聞こえてるんですけど」

心理「どうやろなあ…まあ片割れは知っていても気にしてなさそうやけど」

どくだみ「はあ…」

妥々星「アハハ〜…ごめんなさい、後で2人にも言っておくので…!」

やま「言って聞くような2人じゃないと思うけどねー。それなら旅館のお風呂で飛び込んだりしないでしょ」

どくだみ「上司の教育の問題じゃないですか?」

夜月「えー、僕の責任?でも僕が教育してもどうにもならないものってあるでしょ。そっちの社長はともかく、他もみんなそんなものだと思うけど」

どくだみ「……そうですか」

心理「ふふ、思うことがあるなら直接いえばいいんやない?我慢は身体に悪いやろ?」

どくだみ「……貴女もお人が悪いですね…それが出来たら苦労してないんですよ。第一隣にはおかゆさんが…、」

小さく笑う心理に顔を顰めたどくだみが隣にちらりと視線を向ける。視線の先には想い人の姿。彼に大事な人がいると知っても尚、気持ちに整理がつきそうにない。おかゆは画面を真剣な様子でじっと眺め、うるりと暖かな涙を零している。

どくだみ「………これ、使ってください」

おかゆ「……、ハンカチ…?ありがと、どくだみサン…。ズズっ…」

どくだみ「…あーあ、このハンカチにいっそ睡眠薬でも仕込めばよかったな…強引でも忘れるまで監禁すればいいんだし…」

おかゆ「ふふ、いつもそんなこと言ってるけどさァ、どくだみサンはなんだかんだでしないでいてくれてるっしょ?」

どくだみ「その信頼につけ込まれるって言ってるんですよ。俺は今でも、」

ずごごごごごぉ…

どくだみが呆れたように視線を向けようとしたところで、2人の隣から飲み物を勢いよく吸う音が響く。

あきら「あ、ごめん。大きくなりすぎたね」

挿絵(By みてみん)

おかゆ「あはっ、はやてクン勢い良すぎ!ところでそれ何飲んでるの?」

あきら「水。水分補給は健康維持に欠かせないから」

どくだみ「ブレませんね…」

あきら「ありがとう。こんなこともあろうかと3本買ってあるから、良ければおひとつずつどうぞ」

おかゆ「えっ、それは用意周到すぎない!?」

どくだみ「……はは、はぁ…。考えても無駄な気がしてきましたね」

若干疲れた様子で水を飲むどくだみを横目に見て、おかゆも水分を補給する。スクリーンでは冬のシーンに差し掛かっており、丁度おかゆ演じる葛とどくだみ演じる華織が対峙していた。

おかゆ「ねぇ、どくだみサン。残念だけどキミの計画はもう実現できないよ」

どくだみ「え?」

おかゆ「ウチね、もう忘れないから!お医者さんに診てもらってね、ほとんど治ってきてんだ」

どくだみ「…はは、そうなんですね。残念です」

おかゆ「うん!好きな人のことも、友達のことも、どくだみサンがやったこと、どくだみサンが大事だなッて気持ち、ぜーんぶ忘れないからね!」

どくだみ「…それは困りますね。ますます諦めがつかなそうで」

あきら「……青いね、これは。空気を読んで私は黙っておこうかな」

夜詩「いや、注意してよ。今上映中ってこと分かってる?」

あきら「いいんじゃない?関係者席は一般席とは離れてて迷惑にならないし。そっとしておこう」

気づけばスクリーン上では音楽に合わせてエンドロールが流れている。役者たちの名前、制作陣の名前が音楽に合わせて次々に表示されていた。一大プロジェクトの終幕に客席からは自然と拍手が沸き起こる。今までに聞いた事のないほどのその喝采を静かに聞き入るのだった。

*****

映画の試写会が無事に成功したとて、今日の仕事はまだ終わってはいない。キャストや制作陣はもちろん、スポンサーやプロデューサーなども招いた関係者パーティが始まる。とはいえ忙しいのは全員と挨拶をしなければならない上層部達で、他のメンバーたちは時折かけられる声に応対しながらも仲間たちとの会話を楽しんでいた。

