早朝の出来事Ⅱ
聞こえない。
何だろう。気になるじゃないか。そんなにも僕に聞かれたくないことなのか?
「大丈夫です!じゃあ桐谷君の手伝いしてきます!」
「わかった。無理しないでな!」
無理をするな?何だろう。体調が悪いのかな。
「手伝うよ!あっちのゴールやってきたらいい?」
元気よく言う芽衣。
「え、大丈夫?松田先生なんか言ってたけど」
一応聞いておく。
「ん?ああ、大丈夫だよ!やってくるね!」
一瞬。ほんの一瞬。0.001秒くらい。色が変わった。何かあるな。まあ結局聞かないのだけれども。
キュルキュルとネジを回す音が体育館に響く。芽衣がトコトコこっちに歩いてくる。
「ねえねえ、今日なんでこんなに早いの?」
そうだ。言うの忘れていた。
「前頼まれていた絵、完成したんだ。それを渡すために」
「ほんと!?できたの!早く見たーい」
なんかうれしい。自分の絵を楽しみにしてくれている人が居るのはモチベーションになる。
「後で渡すね」
「うん!早く終わらせて教室戻ろ!」
そう言って2つ目のゴールに取り掛かった。
松田先生が遠くで微笑んでいる。なんか嫌な感じだ。
僕たちは淡々と作業をこなした。モップを掛けて、バスケットボールまで出した。自分たちがするわけでもなのに。
「おわった~!」
僕と芽衣の声が重なる。芽衣がクスッと笑ったのに釣られて僕もニヤけてしまった。
「へー、桐谷も笑うんだな!いつも作り笑顔みたいなのに小島の前では自然なんだな」
作り笑顔ばれてたか。ってかなんか芽衣の前ではとかやめてほしい。なんか嫌だ。
「ほい!2人手伝ってくれたお礼だ!みんなには内緒だぞ」
サイダーとアイスをくれた。最高過ぎるだろ。
「えー!良いんですか!ありがとうございますー!」
芽衣が元気よく言う。
「ありがとうございます」
続けて僕も。
「二人仲いいんだな。なんか意外だったわ」
松田先生が体育館を見ながら言う。
「桐谷君絵がすっごい上手なんですよ!」
芽衣が言う。
「そうだよなー」
「だから私、桐谷君に絵を描いてって頼んでるんです」
いらないこと言わなくていい。あまり広げないでくれ。
「そうか!桐谷が今日早く来た理由はそれか」
ほらバレちゃった。
「まあ、そうですね」
なんかもういいかと思って答えてしまった。
「なら、小島も早く絵が見たいだろう?もう教室に戻ってもいいぞ?」
お、話が終わるぞ。もう掘り返されることもなさそうだ。
「そうですね!桐谷君戻る?」
うんと頷いた。
「それじゃ!戻ります!ジュースとこれ(アイス)ご馳走様です!」
「こちらこそ手伝ってくれてありがとうな!」
そう言って僕たちは体育館を出た。
さっきより気温が上がっているように感じる。