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第30話 すれ違いの訳

「最近、中村君とちゃんと話せてないな……」


 心の中でそう呟きながら、放課後の帰り道を歩いていた。いつもなら、放課後に中村君と一緒に話しながら帰る時間が楽しみで仕方なかった。けれど、ここ最近、中村君は私に冷たくて、どうしていいか分からなくなっていた。


 どうしてこうなっちゃったんだろう?


 何か私が悪いことをしたのかな――そう思って悩んでいたけど、思い当たることは全くない。あの日から、私たちの間にはなんだか重たい空気が流れている。


「……よし、今日はちゃんと話しかけてみよう」


 私は心を決めた。きっと、何も言わないままでは何も変わらない。

 中村君と話をして、このぎこちない関係を修復したい。今のままじゃ、前みたいに仲良くできないままだ。そんなの、私は嫌だった。


 放課後の帰り道、中村君の姿を見かけた。彼は少し遠くを歩いていて、私に気づいていない様子だ。胸が少しドキドキしている。


 もし、話しかけた時に冷たい態度を取られたらどうしよう──そんな不安が頭をよぎる。でも、今しかない。


「中村君!」


 勇気を振り絞って声をかけると、中村君が振り返った。

 一瞬、驚いたような表情を見せたけど、すぐにまたあの冷たい態度に戻った。


「……何?」


 短く返された言葉に、胸が少し痛んだ。

 前みたいに笑って話してくれなくなった中村君。その変わりように戸惑いながらも、私はどうにかして話を続けようとした。


「最近、なんだか話せてないよね……私、何か悪いことしたのかな?」


 勇気を出して、そう尋ねてみた。私にとっては、それが一番気になっていたことだった。

 何か、私が知らないうちに中村君を傷つけてしまったのかもしれない──そう思うと、不安で仕方がなかった。


 しかし、中村君は少し苛立ったように顔をしかめた。

 そして、彼の口から出た言葉は、私が全く予想していなかったものだった。


「お前、最近あの先輩とよく話してるよな。」


「あの先輩……田中先輩のこと?」


 驚きが隠せなかった。田中先輩は、ただ私の相談に乗ってくれているだけ。

 それ以上の意味なんて全くなかったのに──なぜ中村君がそんなことを言うのか、全く理解できなかった。


「そうだよ。お前、あいつと楽しそうにしてるじゃん。いつも相談って言ってるけど、俺にはそれがよく分からないんだよな。」


 中村君の言葉には、嫉妬の色が見え隠れしていた。私はハッとした。

 まさか──中村君は、私が田中先輩と話していることを誤解しているんだ。


「そんな……田中先輩とは、ただ相談に乗ってもらってただけだよ!」


 焦って弁明しようとしたけれど、中村君の顔はまだ険しいままだった。信じてもらえないかもしれないという不安が、私をさらに追い詰めていた。


「本当にそうなのか?お前、あいつと話してる時、俺といる時より楽しそうに見えたよ……」


 その言葉が、胸に突き刺さった。

 私は、そんなつもりじゃなかった。

 ただ田中先輩に相談して、どうすれば中村君とうまくいくかをアドバイスしてもらっていただけ。

 だけど、中村君から見たら、まるで私が楽しそうに田中先輩と話しているように見えてしまっていたんだ。

 だって中村君と喋ると私はどうも緊張してしまうから。


「私は……」


 どうしよう、何を言えばいいんだろう。私の言葉は途切れてしまった。

 どうしても誤解を解きたかったけど、中村君の冷たい目を見ていると、言葉が出てこない。


「……でもさ、俺はお前があいつと話してるのを見るのが正直辛かった。」


 しかし中村君が言ってくれたその言葉で、私はようやく彼の気持ちに気づいた。


 彼は、私が田中先輩と話しているのを見て、嫉妬していたんだ。


 そんなこと、全く考えていなかった私は、自分が彼を不安にさせていたことに気づいていなかった。


「中村君……」


 私はどうしていいか分からず、彼の顔を見つめた。


 彼もまた、不安を抱えながら私にどう接すればいいのか分からなかったのかもしれない。

 私がもっと、ちゃんと中村君に向き合っていれば、こんなすれ違いは起きなかったのかもしれない。


「ごめんね……私、全然気づけてなかった。田中先輩とは、ただ相談してただけで……でも、中村君とのことを一番大事に思ってるんだよ。」


 やっとの思いで、そう伝えた。

 中村君がどう感じていたかを理解できた今、私は心の中でようやく整理がついてきた。だけど、中村君の誤解を完全に解くには、まだ時間がかかるかもしれない。


「……本当に、そう思ってるならいいんだけどさ。」


 中村君の表情はまだ険しかったけど、少しだけ柔らかくなったように見えた。

 誤解が完全に解けたわけじゃないけど、少しだけ私たちの距離が縮まった気がした。


「中村君、ちゃんと話がしたい……また、前みたいに話せるようになりたいんだ。」


 私は中村君に向き合い、もう一度勇気を振り絞って伝えた。

 まだ完全に解決したわけではないけど、ここで諦めたくはなかった。

 中村君との関係を大事にしたい──その思いだけは、絶対に変わらないから。


「……分かったよ。少し話してみようか。」


 中村君が小さく頷いた瞬間、私は少しだけホッとした。


 まだ終わっていないけど、少しだけ希望が見えてきた。

 私たちは、このすれ違いを乗り越えて、きっと前みたいに仲良く話せるようになるはず──そう信じて。

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