同じマンションで共同生活を行っていた頃とは異なり、全員で顔を揃えるのは久しぶりのことだ。近況報告に花が咲いていた。

成十「ねえ、よしぽんさっきクールな感じで可愛いアイドルさんに声掛けられてなかった?」

礼之「ああ、主題歌を担当したらしいね」

あきら「主題歌、爽やかな感じを予想していたから少し意外だったけど、映画を噛み締めるのにいい曲だったね」

ケン「あのユニットの音源聞いた時に溢れてきたメロディですね!男女2人組だったから声幅も出せるし!作曲が捗りました!」

深依「主題歌なら俺は別のユニットを推したかったけど…まあでも、いい歌だったね」

礼之「俺は別にアイドル詳しくないしなんでもいいけど…直接伝えればいいんじゃない?」

成十「ふふ、よしぽんも隅におけないよね!最近更に人気出てるよね?あんなに綺麗な彼女さんがいるのにね〜」

礼之「いや、俺人見知りだし、声掛けられても別に…。まあモデル業にも力入れてるからその影響だろうな」

成十「ふふふ、この間も雑誌の表紙飾ってたよね。僕も3冊買ったよ、観賞用、保存用、布教用!」

あきら「同じものを3冊買うんだ。それってなにか流派なの?」

緑海「あ、うん…!さ、最近…!」

あに丸『最近Nullさんに教えてもらったんだ!』

成十「そうそう。緑海ちゃんが作家陣の中で流行ってるって教えてくれて。だから取り入れてみたんだ!」

要「近年流行りの”推し”文化ですね。推し活ではごく一般的な買い方のようです。好きな物は多く所持していたい、人間らしい欲求ですね」

深依「3冊でも足りない時もあるけどね」

緑海「3冊でも…!?それは…すごいね…!」

深依「いや…うん、そうだね…」

あきら「いいね。観賞用、布教用、保存用、覚えておこう」

礼之「なんか変な文化覚えてないか?まあいいけどさ。それより、あのさ…成十はそのまま続けるのか?」

成十「なにが?」

礼之「いや…成十はだって、」

人目のある場所で言うのははばかられてか、やや言葉を濁す礼之。成十がなにかを言おうと口を開いたところでくいくいと服の裾を小さく引かれた。振り返るって頬を赤くした男の子が成十を見上げている。

