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龍は花姫の愛を乞う  作者: 諏訪ぺこ
第二章

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27.鉄線 2

 水晶府の中は、思った通りほこりまみれだった。


 神祇官に務める人たちがたまに、空気の入れ換えに来ているとはいっていたけど……だいぶ埃臭い。


 動くと埃が舞い、くしゃみがでる。

 すると暁が懐から手ぬぐいを取りだした。


「ほら、お前も口と鼻覆っておけ」

「……ありがとう」

「たまーに倉の掃除に駆り出されたことがあるんだよ」

「倉の掃除に?」

「そっ。暇な次男坊は力仕事にも借りだされんの」


 肩を竦める姿に少し笑ってしまう。私はありがたく手ぬぐいを借りると、三角に折り口と鼻を覆うようにして後ろで結んだ。


 水晶府の中は他の場所よりも簡素だった。


 斎宮が仕事を行う場所、資料庫。あと神祇官に務める人たちが仕事をする場所の三カ所。

 斎宮が仕事を行う場所は、祈りを捧げる場所も兼任している。


 叶月の君の話しによると、一番初めの結界を張る儀式は水府内に大きな舞台を整え帝と共に祈りを捧げるそうだ。


 その後は水晶府で、毎日祈りを捧げ結界を維持する。つまりこの祭壇のような場所で結界を張り巡らせる術式を展開するのだろう。


 祭壇には一匹の龍が描かれていた。この龍が、湟国を守った龍なのだろうか?


 なんだか懐かしいような……? どこかで見たことがあったかな?? 

 記憶の中を探るが上手く思い出せない。これはとても珍しいことだ。いつもなら、すぐに思い出せるのに。


 埃まみれの部屋の中、その龍だけがどうにも私を引きつける。

 そっと手を伸ばそうとして暁に止められた。


「紫、それに触るな」

「えっ……?」

「長いことそのままにされてたんだぞ? 下手に触って、破けたらどうするんだよ」

「あ、そうか。そうだね」


 慌てて手を引っ込める。一応、帝様の許可があるとはいえ、儀来府の人たちに見つかったらいい顔はされないだろう。


 その上で中の物を壊したとなれば、怒られるのは必至。なるべく触れずに、部屋の中を見て回るのが一番だ。


「それにしても、何もないな……」

「そうだね。祭壇と龍の絵が飾ってあるぐらいだ」

「神祇官に務める官吏に話は聞けたのか?」

「それとなく聞いたけど、一番年かさの人でも母様が追い出されたあとに入った人だったから……」

「なんかそれ、おかしくないか?」

「そうかな。儀来府も年かさの人ってあんまりいないよ。たまに書類を届けに行くけど、みんな帝様と同じかそれより若いかな」

「いや、普通におかしいって。帝様より二十とか上だったら、引退しててもおかしくないけど……年代的に帝様と同じぐらいなら、それよりもう少し上のヤツがいてもおかしくないだろ?」

