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龍は花姫の愛を乞う  作者: 諏訪ぺこ
第二章

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35.間話 6

 夢を見る。

 変な夢だ。


 その夢の中で、俺の体は龍そのもので――――怪我を負っていた。

 湟国は龍を神聖視しているが、他の国ではそうじゃない。


 場所が違えば魔物や妖魔と同じ扱いになる。


 だからだろうか? その夢の中では、俺はいつも怪我をしていた。そしてその怪我をある少女が治してくれるのだ。


 その少女は献身的に俺の世話をしてくれた。

 ああ、なんて優しいのだろう。優しい少女の笑顔に、俺はいつしか恋をしていた。


 もっと、もっと一緒にいたい。ずっと彼女と一緒に……

 だけど龍の体では一緒にいることはできない。大きさが違えば、ちょっとした拍子に彼女を傷つけてしまうかもしれないからだ。


 人の、姿になれば? そうすれば一緒にいられる??

 一族に伝わる秘術の中には、人の身に変化する術もある。それを使えば、彼女に自分の言葉を伝えることもできるはず。


 ずっと一緒にいてほしい。俺と一緒に――――


 なんとか人の姿を取り、その少女に言葉を伝える。

 拙い言葉なせいかその少女は首をかしげるだけだった。上手く言葉が伝わらない。もどかしい思いで少女に話しかける。


 だけど少女は小さく笑うだけで、俺の言葉を理解できなかった。


『さ、寝てください。怪我を治すのが先ですよ』

『―――― ――――(お前が好きなんだ。どうかずっと一緒にいてほしい)』

『……ごめんなさい、何を言っているかはわからないんです』

『――――……(どうして、言葉が届かないのか……)』


 人の身を得たとて、伝わらなければ意味がない。その事実に愕然とした。

 ……それならば彼女を自分の(ねぐら)に連れて行ってしまおうか?


 人間一人、あそこで暮らせぬわけではない。

 怪我が治れば、きっとこの少女は俺から離れてしまうだろう。


 一人は慣れている。龍は単独で生活する生きものだ。


 人の身をとれた昔と違い、常に龍の姿を取るようになった今は一堂に会することはそうそうない。


 寂しいなんて、そんな感情は持ち得なかった。それが普通だったからだ。

 それなのにあの少女が俺から離れるのが許しがたい。


 孤独で心が壊れんばかりに。


『それが番への愛情というものではなくて?』

『番……?』

『龍は番をつくるでしょう? 同じ龍でなくとも番を()()方法はないの?』

『番を……()()?』


 そう囁いたのは誰だったか? 

 ()()()()。その言葉はとても甘美な囁きだった。


 あの少女を、番に作り替える。そうすればずっと一緒にいられる。

 ずっと、ずっと一緒に――――……



 死が二人を別つとも。


 ***



 目の前にいるのは小さな亡骸。

 なにが起こったのか理解できなかった。


 あれだけほしかった少女は、もう息をしていない。

 それなのに俺はその少女の亡骸を静かに見下ろしていた。


 どうしてこうなった? なぜ? 俺は、どうすればよかった??


 感情が嵐のように全身を駆け巡る。

 そんな俺に一人の女がしなだれかかった。


『これでわたくしが貴方様の妻にございます。わたくしと一緒にこの国を統べてくださいませ』


 ねっとりと、甘い毒のようなものが体中に巡る。

 その原因は俺が少女に渡した赤い玉のせいだ。人を番にするための、赤い玉。


 胸元で香しき匂いが花開いている。

 そんなはずないのに、花が開くはずないのに……!!


 気をつけよ、そう忠告されていた。

 龍でないものを番に作り替えるなら、代償が伴うと。


 番の証を飲み込めば、龍は番のことしか考えられなくなる。

 それ以外のことなどどうでもよくなるのだ。


 まさしく今の俺のように。


『さあ、龍のお方。わたくしと生きてくださいませ。あの女は証を飲まなかったのですから、貴方様があの女を気にかける必要はないのです』


 違う。違う。違う。


 飲まなかったんじゃない。飲めなかったんだ。

 お前が……お前が! 飲むのを邪魔したせいだ!!


 それなのに俺の口は言葉を発することができない。いや、そもそも俺の言葉は人間には通じないのだ。


 少女がそうであったように、この女にも伝わることはない。


 噎せ返るような甘い花の香り。

 その香りが思考を閉ざす。


 おれは――――ドウスレバ ヨカッタ?


 苦しくて、悲しくて、殺してやりたいほど憎いのに、しなだれかかる女を払いのけることもできやしない。


 オレ、が……オレノ、オレは……



「……ひ、……あさ……旭!」


 強く揺さぶり起こされ俺は覚醒する。俺をのぞき込むようにして暁が、いた。


「あか、つき……?」

「おう。目が覚めたか? 旭」

「あ、ああ……」

「うなされていたから起こした。なにか言っていたけど、よくわからなかった」

「そう、か……」

「ああ。そうだ」


 水の入った(わん)を手渡され、俺はそれを一気に飲み干す。

 喉がカラカラに渇いていた。


 怖気が走るような内容だったはずなのに、今は全く覚えていない。

 心臓が早鐘のように鳴っているのに。


「なにか、見たのか?」

「いや……わからない。覚えていないんだ」

「そうか……眠れそうなら、もう一度眠れ。まだ夜明けには早いから」

「ああ、悪いな。こんな時間に起こして」

「これも側仕えの仕事だ。あ、何なら一緒に寝てやろうか?」

「なんだそれ……」

「小さい頃は一緒に寝てただろ?」


 そういえば東郷に預けられていたときは、暁と一緒に寝かせられていた。

 同じ年の頃の男子は暁ぐらいだったから。


 まだそんなに経っていないのに、あの頃を懐かしく思う。


「……一人で寝られる」

「そうか?」


 暁は肩を竦めると、俺の隣に潜り込んできた。


「おいっ!」

「たまにはいいだろ?」


 もぞもぞと布団の中で寝やすい体勢をとると、暁はそのまま寝の体勢にはいる。

 俺はこれ以上いっても無駄だと悟り、暁の隣に潜り込んだ。


 俺はなにを夢見たんだろうか? 恐ろしい夢だったのは確かだ。

 もう一度目を閉じることが躊躇われるほどの。


「ほら、もう寝ろ」

「……ああ」

「大丈夫だよ。俺が隣にいるだろ?」


 ぽんぽん、と布団の上から肩を軽く叩かれた。

 それは母親が幼子にするような、そんな仕草。


 体のこわばりが徐々にとけていく。


 その後見た夢は、懐かしいあの日の夢。

 暁と、俺と燕の三人で南雲の庭で遊んだ夢だ。小さい燕は俺たちの後ろをついて回って、妹ができたようだった。


 懐かしい、懐かしい夢。





「――――お前、生まれ変わりなのか?」


 その声が俺の耳に届くことはなかった。

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