春〜顔合わせ〜
門出を祝うかのように春風が背を押し、呼子鳥が祝詞を述べる季節。
プロジェクト参加者たちが越してくるマンション前には早くも人影があった。
夜詩「やあようこそ、よく来たね」
桜に攫われそうといった表現が似合うその男はくるりと後ろを振り返る。視線の先にとらえられた二人は、各々微笑んだり軽く会釈したりしている。
要「おはようございます。桜も奇麗に咲いて新生活を始めるにはいい日ですね」
あきら「おはようございます。私も結構早く来たような気がするんだけど、やっぱり立役者は早く来るものなんだね」
夜詩「まあね。到着時間はあらかじめ聞いていたけど、早めに来ちゃったら困るだろうからスケジュールは余裕を持って組んでるよ」
あきら「ありがたい心掛けだね」
ダンボールを腕に桜の方へと目をやりどこか楽しそうにしている要の横を通りすぎ、あきらは入り口までキャリーケースを引いていく。
要「あれ、キャリーケースでいらっしゃったんですね。コンパクトにまとまっていていいですね」
あきら「ああ、すぐに使うものだけ。ダンボールに入ってると取り出すの面倒だから」
要「なるほど、それは便利ですね!僕もそうすればよかったです」
あきら「ここからまた引っ越すときにでも役立ててよ」
早くも退去時の話をするそんな二人を、夜詩は目を細めて見ていたのであった。
それからしばらくすればトラックから積み下ろされた荷物は少しずつ姿を消していき、新居では新しい環境に胸を躍らせる若者の声が重なり響く。
深依「あは、なんか気分的に学生寮に引っ越してきたってカンジするね」
ピンク色が似合う二人組はマンションに到着するや否や外観を眺め、感嘆に小さな声を溢す。
縁海「う、うん……!その……みんな、で……」
あに丸『エミはみんなで一緒に暮らすことにドキドキしてるみたいだよ!上手く生活できるといいな!』
深依「エミさんにはあに丸もいるし、きっと大丈夫だよ。なんかあれば俺も頼ってくれていいしね」
女性は片手に被せたパペットごとコクコク頷いて、彼に対するお礼を体で表していた。
成十「ねえよしぽん。なんだか荷物が多いみたいだけど、何をそんなに持ってきたんだい?」
その一方で、トラックから荷物を下ろそうとしている若者が二人。少しばかり嵩張った幼馴染の段ボールに、うん?と首を傾げる。
礼之「あー……家にあった漫画とかゲーム機、あとは好きな舞台のブルーレイディスクとか」
成十「ああ、2.5次元のだよね!どんなものかちょっと気になってたんだ、今度僕も見ていいかい?」
礼之「いいよ。お互いちゃんと荷解きが終わったらね」
よっ、と声掛けをしながら荷物を抱え、マンションの中に入って行く物静かな男性を「僕も行くよ」と人懐っこい青年が追いかける。
こうして新居は着々と活気付いて行き、若者達の共同生活は幕を開けるのだった。
ただ最後まで誰かの「作家達、荷物が残りすぎじゃあないか!捨てちゃうよ!」なんて声も聞こえてはいたが。
***
小粋「さて、全員が揃うまでに集合時間から一時間経ったね!」
集った面々が皆振り返る程、今プロジェクト主催の一人である小粋は声高らかに告げる。
黎「なんかそれ高校の集会思い出すなー」
駿平「んぁ、ぁったっすね~そんなの」
話題になっている遅刻者の一部がどこ吹く風といった様子で呑気に喋っている中、目立つ位置に立つ主催陣は淡々と言葉を紡ぐ。
小粋「さてと、本題を話す前に一旦自己紹介だ。私は頗流小粋なのだよ、まあきっとご存じだろうがね。今回は面白いものを君たちがたくさん見せてくれると期待している!よろしく頼むね!!」
鱫史「俺は兎鮫鱫史。詳しく知りたかったらネットでも見てくれ。そして俺の隣にいるこの一等星の様な才能を持った彼こそが……」
夜詩「だからそういうのやめろって。ごめんみんな、気にしないで。俺は星ノ宮夜詩、知ってる人もいるかもしれないけど俳優をやってるよ。これから光り輝く君たちの応援をさせてね」
夜月「で、最後?えー、輝夜月。映像制作に関わることなら一通りの知識はあるから、何か分からないことがあったらなんでも聞いて。……はいおわり」
必要最低限以外の情報は省き、スピード感を持って夜月は次の説明へと移行する。
夜月「時間も惜しいから本題ね。今日集まってもらったのは、プロジェクト開始にあたって両サイドで親睦を深めてもらうためだよ。面倒だし別にやらなくてもいいと思うんだけどね、他がやるって言うから」
夜詩「そう、だからこちらでいくつかゲームを用意させて貰ったんだ。行うゲームと、ゲームに参加する人はくじ引きで決めさせてもらうよ」
夜詩と夜月はそれぞれ背後から箱を取り出す。軽く揺すってみればカラカラと紙のぶつかる音がする。
