プロローグ 『恋愛相談キャラ』の独白
――恋愛相談ほど楽しいものはないと思う。
俺の名前は田中光。
どこにでもいる普通の高校二年生で、特にクラスで目立つような存在でもない。
だけど、俺には一つだけ誇れることがある。それは、『恋愛相談キャラ』を全うすることだ。
友達に恋愛相談されて、それに乗るのが俺の生きがいになっている。
俺のクラスでは、「光に相談すれば解決する」っていう噂が広まっている。
もちろん、百パーセント実らせるかといえばそんなことはないし、俺自身が恋愛経験豊富だとか、そんなわけじゃない。
むしろ、恋愛なんてほとんどしたことがないし、経験も薄い。
けど、他人の恋愛を俯瞰して見るのは得意なんだ。感情的にならず、冷静に状況を分析できるし、相手の気持ちを想像するのも割と好きだ。そして相手の気持ちに寄り添うことで、仮にその恋が実らなかったとしても、俺に相談した奴は大体どういう形化はそれぞれだが満足する。俺がさせてあげることができる。
最近だと、サッカー部の柴田が片思いしてるクラスのアイドル・七海のことで相談に来た。
「どうやったら彼女と自然に会話できるか」ってな。
「まずは彼女の好きなものをリサーチして、それをネタにして話しかければいいんじゃないか」ってアドバイスしたら、案の定、次の日には彼女と笑顔で話してるのを見かけた。
こうして、俺は友達たちの恋愛を陰から支えながら、自分の居場所を確保している。
これが俺の生きがいだ。俺が日の目を浴びるようなことはないが、『恋愛相談キャラ』として、誰にも負けない自信がある。
だが、その一方で、俺の立ち位置はあくまで『恋愛相談キャラ』、つまり『友達ポジション』だ。
相談者の恋が実ったとき、彼らが感謝してくれると嬉しい。でも、それ以上のことを望んだことはない。
恋愛はあくまで他人のものであり、俺のものじゃない。俺自身が誰かと恋をしたり、されることなんて、考えたこともないんだ。
――だからこそ、彼女が俺に近づいてきたときも、何かの冗談かと思った。
クラスで一番人気の美少女、水瀬結花が突然俺に恋愛相談を持ちかけてきた。そのとき、俺は全く気づいていなかった。
彼女の真の狙いが、自分を「攻略」することだなんて。
今までの俺の平穏な恋愛相談ライフが、こんなように崩れるとは思わなかった。