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第14話 向き合う時

 次の日、学校が終わってから俺はまた図書館に足を運んだ。

 凛との会話が心地よいのは確かだし、水瀬との相談もこれまでのように続けてきた。それでも、心の中には妙な焦りが芽生えているのを感じていた。


 自分がどう思っているのか、自分の気持ちがどこに向かっているのか──それを考える時間が増えていた。


 図書館の中はいつも通り静かで、落ち着いた雰囲気が漂っている。俺は空いている席に座り、頭を整理するようにラノベを開いた。

 けれど、文字が全然頭に入ってこない。いつもなら夢中で読めるはずなのに、今日は何度ページをめくっても内容が心に染みてこない。


「どうして、こんなにモヤモヤしてるんだ……」


 思わず、心の中で呟いた。水瀬が「好きな人がいる」と言った瞬間から、ずっとその言葉が頭にこびりついて離れない。

 彼女の好きな人が誰かなんて、今まで深く考えたことがなかったけど、あの時の彼女の表情を思い出すたびに、胸が苦しくなる。


「水瀬に……俺はどう思われてるんだろう?」


 ふと、そんな疑問が頭をよぎった。いつも相談役として接してきたけど、もし俺が水瀬に対して違う感情を抱いていたら──そう考えた時、気持ちが複雑に揺れ動くのを感じた。


 そのまましばらく図書館でぼんやりとしていると、後ろから声がかかった。


「田中君、ここにいたんだね」


 振り返ると、そこには水瀬が立っていた。彼女の顔には、少し疲れたような表情が浮かんでいる。俺は慌てて座り直し、彼女に向き合った。


「どうしたんだ?何かあったのか?」


 水瀬は少し戸惑った様子で、図書館の席に静かに座った。俺の目を一度だけ見て、それから視線を下に落とした。


「……ううん、何でもない。ただ、田中君に会いたくて」


 その言葉に、俺は少し驚いた。これまでの水瀬は、いつも「相談」に来る時にこんなことを言ったことはなかったからだ。彼女の様子が普段と違うことに、何か理由があるのだろうかと思った。


「会いたくて……?」


「うん、田中君と話してると、何でも正直に話せるし……落ち着くんだよね。」


 水瀬は微笑んだが、その笑顔の奥にはどこか不安が隠れているように見えた。

 俺はその言葉をどう受け止めればいいのか分からず、ただ頷くしかなかった。


「そっか……じゃあ、今日は相談とかじゃなくて、普通に話そうか?」


 俺がそう提案すると、水瀬は少し考えてから頷いた。そして、ゆっくりと口を開いた。


「田中君は、いつも誰かの相談に乗ってくれてるけど、自分の気持ちには向き合ってる?」


 その質問は、まるで俺の胸の奥を貫くような鋭さがあった。凛にも同じようなことを言われたばかりだ。俺は、自分のことをいつも後回しにしてきたのかもしれない。


「正直に言うと……よく分かってないんだよ、自分の気持ちが。相談に乗るのは好きだし、頼られるのも嬉しいけど、自分がどう思ってるか、考えることは少なかったかも。」


 そう答えると、水瀬はじっと俺の顔を見つめてきた。彼女の目には、何かを伝えたいという強い意志が感じられた。


「私、田中君には、もっと自分のことも大事にしてほしいんだ」


 その言葉は、まるで彼女自身が抱えている感情を代弁しているようだった。俺はその意図を理解できないまま、水瀬の言葉を受け止めた。


「そうだな……自分のこと、もうちょっとちゃんと考えてみるよ」


 俺はそう言ったけど、心の中ではまだ何も整理できていない。それでも、水瀬がこんなにも俺のことを気にかけてくれていることに、少し胸が暖かくなるのを感じた。


 図書館を出て、水瀬と別れた後、俺はふと一人で歩きながら考えていた。


「俺は、水瀬が好きなんだろうか?」


 水瀬とは恋愛相談を通して周りの人よりかは長い時間をかけて深い関係を築いてきた。


 だけど、その中で自分が本当に特別な感情を抱いているのか、まだはっきりとは分からない。


「水瀬は、俺にどう思ってほしいんだろう?」


 彼女が見せる不安そうな顔や、俺に気持ちを知ってほしいと言った言葉が、心に引っかかっている。


「俺自身も、自分の気持ちに向き合う時が来ているのかもしれない。」


 そう呟きながら、俺は静かな夜道を歩き続けた

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