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第50話 これでいいんだ……

 最近、田中先輩を避けるようになって、だいぶ経つ。


 ──これでいいんだ……。


 そう自分に言い聞かせながら、私は何とか日常を過ごしていた。先輩と距離を置くことで、この感情は少しずつ薄れていくはず。そう思っていたし、そうするしかなかった。


 先輩とは、今まで通りの「オタク仲間」として一緒にいられたらそれで良かった。それが一番心地良い関係だと思っていたし、恋愛感情なんて持ち込んでしまったら、全てが壊れてしまう気がしていた。


 だから、避けるしかなかったんだ。


 最初のうちは、うまくいっているように思えた。図書室にも行かないし、廊下で顔を合わせることも少なくなった。先輩と会話することもほとんどなくなって、こうして距離を置くことで、自分の気持ちも少しずつ落ち着くはずだと信じていた。


「これで……これでいいんだ。」


 私は、自分にそう言い聞かせ続けた。何度も、何度も。先輩との楽しかった時間を思い出さないように、思い出さないように──。


 けれど、そんな風に誤魔化しても、心の中で燻り続ける感情は消えるどころか、日に日に大きくなっているような気がした。


 先輩と話したい。先輩とまた、オタクの話で盛り上がりたい。そう思う自分がいる。


 だけど、そんな自分の気持ちを認めてしまったら、もう後戻りできなくなってしまう。


「私……どうしてこんな風になっちゃったんだろう……」


 先輩のことを好きになってしまった。それはもう、どうしようもない現実。


 でも、それを認めたところで、今までのように気軽に一緒にいられるわけじゃない。恋愛感情なんて持ち込んでしまったら、先輩との関係が変わってしまう。


 変わりたくない──でも、気持ちは変わってしまった。


「これでいいんだ……距離を置けば、気持ちも落ち着く……」


 そう自分に言い聞かせるけれど、心の中では別の声がささやいている。


「──本当は、また先輩と話したいんじゃないの?」

「──もう、我慢できないんじゃないの?」


 そう、その通り。私はもう、避けていることに耐えられなくなりつつあった。先輩と話していない時間が、ますます私を苦しめている。


 距離を置けば置くほど、先輩への想いが膨れ上がっていく。距離を取ることで、気持ちを抑えられるどころか、逆にその感情は増幅していくばかりだった。


「これじゃ……何の意味もない……」


 避ければ避けるほど、先輩のことを考えてしまう。先輩の笑顔、先輩がラノベについて熱く語る姿、優しく私の話を聞いてくれたあの時間。全部が頭の中で鮮明に蘇ってくる。


 学校の廊下で、遠くに田中先輩の姿を見つけた時、私はいつもと同じように足早にその場を去ろうとした。でも、ふと立ち止まってしまった。


「……なんで私は逃げてるんだろう?」


 自分が何から逃げているのか、よく分からなくなってきた。ただ先輩を避けるだけで、何かが解決するわけじゃないのに。むしろ、こんな風に先輩から離れていくことで、私の心はどんどん苦しくなっていく。


「ああ、どうすればいいの……」


 心の中で何度も叫んでいた。どうすればいいのか、本当に分からない。


 恋愛感情なんて持ちたくなかった。先輩のことを、ただのオタク仲間として大事にしていたかったのに……。


 でも、もう戻れない。気持ちを抑えられない。先輩に会いたくて仕方がない。だけど、そんな自分が嫌でたまらない。


 図書室に行きたい。また先輩と話したい。だけど、今の私では無理だ。恋愛感情を抱えたまま、先輩と普通に接するなんてできない。だからこそ、避けるしかない。でも、避けることで余計に苦しくなる。まるで終わりのない迷路に迷い込んでしまったような気持ちだった。


「……こんな気持ち、いっそ消えてしまえばいいのに。」


 そう思っても、消えるわけがない。田中先輩の存在が、私の中でどんどん大きくなっていく。それが怖くて、どうしようもなかった。

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