冬後期〜慰安旅行 前編〜
小粋「いやあ、外に出ると流石に寒さが身に染みるね」
夜詩「少し都心から離れただけなのに、普段より気温が下がったように感じるよ。でも空気は澄んでていいね」
鱫史「こんなちょっとしたことでも風流を感じるとは流石夜詩!感性まで奇麗だな……」
夜月「あー、そっちは今日も仲良さそうで何より。ねえ、旅館の受付って小粋くんだったっけ」
小粋「ああ、任せたまえよ。すぐに手続きを済ませてくるからね」
本拠地としていた都心から車で一時間と少し。雪も見慣れたものとなった冬の瀬に、若者たちは郊外の旅館へと訪れていた。一年という短い期間で行われた映画プロジェクトは無事に全ての撮影を終了し、迎えたクランクアップ。今回はそのご褒美にと主催陣が企画した慰安旅行というわけだ。
小粋が手を振って受付を終えた合図をすれば若者たちは白い息を吐き、談笑しながら続々と旅館へと足を踏み入れる。楽しい楽しい旅行のスタートだ。
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各々浴衣や半纏に袖を通し、初めに向かうは宴会場。ステージまでついている広い座敷には若者たちのために食事のセッティングがされ、机の上には旬の食材を使った数々の品が美しい器に盛り付けられ並べられている。
おかゆ「えー!見て見てみこねぇ、超おいしそ~っ!食べちゃう前に写真撮ッとかないと!」
美孤「ふふ、そうね!宝石みたいにキラキラしていて食べるのが勿体ないくらい!……本当に……うん、高級そうだわ……」
深依「器とかちゃんとしてるしね。あんまり格式ありそうなコース料理って食べる機会ないからちょっと緊張する」
小粋「そう気負わなくてもいいのだよ、食事は楽しむのが一番だからね!今日は無礼講ということで楽に過ごせばいいさ」
あきら「それならお言葉に甘えておこう。……そういえば、こういう最初に出される料理ってなんて言うんだっけ。前座みたいな」
しちみ「……それは、落語の用語な気がします。でも、確かに改めて考えると思いつかないものですね」
Null「言われてみれば……なんていうんだろうな?あっあれだ、お通し?」
黎「それ居酒屋じゃないの?」
要「ふふ、ぬるぽさん惜しいです。和食の場合は先付けですね。コース料理の中で一番初めに出るものの事を言うんですよ」
夏目「おおー、詳しいですね。その季節で旬のものを取り入れる、というのも工夫の一つだったり」
おかゆ「さッすがなつめサン!旅館の息子だし料理上手だもんねェ」
要「わあ、そうだったんですか?そんな方の前で知識を披露してしまったのは、少し恥ずかしいですね」
しちみ「大丈夫ですよ、ひけらかすような態度でもなかったですし……寧ろスマートだったと思います」
あきら「それを言ったらまず前座なんて発した私はどうなるんだろう」
深依「ふ、ふふ……淡々とした感じがまた面白さを際立ててるね」
夏目「気にしないでください。俺としては用語を知ってくれている人がいて嬉しかったですし」
黎「これがフランス料理だったら最初の一品の前に食前酒が入ったよね。アペリティフだっけ」
あきら「アルコールを体内に入れておくことで食欲を増進させる、辺りなのかな効能は」
美孤「あ、あの~……そういえば今日お酒って飲めるのかしら……?」
小粋「ああ、もちろんだとも!酔いつぶれない程度に好きなだけ飲むといい!!」
Null「いっぱい飲め!おかわりもあるぞ!!」
おかゆ「小粋サンが言ってた酔いつぶれないようにッていうの忘れないようにね~?」
美孤「やったぁ!あっえへへ……うん、そこは気を付けマス……」