男の子「えっとさ、えーっとさ、映画でいちばん可愛かったよ!だからこれ、あげる!もっと映画に出て、頑張ってね!大好きだよ!えっと、おね…おに…お兄ちゃん…?」

成十「わ、僕にくれるの?ありがとう、嬉しいな…。このまま君の推しになれたらもっと嬉しいかな」

男の子「推し…?」

夜詩「ずっと好きで応援したい人ってことだよ」

成十「あ、夜詩さん!」

夜詩「その人スポンサーの一人息子だから、あんまり変なこと教えこまないでね。今後ともご贔屓にしてもらわないと困るし」

成十「そ、そうなんだ!た、大変だ…推しとか言っちゃった…」

夜詩「別にいいんじゃない?それよりこれは君に訪れた大きなチャンスだよ。彼が君のファンになることで仕事の機会も増えるかもしれないし」

成十「ファンの人はファンの人だし、優劣はつけたくないな。…でも、僕を応援してくれる人にはみんな、僕をもっと好きになって欲しい。…よしっ」

男の子「ええと…」

成十「花束、本当に嬉しいよ。大事に飾っておくね。君にもっと好きになってもらえるように、…頑張るねっ」

男の子「えへへ、うんっ!応援してるね、おにいちゃん…おねえちゃん…、うーん?」

成十「どうしたの?」

男の子「映画の時は可愛いおねえちゃんだったけど、今はきれいなおにいちゃんだから…どっちがあたり?」

成十「あ、そっかあ。えっとね…」

性別の判断がつかず戸惑った様子の男の子に成十が返答しようとする。しかしその言葉は続かない。知らないうちに隣にいた声がそれを遮ったからだ。

美弧「成十くんは成十くんよ。男の子でも女の子でも、どちらでも素敵なんだから、それでいいでしょう?」

男の子「どっちでもいいってこと?」

美弧「そう。性別の括りじゃなく成十くんを応援して欲しいわ。お姉さんとの約束、できるかしら?」

男の子「わ…う、うん!約束する!」

夜詩「何かと思えば…小さい子供に何言ってんだか」

挿絵(By みてみん)

美弧「だ、だって!成十くんの本当の姿は私だけが知っていればいいもの…」

夜詩「うーん、まあ観月さんらしいといえばらしいけどね」

美弧「夜詩くんは恋人の秘密を自分だけ知ってたい、とか独占したくならないのかしら!?」

夜詩「え?俺?…いや、鱫史はないだろ。そもそもそういう秘密が。常に全て晒けだしてるから隠す余地がないね」

美弧「そ…それは確かに…」

よく目立つ紫髪の男へと視線が向かう。男は相変わらずの声で誇らしげに何かを語っている。この1年の付き合いで、あれは夜詩の自慢を語っているときだ、と察しがつく光景だ。

美弧「で、でも、そこもまた鱫史くんの魅力のひとつ、ということでしょう?素敵だと思うわ!」

夜詩「気を使ってくれてどうも。まあ裏表がないところは俺も…褒めるべき点だとは思ってるかな」

成十「ふふ…ずっと応援していたので、無事に結ばれて安心しましたっ」

夜詩「お陰様と…まあ色々あってね。半分はあいつの真っ直ぐな押しに根負けした気分だけど」

夜月「僕としては彼に裏表がないは疑問視すべき点だけどね。…まあ知らぬが仏、というべきなのかな」

夜詩「輝くん?…何か知ってるの?あいつのこと」

夜月「んー……君よりは知らないよ。強いて言えばなんとなく察しがついてる程度」

夜詩「察し?なんの話してるわけ…?」

夜月「さあ。けど正真正銘、君がずっと近くにいたんだし。僕の根拠のない言葉なんかより、君の知る兎鮫くんを信じてあげたらいいんじゃない」

美弧「何の話なのかしら…?夜詩くんにも分からないみたいだし…」

夜月「まあそういうことで、星ノ宮くんが呼ばれてるみたいだよ。社長が君に挨拶したいってさ」

夜詩「…あ、ああ…うん。今行くよ」

僅かな疑問を残したまま、夜詩は夜月に連れられていく形で去っていく。いつの間にか他のメンバー達行動したようで、その場には美弧と成十のふたりが残った。

成十「うーん…さっきのは一体どういうことだったんだろうな…」

美弧「謎は謎のままだけど…一旦、それは置いておいて欲しいわ。…せっかくふたりになったんだもの。…成香ちゃん」

成香「…いいの?誰に聞かれてるか分からないよ?別に僕はいいんだけどね」

美弧「大丈夫よ、今は周りに他に人はいないし…自分の目の前の人を見るのに夢中だから。みんなも、私も」

成香「ふふ。それは僕もだよ。…少し待たせちゃったけど、僕にとっても君はもう、かけがえのない特別な人だもん。…君が望むなら、君だけの南十日成香でいるよ」

美弧「ふふ、成香ちゃんてば私をどこまでも甘やかしちゃうんだもの!どんどん我儘になっちゃうわ。…お姉さん失格かしら」

成香「ううん、そんなことない。僕は大好きな人の大好きな姿でいるのが幸せなんだよ?だから僕を美弧お姉ちゃんの理想でいさせてね」

美弧「ふふ、もちろんよ!ずっとずっと、私だけの成香ちゃんでいてね」

愛すべき恋人をじっと見つめ、そっと手をにぎりしめる。2人の愛ははぐれることはない。彼女たちのポケットで震える携帯が互いの位置情報を刻み、その証拠となっている。愛の形は人それぞれ。ようは幸せであればそれでいいのかもしれない。

