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第22話 後輩女子と共に自分の気持ちに向き合います

 放課後、学校を出ると図書館に向かおうとした。いつも通りの静かな空間で、少し本でも読んでリラックスするつもりだった。

 しかし、そんな予定を中断させるかのように、後ろから元気な声が聞こえてきた。


「田中先輩!また相談に乗ってもらってもいいですか?」


 振り返ると、そこには1年生の佐藤優奈が駆け寄ってきた。

 前回の恋愛相談から少し経ったが、また何か悩んでいるようだ。

 彼女の純粋で初々しい相談を聞くのは、俺にとって新鮮な体験だったが、今回はどんな相談を持ちかけてくるのだろうか。


「もちろん、どうした?また中村君のことか?」


 俺が軽く笑いながらそう聞くと、優奈は恥ずかしそうに笑い返した。


「ええっ!?なんで名前まで知ってるんですか?……でも、そうなんです。中村君のことなんです。」


 中村君は中学の委員会の後輩だった。なんだかんだで仲良くしていた。世間は狭いのである。

前たまたま二人が話しているのを見て明らかに優奈が乙女な顔をしていた。もしや……と思ったがビンゴらしい。


 優奈は少し頬を赤くしながら、俺の隣に座る。

 その仕草や表情を見ると、彼女が本当に純粋に中村君のことを好きだというのが伝わってくる。そんな彼女を見ていると、自然と笑みがこぼれた。


「で、今度はどんな悩みなんだ?」


「それがですね、最近、中村君と少しだけ話せるようになったんです。でも、なんだかぎこちなくて、どうやってもっと仲良くなればいいか分からないんです……」


 優奈は真剣に悩んでいる様子だ。彼女の言葉を聞きながら、俺は思わず自分と水瀬の関係を思い出してしまった。水瀬と話しているときも、最近はどこかぎこちない感じがしている。


「……まずは、無理に仲良くしようとせず、少しずつ距離を縮めることが大事なんじゃないか?焦らず、自然に接していけばいいと思うよ。」


 優奈はしっかりと俺の言葉を聞き、何度も頷いている。彼女は前回も同じようなことを相談してきたが、その時はもっと初々しかった。少しずつ進展していることに、俺も安心した。


「そうですよね……でも、どうやって自然に話しかければいいんでしょうか?何を話せばいいか分からなくて……」


 優奈の悩みは、俺にも共感できるものだった。水瀬と話しているときも、最近は話題に困ることが増えてきた気がする。

何を話すべきか分からなくて、ぎこちなくなってしまう──それが、今の俺の状態でもある。


「うーん……そうだな、まずは相手が興味を持ってることを話してみるのはどうだ?共通の話題を見つけるのが、仲良くなる一歩だと思うよ。」


「共通の話題かぁ……そうですね!中村君はスポーツが好きだから、その話題でいろいろ聞いてみようかな!」


 優奈は目を輝かせながら答えた。その姿を見ていると、彼女の恋愛に対するピュアさがとても眩しく感じた。

自分がその気持ちを理解できているかは分からないけど、少なくとも彼女にとってこの恋は特別なものなんだろう。


「でも……田中先輩は、誰かとそうやって自然に話すことって得意ですよね?」


 突然の質問に、俺は少し驚いた。俺は周りからそんな風に見えるのだろうか。

確かに、友達と話すのは得意な方だと思っていたけど、水瀬と話す時は最近どうにも自然さを保てなくなっている。


「そうかな……まあ、相手によるかもしれないけど、そんなに意識してないかもな」


 俺は言葉を選びながら答えた。水瀬との会話で最近感じているモヤモヤを、優奈に打ち明けるわけにはいかないけど、確かに最近は彼女と話していると何か違和感がある。それが何なのか、自分でもよく分からない。


「田中先輩も、気になる人と話すのって緊張したりするんですか?」


 優奈が無邪気にそう聞いてくる。俺は少し戸惑いながら、水瀬のことを思い浮かべた。彼女と話すとき、以前よりも緊張していることが増えている気がする。

それが「気になるから」なのか、ただ相談役としての役割にプレッシャーを感じているからなのか──その答えはまだ見えてこない。


「……そうだな、俺も緊張することはあるよ。特に相手のことを気にしてると、どう話していいか分からなくなることもあるかもな」


 正直な答えが自然に口をついた。


「やっぱりそうなんですね!じゃあ、私も田中先輩を見習って、少しずつ頑張ってみます!」


 優奈は元気よくそう言って、笑顔で立ち上がった。

彼女はまだ悩んでいることがたくさんあるようだけど、その一つ一つを解決していこうと前向きに進んでいる。それがすごく初々しくて、俺も少し感動した。


「うん、焦らずにね。中村君との会話を楽しんでみれば、自然と距離が縮まると思うよ。」


 そう言って見送ると、優奈は嬉しそうに図書館を出ていった。


 再び静かになった図書館の空気の中で、俺は自分の心に目を向けた。優奈の恋愛相談に答えながらも、俺自身の心の整理が全くついていないことに気づかされる。


 水瀬のことを気にしているのか?それとも、ただ友達として大切に思っているだけなのか?


「……俺も、ちゃんと向き合わないとな。」


 心の中で、水瀬との関係が少しずつ変わってきていることを感じていた。でも、それが何を意味しているのかはまだ答えが出ない。優奈の相談に乗ることで、少しずつ自分の気持ちを探る作業が始まっているような気がしていた

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