次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ち、それを酒で流すのは贅沢の極みであり至高。若者たちは表情や姿勢を崩してコースを一通り楽しんでいる。
しちみ「……あの、ナツメさん。よければ一杯どうでしょう。休憩中でしたら、その……すみません」
夏目「ふふ、丁度おかわりが欲しいと思っていた所なんですよ。お酌頼んじゃおうかな」
しちみ「よかったです、では……」
夏目「おっとっと」
お猪口に注がれた日本酒を夏目はクイっと煽った。
夏目「和食と日本酒の食べ合わせって落ち着きますよね~。しちみさんは日本酒お好きで?」
しちみ「ええ、それなりに。……でも、私は焼酎の方が飲む機会が多くて。なので日本酒の味について詳しく語れは……」
夏目「あはは、そこまで求めないですよ。確かに味の感想は聞けたら嬉しいですけど、ほら。美味しいって言葉が一番うれしいですから」
しちみは夏目に注ぎ返された猪口を組み元まで運び、そうですか……と唇を日本酒で濡らしながら小さく返事をした。
美孤「なになに、お酒の話?お姉さん気になっちゃう!混ぜて欲しいな~!」
そこにやってきたのは既に出来上がって陽気な様子の美孤である。両手にとっくりを持つその姿からはまだ飲むという強い意思を感じた。
夏目「美孤さん、もう楽しそうですね。ふふ、もちろんどうぞ?」
しちみ「……、ミドウくんも一緒にどうですか。お酌ならしますから」
黎「意外だな、僕をご指名なんて。まぁいいよ、人とお酒飲むの結構悪くないなって思うし」
しちみ「……ああ、丁度空になってますね。どうぞ」
黎「うわっ、ビックリした。ふうん……結構大胆に注ぐんだね?」
美孤「ねえ、しちみちゃんは焼酎の飲み方にこだわりはあるのかしら?さっき聞こえちゃって」
夏目「割り方や添え物一つで味も飲み口も変わってきますから、何かあるなら俺も聞きたいですね。色々と参考になりそうですし」
黎「意外とストレートで一瓶いってたりして?」
しちみ「そんな大したことは……金魚割りが好きなくらいで……」
夏目「金魚……って大葉唐辛子ですよね?凄く乙な飲み方をされるんですね」
黎「大葉と唐辛子で金魚?……、赤いからってこと?」
要「確か見た目が由来だったはずですよ。大葉が水辺の葉、唐辛子が金魚のようで眺めていたくなるといった風に」
美孤「そうなのね、また一つ賢くなっちゃったわ……!それにしても、なんだかみんなお酒強そうね……ぐぬぬ」
要「強いと言えば一人とびぬけている方がいますよ。ほら、小粋さんの方を見てください」
しちみ「スコブルさん?……あの空いたとっくり見ると、もう三合以上はのんでますよね……」
黎「あんまり全員顔をそろえて飲む機会がないから知らなかったけど、あの人お酒強いんだ。顔色一つ変わってなくて寧ろ怖いくらいだね」
夏目「俳優陣の方はそこそこの頻度でお酒を酌み交わす機会がありましたね。夏のキャンプ撮影後にみんなでお酒やおつまみを持ち寄ったり」
要「素敵ですね、そういう場があるとみんなの好みも把握出来ますしメンバーの仲を深めるにはうってつけという感じがします」
美孤「あの時夏目くんが持ってきてくれたおつまみ美味しかったわね!日本酒にとってもマッチしていて……!」
しちみ「……そういえば見ましたよ、ハロウィンの時にやっていた特番。番組内でもミツキさん…日本酒を飲んでらっしゃいましたよね」
黎「あーあれね。日本酒を飲んでいたというよりは飲まれていたって感じだったけど」
美孤「お、お姉さんあれちょっと気にしてるのよ~っ!?も~!!」
夏目「あはは、でも酔っている美孤さんも可愛らしかったですよ」