鱫史「____そっちの事務所はどう?」

礼之「ええ、まあ。悪くは無いですよ。モデル業の仕事も事務所を通して入ってくるし」

鱫史「ああそうか。せっかく俺の夜詩がうちの事務所でもモデル業をやりたいならしてもいいって言ったのに、それを断ってまでわざわざ移籍するから余程いい職場なのかと思ったけど?」

礼之「まあ、あの時点で決まってましたし…」

鱫史「そう!移籍を上に相談なく決めるってどういうこと?夜詩ときたら相談するに値しない上司だったのかと暫く気にして「部下から信頼される上司になるハウツー本」を密かに読み耽っていたんだからな?流石夜詩、勉強家だな!」

礼之「え、特に言及されなかったけどそんなことしてたんですね…というか俺に惚気けないでくださいよ」

鱫史「ああ、悪い!やっと名実ともに俺の夜詩となったんだ、意識せずとも夜詩の話に繋がってしまうんだ!」

礼之「面倒な性質ですね…まあ、眼中に無い頃から大して変わってない気がしますけど」

心理「礼之くん、ここにおったんやね」

礼之「ああ、心理ちゃん…、と、えっと、夏恋ちゃん…でしたっけ」

夏恋「そう!貴方がココロさんの彼氏さん?」

礼之「そうですけど…心理ちゃんって夏恋ちゃんと仲良かったんだ?話してるイメージなかったけど」

心理「今日話しかけて意気投合したんよ。彼女はカイくんが選んだ人なんやろ?うちにとっては女神様のようなもんやからな」

夏恋「えへへっ、照れちゃうなぁ!ココロさんってば大袈裟だよー!」

心理「大袈裟やあらへんよ。カイくんが役者をもう一度目指すきっかけになった大恩人や。御祝儀に1000万包んでも足りないくらいやな」

夏恋「ふふ、ココロさんって冗談が面白いね〜っ」

鱫史「いや、冗談じゃないんじゃない…?この場合」

灰夢「夏恋」

夏恋「あ、灰夢!」

灰夢「話し中だった?それなら少し待ってようか」

心理「ううん、ええんよ!カイくんと夏恋ちゃんの間に割り込むような愚かな真似はせんから。カイくんをよろしゅうな」

灰夢「そう?…色々ありがとね。じゃあ、夏恋。行こっか。君をエスコートさせて欲しい」

夏恋「はい、喜んで。…えへへ、どこまでも連れていってね、灰夢。余所見したら嫌なんだから」

灰夢「ふふ……もちろん。約束したでしょ、死ぬまでずっと、夏恋に愛をあげるって」

夏恋「えへへ、そうだったね…」

ふたりが手を取り合って会場に進む姿を見送っていく。満足そうな笑みを浮かべる恋人の姿にやや不満を抱いたのか、礼之は少し拗ねたような声色で声をかける。

礼之「俺だけを見てるって約束じゃなかった?」

心理「礼之くんはヤキモチ焼きさんやね。なんて。言ったやろ、憧れの人とは別の好意なんやって。カイくんに好きな人がいるのは祝福できるけど、礼之くんに他に好きな人が出来たら嫌やもん」

礼之「まあ、そうじゃなかったら殺すからね。あんた以外の女の子じゃ満足出来なくなったんだよ。その責任は最後までとってよ」

心理「望むところやよ。未来永劫うちの特別は礼之くんだけやって、飽きるぐらい伝えるわ」

礼之「…はは、やっぱり心理ちゃんはいいね。俺と同じくらい」

心理「そうやろ?こんなに魅力的なココロちゃんを捕まえる礼之くんも、うちと同じくらい最高な男やと思うわ」

礼之「当然。…じゃあまあ、ここはさっきの流れに一応乗っておくか。…心理ちゃん、エスコートさせてよ」

心理「ふふ、喜んで」

鱫史「あー……夜詩のところにいこうかな」

挿絵(By みてみん)

