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龍は花姫の愛を乞う  作者: 諏訪ぺこ
第二章

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26.鉄線 1

 初夏にさしかかり、都に出てくる猩猩の数も増える一方。

 どこに出た、あそこに出た。と噂が良く出回っている。


 ほとんどの場所には出尽くしたのではないか? といわれるぐらいだ。

 ただ唯一、出ていない場所があるとすれば……ここぐらいだろう。


「儀来府の術者たちが結界を張っている。まあ青羽の君ほどではないが……そこそこは安全なのだろう」

「だから帝様が住むこの場所には猩猩が出ないんですね?」

「たぶんな」


 時間の経過と共に猩猩が増えているのなら、今の結界はもうほとんど用を成さないのだろう。

 これからも母が張った結界は時間とともに消滅していく。国の守りがなくなれば、妖が跋扈する世界が待っているだろう。


 それでも今までの斎宮は、本当に母の結界をみてなにもしなかったのだろうか?

 大きな疑問に、私は暁とこっそり調べることにした。


 水晶府に残された手記や、神祇官たちに話を聞くと最近の斎宮は儀来府で決めていたことがわかる。

 そして儀来府が決めた斎宮は、名ばかりで何もできない。


 それもそのはず。男女問わず、術者として才のあるものは儀来府の陰陽寮に配属される。


 斎宮は形式的に試験をさせるが、儀来府の上層部が手を回して選んでいた。嫁入り前の娘に箔付けさせたい親から、金銭を受け取って。


 だからこそ、斎宮の代替わりは激しい。一年ももたずに辞める者もいる。

 本来の結界を維持して、湟国を守るという役張りは途中から消えてしまっていたのだ。


 儀式も形だけ。当然ながら、結界を張り直すことなんてできはしない。



「――――結界とは、籠のようなものなのです」



 そういったのは叶月の君だ。


「籠には編み目がありますでしょう? その隙間が細かければ細かいほど、妖は入って来れない。青羽の君の結界は虫をも通さぬほど細かい編み目だったのです」

「だから完璧な結界なのですね?」

「ええ。歴代の斎宮のなかでもあの結界を張れたのは、初代の斎宮のみでしょう」

「初代の、斎宮……?」

「ええ。この国が危機に陥ったとき、龍が助けてくれたのは知っていますね?」

「それは、もちろん。この国の成り立ちのようなものでしょう?」

「少し違うのですよ」


 湟国の歴史は長い。だが龍の血を引く者が帝として国を治めはじめたのはここ数百年のことなのだという。


「斎宮が龍を助け、助けられた龍は斎宮の望みに応じてこの国を護ったのです」

「でも……帝の姫君と、龍が一緒になって今の血筋があるのですよね? ということは、斎宮は帝の姫君が?」

「……いいえ。彼の方は、この国に結界を張り終えると命を落としたそうです」

「それは、なぜ?」

「妖が大挙して押し寄せたと聞いております」

「妖が?」

「時折あるそうなのです。妖が大挙して押し寄せることが。そのたびに国は疲弊していきました。最初は、龍も殺されるところだったのです」


 それを斎宮が助け、匿った。だからその礼にと、斎宮と共に湟国を守る結界を張り巡らせたのだと。ただその課程で、斎宮は命を落としてしまう。


 それに寄り添ったのが帝の姫君だ。龍の心に寄り添い、二人の間には子供が生まれる。そしてその子供と新たな斎宮との間で結界を張り直す。


 それを数百年繰り返してきたのだ。


「もちろん時には結界を維持するのが危ぶまれたときもありましょう。だからこそ、斎宮は絶対に必要な者として存在した」

「……それって、斎宮に権力が集中したりしなかったんですか?」

「貴女の懸念はもっともです。時折、勘違いした者もでたようです。それ故に、斎宮には限定的な権限しか与えられていません」


 結界を張り、維持すること。それが斎宮に求められる一番のことだから。

 だが結界を張る、ただそれだけのことすら斎宮から剥奪されてしまった。いや、本人たちは剥奪したとすら思っていない。