しちみ「ええ……思わず守りたくなるような感じで」
美孤「それはそれでちょっと恥ずかしいかも……」
アルコールに加えて誉め言葉でも赤く火照った頬を美孤が押さえるその後ろで、一瞬話題の上がった小粋の様子をあきらが伺っていた。
あきら「小粋さん、そのペースで飲んでいて大丈夫?和らぎ水もあまり挟んでなさそうだし……酔いは回っていない?」
小粋「ん?ああ。大丈夫だ、問題ないのだよ!気分が爽快になっている程度だからね」
Null「エル〇ャダイキチャー!wサマになんなあ」
深依「それ褒めてるの?」
おかゆ「これがイワユル酒豪ってやつねっ」
小粋「あっはっは、あまりその自覚はないが」
あきら「大丈夫そうでも早めの水分補給が大事だよ。これどうぞ」
小粋「おお、お気遣い感謝するのだよ!ありがたく頂戴するとしよう」
深依「え、あれ?さっきまで小粋さんに話しかけてたよね?いつの間に水持ってきてたの?」
あきら「いつでも最速の行動を目指してるはやてあきらと覚えておいて欲しいな」
Null「最速の男はやてあきら……二度と忘れる気がしないぜ……」
小粋「だいぶみんな酔いが回って良い具合になってきたね。……ところで、何か今一つ物足りないとは思わないかね君達」
黎「あー、僕ちょっと水取りに行ってこよ」
美孤「水ならここに……ってあら?もういない?」
おかゆ「エッものたりないってナニ!?ダメだし?」
あきら「食に関しては充実してると思うけど、なにをご所望なんだろう」
オロオロと焦るおかゆの肩にNullは腕をかけ、その横で深依はひとさし指を自分の唇にあてる。
深依「シッ、それ以上反応すると小粋さんのターゲットにされるよ」
Null「オイオイ命知らずにも程があるぜおかゆクンよォ~」
おかゆ「ターゲットに命知らずってどういうコト?!ウチらの命刈り取られちゃうの?」
そんな三人の内緒話なんか気にも止めない様子の小粋は、鼻歌でも歌いだしそうな調子で提案をするのだ。
小粋「折角こうしてステージもあるし……うん!一発芸でも披露してもらおうかな!それがいいのだよ!」
要「一発芸というと、なにか具体的に理想のものはあるんですか?」
小粋「いいやないね。面白ければなんでもいい!」
おかゆ「小粋サン……酔っぱらってる?」
Null「でたでた、小粋サンの突然の思いつき」
夏目「なんですそれ」
しちみ「スコブルさんはたまに……いえ、かなり頻繁に突拍子もないことを言い始めるんです。私たちはもう慣れましたが……」
美孤「な、慣れちゃったのね……」
深依「そうだよ。秋なんか突然牧場に行かされるしさ」
要「冬はトナカイの耳やサンタ帽を被って鬼ごっこもしましたよね」
おかゆ「キョ、キョウレツゥ~……そう考えるとほしのみやさん達って優しかったのかもしれないねェ……」
夏目「うん、お仕事の時以外はプライベートを優先させてくれていたし」
美孤「鱫史くんからの熱いアプローチを受け流す夜詩くんって図も見守っていて微笑ましいわ!」
要「現場のお二人はそんな関係値なんですね。こちらは……見ている限りなかったような」
深依「うん、相棒って感じするしね。代わりにそっちの話聞かせてよ」
一発芸は一旦据え置き互いの陣営の話に花を咲かせていれば、一人の男が美しく真っ直ぐに手をあげる。
あきら「一発芸なら、僭越ながら私が先陣を切るよ」
Null「嘘だろオィィ……!?こんな無理難題に突っ込んでいくなんて、アイツ泥酔してんのか?」
おかゆ「ウウン、あきらさんは一滴もお酒飲んでないよん。緑茶飲んでたしっ」
深依「ええ、信じられない……」
あきら「宴会芸なら頭にネクタイを巻くのが流儀だと思うんだけど、流石に持ってきてなかったね」
