いつもの所
今日は夏季大会1週間前の午後。陸上部はイレギュラーで練習。うちの学校は毎週木曜日が部活休みなんだ。そして生憎の雨。
「いーち、にー、さーん…」
雨音がなる中、甲高い声で声出しをする。
雨メニューはいつもより楽だからみんな表情が緩んでいる。
光喜が微笑みながら言う
「今日早く終わりそうだぜ。終わってからいつもの所行こうぜ」
「あ、いいよ。ただ絵を描かないといけないからいつもより早く帰るかも」
いつもの場所とは個人経営の本屋だ。店名は「井田書店」で70代ほどの丸顔男性と若くすらっとしていて綺麗な女性の2人が経営している。名前も分からなくてあまり話したことはないのだが静かで居心地が良い。店の奥には椅子が3つあって本を見ることができる。そこでいつも2時間くらいいる。
「こんな時に絵を描いてるのかよ。お前は忙しいやつだな」
部活中であるというのに笑いながら言う。
「光喜、顧問に怒られるよ」
僕は言う。巻き込まれるのは嫌だから。
「大丈夫!今先生たちは会議のせいで1時間くらい出てこないらしいぞ!」
どこでそんな情報を仕入れているのか。
「俺はお姉さんと話すのを楽しみに今日頑張るんだ」
でしょうね。光喜は書店の女性が好きみたいで子犬を憑依させていつも話しかけに行く。なんで僕が付いて行かされるのか。
「優希は書店で絵を描いた方が捗るんじゃない?」
「いやいや、目線が痛いよ」
ジョグをしながら言う。
「お姉さん、優希の絵すごく良いって言ってたぞ」
お世辞だろ。見せたこともないのに。たまにスケッチブックを広げているだけだ。
「まあ、とりあえず部活がんばろ」
怒られるのが嫌だから話を終わらせた。
「おう!速攻で終わらせてくる!」
猛ダッシュで廊下を走っていった。