赤、黄、青、緑、僕はグレー
僕は桐谷優希。最近陸上部に入部して毎日心が折れている。いや、折られている。自分は自信がなく、才能もない。友達も居ない。まあ2人はいるけどね。唯一自分が楽しいと思えるのが絵を描いてる時。小学校の時に母親の勧めで絵画教室に入室し今まで続けている。絵を描いてるときは自分の世界を自由に創造できるし、物を見て描くとなんというかすごく良いんだ。今も絵を描いている。自分の手を。
「相変わらず上手いな。自分の手か?」
松田先生が言う。学級主任だ。
「そうです。よく分かりましたね」
みんなより上手なのは正直分かっている。でも個性がないのが欠点であるのが分かっているから自信なさげにいつも言う。
「わかるよ。勿論。毎日この教室で描いてるのを見ているからね」
まだ入学して2ヶ月だぞと心に思いながら、
「ほんとですか。うれし」
私は満面の作り笑いで言った。
「絵を描くのもいいけどみんなと話したりして仲よくしろよ?桐谷の人生を変えてくれるきっかけになるかもしれないぞ?」
少し目を逸らした。分かってる。自分でもみんなと仲良くしないと学校生活がし難くなる。
「先生。自分はスマホもコミュ力も持ってないから」
「何を言ってる。桐谷にはみんなが持ってない最強の武器があるじゃないか」
そう言いながら僕のスケッチブックを手に取り、
「絵は最強のコミュニケーションツールだぞ」
何を言っているんだと思った。自分の絵を評価してくれるクラスメイトがどこにいる。自分はくすんだグレー、みんなは鮮やかな赤、黄、青、緑のような原色。僕のような色が混じってしまうとすべてが台無しだ。
「わかりました。仲良くしてみます」
「おう!また絵楽しみにしてるな」
と言って教室のドアをゆっくり開けて職員室の方へと歩いて行った。
やっと静かになった。そう思いながらまた自分の左手を眺めながら鉛筆を走らせた。静寂は好きだ。何も縛られずに自分だけの世界にいるような感じがする。特に夜。肌を撫でるようなあの冷たい風。蛍光灯の光で道路が光っているあの景色。しかし時には針を刺されるように痛い。冷たい目線。全否定してくるような静寂。色でいうと紺桔梗。それでも静寂が好き。
「絵を描いてるの?陰キャラ?」
また静寂を潰された。