小粋「ふふふ、そういう事もあろうかと……」
夏目「懐からネクタイが出てきましたよ、どうして忍ばせてるんですかね……」
黎「あ〜……気にしたら負けだよ」
Null「巻き込まれないと分かった瞬間帰ってきたな、おけーり」
その間にあきらは頭に受け取ったネクタイを巻き、準備万端な風だ。
美孤「早速慧くんがステージに向かっていったわ……!一体何を披露してくれるのかしら……」
ネクタイが唯一の装備である勇者は観客に向かい、静かに一礼を。
あきら「不肖はやてあきら、参ります」
まず右に、そして次は左へとステップを踏む。よく磨かれた床と素足の摩擦から成る甲高い音が断続的に響く。その男、はやてあきらの一発芸はあまりにも速すぎる反復横跳びであった——。
小粋「あーっはっはっは!!最高だよあきら!!」
深依「速い、速すぎる……!なんだあの人!?」
おかゆ「その名も、はやすぎるはやてあきらっ!」
Null「ヒィーーーwww写真撮ろうぜェ!!w」
要「そういうことならお任せください♪しっかり収めてみせますよ」
Null「頼んだぜ要クン!お前が頼りだ!」
黎「うわ〜……この茶番、凄くデジャブを感じるんだけど」
夏目「えっこの状況にデジャブとかあるんですか?」
小粋「秋に地味ハロウィンを開催してね、その時もこうやって笑いながら写真を収めた一幕があったのだよ」
あきら「以上で私の芸は終わりにするよ。楽しんでもらえたかな」
しちみ「ええ……想像の範疇を超えていて新鮮でしたよ…」
Null「最高だったぜ、峠を攻めれそうで。今日からお前が頭文字Aだ」
あきら「うん?確かに私のイニシャルはA.Hだね」
小粋「さて次は誰が行くのかな?」
黎「そんな次々と矢継ぎ早に宴会芸は出てくるものじゃないよ。どこぞの冒険バラエティーじゃあるまいし」
要「それではここは僕が。冬にピッタリな怪談話をお届けしましょう!あれは、しんしんと雪の降り積もる寒い晩のこと……」
美孤「かかか怪談!?もちくんが怯えちゃうだろうし、お姉さんが手を握って守ってあげるわ…っ!」
おかゆ「既にちょっと怖いね~ってみこねぇダイジョブそ!?ガタガタしてるっ!」
しちみ「可哀そうに……。いざとなったら私がお二人の耳を塞ぎますね」
小粋「おーい!電気を消してくれたまえ!それから要に懐中電灯を!!」
あきら「そしてこちらがその懐中電灯だね」
夏目「舞台がいつの間にか整ってるな……」
要の本格的な怪談話に所々から悲鳴が上がっていたが、結果的には楽しく宴会を終えた若者たちなのであった。
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所は変わって大浴場。空腹を満たした若者たちは温かいお湯で一年の疲れを癒しに来ている。
やま「さすが老舗温泉旅館、景色もいいし本格的~」
どくだみ「こんなに素敵な所なのに、他にお客さんがいないなんてことがあるんですね。皆さん丁度食事なんでしょうか」
礼之「ゆっくり凪ぐ水面を眺めながら温泉を独り占めっていうのも贅沢だしラッキーだけどね」
やま「そりゃそうだよ、さっき輝さんが今日はこの旅館貸し切りにしたって言ってたもん。他にお客さんがいたら完全に不審者だね~」
宗光「なに!?貸し切りってことは今日俺たちしか居ないってことか……!粋な計らいをするな夜詩さんに鱫史は!」
要「ふふ、同じことを言ってますね」
夏目「可愛いところあるでしょう、ミツは」
宗光「だっ、あー!可愛いとか言うのやめてくれやなっちゃん!!作家陣の前でもカッコイイ宗光様でいたいんやわ……!」
夏目「普段はカッコイイけど、って話やんか」
宗光「そういうことか!ならいい……!!」