二人の世界を作り上げた2人が腕を組んで去っていく。すっかり空気となっていた鱫史はといえば、苦笑を浮かべ、挨拶回りに追われる恋人に思いを馳せるのだった。

妥々星「えぇ、キミたちも同棲してるんだね…」

おかゆ「まあね!春にマンション退去しなくちゃでタイミングよかったしねー。よしのクンたちもみこねぇたちも同居してるっぽいよ!」

妥々星「そっかぁ。ボクたちの周りも結構多いよ。すごいなあ…」

しちみ「おふたりはどうして同棲に踏み切ったんですか?」

宗光「え!?それはまあアレだ、俺が…」

おかゆ「むねみつクンが一緒に住んだらどうだって誘ってくれてね!顔真っ赤にしてもごもごだったけど嬉しかったなー!」

しちみ「そうなんですね。勝手な想像で不快にさせたら申し訳ないのですが……タカツカサくんは奥手なイメージがあったので、少々意外でした」

宗光「この俺が奥手だと!?お、俺は普通だ!ちゃんとおかゆの彼氏が出来ている…はずだ!」

おかゆ「アハハ、奥手なのは違いないけどねー!すぐ顔真っ赤にしちゃうし!」

宗光「おかゆ!」

しちみ「キメるところはキメる、ということですね。……タタセくんはどうかな」

妥々星「ボク!?えぇ〜〜…だってほら、そういうことはちゃんとしたい、し…」

しちみ「ちゃんとするも何も、既にプロポーズはしたよね。私が妥々星くんを幸せにするのは決まっているんだから、気にしなくていいと思うのだけど」

妥々星「あ〜……ボク飲み物取ってくる!」

しちみ「あっ。……待って、タタセくん」

恥ずかしさから耳まで赤くして逃げるように飲み物を取りに行った妥々星をしちみが追いかける。残されたおかゆたちはといえば、顔を見合わせ、どちらからともなく笑いが沸き上がる。

おかゆ「『キメるところはキメる』だって!肝心なところでキマらないのがむねみつなのにねー!」

宗光「そっ、そんなことないだろ!!俺はおかゆの前でもいつでも格好いいはずだ!!」

おかゆ「そーだね、むねみつはいつでもカッコいいよ」

宗光「……そ、そうか、まあ、当然だな…フン…」

おかゆ「ほんとに感謝してるんだ、むねみつがいたから今、こうやって笑ってここにいられるんだ。毎朝記憶の心配をしないで、「おはよう」って挨拶ができる幸せが…ウチはすっごく、嬉しい」

宗光「……俺もだ。…おかゆ…俺は…」

あきら「ちょっと失礼。…あ。今いいところだった?」

おかゆの両手を握って向かい合う宗光が意を決してなにかを口にしようとしたところで、二人の間にひょいと割り込む影。トングを片手に背後の料理をとろうとしたあきらは、そこでやっといい雰囲気になったことに気づいたらしい。カチカチ、とトングを鳴らし、暫くの間。