小粋「君たちにはゲームを存分に楽しんでもらって、その後負けた人から順に自己紹介をして欲しいのだよ!」
おかゆ「ゲーム?ナニそれおもしろそー!」
Null「ゲームなんて言われちゃぁ参加不可避だろ!優勝狙って一直線だぜ」
やま「自己紹介トップバッターはちょっと嫌かもな~」
元々静かではなかった空間は、その話を皮切りに更に賑わいを増していく。
その空気を律するように鱫史は二回手拍子をした。
鱫史「それじゃあ早速始めていくぞ。くじを引いていくから呼ばれた奴は前へ出るように!」
そうして早速表舞台へと立つことになったのは——。
鱫史「えー、成十、縁海、Null、心理、礼之だな!そんでもってゲームは……、愛してるよゲームだ!よし頑張れ」
鱫史からゲーム名が公表されると若者たちからは『ああ有名なヤツね』といった空気感が漂いはじめる。そんな中、目を白黒とさせ始める人物が一人。
縁海「あ、あ、あい……っ!?」
あに丸『頑張れ縁海!ボクもついてるよ!』
手元に居る熊のパペットは、今にも倒れてしまいそうな様子の彼女を必死に励ましている。
礼之「そういうゲームは慣れないけど、自分よりも慌ててるやつを見ると逆に冷静になってくるな」
心理「あらら、小動物みたいに震えてもうて。そないな様子で満足にやれるんやろか?」
縁海「あっは、はい……!だい、じょうぶ……で、す……」
あに丸『心配してくれてありがとう!エミはちょっと会話が下手だからこうなってるけど、やる気はあるみたいだよ!』
あに丸の言葉に縁海はこくこくと頷いて見せる。
そんな様子を眺めていた小柄な男性は、春の陽光のような色の髪をふわりと揺らして縁海の傍へ寄る。
成十「みんなに見られながらだし、こういうの緊張しちゃうよね~。よかったら僕から始めてみてもいいかな?」
縁海「……?はい」
成十「わあ、ありがとう!それじゃあ早速やらせてもらおう」
声を上擦らせ、成十は咳払いをひとつ。やるからには完璧にと喉を整えて、柔らかく緩んだ目を合わせた。
成十「愛してるよ」
しちみ「わぁ、凄いですね……これが俳優の力ですか」
駿平「はぇ~、こぅいうのとは縁遠いぉ仕事だったから新鮮っすわ」
人懐っこそうな笑顔で笑いかけるその様子は民から好かれる王子そのものであり、感嘆の声を漏らす傍観者もいた。
縁海「~~~っ!!?」
あに丸『わわわ!び、びっくりしたあ!あんまりにもかっこいいからエミだけじゃなくてボクまで驚いちゃったよ!』
成十「えへへ、本当?ついでに君の推しぴになれたら嬉しいところだけれど」
縁海「あはは……あの……」
あに丸『エミが速攻照れたからゲームもすぐ終わっちゃったね!』
成十「言われてみれば確かに。じゃあ一回言っておくかい?愛してるってさ」
縁海「え!?あ、あの……ええと、……あ、あいし……っ!」
あに丸『愛してるよ!』
心理「パペットの方が出てきてしもうたなぁ」
縁海「えっと、その……やっぱりこういうの、恥ずかしくって……」
Null「まあそんな恥ずかしがんなって」
礼之「成十は凄いな、こういう所でも堂々としてて。俺にはハードル高そう」
心理「ほんまに。早速名前呼びまでしてようやるわぁ、うちも見習わんと」
金木犀を連想させる柔らかな雰囲気の女性が見守るその横で、毛先にかけて青のグラデーションがかった髪の男性が成十に賞賛の言葉を送る。
その言葉に対し成十が嬉しそうに、ありがとうよしぽん!とよしぽんもとい礼之に抱き着くその背後には、奇怪な箱を被った男性が一人。
Null「チッチッチ、確かに凄いけど順番も何も決めてないよなぁ?ソイツは世間が許してくれやァせんよ」
分かっていないなあとばかりに指を振って見せた。
縁海「と、と言いますと……?」
心理「……つまり、そっちのお二人さんが先に自己紹介した方がええいう話やろか?るーくん合うてる?」
Null「さすしん!(流石心理の意)」
所謂ネットミームであろうか。そんな装飾で飾った言葉の真意を女性は的確に汲み取る。呼び方からも推察出来るように、2人はきっと腐れ縁なのだろう。
成十「それは一理あるね~、僕が先を突っ走っちゃったし」
礼斗「それじゃあ……」
励ましの視線を送られながら縁海はその口を開く。
縁海「ええと……私は…か、かじや、ざか……」
あに丸『こんにちは!ボクはあに丸!こっちは梶谷坂縁海。これからよろしくね!』
縁海「よ、よろしく……お願い……します」
相棒のあに丸に助けられながらなんとか自己紹介を終えれば、ハツラツとした声で成十も続く。
成十「次は僕の出番だね。南 成十だよ、この僕になんなりと申してくれたまえ!仲間や友達のためなら何だってするし、何だって演じるからね。よろしくお願いしますっ」
