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龍は花姫の愛を乞う  作者: 諏訪ぺこ
第一章

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4.桜 4

 私の目が覚めたのは、折檻を受けてから一週間ほど。

 さすがの父も私が生死の境をさまよったからか、中央へは行かずに家に留まってくれていた。


 そのことに安堵しつつも、父は味方ではないのだと理解している。このままここに留まれば、夢の通りに私は死ぬだろう。


 それは確信――――


 アレは、ただの夢ではない。現実に起こりえる出来事だ。

 思えば母が生きていた頃から、片鱗はあった。それをそうだと理解できてなかっただけで。


「しぬのはいやだ」


 ぽつりと呟く。

 死ぬのはイヤ。どうせここにいたって、迎えになど来てくれない。約束は果たされないのだ。それなら、ここを出ていかなければ。


 生きるために……!!


 どうやって出ていくか? それだけが問題だ。

 父のいないときに出奔すれば、春裳の前はそのまま放っておくだろう。もともと私を邪魔者扱いしていたのだし。いなくなれば諸手を挙げて喜ぶはず。


 でも一人でここを抜け出したところで、生きていく術がない。

 たとえ下女扱いされていたとしても、子供のできることなんてたかが知れているもの。下手すれば、誰かに拐かされて売られる可能性もある。


 安全に、誰かの元で暮らせれば一番いい。

 東郷は……? 母の一族はどうだろう? でも私を迎え入れてくれるだろうか? それに父が東郷に私をやるだろうか?


『姫』というのは、それだけで価値がある。たぶん。

 価値があるからこそ、私は帝に嫁がされた。南雲宗家の姫だから。そして帝も南雲宗家の姫だから、事情を知って目をかけてくれたのだと思う。


 どうするべきか?

 幼い頭でうんと考える。今、道を間違えれば私は死ぬのだ。

 どうすればいい? どうすれば……??