駿平「あは、両方兼ね備えてるのが宗光の魅力ってことだよ」
黎「……あれ、そういえば今日駿平からお酒の匂い全然しないね。もしかして禁酒?珍しいこともあるもんだね」
駿平「うん、とりあえず鬼ころし控えるようにしたから……風呂入る前に酒飲むの良くないって聞くし、さっきも飲まなかったよ」
黎「へえ~、どういう風の吹き回しか知らないけどいいんじゃない?僕としても元同居人には健康でいてほしいし」
駿平「そりゃどうもありがとうごぜーます」
要「入口の前で雑談するのも楽しいですが、タオル一枚の状態では寒いですから早くお湯に浸かりましょうか」
礼之「律儀に待ってないでさっさと洗い場に行けばいいのに」
スタスタと横切る礼之は他のメンバーが雑談している間にも風呂桶にタオルやらなんやらを入れて洗い場へと向かっていった。
夏目「礼之くんいつの間に。移動してたの気が付かなかったよ」
どくだみ「ほら、風邪をひいたら楽しい旅行も台無しですから。俺たちも体を洗いに行きましょう」
黎「ははっ、風邪ひいたらどくだみで治すんだっけ?」
どくだみ「もう、それどこから聞いてきたんですか……ただの冗談ですよ」
宗光「湯に浸かる前にはしっかり身を清めないといけないからな!この俺は温泉の流儀くらい心得ているぞ」
やま「こう大人数で、しかも貸し切りってシチュエーションあんまりないしさ。背中流しあいっこでもする?」
駿平「あっ、いや……俺はちょっと…!」
夏目「そっか、ちょっと残念。俺は参加しますよ、なんだか楽しそうじゃないですか」
礼之「ええ、よくやるよねそんな小学生みたいなこと」
要「たまには童心に帰って、というのも乙ですよ。僕はそういうの好きです」
黎「僕は先頭になるならいいよ。何度も繰り返し人の背中擦るの疲れるし、どうせなら人に動いて欲しいし?」
宗光「結構な人数が参加するんだな……でっでも子供っぽいんだよな?こういうの」
どくだみ「気にしなくていいんですよ。みんなできれいきれいしましょう」
やま「わあ、なんかその言い方いいな~!きれいきれいしようよ宗光さん!」
宗光「フン、頼まれたら仕方ないな!参加してやろう!」
木で出来た風呂の椅子を一列に並べ、石鹸をよく泡立てたタオルを用いて背中の流し合いが始まる。
駿平「あっちの人たち見てると参加すればよかった気になってくるね」
礼之「そう?俺は別にだけど。……あー、なんかここ枝毛あるな」
駿平「今日もいつも通りの水卜さんだ……」
大の大人たちがこうして背を連ねている光景はやや滑稽ではあるが、なんとも楽しそうだ。
要「宗光さんいい力加減ですね、丁度心地よい具合ですよ」
宗光「そうか!まぁ俺にかかればこれくら……あだだだだ!おい!皮膚が削れるかと思ったぞ!」
どくだみ「あれ、すみません……後ろのやまさんもこれくらいだったのでつい大丈夫だろうと」
やま「嘘、俺も力加減間違えてた?でも背中は……うん、赤くなってないから大丈夫だね」
夏目「人の身体ですからね、丁重に扱わないと」
黎「あ~……うん、気持ちいいね」
ある程度したら逆向きになり自分の背を洗ってくれていた人の背を流して。不参加者はのんびりシャンプーをもこもこに泡立てて。真っ白な泡を全て洗い流したらいよいよ入湯だ。
駿平「はぅあっ!冬場の石畳冷たすぎませんか……!」
やま「う~身体冷えちゃいそう、俺温泉一番乗りね」
宗光「あっ待てずるいぞ!!」
要「そんなに勢いよく入っていったら危ないですよ~!お二人とも怪我しないように!」
黎「ふう……若干熱いけど外気で冷えた体には丁度いいね、気持ちいい」
礼之「温泉って大体これがなにに効くみたいな効能あるよね、ここはどうだろう」