成十「さて、僕たちの自己紹介は済んだことだし三人にバトンタッチだ!」
縁海「が、頑張ってください……!」
二人の応援を受け息まくNullを挟み、心理と礼之は冷静な面持ちのままゲームが始まる。
心理「るーくん愛しとるよ」
Null「俺も!」
礼之「……俺もじゃないんだよな」
意気揚々とNullが受け手のターンを終え、次は自分の番だと礼之に向き直ったところで外野がざわつき始める。
妥々星「ん~まぁと言っても、表情が見えないからねえ」
宗光「不正に等しいぞ!男なら正々堂々勝負をすることだな!」
なんて野次を受けたことから、意気込みをよそにこの三人中の最弱王はNullに決定することとなったのであった。
Null「チェッ、絶対勝てると思ったんだけどな~。あ~、俺は名乗るほどの者でもないぜ、##NAME##とかでいんじゃね?」
どくだみ「##NAME##……ってどういうことですかね?」
縁海「……?」
あに丸『なんだか不思議な名前だけど、その4つのハッシュタグに何か意味があるのかな?』
Null「あ、ダメ?」
礼之「多分それ、一般ウケしないネタだと思うけど……」
彼のネタになんとなく理解を示している者はちらほら散見されるが、しかし大半の若者には明らかに伝わり切っていないようだった。
心理「なんや、全く伝わってへんみたいやねぇ。そんなら、も少しわかりやすい名前を使こたらどうやろか」
Null「んじゃ敢えて名乗るならNullってコトで!ぬるぽって呼んでいーぜ。真名看破はやめてクレメンス~」
ヒラヒラとNullが手を振るその横で、礼之は左上の虚空を見つめ何か思案した後、優しめにNullの肩を小突く。
礼之「ガッ。……で満足する?」
Null「オイイイ!!マジか完全アウェーだと思ってたぜ!!」
礼之「まあ。結局ニッチなネタには変わりないけどね……」
1人盛り上がり始めるNullにやれやれといった反応を示しつつ、気だるげに礼之は名乗り始める。
礼之「水卜礼之です。芸歴はまあ、そこそこ……。俳優の他にモデルも少し、……そんな感じです。よろしく」
もう自分の番は終わりだと言わんばかりに軽く頭を下げて礼之が横を見れば、心理は心得たと言ったふうに微笑み頷く。
心理「うちは勅使河心理言います。心理って響きも悪くはないけど、ココロの方が可愛いやろ?やからココロちゃんって呼んでくれると嬉しいわぁ」
Null「いよっココロちゃん!世界一!」
季節の花が咲き誇る庭園のようにたおやかで、電子音が鳴り響くように騒がしくもあった愛してるよゲームは無事に自己紹介までたどり着き、次のゲームへと引導が渡された。
小粋「次は気分を変えてゲームから決めていこうか。えーと、どれどれ」
小粋はくじ引き箱に手を突っ込み、がさがさと中を探る。やがて取り出したる一枚の紙を開くと、ああいいね、とひとつ愉快そうに声を洩らした。
要「何か愉快なゲームでも引き当てましたか?」
小粋「ふふ、ほら見てよこれ。ツイスターゲームだってさ」
どくだみ「なるほど、ツイスターゲームで親睦を深めると……確かに大人数の催し物にはうってつけですね」
黎「うわ〜大変そう。僕なら絶対やりたくない」
夏目「だけどこの人数だからこそ面白くなりそうだよね。ちょっとアクロバティックな体制なんかも取ってみたりして」
駿平「そりゃ面白くはなりたぁいっすけど、親睦会でまで体動かさなきゃいけなぃとかどんな苦行なんすぁ〜」
夜月「可哀想に。でもつべこべ言わない。人選は今回も運動できるとかできないとか関係なく決めるから、当たった人はご愁傷様ね」
端的に思い切り他人事であることをまるで隠さない声色で、すでに5人分の名前が抜き取られたくじ引き箱の中身をかき混ぜると、折り畳まれた8枚の紙をざっと一気に並べる。
想定より枚数が多かったのかクイっと首を傾げているが、ちょうどキリのいい人数なのだからと夜月は自らのミスを予定調和にした。
真面目な夜詩はミスを指摘するべきか眉を顰めているが、鱫史と小粋の指摘が入ることもなかったために場面は滞りなく進行して行く。
夜月「まずはどくだみくん、天使くん、御巫くん、御堂くん……字感が似ててぱっと見分かんないね、きみ達。まいいや。……で鍵綿くん、蔵識くん、姫路くん、颯くん。以上8名2グループってことで」
ルールは簡単、両手足を指定された色に置いたり浮かせたりするだけ。簡単でしょう?と述べながら、4色の丸が6つ並べられたカラフルなマットをぽすんと地面に広げペチペチ叩いた。
おかゆ「ふーん?ウチ見るのもやるのも初めてなんだけど!キミやったことある?」