「そ、うなのかな?」

「なんかあったんだろうよ。当時さ。どこの部署にも一人か二人はいるもんだぜ。年かさのご意見番みたいな官吏がさ」


 昼行灯みたいにしつ、若手が困ると助言する。そんな人がいるらしい。

 確かに書類を届けに行くと、年かさの人が書類を受け取りにきてくれる。そして「ああやっぱりダメだったね」と笑いながらいうのだ。


 いや、わかってるならちゃんとした書類を出してほしい。そう何度思ったことか……

 なるほどアレは、若手を育てるためにやっていたのか。


 その巻き添えになるこちらはいい迷惑なのだが。

 人を育てるということは、一朝一夕ではできないことなのだろう。


「ひとまず、ここは龍の絵しかないみたいだし……資料庫あたってみる?」

「そうだな。ここ以上に埃が酷そうだけど……」

「うーん……風通しはしてたっていってたけどなぁ」

「そんなに頻繁に来れるわけじゃないだろ。これは……資料庫は虫食いがでてるかもな」

「虫食いかあ……アレ本当に困るよね」


 読みたくても読めない本はとても悲しい。

 私は後ろ髪引かれる思いを持ちつつも、暁と一緒に資料庫へと向かった。



 ***



 資料庫は想像していたとおり、埃まみれだった。なんなら風通ししたとか嘘だろ!? という水準で酷い。

 それに埃だけならまだいいのだが、蜘蛛の巣もあるし確実に資料は虫に食われているだろう。

「……窓、開けるか」

「そうだね。なるべく人目に付かないように、とはいわれたけどさすがに無理だよ」


 私たちは顔を見あわせて小さく頷く。

 小さな窓を手分けして開け、中に風を通す。埃が多少、外に出ると中の空気もちょっとはマシになった。


「本は……龍が現れたときから順番に並んでるって叶月の君がいってた」

「じゃあ奥が古いってことだな」

「うん。手前は新しいものだから、手前から探せば母様のときのものが見つかると思う」


 手前から順番に母の名前を探していく。最近のものは代替わりの激しさを物語っているのか、薄くて多い。そこから少し厚い物が増えて、ようやく母の名前を見つけた。


「これだ……!」

「ああ、名前が書いてあるな」


 記憶の奥底に眠る、母の手蹟。柔らかな文字に懐かしさがこみ上げてくる。

 その本には母が斎宮になってからの出来事が書き込まれていた。


 帝様と協力して、湟国に結界を張った日のこと。

 結界の維持に祈りを捧げる日々。


 そして龍と斎宮、そして龍と夫婦になった姫君のことが書かれている。

 だが途中から儀来府の術者たちの様子がおかしくなった、と書き綴られていた。


「なんだ、これ……?」

「ね、なんだろ? なにかあったのかな?」


 最後の頁には、もうここにいることはできない。斎宮の地位を追われる。

 このままでは龍の怒りが湟国を飲み込むかもしれない。そう書かれていた。


「龍の怒り?」

「龍は、この国を助けてくれたんでしょう?」

「そうだよな……なのになんで??」


 顔を見あわせ首をかしげる。

 何か、何か母は見つけたのかもしれない。それを知られて、斎宮の地位を追われた?

 でも何が原因なのかこの本には書かれていないのだ。


「これじゃ何もわからないね」

「そうだな。それに結界についても何も書かれていない……」

「うん。これじゃ、母様がどんな結界を張っていたのかわからない」

「……これって、持っていっても良いと思うか?」

「わからない。だけど、帝様なら心当たりあるのかな」

「もしくは叶月の君なら知ってるかもな」


 何かあっても自分なら問題にはならないといって、暁はその本を自分の懐に入れる。


「他も見ていくか?」

「そうだね。他に何か手がかりがあれば良いけど……」


 そう話していると、奥の方でカタンと何かが落ちる音がした。暁が口に人差し指を当て、その場で待つようにと手で指示する。


 暁はそっと奥へと向かった。

 その後ろ姿を見守る。


 ネズミだろうか? それとも別の何か? さすがに儀来府の術者がここにいるとは考えづらい。なにせ窓が閉まっていたら、昼でも真っ暗なのだから。


 心臓がドクドクと音を立てる。


 暁の姿が、――――視線から消えた。

 悲鳴を上げそうになったとき、後ろから口を塞がれる。


「んんっっ!」

「シッ、黙って」


 耳元に小さく囁かれ、私は小さく頷く。顔を後ろに向ければ、官吏が一人。

 その顔にどことなく見覚えがある。


「君は、紫であってる?」


 口を塞がれたまま、私は何度も頷いた。それよりも暁がどうなっているのか。

 私は奥を指さす。


「大丈夫、ゆっくり歩いて」


 いわれるままに、ゆっくりと歩く。なるべく足音を立てないように。そっと。

 そして奥までたどり着くと、暁が倒れていた。


「気になるのはわかるけど、最初に僕が見る。君は少し離れて。いいね?」


 私の背後から温もりが消え、その人は暁の側に膝をついた。

 口元に手を当て呼吸を確認している。


 暁は無事なのだろうか? ソワソワしながら様子を見守っていると、カッ! と急に暁の目が開く。驚いて一歩後ずさると、何かに打つかって音をさせてしまった。


 暁は人とは思えぬ速さで、私に飛びかかろうとする。

 だがその寸前で、暁の額に札が貼られた。


「それ以上はいけないよ」


 呪を唱えると、暁が自分の首元を閉めながら苦しんでいる。

 どうしよう。どうすれば……私は咄嗟に浄化の呪を唱えた。


 斎宮が使う、浄化の呪。これは対妖に特化したものだと叶月の君が教えてくれたもの。


「――――おちよ、おちよ、おちよ。忌むべくもの、疾くおちよ!」


 ふわりと光が暁の足下に陣を描く。

 苦しんでいた暁の口から、黒い塊が吐きだされた。


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