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第21話 友か恋か

 優奈が図書館を出て行った後、俺はしばらくその場に座り続けた。

 彼女の純粋で初々しい恋愛相談に答えながら、気づけば水瀬のことを考えていた。

 水瀬とのやりとりは、最近俺の中で何か特別なものになりつつある気がする。だけど、それが何なのか、まだはっきりとは分からない。


「俺、本当に恋なんてしたことないからな……」


 優奈が「恋だ」と断言した時も、俺は心の中で納得しきれなかった。

 だけど、水瀬のことを考えると、確かに最近胸の奥がざわつくことが多い。

 それが、ただの友達に対する気持ちとは違うことは自覚している。

 けど、それが本当に恋愛感情なのか──まだ分からない。


「水瀬が……他の誰かと話してるのを見ると、確かにモヤモヤするけど……」


 あの感覚が何なのか、俺にはまだ答えが出せない。


 頭の中でぐるぐると同じ考えが巡り続ける。水瀬に対してもっと知りたいと思うし、もっと一緒にいたいとも思う。

 だけど、これまで通りの「友達としての相談役」という立場を崩す勇気がない。


「……一度、水瀬ともっと普通に話してみようか」


 これまでずっと、水瀬とは「相談」という形で接してきた。

 彼女にとっても、俺は「相談役」でしかないだろう。それに甘んじていた自分がいたのは確かだ。

 でも、これからは少し違う接し方をしてみたいと思った。優奈の言葉に触れて、少しずつそう感じ始めていた。




 ******




 次の日、学校が終わってから俺は意識的に水瀬に話しかけようと思っていた。

 これまで通りの「相談」じゃなくて、もっと自然な会話をしてみたい。

 だけど、いざその場になると、いつも通り「相談役」として話しかけられるんじゃないかという不安が胸に広がる。


 放課後の教室で、俺は水瀬を探した。彼女はクラスの窓際に座って、一人で何かを考えているようだった。普段の彼女とは違う、少し物静かな姿に気づく。


「水瀬……今日は何してるんだ?」


 何でもない会話をするつもりだったけど、声をかけた瞬間、自分でも少し緊張していることに気づいた。

 水瀬は俺の声に気づいて、少し驚いた顔で振り返る。


「あ、田中君……今日は、ちょっと考え事してたんだ」


 彼女は微笑んでくれたけど、その表情にはいつもの明るさがない。

 俺は少し心配になって、隣の席に座った。


「考え事って、何かあったのか?」


 いつもの「相談役」としての言葉が自然に出てしまう。

 水瀬が何を考えているのか、俺には全く分からないけれど、もし彼女が話したいなら、いつも通り聞いてあげたいと思った。


「うん……ちょっとね、どうやって進んだらいいか分からなくて……」


 水瀬がぼそっと呟いた。

 その言葉に、俺は少しだけ動揺した。彼女は相変わらず「誰か」に対して悩んでいる。それが誰なのか、俺は聞く勇気がなかった。


「……そっか、まだ悩んでるんだな。無理に焦らなくてもいいと思うよ。ゆっくり進めば、きっと答えは出るんじゃないかな」


 俺は自分の中で整理がつかないまま、そう答えた。水瀬の話を聞いているうちに、自分がどうしてこんなにモヤモヤするのかを考え続けていた。


「田中君……どうしていつも、そんなに冷静でいられるの?」


 突然、水瀬が静かに聞いてきた。俺はその質問に戸惑いながらも、正直に答えた。


「うーん……冷静っていうか、俺も自分の気持ちをうまく言葉にできないことが多いから、冷静に見えるだけかもしれないよ。」


 水瀬は少し驚いた顔をして、でもすぐに微笑んだ。


「そうなんだ……なんか、田中君っていつも強くて頼りになるから、そういう風に思ってた」


「俺だってそんなことないよ。水瀬だって、自分の気持ちとちゃんと向き合ってるじゃないか。そういうのって、すごいことだと思うよ」


 俺は自分の感情を探りながら、水瀬を見つめた。


 彼女の悩みが何かは分からないけど、水瀬もまた自分の気持ちと向き合っていることを感じた。

 もしかしたら、俺も彼女と同じように自分の気持ちと向き合わなきゃいけない時が来ているのかもしれない。


「ありがとう……田中君にそう言ってもらえると、少しだけ安心するよ。」


 水瀬はそう言って微笑んだ。その笑顔を見ていると、俺はますます自分の感情が混乱してくる。

 優奈が言った「恋」なのか?それともただの友達としての関係なのか?


「俺も……自分の気持ちに、もう少し向き合ってみるよ。」


 自分でも驚くほど素直にそう言葉が出た。

 水瀬に何を伝えたいのか、まだ分からないけれど、もう一度自分の気持ちを整理する必要がある気がしていた。


 その後、水瀬と別れた俺は、一人で帰り道を歩きながら、再び自分の心の中を探った。

 水瀬に対して感じているモヤモヤ、それが何なのかをはっきりさせるために。


「もしかして、俺は……」


 自分の中で、その答えにたどり着くのはもう少し先になりそうだった。




【今後についてのお知らせ】


物語の完結の目処がたちました!

なので今日から毎日12時10分と18時10分に更新していこうと思います。


後50話程ございますが、最後までお付き添いと応援よろしくお願いします!

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