あきら「私も経験はそこまで。普段は家にいる方が多くて」
やま「創作のネタになることはあるけど、自分で行動に移す機会はなかなか無いよね。僕、……もそこまで自信ないなぁ」
おかゆ「そうなの?じゃあみんな初めて仲間ってコトじゃん!仲良くやろゥね!」
夏目「うん、よろしくね。やるからには最後まで頑張るよ」
雑談もほどほどに、まずは比較的やる気を保ちつつある4人が定位置に立った。
初めこそ涼しい顔をして審判の指示に従っていた若者達だったが、徐々に手足の置き所が狭まり、体が密集して行くにつれて呻き声が上がるようになって行く。
やま「ぅ、潰れる〜〜……!ごめんなさい、あと少しズレてもらうことって……!」
あきら「……っ、少し離れてみたけど、楽?」
やま「う、うん。さっきよりは……」
夏目「早く体制を変えられそうな指示が来て欲しいところだけど、次は……片足エアー?」
おかゆ「え!?ウチこの体制で片足浮かすの!?待って、もゥムリなんだけど〜!」
心理「は~えらいけったいなことになっとるなぁ」
深依「俺ここで名前引かれなくてよかったな……」
周囲から哀れみの目を向けられつつ、苦痛に唇を噛み締めて鍵綿はフラフラと体を揺らす。
黎「あれを僕たちもやるってこと?本気?男4人でやって何が楽しいの」
男4人が描くある意味壮観な光景に、それを眺めていたもう一方のグループのうち一人が、とうとうゲンナリとした様子で目を伏せた。
要「楽しいかどうかはさておき、自分で体験することでインスピレーションは得られそうですよね」
夜月「そうそう。それに考えてみてよ、元体操のお兄さんやらヒーロー俳優やらとツイスターゲームする機会なんて後にも先にも今日しかないと思わない?揉まれるには良い機会だよ」
黎「まず揉まれたいとすら思わないんだけど」
夜月「いいんだよ、細かいことは気にしなくて」
どくだみ「けど確かに運動が好きじゃないとか、習慣がない人だと少しイヤイヤしちゃうかもしれませんね」
駿平「まぁ決まっちゃったもんに駄々こねてもしゃぁないっすからねぇ〜。これも一種の社会経験として捉ぇるか、もう遊びだと割り切って好き勝手ゃるしか〜」
どくだみ「……既にフラフラですけど、本当に大丈夫ですか?」
駿平「んぁ〜?大丈夫だいじょうぶぁ〜」
要「ううん。かなり出来上がってしまっていそうですし、彼には始まる前にお水を飲ませた方がいいかもしれませんね」
黎「はあ〜……」
視線を渦中へやれば、どうやらよそ見をしている間に勝敗が付いたようだった。
マットの側でひいひいと呼吸を荒げ、肩を大きく上げ下げする彼らは——派手に動いたとて、整然とした態度のままでいられる若者も中にはいそうだが——未来の自分達なのだろうと察しが付いた。が、しかし逃げられるはずもなく。
おかゆ「おつかれ〜!1ゲーム通すの大変だったしょ?お水持ってきたよん!」
案の定しっかり揉まれて(一部)ゲンナリした様子で帰ってきた若者達に、既にゲームを終えて休息を取っていたおかゆがペットボトルを配る。
どくだみ「ありがとうございます。確かに大変でしたけど、その分だけ楽しかったですよ。やっぱり運動はいいものですね」
やま「自分の楽しいと思えることだと、それがどんなに大変でも最後はやってよかったって思うよね。わかるなぁ」
駿平「ていうか御堂さぁ、始まってすぐリタイアしたよなぁ。それちょっとずりぃんじゃねぇ〜?」
黎「どうして?勝ったところでどうせ自己紹介の順番がずれるだけじゃん、疲れるしまともに相手する方が損でしょ〜?形式上はちゃんと参加してるんだから文句も言わせないよ」
夏目「まあ確かに、結果的にゲームに参加した上で負けてるわけだしね。本人がそれでいいのなら問題はない……よね!」
あきら「うん。それじゃあさっさと自己紹介に移る?」
要「そうですね。ええと、では最初に負けたのは……」
若者達の視線は、自らの確固たる考えに基づいて真っ先に負けを目指した黎と、最後まで片足で健闘しつつもバランスを崩してしまっていたおかゆへ向かう。
順番として初めに負けたのはおかゆだったが、ほぼ棄権したに等しい人から始めるのが妥当ではないかと話がまとまり、トップバッターとして黎が選ばれた。
黎「僕は御堂黎。絵を描いたり、映像作ったり、好き勝手に色々やってる。ん〜……見ての通り堅苦しいのも、細かいのも苦手だからさ、君達も気にしないで僕に合わせてくれればいいよ」
夏目「あはは、俺達が合わせるんだ!どんな風に振り回されちゃうのかな」
自己紹介かぁと思案してから、曇りひとつない笑顔でにこやかに述べた彼に夏目が面白そうに笑う。
そんな流れのまま「じゃあ次はウチね!」と、溌剌とした明るい語り口調で自己紹介が続いた。