どくだみ「丁度いいところに看板がありましたね、なんて書いてあります?」
礼之「んー?泉質は炭酸水素塩だって。神経痛に関節痛、筋肉痛とか疲労回復にいいみたいだよ」
夏目「それじゃあ俺たちにはピッタリってわけだ、存分に英気を養いましょうか」
駿平「それなら作家の人達にはいいかもしれないですね、ずっと同じ姿勢で作業してそうだし」
黎「まあそうだね。一旦集中したら作ってるものの前から動かないなんてことは日常茶飯事だし」
やま「脚本練ってる時なんか机が友達みたいなものだからなぁ、あんまりよくない姿勢で何時間も座ってることもよくあるよ」
宗光「作家という職業も大変なんだな……本当に世話になった……」
要「それはお互い様ですよ。……そういえば皆さんご存じでしたか?ここは美人の湯としても有名なんだそうです。俳優の皆さんにもピッタリですよね」
やま「俺も温泉で顔洗ったら美人になるかな~」
礼之「美人の湯か、いいんじゃない。男には無縁な単語ではあるけど見目は良いに越したことはないし」
夏目「演技力も欠かせないけど、見た目に華があった方がきっと多くの人に覚えてもらえるだろうしね」
要「きっとこのプロジェクトが終わった後、皆さん引っ張りだこになっちゃうんじゃないでしょうか」
ケン「あれっみんなもう温泉来てたんですね!こんばんはー!!」
スパンと勢いよく入口のドアがあけ放たれたかと思えば、ケンが大きな声で元気よく挨拶をする。そうしてそのまま温泉めがけて突進してくるのを黎がやんわりと止めた。
黎「ケンはかけ湯くらいしてきた方がいいよ」
ケン「あっ忘れてました!これで……よしっと!それじゃあ失礼します!」
どくだみ「わっ元気なのはいいことですけど、勢いが有り余ってますね……」
礼之「露天風呂といったって比較的声は響くんだから、もう少し静かに……」
要「ケンさんあまりザブザブやると……わっ、お湯がすごく揺れています」
ケン「ああすみませ……はっ!今の音めちゃくちゃ良くなかったですか!やっぱり水面叩く音とか波立つ音っていいですね!」
宗光「ウワーッ!!!やめろ山田ケン!そんなにバシャバシャするな!!大人だろ!」
夏目「今日は他にお客さんがいないからいいけ、わっぷ」
ケン「あははっ!よかったら一緒にどうですか!ばばんばばんばんばーん♪」
やま「アービバノンノンのリズムで叩かない!」
どくだみ「今眼鏡していたらビチョビチョになってましたね……」
礼之「作家側どうなってんだガキすぎるだろ……俺もう上がろうかな」
黎「顔にお湯かかるからもう控えめにしといてよね、ご機嫌そうでなによりだけど」
ケン「もう少し静かにやるからまだ上がらないでくださいよ~!色々俳優さんの話も聞きたいですし!えーっと……!」
礼之「礼之。水卜礼之ね」
駿平「ひぇ~……やっぱりお酒のんでくればよか、……あ、あれ、なんかフラつ……うーん…」
夏目「わっ、駿平くん大丈夫?のぼせてしまったのかもしれないし、君は上がった方がよさそうだな……引き上げようか。ミツ、手伝ってもろてええか」
宗光「もちろんだ!安心しろよ駿平、夏目と俺で運んでやるからな!」
どくだみ「それじゃあ先に俺も上がって、駿平くんが横になれるようバスタオル敷いておきますよ」
駿平「うう~申し訳ないっす……」
夏目「他のみんなはまだ温泉に浸かってて大丈夫だからね、俺の方で駿平くんの介抱するから」
ケン「俺がはしゃいじゃったからでしょうか……それなら悪いことしちゃいましたね…」
礼之「普段呑んだくれてるし、元々長湯得意じゃないっていうのもあると思うよ」
やま「ほら、こう言ってくれてることだしそんなに気を落とすことないよ」