「だれか、たすけて……」


 死ぬのはイヤ。死ぬのは怖い。

 そんな私に誰かが囁いた。名を呼べと。囁く声が聞こえる。その声には覚えがあった。母といつも一緒にいた双子の侍女。


「あ、げは……? みつは?」


 そう呟けば、耳元で「あな嬉しや」と声がした。そして目の前には母が生きていた頃と変わらぬ姿の、双子の侍女が現れたのだ。


「揚羽? 三葉? ほんとうに……?」

「ええ、ええ。わたくしたちでございますとも」

「そうですわ。小さな姫君。わたくしたちです」


 そっくりそのままの姿が、同じ方向に首をかしげる。私は嬉しくて二人に抱きつき、大泣きしてしまった。


 もう会うことはないと思っていたからだ。

 なぜなら二人は母が亡くなってすぐに、その姿を消した。理由はわからない。


「どうして、どうしていなくなったの?」

「申し訳ありません姫君。青羽(あおば)の君が亡くなったことで契約が途切れてしまったのです」

「それでも我々はずっと姫君のお側におりましたのよ?」

「けいやく……?」

「ええ。青羽の君が急にお亡くなりになられたので、我々とても困りましたの」

「契約を急に打ち切られたようなものなので。姫君のお側に漂うことはできても、実体化するまでの力が持てず……」

「じったいか??」


 二人の言葉の意味がわからず、私は首をかしげる。

 契約、実体化、側にいたというが姿を見たことはない。私の様子に、今度は二人が顔を見合わせ首をかしげた。


「あらあら……もしや、青羽の君……母君から聞き及んでいませんの?」

「我々人ではないのですよ」

「ひとじゃ、ない??」

「ええ。荼枳尼天様にお仕えする天狐ですの」

「てんこ……?」


 二人はそういうとパッと姿を変えて見せた。もふもふの、狐に。


「青羽の君が亡くなられてすぐは、名を呼ばれましてもどうしても実体化できませんでしたの。急に契約が切られた状態でしたので」

「姫君の前に現れるには、しばし力を蓄えないといけなかったのです」

「でももう大丈夫。姫君、我々と契約を結びましょう? そうすればずっと一緒にいられます」

「ずっと……?」

「はい。姫君が望むなら、この家の者どもを亡き者にすることだってできますよ?」


 亡き者に、その言葉にゾッとする。確かに春裳の前や千夏は私に酷いことをした。父も全く頼りにならない。それでも……苳也は生まれて一年と少ししか経っていないのだ。


 夢の中だって、あの子は私に酷いことはしなかった。それなのに私はあの子から、苳也から家族を取り上げていいのだろうか? いや、二人の口ぶりからはきっと苳也も……


 私は二人を見上げて首を振った。


「いらない。必要ない。私は、この家を出たいの。この家を出て、静かに暮らしたい」

「――――そう、心からお望みで?」

「うん。ここにはいたくない。どうせ約束は守られないもの」

「そうですねぇ。でしたら、わからないように隠してしまいましょう」

「そうねそれがいいわ」


 私は二人に促されるまま、二人と契約を交わす。もともと母が亡くなった後は、私を守るようにと言い含められていたらしい。


 母が……亡くなったのは、二人にとって想定外だったようだけど。


 そして二人は私の胸元にあった(しるし)に封じをかけた。感知されないように。

 そこから後は早かった。二人は父に私を尼寺に預けるように掛け合ったのだ。叔母様が庵主を務める尼寺。そこに私を移動せよと。


 父は私を南雲の大事な姫だと抵抗したが、二人は春裳の前を味方につけたのだ。

 二人は姿を変え、私が尼寺に行きたがっていると侍女のフリをして密告したようだった。父がいるうちは、何もできないと思っていた春裳の前はその話を聞いてたいそう喜んだようだ。


 それもそうだろう。邪魔な私がいなくなれば、堂々と千夏を南雲宗家の一の姫と名乗らせることができる。


 そうして父は春裳の前に押し切られる形で、私を尼寺に預けることに同意した。


「アレだけは春裳の前に感謝したな」


 死にたくない。ただその一点のみで、私は叔母が庵主を務める尼寺に身を寄せた。

 厄介払いができた春裳の前は、文字通り私をいなかった者にして千夏を一の姫としたのだろう。


 ただそのせいで私を呼び戻すことはできなかったようだが。

 帝の元に嫁いだ南雲の娘は、私が見たとおりに儚くなっている。だが私は南雲の家から名が消えていて、たぶん父が気がついたときには戻せなかったのだろう。


 一度名が消えた者を元に戻すのは難しい。


 その理由や出自が中央にいる役人によって精査されるからだ。その課程で露見するのは、南雲宗家のお家騒動。側室が正室の子供を虐待し、それに耐えかねて尼寺へ身を寄せた。


 しかも母親は斎宮を務めていた東郷の姫。


 側室を押さえられない、無能な男と中央から誹られることは間違いない。下手をすれば東郷も口を挟んでくるだろう。


 斎宮まで務めた東郷の姫、その姫が産んだ子供に対する扱いか? と。そして春裳の前の苛烈な性格を引き合いに出し「本当に病で死んだのか?」と、東郷は南雲を突っつき回すはず。


 父はそれを恐れた。

 ざまあない。


「さて、帰るか」


 この件で得をしたのは私と、春裳の前と千夏だけ。

 なにせ尼寺に預けられた私は、南雲の領地にいたときと違って自由に過ごしている。春裳の前と千夏はいわずもがな。


 預けていた馬を引き取り、私は馬に跨がった。

 尼寺はここから近いとはいっても、山の中腹。馬で駆けてようやく夕刻に間に合うかどうか。

 馬の首をポンポンと撫でると、私は馬の腹を軽く蹴って合図をする。

 馬は心得たようにゆっくりと動き出した。


 徐々に民家が少なくなり、山に近づく。するとひらひらと桜の花びらが風に乗って降ってきた。


「もうそろそろ、花見の季節も終わりか」


 不意に、ピリッとしたものが首筋に走る。

 思わず後ろを振り向いたが、特に異変はない。ただ少し、ほんの少しだけいやな感じがした。


「そういえば、斎宮が不在なんだよね……」


 蘇芳様の言葉を思いだす。


 斎宮は都の守り。この湟国の特に中央を守る……その守りが不在であれば、結界にほころびが生まれても不思議ではない。


 斎宮がいなくても、ある程度の守りは湟国を守る術者たちがなんとかしている……はず。

 でなければ怪異が活発に動いているはずだし。


 揚羽や三葉はその兆候はないといっていた。なんせ私たちが暮らす場所は山の中腹だし。そういったモノの影響は受けやすい。


「……気のせい、かな?」


 今度、蘇芳様に尋ねてみよう。そう考えながら帰路についた。



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