あきら「…私のことは空気だと思って、続けて欲しい」

おかゆ「うーん!それは無理があるかな!」

あきら「そんなことはない。ほら、3、2、1、キュー」

宗光「おかゆ…俺は…、………いや無理だろ!普通に恥ずかしいし!」

あきら「そう?私は嬉しいけど」

おかゆ「嬉しい!?なんで!?」

あきら「私の大切な友人たちが皆揃って幸せそうにしているんだから。これ以上に幸せなことってある?」

あきらは、優しい笑顔を浮かべていた。普段表情の乏しい男の温和な表情は、本心からそれを言っていることを物語っていた。

あきら「友人たちが幸せで愛犬も健在。これ以上望むことが思い当たらないかな」

宗光「愛犬…そういえばあきらのわんこ、CMに出てなかったか?」

あきら「あ。見てくれた?ブラックダイヤモンド、タチカゼ病院のリニューアルCMを機に看板犬デビュー。これ、最近の一大ニュース」

おかゆ「本当にはやてクンのわんちゃんだったんだ…デビューおめでとう?」

あきら「うん、ありがとう」

美弧「あら、ここにいたのね!何の話をしていたの?」

あきら「クロがCMに出たんだ。今は看板犬になっているって話」

美弧「あら、そうだったの?クロくん、すごいのね…!良ければ今度また会いたいわ…!とびっきりのドッグフード持っていくわね!」

あきら「うん。クロも喜ぶ。…いつでも待ってるよ」

夏目「うんうん。俺もクロに会いに行きたいですね。その時は美弧さんに負けない、美味しいご飯を用意しますよ」

駿平「…あの、悪いことは言わないので、その時は俺も呼んでください。クロくんに食べさせる食材選びは俺も監修したいんで…」

あきら「いいの?それなら是非。人数は多い方が楽しいから」

成十「ふふ、よかったね…あ、違った!役者のみんなで記念写真を撮ろうって話になったんだよ!3人も行こう!」

美弧「そうだったわ!お姉さんとしたことが、すっかり忘れちゃって恥ずかしいわ…!」

宗光「集合写真!そうだな!せっかく全員で集まった記念日だ、最高の1枚になるだろうな!」

成十たちの提案に頷くと、友人たちの待つ場所へ向かっていく。無色が青に染まるまで。題名と同じくして、皆それぞれが青い春を迎えることが出来たようだ。

*****

小粋「_____そういうわけだから、是非来てくれるかい?」

夜詩「当然。小粋には色々世話になっているし…それに、そうでなくても友人の大切な日に、参列しないほど薄情な覚えは無いからね」

小粋「うん、嬉しいよ。…じゃあ、待っているのだよ」

最後の相手だった小粋と別れて挨拶回りが落ち着き、ふぅと一息をつく。ワイングラスを傾け喉を潤していると、聞きなれた声が夜詩を呼び止めた。

鱫史「夜詩!変な男にナンパされたりしてない?大丈夫?」

夜詩「俺は男だ、なんで男前提なんだよ…ったく、鱫史は心配性すぎなんだって」

鱫史「大体挨拶回りなら俺も着いていくって行ったのにそれを拒否する夜詩が悪いんだろ!」

夜詩「だってお前がいると口を開けば俺の話か失礼なことしか言わないし、来賓の人の応対やりづらいんだよ」

鱫史「いやいや!忘れてるかもしれないが、俺は天才役者だぞ?その気になればいくらでも取り繕える!」

夜詩「自分で言うな。取り繕えるなら普段からそうしろよな…」

鱫史「だって夜詩はモテるだろ?大学時代から男女問わず色んな人に告白されてたのも知っているし!…俺がアピールして牽制しないと、急に掻っ攫われるかもしれないから…」

夜詩「…お前、そんなこと考えてたわけ?」

鱫史「そんなことじゃない…!俺にとってはそれだけ夜詩が重要で、…!」

夜詩は口を塞ぐように覆い、鱫史の言葉を遮った掌に口付け間接的なキスをしてみせる。驚いた様子で目を見開く鱫史を睨みつけ、頬を膨らませた。

夜詩「わざわざんなことしなくても俺は鱫史しか見てねぇよ。俺の一途さなめんな」

鱫史「…夜詩」

夜詩「……集合写真とるってみんな集まってるみたいだから、鱫史もいくぞ。…丁度預かり物もあるからな」

鱫史「あ、うん!」

まだ少し苛立った様子の夜詩の後を追いかけながら、鱫史は「いかにして彼のご機嫌を取ろうか」と思考する。そんな脳内を露知らず、夜詩はずんずんと歩き、愛すべき友人たちの元へと向かっていく。

彼の手元には預かり物がひとつ。結婚式の招待状が握られていた。

【後編に続く】


<SiseA 勝利報酬>

https://x.com/bokucp/status/1896181475529372093?s=46

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