光が差してきた
泣きすぎたのか眠りから覚めると目が腫れている。短針は7を指している。のどが渇いた。空腹感は全くない。お茶を汲んで部屋に戻ろうとする。
「芽衣、ちょっと話いいかな?」
父親に止められリビングに連れ戻される。椅子に座り向かい合わせになる。普通に気まずい。
「さっきお母さんと言い合いになったんだって?」
言い合いにはなってないんだけどな。でも何も言わなかった。
「正直お父さんも芽衣には申し訳ないと思ってる。でもこれだけは覚えておいてほしい。」
ぐっと力強い言葉でいう。
「芽衣が俺たちの娘であることは誇りだ。何物にも変えられないくらい特別な存在。だからこそ人生を全うしてほしい。普通の人生とはかけ離れているかもしれないけれど楽しく生きてほしい。これが俺たちの願いだ。」
はっとした。自分はできないことのせいにして生きていたのだと知った。できないことを言い訳にやろうとしなかったのだ。もちろんできないことは多いけれども自分にできる最大限の人生の楽しみ方ができるのに。
『みんなと一緒でなくてもいい』
これだけで気持ちが楽になった。周りがどうであれ私は私だ。でも本心で笑うことは難しかった。だってできないことはできないから。でも努力して笑うことはできる。
「ごめんね。心配かけて。これから私なりに、私だけの人生を生きていくよ。だから泣かないで。私も笑っていくから!」
作り笑顔だけど笑って言った。お父さんが微笑んだ。お父さんの笑うところ初めて見た。
「ありがとう。しんどくなったり、泣きたくなったら無理に笑わなくていいんだぞ」
心配してくれた。でも、
「大丈夫!ありがとう!」
そう伝えて部屋に戻る。とても気が楽になったけど何かもやもやしている。やっぱり病気が怖いのは変わりない。でも生きていくと断言した限りはこの命終え尽きるまで行動しようと思った。普通の人間として。
新しい学生生活が始まった。以前と違って私は普通の生活をしている。毎月病院に行っているんだけど生きていられる時間はもうそんなにないみたい。2年。短いような長いような。いや短いよな。したい事いっぱいあるのに。でも病院の先生は自由に楽しく生きなさいと自宅療養を許してくれた。
今回はあえてクラスメイトには病気のことを言ってない。普通を演じるために。笑顔も作って生活している。体育はいつも見学で不思議に思われるけど運動が苦手だと濁している。先生には流石に言ってるから何も言わないし、フォローしてくれる。また彩のない日常が始まるのかな。そう思いながら毎日、と言ってもまだ2週間なんだけどね。毎日鯉にご飯をあげる。なんか自分みたいで同族嫌悪を覚える。
汗ばむ時期になってきた。みんな外で遊んでいる。喉が渇いて教室に戻る。一人教室にいる。絵を描いてるみたいだ。
「絵を描いてるの?」
不意に声を掛けてしまった。なんだろう気の合うような気がした。一通り話終えて私はまた廊下に出る。
「あの子の絵凄かったな。なんか自分の軸を持っているみたいで羨ましいな」
羨ましく思ってしまった。自分にはないものを持っている気がした。周りは関係なく自分のしたい事をしているあの子がかっこいいと思った。
「今度絵を依頼してみようかな」
世界に光が差し込んだみたいに太陽が眩しい。