ケン「そうですか……じゃあ、俺泳いでもいいですか?温泉で泳ぐのが夢の一つで!」
黎「あははっ!それが夢?やっぱりケンのことは見てて飽きないな、本当におもしろいよ」
取り残された面子も暫くしてから脱衣所に戻ると、ダウンしていた駿平もすっかり回復したようで眉を下げてにへらと笑っていた。
ケン「わー!良かった元気になったんですね!」
駿平「こっちに来る前にまず濡れた体拭いてきて欲しい……!!」
礼之「なんかこの間ネコが迷い込んでた時のこと思い出すな」
やま「そんな面白いことがあったの?」
肌をしたたる水滴をしっかり拭きとり、タオルやドライヤーを用いて髪もバッチリ乾かせば湯上りのリラックスタイムへの突入だ。
温泉があるところにはこれがないと始まらない。そう、牛乳の自販機。機械の中にズラリと並んだカラフルな牛乳瓶を青年たちは眺めている。
夏目「へえ、一口に牛乳といってもかなり種類があるんだ。コーヒー牛乳にフルーツ牛乳……飲むヨーグルトまであるんですね」
要「こう種類が多いと目移りしてしまいますが、僕はもう選択は一つに搾りました。コーヒー牛乳です」
礼之「俺はフルーツ牛乳にする。普段見かけること少ないしレア感がある」
どくだみ「いいですねフルーツ牛乳、鮮やかな黄色が華やかです。俺は飲むヨーグルトにします」
やま「……、ぷはーっ、お風呂上りに飲むいちご牛乳は格別だなあ」
要「瓶の牛乳特有の紙で出来た蓋を外す時ってちょっとだけワクワクしません?これもレア感ってやつでしょうか」
礼之「それ分かるな。瓶の牛乳でしかやらない動作だし」
やま「瓶の牛乳って口当たりもいいし美味しいよね~、搾りたても濃厚で美味しかったけど」
夏目「そういえばそっちは牧場に行ったらしいですもんね。いいなあ、美味しいお肉いっぱい食べられそうじゃないですか」
どくだみ「……あれ、駿平くん二本も牛乳買うんですか?」
駿平「ん、ちょっと渡したくて」
扇風機前の椅子に腰を下ろし涼んでいた宗光に、駿平は買った牛乳を一本差し出す。
駿平「宗光、これよかったらお礼に。さっき助けてもらったから」
駿平「アンタもこれよかったら」
夏目「俺もいいの?ありがとね宗光くん」
宗光「丁度のど乾いてた所だったんだよな!サンキュー駿平!!……で、これどうやってあけるんだ?」
駿平「ああそれはこの紙の蓋をペリっと……あ゛、破れちゃいやした」
夏目「あらら、まあ少しだけコツがいるからね」
駿平「うーん、もうちょっと大人らしくカッコよくしてみたかったんだけどなぁ……」
宗光「ま、まあ開け方はしっかり理解出来たぞ!!」
同じく椅子に座る黎のスマホは絶え間なく通知音が鳴り、バイブレーションが止まらない様子だ。
ケン「わあ、なんかずっと黎くんのスマホ鳴ってますけど大丈夫ですか?」
黎「あ〜……知り合いから連絡がね。けどこういう時に返そうとは思わないし、ミュートにするよ。……気になる?」
ケン「ちょっとなんですかその顔〜……音につられて来ただけですよ~!気になったのは否定しないですけど!……なんか黎くん見てたら俺も牛乳飲みたくなってきちゃいました!買ってきます!」
やま「お、今から普通の牛乳も買おうと思ってたんだけどケンさんもいる?」
ケン「いりますー!」
要「向こうにマッサージチェアを見つけましたよ、僕座ってこようかと思うのですが」
どくだみ「それなら俺も。今日はゆっくり眠りたいですし徹底的に体を解したいところで」
温泉で体の芯まで温まった体を少し冷ましながら自由に過ごした所で笑顔で軽く手を振り解散となる。
疲れをお湯と共に流した若者たちの夜はそう簡単に終わらない。まだ日は落ちたばかりなのだから。




