小島芽衣
春の匂いがしてきた頃。私は生まれた。この世に何かを残すために。
小さなころから運動が苦手だった。すぐ息が切れるし、たまに胸を締め付けられる感覚がある。
友達と鬼ごっこをしていたら胸が痛くて、そのまま倒れてしまった。
体が痛い。何か音が鳴っている。あれ腕に何か刺さってる。目をゆっくり開ける。
そこには両親が座っていた。駆け寄って言う。
「大丈夫か?ここは病院、芽衣倒れちゃったんだ」
ああ、病院なんだ。倒れたことは知っているよ。みんな泣いている。横にはお医者さんかな。
「今、胸は痛くないかな?」
うん、と頷く。そしてゆっくり優しく話し出す。
どうやら私は心臓の病気らしい。それも治りにくいらしい。ああ、ここまでかと絶望というか悲観だ。
「病名は虚血性心疾患です」
私にはどういう病気なのかとかどうでもいい。ただ漠然と死と隣り合わせになったことが怖い。
小学校を入学しても何もなかった。色がない。体育はできない。運動会も。発表会だって歌えない。遠足も職場体験もスキー学習も。生きている意味が分からない。
毎日泣いた。涙が出てこなくなるくらい泣いた。枕に口を付けると泣いてるのバレないことにも気づいた。
私が泣くとお母さんも泣く。私はそれが嫌だった。
以前親切心でお母さんに言った。
「お母さんは私のこと産んだの残念だったでしょ。私なんて生きている価値ないよ」
すると、頬に初めて感じる痛みが走る。叩かれてしまった。顔を見るとこれまでに見たことない顔をしている。
「何、馬鹿なこと言ってるの!お母さんは芽衣を産んで後悔したことは一瞬たりともない!私が泣いているのはあなたが生きている価値を見出せてないことが親失格で情けないからよ」
生きてる価値を見出すなんて無理だよ。だって何にもできないし一番身近な両親にでさえ泣かせてるんだから。こんな顔を見るのは二度とごめんだと思う。
「ごめん」
そう言って自分の部屋に戻る。
自分のせいで周りを不幸にしていたことは間違いなかった。自分が暗いから周りに気を使わせてしまっていた。また泣いている。自分は泣き虫だ。そのまま深い眠りについてしまった。