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龍は花姫の愛を乞う  作者: 諏訪ぺこ
第二章

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23.蓮花 3

 八葉宮で生活しているからといって、蔵人所で仕事をしていないわけではない。

 蔵人所では紫、八葉宮では雛菊としてやることはいっぱいある。


 とくに蔵人所は忙しい。私程度でも抜けたら大変なのだ。

 もちろん代わりの人材を探しているが、そう簡単に見つからない。忙しいから……大体断られてしまうのだ。


 蔵人所に入れるのは、優秀な人が多いのもそれに拍車をかけている。

 周りが優秀すぎると衝撃を受けるのだ。自分程度では役に立たないと。それにある程度の家の子供だと甘やかされてたりするから、雑務をするのを嫌がる傾向があるんだとか。


 私は尼寺で育ったし、それに南雲の家にいたときも使用人のような扱いを受けてたから気にならない。むしろこれで役に立ってるのか? と思うときすらある。


 職場環境を整えるのは大事なことだと蘇芳様はじめ、蔵人所のみんながいうのでそれを信じることにした。蔵人所の仕事が終わったら、八葉宮に戻り母に斎宮の仕事を教えていた叶月の君に斎宮のイロハを習う。


 本当に、本当にやることが多い……


 もっとも、忙しいのは良いことだ。旭と会わなくてすむ。

 旭は八葉宮に住むことも難色を示していたが。それでも蘇芳様の屋敷に住むよりはマシだと思ったのだろう。距離的には蘇芳様の屋敷より、八葉宮の方が近いからね。


 とはいえ、旭と私は簡単には会えない。


 表向き私は、蘇芳様が妻に望んでいる娘。身分が足りないから、周りからは斎宮を目指していると思われている。


 片や旭は東宮で、自分の後宮がある。その後宮を放って異母兄の妻候補にちょっかいをかけるだなんて、そんな醜聞が広がれば私の命が狙われるだろう。確実に。


 南雲燕としての名は系譜から消されているし、そもそも私は南雲燕としてここにいない。

 八葉宮で暮らしているのは「雛菊」なのだ。ただの雛菊。


 帝様が後見人についているとはいえ、邪魔だと思われたら消されるかもしれない。後宮とはそういう場所だ。先の、あのときの私がそうだったように。


 こうしてみると、帝様の提案は凄く良いものだったと思う。旭を遠ざけつつ、私を守ってくれているのだから。


 それに蘇芳様も噂を広げて牽制してくれたし。

 いや、蘇芳様の花もあるから完全に良くはないのだけど……それでも蘇芳様は私を旭のように扱ったりしない。自分のモノだと、誰にも渡さないなんていわない。


 私は私のものだし!

 まるで物のように扱われるのは我慢ならない。


 それに蘇芳様の場合は、本当に私を花姫にするつもりはないように思う。

 単純に旭の花姫になりたくない私を守るためにしてくれたような? だからこそ、私も花姫になる印を受け入れられたのだけど。


 でも蘇芳様は男色家だったのでは? 葛城様との噂はどうなったの? と、女官たちに詰め寄られたりするので、その点では仕事を増やしてくれたなと思うけどね。


「さて、今日の仕事はこれまでかな」

「そのようですね」


 頭弁様に最後の書類を手渡す。その隣で初馬様はのびをしていた。

 体の至る所から、パキ、ポキ、ゴキ、と変な音がしている。アレ……大丈夫なのかな?