おかゆ「どゥも!ウチは鍵綿おかゆ!ホントは望月って言うんだけど好きな方でイイヨッ!ヨロ!」
どくだみ「鍵綿って、確かそんな苗字のアイドルがいましたよね。俺はそこまで詳しくないですけど……」
おかゆ「アー、そうそう。ウチの友達人気アイドルでさ許可貰って苗字強奪したンよね、だって人気アイドルと同じ苗字って売れそージャン!?安直〜」
どくだみ「なるほど、強奪……?そういうのも自己プロデュースのうちの一つなんでしょうね」
どくだみが受け入れるそぶりを見せると、ハーフリムなのか、はたまたアンダーリムなのか。なにやら個性的な眼鏡の奥に見える、微笑みに緩んだ瞳の男性が口を開く。
要「それじゃあ、グループ毎に交互になるように次は僕から。初めまして、御巫 要といいます。これから一緒に頑張りましょう」
駿平「ほぇ〜、役者じゃぁないんすよね?何する人なんすかぁ?」
要「僕は脚本家で……と言っても知名度はまだまだなんですけどね。ホラーやミステリーものが得意で、よく担当させていただくんです」
やま「あ、君も脚本家なんだね。俺も一緒!」
そうなんですね!と微笑む要にちょうど続き、どこか可愛らしい顔立ちである男性が緩く名前を名乗り始める。
やま「姫路やまです〜。小説とか……今は週刊連載の原作もしてます。得意なのは感動系のストーリーで苦手なのは締切。僕……あー、いいや、俺わりと不器用なんで迷惑かけると思うんですけどこれから一年ゆる〜くお願いします〜」
駿平「ぅんうん。おしごとはもう仕方なぃっすけど、できる限りゆる〜くやって行きたいっすよねぇ〜」
一体どこから調達したのか既に潰れきった鬼ころしを片手に、酔っ払った男性がのんべんだらりと腕を挙げて自己紹介を引き継ぐ。
駿平「ぉれァ天使駿平っていいます。早起きの人は見たことあるんじゃぁないかな?朝のヒーローやってました。難しい話は抜きにしてとにかく楽しくいきましょ〜、一年間よろしくぅ」
んじゃ次誰ぇ〜?と、どうにも覚束ない口を開きながら駿平が周囲を見る。その問い掛けに答えて一人が前に出ると、彼は綺麗な所作で軽くお辞儀をしてから続けた。
夏目「蔵識夏目です。学生の頃から演劇には興味があって、アマチュアの劇団にいて……デビューは最近かな」
やま「へえ、劇団にいたんだ!どんな作品をやってたか気になるなぁ」
夏目「そうだなあ、色々やってたけど——」
やま「あ、それ知ってる!じゃあこっちは——」
語り合う若者達の口からは色々な作品名が飛び交う。それは有名な作品から、少し知名度の低い作品まで様々だ。
おかゆ「エーなになに、ウチそれしらなーい!どんな話?」
そうして知らない名前が出てくる度おかゆが興味津々に問いかけては、あらすじを教えてもらう作品紹介コーナーになりかけていた。
しかしすぐにハッとして、流れを戻そうと話題を切り替える。
夏目「……っと、ちょっと喋り過ぎちゃったね。そんなわけで、この経験を活かして皆さんと素敵な作品を作れたらと思っています。よろしく」
お茶目に笑って夏目は後ろに下がり、次はキミかな、と背が高く筋肉質な男性に流れを促した。声を掛けられた彼はにこりと微笑み、また丁寧に言葉を紡ぐ。
どくだみ「初めまして、どくだみです。もともと体操のお兄さんやってました。本名は内緒でやってるので、気軽にどくだみって呼んでください。よろしくお願いします」
あきら「君は全部芸名なんだ。いいね」
どくだみが自己紹介を終えれば、残るは一人。今までとは打って変わってミステリアスな雰囲気を醸し出す男性は、平坦な声色で淡々と名乗った。
あきら「はやて あきら、25歳。学生役は子役時代の低学年役以来?でも女子生徒役は初めて。では、ふつつかものだけど宜しく」
黎「へえ、君女生徒役なんだ?今のままじゃ全然想像つかないけど、どう変化するのか楽しみだね」
そうして個性豊かな面々で行われた大人数でのツイスターゲームも一区切り付き、ゲームは夜詩の合図で3つ目に移行して行く。
夜詩「それじゃあ次のゲームとメンバーを決めていくからね。えーっと……」
手際よく紙を引いては開き、夜詩は内容をまとめて読み上げる。
夜詩「叢雨君と雪織さん、それから山田君、観月さん、月島さんには以心伝心ゲームをやって貰うよ。初めて会ったばかりだし難しいかもしれないけど、最善が尽くせるようにやってみてね」
ケン「以心伝心ゲームってなんでしたっけ?」
夏恋「お題の出題者を一人決めて、チームでそのお題に対する答えを合わせるってルールだね!」
妥々星「全員一致させるにはむつかしそうだよねえ」
しちみ「そうですね。……じゃああの、出題者は誰がやりましょうか」