 今の儀来府の術者たちは、斎宮が本当に結界を張れるとは思っていないのだ。

 母を追放した者たちはほとんど残っていないだろうし……


「このままではどうなりますか?」

「現状、見せかけの試験とはなりますが……全く才のない者に、斎宮という箔付けをさせいるのであれば……才ある者はみな、陰陽寮に配属されるのでしょう」

「斎宮の試験が術者の試験もかねている……?」

「そのようですね。ただ術者として才があるからといって、斎宮になれるわけでもないのです」

「それは……なぜです?」

「斎宮の力は守りに特化したものが多く、術者に向いてる者は攻守どちらもといわれています。ですがどちらかというと、攻撃に特化した者の方が術者に向いているでしょうね」


 この話を暁に教えたら、宮中の闇だと呟いた。


 長い間、それなりに平和な状態が続いて妖なんてみかけないのが殆ど。

 そうなると自分の利益を考えはじめる。


 脱税してみたり、宮中で有利に働くように賄賂を渡したり。


「花姫が良い例だろ」

「花姫が?」

「四家から同時に姫を娶るのは外聞が悪いだろ? でも花姫候補として入内させるのなら、誰が龍に求められるかわからないからって理由ができる」

「名前が少し変わるだけでしょ?」

「それでもさ、龍が求める花姫って部分が大事なんだよ。普通、王様がお妃様を娶るのは一人だけだ。で、そのあと側妃が必要なら選ぶ」

「……初めから四人同時にって普通はないってこと?」

「他の国だとまずないな。子供の頃から婚約してるのが大半で、お妃教育を受けながら育つって話しだ」

「本人たちはそれでいいの?」

「いいも何も政略結婚の最たる例だからな」


 本人たちの意思は関係ないのだと暁はいう。


 もちろん花姫に選ばれる姫は、家で一流の教育を受けてくる。それは他の国と変わらない。ただ一人が選ばれるわけではないだけで。


「でも四家から花姫を選ぶのも理由があるんでしょ?」

「そりゃあな。この国を支えている忠臣で、その家から誰か一人を選ぶのは帝様でも至難の業だ。順繰り選ぶわけにもいかない。皇妃の資質も問われるしな」

「そうはいうけど、今だって次の帝様になる方をお産みになった方が皇后となるんでしょう?」

「それが四人も上級妃がいる理由だよ。四人いれば切磋琢磨してくれるだろ」


 そう、だろうか……それは妃たちに夢を見すぎでは? ただ元々一流の教育を受けてくるのだから、さらに磨きをかける。というのはあるかもしれない。


 でも恨まれはするだろうな。寵愛が偏ったと、私を殺した者がいたように。


 あ、でもそうか。四家に手を出す中級妃や下級妃はそういない。私は確かに四家の姫ではあったけど、今と同じように他の家も「南雲燕」の背景を調べたはず。


 調べた上で、殺しても南雲は調べないと判断したのだろう。

 南雲も南雲で邪魔な私が勝手に死んでくれたら……同情を買う役には立つ。


「……世の中って、結構汚い」

「そうだなぁ。政治の世界なんて特にそうだろうよ」


 ムスッとしていえば、暁は苦笑いを浮かべた。


「清廉潔白なんて理想の上のことだ。実際は無理だよ。清濁合わせもって国は回ってる」

「潔癖すぎてもダメってこと?」

「そーゆーこと」


 尼寺にいたときはそんなこと考えなくて良かった。ただ斎宮になりたい。それだけで……私の世界は狭く、完結していた。


 今はそれだけじゃダメなことはわかる。

 このまま湟国の結界が消滅したら、弱い人たちから死ぬことになるからだ。


「さてと、水晶府には結界は張られてないって話しだよな?」

「そうだね。見た感じ、何もないよ」

「それじゃ、ちょっと入り込むか」

「母様が当時、どんな結界を張り巡らせていたかは水晶府に保管された資料じゃないとわからないものね」

「ま、一応帝様から水晶府に出入りする許可書はもらってるから大丈夫だろ」


 私と暁は、誰もいない寂れた水晶府を見上げるのだった。


モブ姉王女と龍花は交互更新になります。

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