「紫は八葉宮に顔を出してから帰るのかな?」

「はい。妹の顔を見てから帰ります」


 雛菊は紫の妹、ということになっている。

 そうすることで円滑に入れ替わることができるのだ。それにそろそろ暁も迎えにきてくれるころだろう。


 八葉宮に戻ったら、今日は叶月かなつきの君と術の練習をしなければ……そう考えていると、暁が御簾を開けて顔をのぞかせた。


「紫、きたぞ」

「うん。ありがとう。それでは先に失礼します」


 私は部屋のみんなに頭を下げる。みんなはまた明日、といって手を振ってくれた。

 早い人はもう少ししたら帰り出すだろう。とはいえ、この部署は完全に人がいなくなることがない。


 宿直役とのいやく、というそうだけど……本来は貴人の警護、警備を担当する者を指す。だけど部署柄、火急の用事があった際にすぐ動ける者が必要なのだ。

 帝とその他の部署を繋ぐ場所だしね。


 暁と一緒に八葉宮に向かう。

 その道すがら、旭がどうのこうのと暁は話すけど私はそれに適当に相づちを返すだけ。


「ところでさ」

「うん?」

「藤の宮様は?」

「藤の宮様? 今日も帝様のお側でお仕事しているよ」

「まあ、それはそうだろうけどさ……」

「藤の宮様は、旭と違うし」

「……ま、それはな」

「はやく、諦めれば良いのに」


 ボソッと呟く。暁はなんともいえない微妙な表情を見せた。



 ***



 叶月の君は、元がつくとはいえとても凄い方だ。

 揚羽と三葉の正体をすぐ見破ったのだから。


「結界の張り方は、――――になります。自らの力をしっかりと感じ取り練り上げるのです」

「練り上げる……」

「体内にある力を感じ取ることが肝要です」


 体内にある力をしっかりと感じ取る。札にばかり頼ってはいけないといわれた。

 札に書かれた文字は、術を発動させるもっとも効率の良い方法。だけどその意味を理解し、自らの力を均一に流し込む必要がある。


 それには自分の力をしっかりと把握しなければいけない。

 精神統一から、札に力を込める方法。今までは呪符を書くのが苦手だったけど、それって自分の力を上手く制御できていなかったのだ。


「貴女の力は、青羽の君と違って攻守どちらにも転用ができます。狐たちが側にいるときは攻撃に転じるも良いでしょうが、一人のときは守りを固めなさい」

「それは、どうしてですか?」

「攻守同時に発動するのは大変な修練が必要です。貴女にはまだまだ修行が足りません」

「つまり、未熟なままで力を使えば……危険なことになると?」

「その通りです」

「斎宮試験まで、どの程度必要でしょうか?」

「今のまま続けていけば、半年後の側使えの試験は問題ないでしょう。ですが一年後の斎宮の試験はもっと細かな力の制御が求められます」


 本当なら朝から晩まで手ほどきしたいところだ、と叶月の君にいわれてしまう。


「……一応、後任を探してもらってはいるのですが……」

「蔵人所は忙しい場所ですものね」

「はい……」

「宮様もなにも蔵人所に連れて行かなくても良かったでしょうに……」

「それをいわれると耳が痛いな」


 叶月の君の言葉に、部屋の外から声がかかる。

 振り向けば蘇芳様と帝様が御簾を開けて顔をのぞかせていた。叶月の君が頭を下げたのを見て、私も慌てて頭を下げる。


「いらっしゃるとは思いませんで」

「すまないね。叶月の君。進捗はどの程度か気になってね」

「順調、とはいえないですね。ですが本人のやる気のおかげでなんとか……といった具合でしょうか」

「そうか。本当はこちらに集中させてあげたいけど……紫には、色々お話をしてくれる人たちもいるからなぁ」


 帝様と蘇芳様の視線が私に集まるのがわかった。私はそっと頭を上げて、今日は特に変な話を聞かなかったと答える。


「今一番の話題は、蘇芳様が妻を娶る。で持ちきりです」

「それはそうだろうね。蘇芳は男専門だと思われていたし。なんなら桂の宮も顔を覆うぐらい噂が流れていたからねぇ。今彼女は毎日生き生きとしてるよ。孫が抱けるかもしれないってね」

「いやあ……すみませんねぇ」

「あ、でも……」

「でも?」

「葛城様のことは遊びだったのか? とか色々……女官の方々が話してましたね」

「うんうん。あとで僕が鶸くんに怒られるやつだね」


 鶸くんは僕の好みじゃないんだけどね。と、蘇芳様は肩を竦めた。

 たぶんそれは女官のお姉さんたちにいってあげた方が良い。葛城様が救われるから。噂のせいで女官のお姉さんたちに相手にされないって嘆いていたし。


「あ……そうだ。これは暁が聞いた話なんですが……」

「うん?」

「どうやら千夏が私を悪女にしたてあげたいらしいです」

「悪女?」

「千夏や侍女を虐げ、花姫になることを拒み、虐げられていると嘯いている出奔した悪女だそうですよ?」

「いいとこのお姫様が出奔してどう暮らすんだろうねぇ」

「話しが破綻してるんですけど、南雲の者は千夏の言葉の通りに動きますから」

「それに「燕」を知る者はいないしな」

「はい」


 蘇芳様も帝様も呆れた顔をしている。私の事情を知っている叶月の君も。

 それって調べればわかるんだけどな……という内容なのだ。そもそも私の名前は南雲の系譜から消されているし。そしてそれを他の家が知らないわけがない。


 情報とは生きものだ。自分たちが優位に立つために、他家に密偵ぐらい放っているだろう。

 その辺ができていないから今の南雲は、他の三家よりも劣るのだ。


「まあ、そちらは放っておこう。介入するだけ時間の無駄だ。その辺は東宮がやるべきことだしな」

「噂が一人歩きして、もののけ姫みたいな呼び名にもなってますけどね」

「もののけ姫?」

「母は斎宮を追放されてますから」

「ああ、だから都に現れている妖は「燕」のせいだと?」

「積極的にいっているわけではないですけど、火のないところには……みたいないい方をしているとか」


 なるほどな、といって帝様が笑った。


 つまり千夏にとってはそれだけ私が邪魔なのだろう。そして不満は旭にも向いているらしい。

 後宮に後宮の主が訪れない。それでは何にために集まったのか、と。


 しかし帝様も蘇芳様も、手出しはしないという。私もその意見には賛成だ。

 同じ土俵に立つ必要はないのだから。






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