しちみの問いかけにどうしよう、じゃんけんでもする?と互いに顔を見合わせていれば、長身の女性が艶やかな黒髪を指で梳きながら気さくな様子で名乗り出る。
美孤「はい!じゃあお姉さんがお題出すわ、飲みの席でやったことある経験者だからね!」
美孤の助け舟によってゲームは和やかな雰囲気で開始される事となった。
美孤「じゃあいくわね!じゃじゃんっ『お菓子といえば?』」
お題を聞いてすぐサラサラと用意した紙にペンを走らせるものもいれば、険しい表情で紙を睨みつけ、ペンを行ったり来たりさせるものもいた。
妥々星「全員共通の話題だからこそ範囲が広くて何を書こうか迷っちゃうなあ」
ケン「えっ、皆そんなに悩んでるんですか?俺もうこれだ!って思って書いちゃいました」
しちみ「思い切りがいいのは良いことだと思います。……すみません偉そうに」
夏恋「迷う~……けど、私も決めた!これなら誰かしらと被るはず……!!」
美孤「あら、みんな決まったかな?それじゃあ答え合わせいくよ~!」
ほどなくしてそれぞれの回答を決定すると、せーのの合図でそれが開示される。
ケーキ、おにぎりせんべいとなかなか和洋折衷な意見が並ぶ中一組だけ同じ文字列が伺えた。
夏恋「わぁすごいね!そこ二人以心伝心してるじゃーん!!」
快活な雰囲気で派手気味な洋装の女性がキラキラと目を輝かせるその先で、当の本人達はなんとも言えない表情をしている。
チラリと相手の方に目をやるとまた通じ合ったかのように視線が交差し、二人は思わず互いから目をそらす。
しちみ「チョコレート、ですか」
妥々星「チョコレート、だねえ」
しちみ&妥々星「「あはは……」」
紙を自分の膝へと倒し何やら気まずそうに笑う二人をよそに、どこか会社員風な男性はそんなこと気にもとめない様子でその空気に割り込んだ。
ケン「この場合回答が揃わなかった俺たちと、出題者の……えー、観月さんでしたっけ……?が先に自己紹介すればいいですかね?」
美孤「そうね、そうするのが一番良いかもしれないわ!」
夏恋「あ、じゃあ私がトップバッター貰っちゃうね!私は月島夏恋、普段は苗字を伏せて活動してるから下の名前で呼んでくれると嬉しいよ。 死ぬ気で脳みそ揺さぶるような、心臓が飛び出るような作品つくりましょー!よろしくね!」
妥々星「夏恋……ああ、もしかしてkarenだったりするのかな?MVの雰囲気好きだなあって思ってたんだよねぇ」
美孤「へえ、そうなの!夏恋ちゃんみたいな有名な子もいるんだね!」
はしゃいだ様子を見せたのがほんの少し恥ずかしかったのか、コホンと一つ咳払いをして美孤も後に続く。
美孤「観月美弧よ!お酒と、あとぬいぐるみとか動物とか、可愛いものが大好きな25歳!観月でも美弧でも美弧お姉さんでも、みんなの好きに呼んで頂戴ね!よろしく!」
ケン「いいですよね動物って……。子供と違って明確に嫌なことをしてこないし……」
一瞬在りし日の記憶に思いを馳せ遠くを見つめる様子を見せたものの、意識をこちらに戻せばケンはハキハキと自己紹介を始める。
ケン「山田ケンっていいます。宜しくお願いします!あ、音楽プロデューサーです。えー、好きなものはおにぎりと焼肉、嫌いなものは野菜ですかね?」
しちみ「おにぎりせんべいってそういう……」
夏恋「ケン君は音楽プロデューサーなのか!じゃあ普段から音楽に触れてることが多いのかな?」
ケン「まあ大体合ってますね!俺の場合は特に……」
そこまで言うとケンは自分のカバンからペットボトルを取り出し、先ほどまで使っていたペンで擦る。ギコギコと音のなるそれはまるでギロのようだ。
ケン「こうやって音を出すのが好きっていうか。……せっかくなんで、よかったら皆でやってみません?いい感じに音が鳴ればなんでもいいんで」
夏恋「音を鳴らすか、ん~……、あ!じゃあ丁度今使ってたボールペンが適役かも!小っちゃい頃は無意味にこうやって鳴らしてたなあ」
美孤「私は今何も持っていないから、手拍子にしようかしら?」
夏恋はカチカチとボールペンからノック音を奏で、美孤は手拍子を送る。日常でよく耳にする音と、日常でよく目にするものから生み出される音による不思議なセッションは、自然とうまく交わったのであった。
ケン「とまあこんな感じで、日常生活にあるような音からインスピレーションを受けて作品を作ってるス」
黎「へえ、ちょっと芸術家気質?興味わいてきたな」
どくだみ「身近なものから音楽を作り上げるというのも乙ですね」
妥々星「お~、天才肌っぽいねえ」
ギャラリーからも感心が寄せられる中、納得したようにうんうんと頷いて見せた丸メガネが特徴的な男性は、次は自分がと手を軽くあげてから名乗り始める。
妥々星「えぇっと、ボクはたたせです。衣装制作をやらせてもらう予定です、刺繍とかが得意で、あとは……何を言えばいいかなぁ。自己紹介ってむつかしいね」
夏恋「衣装さんかー!私オシャレだーいすきだし、なんだか話が合う予感がするよ!」
そうなんだ……と小さく呟いてから、はっとした様子を見せた新雪のようにふわふわとした女性はそのまま言葉を紡ぐ。
しちみ「Sungrazarから、雪織しちみです。今回のプロジェクトでは映像編集を担当します。映画の編集は初めてですので不慣れな点もあるかと思いますが、お役に立てるよう精一杯努力しますので…えっと…よろしくお願いします」
ケン「そうなると制作側だからしちみちゃんも俺と一緒ですね~。仲良くやりましょう!」
しちみ「こちらこそ何卒、仲良くなれるといいのですが……」
ケンとしちみが握手したのをきっかけに、他の面々も一年間よろしくとにこやかに握手を交わす。小さなグループの挨拶周りが終了したところで、場面は最終章へ。
夜月「人数的に次で最後みたいだね?長かったゲームもそろそろおしまいか。それじゃあ最後のくじを引くから……あれ」
箱に手を突っ込んだ夜月はそのまましばらく彷徨わせ、空を掴んだまま腕を抜いた。
鱫史「ん?どうした夜月、あと一枚引くだけだろ。隙間に挟まって見つからなかったのか?」
夜月「残念。見つからないどころか、もう残りがないみたいだよ」
夜詩「えっ?そんなはずは……」
箱をひっくり返し上下に振るもむなしいかな、塵一つ落ちてこない。
鱫史「なんだ、本当にすっからかんだな。作り忘れたのか?」
夜詩「確かに作ったはずなんだけど……入れ忘れた?」
夜詩が焦った表情を見せる中、先ほどのツイスターゲームでミスという名の予定調和にしていなければ、もうひとグループ行く末に迷っていたのだから自分の判断は間違っていなかったのだ。と対照的に夜月は満足げな表情を浮かべている。
小粋「これはまあ困ったことだね。仕方ない、それならば……」
悩んだ風に顎に手を置いた後、小粋はいいことを思いついた!と笑顔で告げる。
小粋「宗光、深依、君たちは自己紹介しなくていいよ!」
宗光「んなっ!?なんだと!!!」
小粋「受け入れたまえよ、だってゲームがないんだもの」
鱫史「いいんじゃないか?名前の分からないミステリアスな存在になれて。注目の的だぞ」
深依「そんな滅茶苦茶な……」
凛々しい眉が目を引く端正な顔立ちの青年は驚いた勢いのまま立ち上がり、ズカズカと鱫史の前まで歩みを進める。
それからキュポン、と間の抜けた音をサインペンから鳴らした後に鱫史の服をひっつかんだ。
宗光「ふざけるな!!ならアンタの服に名前を書いてやる!!サインだと思ってありがたく受け取るんだな!!」
鱫史「そうか、それならこの服に高値がつくくらい有名になることだな。……いや、そもそも俺が着てるんだから高値で売れるか」
宗光「一言余計なんだよアンタは!」
深依「ああもう……ちょっと、やめときなー。流石にサイン書くのはまずいでしょ。一応上司?になるわけだし」
薄桃の愛らしいカラーリングに反しダウナーな雰囲気を纏う男性は、仕方なく火中の二人の間に入りに行く。小粋はそんな彼らをコメディでも観劇しているかの様子で後ろから眺めているのであった。
小粋「あっはっは、いやあ愉快愉快。あそこでコンビを組ませて今度のトーナメントに出場させよう」
夜詩「何を言ってるんだ君は……。小粋さんのせいで事態の収集が付かなくなってきてるけど?」
小粋「悪かったよ、うた。そう怒らないでくれたまえ、悪気はなかったのだよ」
まあまあと手で落ち着くようなジェスチャーを送る小粋に、夜詩は小さくため息をついた。
夜詩「はぁ、悪気がないならいいよ。……ほらそこ二人、仕切り直しするよ!じゃんけんして負けた方が自己紹介することにしよう」
鱫史「いいんじゃないか?シンプルが一番だ」
こうして若者達は一時休戦し、最初はグーの合図で勝敗を決めることとなる。
宗光「フフン、やはり俺は運も持っている」
華麗に独り勝ちを決めた宗光は誇らしげに腕を組み、ニッと口角を上げた。
深依「えー、結局俺が先か。なんか納得いかないけど仕方ないね」
少し顔を傾けて不服そうな顔をしつつ深依は自己紹介を始める。
深依「えっと……良舞深依っていいます。衣装制作やってる、アカウントもあるからそこで俺の実力見て。ま、仲良くしたいとは思うよ」
ゆるりと目を細めた目は口元は笑っていないものの、微笑んだような空気をつくる。
鱫史「良舞……、どこかで聞いたような気がするんだよな」
深依「あーそんな話はいいから、ほら次あんたでしょ」
急かす様に番を渡された宗光は特に言及するわけでもなく、素直に大トリを務める。
宗光「ようやく俺の番か…。ふん、俺の名前は鷹司宗光。ああ言わなくてもいい…驚いただろう?鷹司と言えば、あの!日本舞踊で有名な家元だからな!知らないやつなど……」
そう得意げに言いかけたところで素っ頓狂な声が上がる。
夜月「鷹司?知らないね」
宗光「何?し、知らないだと!?分かった、じゃあアンタの服にも名前を書き記しておいてやる!白だからよく映えるな!!」
夜月「ええ……そんなことしたら二度と着ないよ」
宗光「安心しろ、ちゃんと洗濯で落ちる」
ふふんと胸を張り、ドヤ顔のままどこかズレた発言をする宗光の様子に周囲は微妙そうな視線を向ける。
深依「あーあー、なんとかしてよ誰か」
そうして一向に収拾のつかない現場に項垂れる姿がひとつ、そこにあった。
***
自己紹介を終え、すっかり数時間前よりも打ち解けた様子の若者たちは穏やかな時間を過ごしている。
とあるグループはダイニング付近に集まり何やら話に花を咲かせている様子だ。
心理「そうや。引っ越しのご挨拶にと思うて茶菓子を用意してきたんよ、よかったらもろうてくれへん?」
おかゆ「ェ~っ!超おいしそういただきまーす!」
夏目「これ最近人気があるスイーツ店のやつじゃない?駅前の。嬉しいなあ」
縁海「あ、ありがとうございます……!」
要「嬉しいですね、美味しいものには目がなくて。……あに丸さんはいただかなくて大丈夫ですか?」
あに丸『ボクは大丈夫!パペットだからね!』
しちみ「そこはちゃんとパペットとしての自認があるんですね」
美孤「折角だしお茶も欲しいわね、共用キッチンに何かあるかな?」
宗光「それなら俺の持ってきた茶葉を使うか?じいやの折り紙付きだぞ」
夏目「ちょっと前までほんま小さかったのに、こないに気遣いのできる男に成長したとはなあ……」
懐かしむような慈しむような、そんな優しい表情で夏目は宗光の姿を眺めている。視線に気が付いた宗光は歯がゆさをその表情に滲ませていた。
宗光「お、おい!そういう話はしんといてくれやなっちゃん……!!」
夏目「えー?ふふ、ええやんええやん」
兄弟の様な雰囲気を思わせる二人の横で、茶葉を持ちながら美孤はポソリと呟く。
美孤「お酒もあったらもっと最高なんだけどね……」
おかゆ「みこねぇ~?あんまりお酒飲んじゃダメって言ったでしょ?」
す~ぐ酔っぱらっちゃうんだから、とおかゆは腰に手をあててワザとらしく頬を膨らませてみせる。
美孤「うう…ごめんなさい……」
微笑ましいその様子に一同はクスクスと小さく笑っていた。
成十「なんだかアフタヌーンティーみたいになってきたね!楽しみだなあ」
紅茶の香りがふわりと部屋を漂い始めるその一方、液晶画面に齧り付いて熱狂している面々もいる。
あきら「久々にやるから腕が鈍ってる気がする」
深依「いやー、手練れ揃いのいい試合って感じするけどね」
夏恋「こうやってやま先生と遊ぶ事無かったから新鮮!」
ファンと先生であり、クライアント同士である二人にとって友人の様な付き合い方は新鮮なのだろう。
やま「そうだね〜、だからといって遊びに手は抜かないよ」
チラと夏恋の方に目をやり不敵に微笑んだやまの様子に火が付いたのか、夏恋はギュッとコントローラーを握りなおす。
夏恋「ふふ、お手並み拝見!」
黎「ちょっと誰~、今妨害してきた奴」
礼之「はは、油断したね」
駿平「ぅへぇ…見てるだけで画面酔いしそ#$%*……」
ケン「うおっ、大丈夫ですか?俺の飲みかけの水で良かったらいります?」
どくだみ「具合が悪いときは安静にした方がいいですからね……俺が運びましょうか?」
妥々星「流石は元体操のお兄さんって感じだねえ、頼りになるな~」
Null「一位キタコレ!!!明日までに負けた理由を考えておいてください!」
Nullのガッツポーズを横目に誰かが再度レースコースを選び、試合はn回戦へと突入していく。そのすぐ傍では体調不良者を看病する者たちの姿もあり、現場はまさにカオスである。
そんな若者たちの織りなすコンチェルトは主催陣が耳を傾ける中、もうしばらくアンコールに次ぐアンコールがなされるのであった。
***
改めて季節は春。柔らかな日差しの暖かさに思わずカーテンを引くように、舞台は幕を開けた。
題目は黎明プロダクションと映画製作スタジオSungrazerによる長編映画プロジェクト。
彼、彼女たちは季節が一巡するまでに何を創り、演じるのだろうか__。
【僕と危険人物のCP戦争 第16期 開幕】
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